117話 緊急会議、蜂蜜街道の運命
「ミツルやアッシュの意見に賛同して当面はその魔物の調査を優先するとして…何か意見や提案がある者はいるか?未知なる魔物との遭遇と調査なのだから何が正解で何が不正解かも分からない。だからいろんな意見を聞いてから判断したいと思っておる。」バルドウィン卿がそう言うと、バルドックが提案する。
「バルドウィン卿!私の方からよろしいでしょうか!調査の前に、ティグから聞いた情報だけでも何か分かる者がいないか探してみるのはどうでしょうか。この中に魔物の生態に詳しい者や古代の知識に精通した者はいないか?」バルドックの呼びかけに一人の老人が手を挙げた。
それはリハルトで薬草師をしている老魔術師ロータスだった。
「…わしが少しばかり役に立てるかもしれんな。ティグ殿が話していた魔物の特徴は古代文献に記されている“アースクローラー”と呼ばれる魔物に酷似している。」ロータスの言葉に部屋にいた全員が注目する。
「…アースクローラー…?そんな魔物が本当にいるのですか…?」アンドリューが尋ねる。
ロータスは頷きながら説明を始める。「…ああ。アースクローラーは古代において大地を揺るがすほどの脅威と恐れられていた魔物じゃ。巨大な体躯、強靭な顎、そして地面を掘り進む能力…。ティグ殿が話していた特徴と完全に一致する。」
「…しかし、アースクローラーは、はるか昔に絶滅したと伝えられています。まさか現代にまだ生き残っていたとは…。」バルドックは驚きを隠せない様子で呟く。
「…わしもまさかアースクローラーがこの時代に現れるとは夢にも思わなかったよ…。しかし、ティグ殿の報告を聞く限り間違いないじゃろう…。」ロータスは深刻な表情でそう言った。
「…もし本当にそのアースクローラーだとしたら蜂蜜街道にとって大変な脅威になるわ…。」エルザがそう呟く。ミツルも神妙な面持ちで頷く。
「…ああ。わしが知る限りだとアースクローラーは蜂の魔物の巣を襲うだけでなく農作物を食い荒らし地面を掘削することで地盤を弱体化させる危険性もある。放置すれば蜂蜜街道だけでなく周辺地域全体に大きな被害をもたらす可能性がある。古い文献にしか書かれていないし、その文献もそこまで詳細には書かれていないから生態や特徴を完璧に理解しているかどうか!と言うのは不十分なのだ。だからこそ今後の非常事態を避ける為にもしっかりと生態調査をしたいと思っておる。」ロータスが自分の考えを同席している人に向けて真面目な顔をして伝える。
ミツルは事態の深刻さを改めて認識し決意を新たにする。「…バルドウィン卿、私はアースクローラーの調査隊を編成し詳しい生態を調べたいと思います。そしてその上で対策を検討したいと考えています。」
バルドウィン卿はミツルの決意を受け止め頷く。「うむ。良いだろう。ミツル、全権を任せる。必要な人員や物資は、何なりと要求するがいい。」
「ありがとうございます、バルドウィン卿。」ミツルはバルドウィン卿に頭を下げるとすぐに調査隊の編成に取り掛かった。
「ティグ、レン、リィナ。お前たちは当然アースクローラーの調査隊に参加してくれ。お前たちが見た魔物が本当にアースクローラーなのか確認する必要がある。」
「了解です!」「もちろんです!」「任せてください!」ティグ、レン、リィナは力強く答える。
「エリオット、ライアン、サラ。それとアッシュさん、セリーナさん、オリバーさん、カレンさん…シルバーファングの同行も是非ともお願いしたい。力を貸してください!」
「おう、任せとけミツル!」「了解だ、ミツル。」ドラゴンテイルとシルバーファングのメンバーたちも快諾する。
「ロータスさん、あなたも調査隊に同行していただけませんか?アースクローラーの知識は調査に役立つはずです。」
「うむ。わしもこの目でアースクローラーの脅威を確認したい。喜んで同行しよう。」
ミツルは、調査隊のメンバーに、ティグたちが遭遇した現場周辺の地理に詳しい冒険者を加えることを提案した。
「…バルドックさん、あの辺りの地理に詳しい冒険者を何人か紹介してくれませんか?調査隊の案内役として、頼みたいんです。」
「ああ、いいぜ。任せとけ。」バルドックは快諾し、すぐにギルドの職員に連絡を取り、該当する冒険者を呼び出した。
「…よし、これで調査隊の編成は完了だ。明日、早朝に出発する。準備はいいか?」ミツルがそう言うと、調査隊のメンバーたちは、それぞれ決意を込めた表情で頷いた。
「…ああ、準備万端だ!」
「…任せてください!」
「…必ず、アースクローラーの正体を突き止めてみせる!」
こうして、未知なる脅威アースクローラーに立ち向かうため、精鋭たちが集結した調査隊は、明日の出発に向けて準備を進めるのだった。




