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配給

大勢の老人たちがテーブルの前に一列に並び始める。

統制が取れていると言って良いほどの動きだった。

程なくしてスーパーの売り場で流れそうな明るい旋律が耳に響いてくる。

すみれが道路の方を注意していると、4トントラックほどの大きさの車が数台こちらに向かってきた。

あれがフードバスなのだろう。

バスの列ははじれったいほどゆっくりした速度でやってくると、公園の傍らで停車した。


南出とスタッフがそれぞれのバスに近づき、スマホを操作している。

それが終わると彼らはキーを取り出し、リアドアにあるカバーに差し込んで開ける。

すると、番号キーが現れた。

そのキーを操作すると、リアドアが開錠される。

すぐにスタッフがドアを開けて乗り込み、バケツリレーの要領で食料や飲料と見られるケースをイベントテントへと回していく。

それを見てすみれ達もバケツリレーに加わった。


バスの中の物品を下ろし終わると、南出達ははそれぞれのバスのリアドアを閉じる。

そして先程と逆の手順で操作を行うと、まもなくバスのエンジンがかかり、ゆっくりと動き出す。

また明るい旋律が流れ、バスは元来た道を戻っていった。


「それではこれから配給を始めます。皆さんは配給カードをご提示ください」

南出が大きな声で叫ぶと、老人たちがそれぞれスマホぐらいの大きさのカードを取り出す。

オレンジ色のカードで、それぞれの名前や番号が記載されているようだ。


配給が始まる。

食料は、インスタントラーメンや缶詰、乾麺類、レトルトものの長持ちする食品が中心だ。

米の袋もあるようだが、見てみると3年以上前の米だった。

それらの品がランダムにひと包みになっている。

スタッフがテーブルに並んで老人たちに包みを渡していく。

受け取る老人たちの中には「ありがとう」や「すみません」などと言ったりお辞儀をする者もいる。

最初すみれとコウはテーブルで受け渡しをしているスタッフに配給の包みを渡す役だったが、しばらくすると他のスタッフにカードを確認してから配給を渡すように言われ、テーブルの前に立つ。

老人がオレンジ色のカードをかざして前に来る。

包みを受け渡すだけなのに、すみれはとても緊張してしまう。

「どうぞ」と言って渡すことしかできなかった。

顔見知りの老人と談笑するスタッフもおり、和やかな雰囲気の中で受け渡しが行われている。


すみれが引渡しに徐々に慣れ始めた頃、一人の老人男性が目の前に来た。

男性は配給カードを提示していない。

すみれが渡してよいものか躊躇っていると、横にいるスタッフが見つけて、

「配給カード見せていただけますか?」

と聞いてくれた。

「今日は持ってないんだよ、忘れちゃってさ」

老人は平気な顔をしてすみれの手から包みを受け取ろうとする。

「申し訳ないんですが、カードを提示していただかないと差し上げられませんよ」

とスタッフがたしなめると、

「配給なんだから受け取ってもいいだろ!こっちは困ってんだ!」

といきなり大きな声を出した。

すみれはその剣幕にびっくりしする。、

南出がすぐにやって来て、状況を見て取ると、

「すいませんが、これはこの地区に住んでる方に渡すための配給です。

それが確認できなければ差し上げられないんです」

と伝える。

「だから忘れたっつってんだろ」

老人がイライラした声で被せるように言ってくる。

「では今回は渡せません。失礼ですが、この地区にお住まいですか?

もし他の地区に住まわれてるなら、その地区の配給カードを持って指定の日時に配給を受けてください」

南出は丁寧に説明する。

そこで初めてすみれは配給カードの持つ役割を知った。

リゾートはいくつかの地区に分かれているのだろう。

そしてそれぞれの地区で配給が行われているようだ。

「そんなものもってねえよ!この間はもらえたぞ!早くよこせや!」

老人は声を荒げる。

すみれはカードを持っていないっていうのはどういうことなんだろう、失くしたのだろうか、と訝しむ。

南出はこうした場面に慣れているのか、キッパリと言い渡した。

「前もらえたのかどうかはわかりませんが、とにかくカードを持っていない方には渡せないので、お引き取りください」

それを聞いた老人の顔が歪む。

「なにが配給だよ、差別じゃねえか」

老人はそう吐き捨てると、肩を怒らせて立ち去った。

その姿が消えると、何事もなかったかのように配給が続けられる。

南出は事態が落ち着いたのを見届けると、

「大丈夫でしたか?」

と申し訳なさそうにすみれに語りかけた。

「大丈夫です、ちょっとびっくりしましたけど」

すみれはニコッと笑って頷いた。

それを見て南出はホッとした表情になった。

「良かったです。あんな剣幕でこられると怖いですよね」

「驚いただけです。私、アルバイトでコンビニやってるんですが、似たような人時々いるんです」

すみれがそう言うと、南出は

「そうだったんですね、じゃあ私よりも対応するのは慣れてるのかもしれませんね」

と言って笑った。


しばらく経って配給の受け渡しが終わった。

すみれはふーっと息を吐く。

コウがすぐにやってきた。

「すみれ、大丈夫だった?なんかトラブってたみたいだけど」

心配そうに見つめる。

「うん、大丈夫。カードを持ってない人がいたんだ」

とすみれがその顛末を伝えると、

「なんだよそれ。どういう人だったんだ」

とコウが憤慨する。

「わからないよ、なんだったんだろ」

すみれも肩をすくめた。


配給が終了したので、スタッフも一休みしている。

すみれが公園を確かめると、老人たちはそれぞれの住居に帰る者が多かったが公園に残り包みの中を確かめたり、雑談に興じる人々もいた。



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