101話:ドワーフ族の技術活用
リハルトの街に初夏の風が吹き抜ける頃、ミツルたちのもとに一通の手紙が届いた。
ドワーフ族からのもので、養蜂に適した新しい道具を試作したという報告だった。
「やっと、ドワーフたちが動き出したみたいだね」とミツルは資料をまとめながらつぶやいた。
ミツルとエルザは、その試作された道具を確認するため、ドワーフたちの工房へ向かうことにした。
工房の中は伝統的な金属加工の音が響き渡り、ドワーフたちが忙しそうに働く姿が見られた。
迎えてくれたのは、ドワーフ族のフィンバルとグリンデルだった。
フィンバルは頬髭を撫でながら、「待ってたよ、ミツル。この道具が君たちの役に立つといいが」と誇らしげに言った。
彼らが提案したのは、高所にある巣から効率よく蜂蜜を採取するための特別な装置だった。
「これはクイーンティラワスプみたいな高いところに巣を作る蜂にも使えるのか?」とミツルは興味津々で訊ねた。
「ああ、そうだ。長い柄がついていて、安全に採蜜できるようになっている」とグリンデルが自信満々に答える。
この新しい道具の紹介を受けて、エルザも「これを使えば、各地の養蜂場の規模を拡大できるわね」と期待を膨らませた。
3人は、フローリア村やベリル村、そしてリハルトに新しい養蜂場とミード製作所を展開する計画を立てることにした。
それぞれの地域に最適な蜜源植物を選定し、それらをベースにした蜂蜜を生産することで、各地毎の特色を出せるようにする。
この計画が進めば、地域ごとの経済活性化にも寄与することが期待される。
一方で、教育や戦闘訓練が行われる日常の中に、このような新しい技術の導入が浸透していく様子もみられた。
冒険者たちは訓練の合間に、蜂蜜の採取や簡単な養蜂作業を実践して学ぶことで、幅広いスキルを身につけていた。
その諸々の指導を行うのはミツル達と共に養蜂やミードの製作を続けているミード製作隊の4人である。
特に、ミリアムは子供たちに新たな装置を見せながら、「こうやって自然と共に生きる方法を学んでいくんだよ。我欲にまみれて自分達の事だけを考えていると魔物が越冬出来なかったり、種族が減少したり、蜜のクオリティが下がったりするから、気を付けないといけない事なんだ。」と語りかけた。
「いつか君たちも、これを使って蜂蜜を採れるようになるといいね」と彼女は微笑みながら指導を続ける。
若い冒険者たちや元奴隷や獣人の仲間たちも、戦闘訓練や日常作業を通じて、成長を実感しつつある。
特に、ティグとレン、リィナの連携はさらに強化されている。
彼らはティグの物流部隊として、効率的な年間計画を立てるため、戦略的な訓練を進めている。
ギルドでは、定期的に報告会が開かれており、各部門の進捗が共有されていた。
本日行われる会合でも、フィンバルたちと共に開発した新しい道具が、大きな反響を呼んでいる。
「これはすごいぞ!ドワーフの技術がここまで役立つなんて」と、建築関連統括のボリスが感心しながら新しい道具の機能を確認する。
新種発見時から悩んでいた高所での作業効率が、これでぐっと高まることが期待される。
様々な意見が飛び交う中、冒険者たちはミツルのプロジェクトの進展を高く評価し、それぞれが持つスキルを積極的に活用していくことを誓った。
昼下がり、会合が一段落した後、フィンバルはミツルに話しかけた。
「君のアイデアはなかなか面白い。ドワーフ族の技術もこうして役に立つことを証明できて嬉しいよ」と、その言葉には自信と誇りが感じられた。
その晩、ミツルはギルド仲間たちと軽く乾杯を交わしながら、「これからも一緒に頑張っていこう。新しい技術の導入はもちろんだけど、みんなの協力が何よりもありがたいんだ」と語った。
彼らの過ごす時間は決して無駄ではなく、次なるステップへの確かな糧となっていく。
出会った人々との縁を大切にしながら、彼らのプロジェクトは、ますます深く、そして広がりを見せていくことだろう。




