竹
すみれとコウが再びリゾートに来たのは5月の後半で、毎日35℃以上の真夏日が続いている最中だった。
なかなか気温が下がらず連日、熱中症で病院に搬送される人がニュースになっている。
南出が口添えをしてくれて、すみれは今日、竹の地区のボランティアに参加できるのだった。
二人が来るよう指示された場所は、先日降りた駅よりもう一つ先の駅で降りて、しばらく歩いたところにある公園の入口だった。
すみれが調べてみると、その公園は1キロ程度のジョギングができる広い公園で、リゾートと呼ばれる老人居住区はこの公園を囲むように広がっており、改めてその大きさが感じられる。
どれだけ多くの老人がここに住んでいるのかと思うと、空恐ろしい気にさえなる。
「毎日ヤバイくらい暑いね」
コウがため息をついた。
二人がいる公園の入口には大きな木々が生えており、暑さの中で憩いを提供している。
木陰の中に入ると日差しが遮られ照りつける日光から逃れられるが、熱気は身体を包んでいる。
コウは帽子をかぶり、すみれは日傘だ。
「まだ6月にもなってないのに、すごいよね」
すみれもコウに賛同する。
路上を歩く人も暑さに押しつぶされそうなのか幾分猫背になっているように見える。
「わたし、飲み物買ってくるけど、コウもなんか飲む?」
「まだ持ってきたのあるから」
コウは自分の水筒を掲げた。
「わかった、わたし買ってくるね」
すみれは入口手前にある自販機で飲料を購入する。
最新式の自販機だ。
以前のようなペットボトルや缶の自販機は無くなってきている。
そのかわり自分のマイボトルを自販機にセットしてお金を投入し、購入する飲料のボタンを押すと、ノズルから購入された飲料がボトルに充填されるような仕組みになっている。。
社会全体でプラスチックの消費を削減する流れになり、最近はその動きが早くなってきた。
すみれもマイボトルをセットし、麦茶を購入した。
入口に戻りコウとまた待っていると、公園の奥から老人女性がやってきた。
やせ型で、メガネをかけた神経質そうな顔立ちをしている。
その老人女性はすみれ達を見つけ、
「月山さん、ですか?」
と聞いてきた。
「はい、そうです」
すみれは若干緊張した面持ちで答える。
「南出さんから聞いています。今日はよろしくお願いします。私は城戸と申します」
城戸は少し頭を下げた。
「よろしくお願いします」
すみれとコウも頭を下げながら挨拶をした。
「今日の配給場所に案内します、こっちです」
城戸はそう言ってやってきた方向へ歩き出した。
言葉少なくあまりコミュニケーションをとるタイプではないようだ。
すみれとコウは顔を見合わせ、城戸の後を追った。
マンション地区に入り歩いていると、小さな公園が見えてきた。
この公園はマンション内部の公園のようだ。
木々が生い茂っている。
植え込みの雑草は生い茂り、道路はひび割れてボコボコの箇所が目に付く。
あたりには古びたマンションが建っている。
既に集まってきた老人たちが暑さを避けて木陰で佇んでいる。
今日はすでにテントも設営されていた。
暑さのせいかもしれないが老人たちは無言で、会話を交わしている様子もない。
着ている服装もくたびれており、みな所在無げにしていた。
城戸は二人を公園に案内すると、その場にいるスタッフに紹介する。
ここのスタッフも老人がほとんどだった。
「この間の場所とはちょっと印象違うね」
コウが驚いたように話しかける。
「うん、エリアで変わってくるんだね」
すみれも驚いていた。
やがてまた、明るい旋律とともにフードカーがやってくる。
その車が止まると、城戸が後部のゲートを開け、バケツリレーで食料や水を運び出す。
全て出し終えると城戸がゲートを閉めてスマホを操作し車は去っていった。
作業の流れはこの間と全く同じだった。
配給が始まる。