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エリア

配給が終わったのでスタッフたちはイベントテントの中で一休みしている。

老人たちはそれぞれの住居に帰る者が多かったが、公園に残って包みの中を確認したり数人で話をする者もいた。


南出がすみれの所にやって来た。

「さっきは大変でしたね。時々ああいう人が来るんです」

と言って自分のせいでは無いのに申し訳無さそうな表情をする。

「あの人は、どういう人なんでしょうか」

すみれが聞くと、

「恐らくさっきの人は最初からカードを持ってなかったんだと思います」

顔をしかめて南出は答える。

「カードを持っていないってことは、このリゾートに住んでいない人ってことですか?」

コウが口を挟んだ。

「まあ、そうなりますね。このリゾートはエリアごとに分かれていて、それぞれのエリアの方に配給カードが付与されているんです。ですのでカードを持っていなければ外部の人ということでしょうね」

「そうなんですか・・・」

すみれは南出の言い方に何か歯切れの悪いものを感じとった。

しかしそれ以上問い詰めることもできないので、コウに呼びかける。

「まだお年寄りがいるし、話しかけに行こうか」

「そうだね」

二人がテントの外に出ようとすると南出は少しホッとした表情を浮かべた。

「ありがとうございます、片付けはこちらでしますので、お年寄りの方たちとコミュニケーションをとってきてください」

「わかりました」

すみれはそう答え、テントを出た。

公園に残っている老人達を見ると、さっき荒栄と名乗った女性のグループがまだいたので、コウを促して近寄ってみる。

すぐに彼女が気づき手を振ってきた。

「お疲れ様~」

にこにこしながら荒栄さんが労わる。他の老女たちも笑顔だ。

その笑顔に釣られ、思わずすみれも笑みを浮かべる。

「すみれちゃん、さっき絡まれてたのかい。怖くなかった?」

人懐っこいのだろう、荒栄さんがもうちゃんづけで呼んでくるのにおかしみを感じながらすみれは

「ええ、でも周りのスタッフさんに助けられました」と応じる。

「あれでしょ、カード持ってない人だよね。新顔のボランティアを見つけるとすぐ来るんだよ」

荒栄さんがよくある事のように言っているので、すみれは驚いて聞き返す。

「そうなんですか?」

「そうよ。ああいうカード持ってない人たくさんいるしね」

すみれは唖然とする。

「え、さっきの人だけじゃないんですか、カード無いのに配給貰いに来る人」

荒栄さんは苦笑した。

「毎回いるわよ、ああいう人」

「でも、どこから来るんですかね、そういう人達。スタッフの方は外部の人だって言ってましたけど」

コウが不思議そうに口を挟む。

「え?外部の人?」

荒栄さんはびっくりした顔をして彼女のグループの人達と顔を見合わせている。

「何か違うんですか?」

すみれは聞き返した。

荒栄さんはためらいをみせたが、息を吐いて口を開いた。

「たぶん外部のじゃないと思うわよ。カード持ってない人もリゾートにいるの。このリゾートが地区で分かれているのは聞いた?」

すみれとコウは目を合わせる。

コウが答えた。

「エリアで分かれているっていうのは聞きました。それぞれのエリアで配給のカードを配ってるって。

ここってかなり広いんですよね。だからエリアで分けないと大変なんだなって思いました」

コウの返答を聞いて荒栄さんは肩をすくめる。

「広いからエリアに分かれてるんじゃないのよ、ここ」

「え?そうなんですか」

コウが驚く。

荒栄さんは困ったような表情をした。

「ま、隠してるわけじゃないからいちおう教えておくわね。

このリゾートの地区分けって年金の有無や額で決まってるらしいの。いつの間にかそれぞれの地区のことをみんな勝手に松竹梅で分けて呼んでるわ」

すみれとコウは顔を見合わせる。

荒栄さんは説明を続ける。

「いい?大体の話よ。松の地区は年金をもらえて、その収入が月5万から10万円未満の人々が住んでる地区なの。

竹の地区は、年金は貰っているけれど、その額が5万以下の人。

そして、梅の地区は年金収入が全く無い人なのよ。

あくまでおおまかな区分けみたいだけど」

すみれとコウは更に驚いて顔を見合わせる。

コウがそこで気づいたように尋ねる。

「じゃあ、さっきいたカードがない人って言うのはやっぱり、外の人じゃないんですか?」

荒栄さんは首を振った。

「違うの。さっきの人はきっと、リゾートに正式に住む許可は得てないのに住んでる人よ。そういう人がいるのは特に梅の地区ね。私も詳しいことは知らないの。そもそも梅の地区ってあまり良い雰囲気じゃないようだからね」

「許可が無いのに住めるんですか?」

説明を聞いても分からないことが多い。

荒栄さんは肩をすくめる。

「そうみたいよ」

「梅っていうところは雰囲気悪いっていいますけど、物騒なとこなんですか?」

すみれが聞く。

「はっきり言えばそうよ」

荒栄さんは顔を歪めた。

「私、竹はまだしも梅には行ったことないの。いい噂聞かないし、怖くてね。あなた達も梅には行かない方がいいわよ」

「そんな地区があるんですね」

すみれとコウは絶句した。

すみれは想像もしなかったリゾートの有り様に驚いていた。

自分が勝手にイメージしていたのとは違う状況がそこにあった。

けれど、自分もこのボランティアをしようと決めた理由があった。

だからこのリゾートと関わりたいと思った。


すみれがもう少しリゾートの情報を知りたいと思っていると、

「ボランティアスタッフのみなさん。撤収致しますのでお集まりください」

メガホン越しのアナウンスが響き渡る。

「あらあ、もうそんな時間なの」

荒栄さんが残念そうに言った。

「もう少しお話したかったです」

すみれもうなずく。そして

「また来るのでお会いしたいです」

と微笑んだ。

「そうね。私たちも待ってるわ」

荒栄さんがニコニコしてすみれを見た。他の老女たちも微笑んでいた。

「ではまた。今日はありがとうございました」

すみれとコウは会釈してその場を立ち去った。


片付けは終わっており、スタッフがみんな集まっている。

南出がその前に立って話す。

「今日もみなさん、ありがとうございました。また次もよろしくお願い致します」

と言って一礼した。

スタッフもお辞儀をする。

「では解散です」

南出がそう言うとスタッフはそれぞれ散らばっていった。

すみれは南出に近づいて呼びかける。

「南出さん」

「ああ、月山さん。今日はありがとうございました。とてもありがたかったです」

南出は微笑んで言った。

「こちらこそありがとうございました。あの、南出さんにお願いしたいことがあるんですが」

「何でしょう」

南出は首をかしげる。

「わたし、お年寄りの方からリゾートの区分けについて聞きました」

すみれがそう言うと、すぐに思い当たったのか南出は苦笑した。

「ああ、松竹梅のことですね」

「そうです。それで、ここはきっと松、のエリアなんですね?」

「その通りです」

すみれはおずおずと言う。

「あのう、わたし、竹や梅の方のエリアのボランティアもしてみたいんですけど」

南出は戸惑いの表情を浮かべる。

「どうしてですか?ここの地区だけで十分だと思いますが」

「今日初めて来たんですが、わたしもっと深くこのリゾートを知りたいと思ったんです」

「そうですか・・・」

南出は難しい顔をしてしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると頷いた。

「わかりました。では他のエリアのリーダーにすみれさんのこと、伝えておきます。でも、竹や梅のエリアはここと違うので十分注意してください」





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