114話 巨大な影の襲撃
「おいティグ見てみろよ…あれ…」レンが指差す方向に目を向けるとティグは言葉を失った。
巨大な岩山のように見えるそれは、ゆっくりとだが、確実に動いていたのだ。
黒光りする体躯、そこから伸びる太い脚、そして頭部には巨大な顎が不気味に開閉している。
「なんだ…あれ…?」リィナもその異様な光景に息を呑んだ。今まで見たこともない巨大な魔物だった。
「ゴゴゴゴ…」地響きのような低い音が森に響き渡る。
巨大な魔物はゆっくりと、しかし確実に彼らのいる方向に向かって進んでいた。
「やばい…逃げろ!」ティグは直感的に危険を感じ仲間たちに叫んだ。しかし巨大な魔物の進行方向には蜂の魔物の巣があった。
「ティグ!蜂の魔物の巣が…!」リィナが悲鳴のような声で叫ぶ。巨大な魔物は、蜂の魔物の巣を完全に無視してその巨体をぶつけていく。
「バリバリッ!」木々がなぎ倒され、蜂の魔物の巣はいとも簡単に破壊されていく。巣の中から蜂の魔物たちがパニック状態になって飛び出してくる。
「ブーン!ブーン!」蜂の魔物たちは巣を破壊した巨大な魔物の周りを怒りの羽音と共に飛び回る。しかし巨大な魔物は蜂の魔物からの攻撃は効いていないのか、気にも留めず破壊された巣に顔を近づける。
「おいティグ、あれ…何してるんだ?」レンがティグに問いかける。ティグは巨大な魔物の行動をじっと観察していた。
「…蜂の魔物の巣を食ってる…のか…?」ティグは信じられない思いで呟いた。巨大な魔物は巨大な顎で破壊された巣やそこにいる蜂の魔物の幼虫等巣ごと捕食していた。
「…まさか、蜂の魔物を捕食しているのかな?しかも魔物だけではなく巣ごと食べるって…」リィナが、青ざめた顔で呟く。ティグはリィナの言葉に、頷いた。
「…間違いない。あの魔物は蜂の魔物の巣を狙ってるんだ…」ティグは目の前の巨大な魔物が蜂蜜街道にとって想像を絶する脅威となることを悟った。
「ティグ、どうする…?このまま見てるだけか…?」レンが不安そうに尋ねる。
ティグはしばらく考え込んだ後決意を固めたように言った。「戦闘…でも俺達では勝てるか分からない。それなら今後の為にも少しでも情報を得る必要がある。様子を見よう。だが奴がこちらに気づいたら、すぐに撤退だ!俺たちだけでは奴に対抗するのは厳しいと思うからよそう!」ティグたちは息を潜め、巨大な魔物の様子をじっと観察し始めた。
黒光りする外皮は硬そうで、並大抵の攻撃では傷つけることはできそうになかった。巨大な顎は岩盤すらも砕くほどの力を持っているように見えた。
「…ティグ見て!地面に…穴が…」リィナが巨大な魔物の足元を指差す。確かにそこには巨大な魔物の体が入るほどの大きな穴が空いていた。
「…まさか…地面に潜れるのか…?」ティグは驚愕の表情を浮かべた。もしそうだとしたらこの魔物は想像以上に厄介な存在だ。
その時巨大な魔物は蜂蜜を食べ終えたのか顔を上げてゆっくりと周囲を見回し始めた。
「…やばい!奴がこっちを見たぞ!逃げろ!」ティグは叫びながら全速力で走り出した。
レンとリィナもティグに続いて森の中を駆け抜けた。遅れながら他の者達も後に続く。背後から地響きのような重々しい足音が執拗に追いかけてくる。
「…早く、リハルトに…!」
ティグは心の中でそう叫びながら走り続けた。蜂蜜街道の未来を守るため、一刻も早くミツルたちにこの恐るべき魔物の存在を知らせなければならなかった。




