1話 冴えない青年、幼馴染と出会う
「見たかよコレ。普段は関西方面で活動してるセカイちゃんが明日の土曜日、初めて東京でイベント開催するんだってさ! 見に行こうぜ!」
「見に行くって言ったってチケットとかいるんじゃねえのかよ」
「それがだな。写真集を買えば握手会チケットってのが手に入るんだけどよ。ほら、ちゃんと三枚あるぜ?」
「マジかよ! でかしたぜ!」
「なっ? だから一緒に行こうぜ!」
クラスの男子たちがはしゃいでいるのが遠くから聞こえてくる。俺はそんな輝かしいオタク共の語らいを遠い所から一人で聞いている冴えない男子高校生、揚羽カイトだ。
名前はカッコいいだろ? 結構気に入ってんだ。まあだからどうしたって話ではないんだけど。
それは置いておいて俺が何故そのオタク共の話に耳を傾けているのか、という話だ。
彼らの会話の中で出てきた「セカイちゃん」。彼女は超売れっ子の人気コスプレイヤーである。
そして何よりも俺の推しだ。
いや待て待て待て。俺をそんなエロい奴みたいな眼差しで見てくるんじゃないよ。何もグラビアで好きになったわけじゃない。
そもそもセカイちゃんはそんな過激なグラビアなんてやってないしな。
元々、俺はどちらかといえば二次元に魂を売っていたタイプの人間だ。三次元? 何それ美味しいの?
二次元だから三次元で起きるような人間関係のいざこざなんかを考えなくて済むんじゃないかとか思ってたタイプの人間だ。
しかしながらセカイちゃんが俺のはまっていたアニメ「プリティ世界」のメインキャラクターであり、俺の大好きなキャラクターでもあったサクラちゃんのコスプレをし始めた事によりその時の俺は死んだ。
そして新たに「セカイちゃん」好きの俺へと転生したのである。まさに異世界転生ならぬ異次元転生である。
……滑ってる? うるせえ、友達いねえんだからここで発散させろ。てか俺の心の声を勝手に聴いてるお前らが悪い。
ちらりと財布の中に入っている握手券を確認する。よしよし無くしてないな。電子チケットじゃないから明日まで心配この上ない。
「揚羽君。この前頼んでたあれ書けた?」
そんな事を考えているとふと俺に話しかけてくる人物がいた。長髪でキリッとした二重が特徴の彼女の名前は林道コト。俺と同じ漫画同好会に所属している同級生である。
学校の中じゃかなり人気があるらしいのだが、俺からすればチョイ怖い。大半は漫画同好会で課せられる課題の提出を怠ける俺のせいだが叱られることが結構多いからである。
そして今日もまた書けといわれて書いていなかったプロットを書けていないため、説教されることだろう。
仕方なかったんだよ! セカイちゃんの握手会が楽しみ過ぎて忘れてたんだ!
「すまん!」
「だと思った。あなたが原作で私が作画なんだからあなたが書いてくれないと進めないのよ。コンテストまで近いの分かってる?」
「はい! 分かってますとも! ちゃんと月曜日には書いて持ってきますので!」
「本当? 怪しいわね……そうね。明日から二日間、私の家で書きなさい。しっかりと見張ってあげるわ」
「明日から!?」
明日から二日間だと!? おいおい、それじゃあセカイちゃんの握手会と被ってんじゃねえかよ!
ヤダヤダヤダヤダッ! 俺は生セカイちゃんをこの目で見るんだい!
「せめて日曜日からという事にしてくれませんかね?」
「駄目です」
そ、そんなにこちらへと詰め寄ってこられても……。どうしよう、明日は初の生セカイちゃんだってのに。
「分かりました」
「よろしい。では明日待っておりますので」
凄い圧を感じた俺はそのままの勢いで了承してしまい、その返答に満足したのか林道は俺の下から離れていってしまう。
彼女は友達というかビジネスパートナーって感じの距離感だし、中々に断りづらいんだよな。
ていうか勢いで言っちゃったけどどうしよう。俺明日全然セカイちゃんを見に行くつもりなんだけど。
「ま、まあ仕方ないよな」
♢
「……結局来ちまったぜ」
そして来る土曜日、俺は林道に熱があると嘘をつきその勢いで家に赴くのを断ると電車に乗り、気が付けば秋葉原へと足を運んでいた。
申し訳ない林道。俺はクズだ。クズみたいなことをしてる自覚はある!
