130話:希望の光、アースクローラーとの共存
アースクローラーの幼虫の飼育と観察を続けるミツルたち。その中で幼虫の驚くべき生態が明らかになっていく。
「すごいわね…こんなにたくさんの腐葉土や毒草を食べて…あんなにきれいな土を排出するなんて…」エルザは驚きを隠せない様子で幼虫たちの行動を観察している。
ガラス張りの飼育ケースの中は数匹の幼虫のために巣穴の環境を模して作られた。中には腐葉土や枯れ枝そして、アリーシャが厳選した毒草などが置かれている。
「ほんとだ!まるで魔法みたい!」リィナも目を輝かせて飼育ケースに見入っている。幼虫たちは用意された餌をモリモリと食べ進めると体の後部からまるで浄化されたかのようなきれいな土を排出していく。
「幼虫は土の中の腐敗物や毒素を食べて成長しているようだな。そうやって有害物質を体内に取り込み、不純物を吸収しているんじゃないかな?」ミツルが観察をしていて思ったことを伝える。
「でもどうやって不純物を吸収してるとおもう?」アリーシャが疑問を投げかける。
「ロータスさん本当に不思議です。どうして幼虫たちはあんな有害物質を食べて平気なんですか?」ティグはロータスに疑問をぶつけた。
ロータスは顎に手を当て少しの間考え込む。「うむ…古代文献にも幼虫の生態については詳しく書かれておらんかったからの。わしもはっきりとしたことは言えんが…」
ロータスは一呼吸置いてから言葉を続けた。「おそらくじゃが幼虫たちは体内に特殊な器官を持っていて、他の生物には有害な物質を分解・浄化できるんじゃろう。そして必要な栄養だけを吸収し残りは土と一緒に排出しておるんじゃ」
「なるほど。で土とかは消化できないからきれいな状態で排出されているってことか」レンが納得したように言う。
「ということは幼虫は土壌を改善するために有害物質を食べているわけじゃないんだな。あくまで栄養摂取のための行動なんだ!」ティグがまとめる。
「そういうことになるな。でも、結果的に土壌の浄化につながっているのは間違いないだろう」ミツルが言葉を重ねる。
「じゃがこの特性は幼虫だけなのかの?成虫もそうなのかの?」ロータスが疑問を口にする。
「それがまだわからないんです。成虫の生態については情報が少ないんですよね…ここで観察出来るのは幼虫だけなので…」エルザが答える。
「文献からの知識と観察過程を見てみんなの意見を総合して考えると、成虫は幼虫ほど栄養を必要としないかもしれんの。だから有害物質をわざわざ食べる必要がないのかもしれん」ロータスが考えを巡らせる。
「でもアースクローラーが蜂の魔物の巣を食べるのは栄養摂取のためだと思うんです。巣には蜂蜜や花粉、幼虫なども含まれている。それらを食べることで栄養を取っているんじゃないでしょうか?」ミツルがロータスの意見を聞いたうえで推測する。
「なるほど。であればアースクローラーの食性が間接的に土壌改善につながっているということね」アリーシャが納得する。
「そうだな。アースクローラーの幼虫は生態系の中で重要な役割を果たしているんだ。土を浄化し栄養を循環させる。まさに大地の守り神とも言えるな」ミツルが感慨深げに呟く。
「アースクローラーとの共存は私たちにとって大きな意味を持つのかもしれないわね!」エルザもつぶやいた。
飼育と観察を通してアースクローラーの役割が明らかになるにつれミツルたちで共存への思いがより強くなっていく。
「俺達だけじゃなく、みんなにアースクローラーの大切さを伝えていきたいな。共存の道を探るためにはみんなの理解が必要だ」ミツルが力強く言う。
「そのためにももっとアースクローラーのことを知る必要があるわね。私たちも今後も研究を続けましょう!」アリーシャが提案する。
「そうね。今回の幼虫観察は成功だから今後は幼虫だけでなく成虫の生態解明もしていきたいわ!それができればアースクローラーとの共存に大きく近づけるはずよ!」エルザも同意する。
「オレたちにできることは精一杯やろうぜ。ティグ、レン、リィナ!みんなの力を貸してくれ」ミツルが仲間たちに呼びかける。
「任せてください!オレたちにできることは全力でやります!」ティグが胸を張って答える。
「はい!私たちも精一杯頑張ります!」レンとリィナも力強く返事をする。
「ミツルの提案にシルバーファングも全面的に協力するぜ!」アッシュも力強く言う。
「ドラゴンテイルも同じだ。共存への道一緒に探っていこう」エリオットも賛同の意を示す。
ミツルを中心に里の人々や冒険者たちの思いが一つになっていく。 アースクローラーとの共存…それは彼らにとって希望の光となるはずだ。
ミツルはリハルト関係者を集めアースクローラーとの共存について語りかける。
「アースクローラーは私たちの敵ではありません。土を浄化し生態系を守る大切な存在なのです」ミツルの言葉に関係者は驚きと戸惑いを隠せない。
「でもアースクローラーは危険な魔物だと聞いています。本当に共存なんてできるのでしょうか?」一人参列者が不安げに尋ねる。
「確かにアースクローラーは強大な力を持っています。でも私たちには現状アースクローラーの幼虫の生態を飼育・観察する事で徐々にではありますが解明できつつあります。そしてロータスさんやレオン先生等の専門家の協力もありますから幼虫だけではなく成虫の生態解明も不可能ではないと思っています!」 ミツルは熱心に語りかける。
「幼虫の観察を通してわかったことがあります。アースクローラーは荒廃した土地を肥沃な大地に変貌させられる力を持っています。この大地の恵みを私達に本来の意味で届けてくれている守り神と言う見方も出来ます。」 ミツルの言葉は少しずつ人々の心に響き始める。
「わしもミツルの話を聞いてアースクローラーへの見方が変わったぞ。共存の道を探ることに賛同したい!」 村長のアーノルドが力強く言う。
「村長の言う通りだ。俺たちもアースクローラーのことをもっと知る必要がある」 ゴードンも同意の意を示す。
蜂蜜街道関係者の中でアースクローラーとの共存を目指す気運が高まっていく。 ミツルはその変化を嬉しく思いながらも道のりはまだ長いことを自覚していた。
人々全員の理解を得るには時間と努力が必要だろう。それに成虫の飼育は不可能と言っていい。だからこそ巣の近くで観察と言うのが現実的だが、幼虫と違って成虫を観察するのは危険度が跳ね上がる…
「でも私にはかけがえのない仲間がいます。蜂蜜街道に携わってくださる皆様、シルバーファング、ドラゴンテイル、そしてエルザやアリーシャ、ティグたち。皆で力を合わせれば必ず共存への道が開けるはずです」ミツルは希望に満ちた眼差しで未来を見つめる。
「さあ、もっとアースクローラーのことを知るために研究を続けよう。そしてそのせいかをこまめにひろく伝えていこう!」ミツルの呼びかけに仲間たちも力強くうなずく。
アースクローラーの生態解明と共存への理解を広めること。それが彼らの新たな使命となった。
大地を守る者としてアースクローラーと手を取り合うために。ミツルたちの挑戦は新たなステージへと進んでいく。希望の光を胸に彼らは前を向いて歩み始めた。




