124話 魔物学者レオン・クロフォード
「先生、早速ですがアースクローラー対策について何か良いアイデアはありませんか?」ミツルは蜂蜜街道事業の拠点の一室に集まったアースクローラー研究チームのメンバーに問いかける。
エルザ、ロータス、アッシュそしてバルドウィン卿からの紹介でやってきた魔物学者のレオン・クロフォード。各々が真剣な表情でテーブルに並べられた資料や地図に目を通していた。
「うむ…。厄介な相手じゃのう…。」ロータスは長く白い髭を撫でながら唸り声をあげる。アースクローラーの生態は想像以上に複雑で容易に解決策を見いだせるものではなかった。
「レオン先生はどう思われますか?」エルザはレオンに視線を向ける。
若き魔物学者であるレオンは冷静な表情で資料を精査しながら口を開く。「…アースクローラーは土属性魔力を操り地中を自在に移動できる。さらに知能も高く学習能力も備えている可能性があります。単純な駆除や撃退では根本的な解決にはならないでしょう。」
「…レオン先生の言う通りだな。奴らを全滅させようなんて無理な話だ。それにロータス爺さんの話では奴らは土壌を豊かにする力も持っているらしい。むやみに駆除するのは得策じゃないだろう。」アッシュは腕組みをしながら頷く。
「…でもこのまま奴らを放置しておくわけにもいかないわ。蜂蜜街道だけでなく農作物や建物の安全性にも影響が出かねない…。」エルザは眉をひそめる。
「ミツル。何か考えはあるか?」アッシュがミツルに問いかける。
ミツルは少しの間考え込む。「…実はある農家さんの話を思い出したんです。その農家さんは畑を荒らす魔物を駆除するんじゃなくて魔物が嫌がる匂いを出す植物を畑の周りに植えてその魔物自体を近づけないようにしたそうです。そうしたら魔物は畑を荒らさなくなったし、魔物が生息しているエリアは土を耕してくれるおかげで土壌が良くなって農作物の収穫スペースも増えたんだって。」ミツルは以前聞いた話を思い出し提案する。
「…なるほど。つまりアースクローラーを駆除するんじゃなくて奴らが嫌がる環境を作って蜂蜜街道や農地から遠ざけようってわけか。」アッシュはミツルの話を理解し頷く。
「…それは良いアイデアね!でもアースクローラーはどんな匂いを嫌がるのかしら?」エルザは興味深そうにミツルに尋ねる。
「…う~んそれはちょっと分からないな。でもロータスさんやレオン先生なら何か知ってるかもしれませんよ!」ミツルはロータスとレオンの方を見る。二人は顔を見合わせて少し微笑む。
「…ふむ。わしもいくつか候補となる植物は思い当たるぞ。例えばアースクローラーは強い硫黄臭を嫌う傾向があると文献には記載している。硫黄の成分を含む植物を蜂蜜街道沿いに植えてみるのは有効かもしれないな。」ロータスは長年の経験から得た知識を披露する。
「…確かに硫黄臭は多くの魔物が嫌う匂いです。私も以前アースクローラーの研究をしていた時に似たような実験を行ったことがあります。硫黄の他に、ある種のハーブや香草の匂いも効果があるかもしれません。」レオンも自身の研究成果を踏まえ提案する。
「…なるほど!それじゃあ早速試してみましょう!」エルザは目を輝かせながら立ち上がる。
「…ちょっと待ってくれエルザ。まだ実験段階だ。効果があるかどうか分からないぞ。」アッシュはエルザの勢いを少し抑えるように言う。
「…アッシュさんの言う通りだエルザ。まずは小規模な実験で効果を確認してから本格的に導入するかどうかを判断しよう。」ミツルもエルザに同意しつつ慎重な姿勢を崩さない。
「…分かったわ。でも早く実験を始めたいわ!蜂蜜街道の未来を守るためにも一刻も早くアースクローラー対策を確立しなきゃ!」エルザは強い決意を胸に実験の準備に取り掛かる。
アースクローラー研究チームはミツルの発想とロータス、レオンの専門知識を融合させながら共存への道を一歩ずつ着実に歩み始めていた。