でも仕方ないんだよ。だって今日を逃せばいつ生セカイちゃんを拝めるのか分かったもんじゃないんだ!
「さてと確かあのデカいビルの中だったよな」
目的の場所へと携帯の地図を見ながら歩いていく。まだイベントの時間まで腐るほど時間はあるが、遅刻したくないため下見に行くのだ。
てか久しぶりに学校以外で外に出たけどやっぱり人が多いのは面倒だな。
地図アプリが無かったら人の波で道を見失い、今頃路頭に迷っていることだろう。
「あれ? おかしいな。確かここだったはずだけど」
俺が地図アプリを見ながら四苦八苦していると、前方でそんな声が聞こえてくる。ふと顔を上げるとそこに居たのは帽子を目深にかぶり、マスクをしている女性。
同い年くらいか? にしても独り言デカいな。なんて思いながらサッと通り過ぎようとしたその時であった。
「あれ? カイ君? カイ君じゃない?」
そんな声が聞こえ、俺は思わずピタリと足を止めたのである。この場合、振り返っても良いのか迷ってしまう。
もし俺の名を呼んでいた訳じゃないなら凄まじい辱めを受けることになる。
カイ君、そう呼ぶ女の子はこれまでに一人しか存在しない。そしてそれは俺が京都に居た頃の幼馴染である桔梗セナだけだ。
その子とこんな所で出会う確率はほんの数パーセント。辱めを受ける可能性は約98パーセント。
よし、振り返らず前を向いて進もう。その方がきっとこれからの人生明るいはずだ。
「あれ聞こえてない? 私だよ私。セナだよ」
そうして通り過ぎようとした俺の肩をグイッと掴まれ、セナと名乗られることによって残りの2パーセントであることが発覚する。
ていうかホントか。セナなのか? どんな確率でこの人ごみの中会うんだよ!
「おお! マジかよ! まさかこんな所で会うとは思わなかったから思わず無視しちまった!」
「やっぱり無視してたんだ~。せっかく久しぶりの再会だってのにさ~」
いや本当に久しぶりだぜ。だって俺が小学校五年の頃に引っ越してから一回も会ってないしな。
それこそあの時はまだ連絡先っていう概念が無かったからもちろん交換してないため、親同士でしか繋がってなかった。
「てかセナこんな所に何しに来たんだ? お前って京都住みだろ?」
「いや~その~色々ありまして東京に住むことになったんだよね~」
「マジかよ。だったら言えよな」
「いやだってカイ君の連絡先知らないし」
「親の知ってんだろ。親のをよ。ていうか急だな。親父さんの転勤か何かか?」
「いんや? 私一人でこっちに来ることになったんだよ」
「ふーん……ってセナ一人で!?」
普通に聞き流しかけたけど一人で住むの!? まだ女子高生だよな? そういうのっていけたっけ?
「ていうかカイ君全然変わってないね~」
「うっせえ。セナが変わり過ぎてるんだよ」
正直、セナだよって言われるまで全く気が付かないほどに変わっている。小学校の頃はボーイッシュな感じだったけど、今のセナは髪も伸ばし、なんていうか大人の女性になっている。
マスクで顔半分見えてないから分からんけど、なんかもう別人って感じだ。
「うふふ、そうかもね。でさ~、実は私迷子になっちゃってて」
「地図アプリ見りゃ分かるだろ」
「それがそうでもなくてね。何かたどり着けないんだよ」
ほら、とセナが自信満々に携帯の画面を見せてくる。そしてそこに表示されていた建物を見て偶然にも俺が目指している目的地と一緒であることに気が付く。
「おお! 俺もちょうどそこに行こうと思ってたんだよ」
「ホント! なら一緒に行こ!」
こうして俺はセナと共にアキバの街を練り歩くこととなる。セナが何故ここに向かっているのかという理由には気が付かないまま。
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