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来訪者2


どうしたんだろう、とすみれがクロの様子を見守っていると、茂みの方からガサガサと音がする。

そして、その茂みをかき分けるようにして3人の老人男性が現れた。


いずれの目つきも暗い。

先頭の老人は黒いTシャツに派手な柄のシャツを羽織り、首元には金のチェーンを揺らしていた。

ハーフパンツにサンダル履きで、日に焼けた左腕には錨のタトゥーが掘られている。

後ろに続く二人の老人は体つきは大きく、一人は坊主頭、一人は短髪でごま塩頭だった。

両方とも作業着のような半袖のつなぎを着ている。

三人はこちらの方をジロジロと見ながらオアシスを横切っていく。


「こんにちは」


ジュンさんが手を挙げて挨拶をした。

しかし三人とも全く反応を見せず、何も返そうとしない。

男達が挨拶を無視し、そのまま歩いて行こうとしているのを見て、ジュンさんが戸惑いをみせながらイチローさん達と顔を見合わせた。


するとクロが立ち上がり、尻尾を振りながらタッタッと三人の方へ近寄っていった。

どうやら挨拶をするつもりらしかった。

すみれは何か嫌な予感がして、ハラハラしながらクロを見つめる。


「ふっふっ」

クロが先頭の黒いTシャツの男に近づいた途端、

いきなり男がクロの鼻先を蹴飛ばした。

「きゃんっ」

クロが悲しげな声で鳴いて尻尾を脚の間に挟めると、ジュンさんの方に助けを求めるかのように駆け寄った。


「おい、何をするんだっ」


さすがにジュンさんが憤りを見せ、Tシャツの男を呼び止める。

クロはジュンさんの足元にうずくまり悲しげな目つきをしている。

すると男達が足を止めてこちらを振り返った。


「あん?」

Tシャツの男が顔を歪めてジュンさんを睨む。

「あんた、今犬を蹴ったろ」

ジュンさんが憤りを隠さず男を責める。

男が胡乱げな顔つきをした。

「それが何だ?」

「乱暴な事するな」

「あれはお前の犬なのか?」

「みんなで飼ってるんだよ」

「なんだって?」

「みんなで世話してるって言ってるんだ」


男はせせら笑いを見せた。

「馬鹿かお前。ならちゃんと紐つけて飼っとけよ、こっちにきたら危ねえだろが」

その答えを聞いてジュンさんは悔しげに口元を歪める。

確かにリードも何も付けて無いのは良くない。

だからといっていきなり蹴るのは乱暴だ、とすみれは納得出来ないものを感じて男達を睨みつける。

男はニヤニヤした。

「ろくに世話もできねえくせに偉そうに言うな、ボケ」


「だからって蹴飛ばすのは乱暴じゃないですか?」


思わず頭に血が昇り、抗議をしてしまってからすみれは相手が強面の男だったのに気づく。

男が躊躇なく暴力を振るうのに我慢できなくなって口を出してしまったが、風体の良くない男達を咎めてしまい、不味いなあ、と思って心臓が脈打つのを感じた。


「何だ?お前」

男がすみれを一瞥する。

途端にすみれの鼓動が速くなる。

それでもすみれはもう一度声を振り絞った。

「別に犬が近寄って来たからといっていきなり蹴るなんて乱暴だと思います。違いますか?」


すると男は面倒くさそうにすみれに吐き捨てた。

「ああ?犬が嫌いだからしょうがねえだろ、身を守っただけた、うるっせえな」

そしてすみれを睨みつける。

その暴力的な雰囲気に、すみれは足がガクガクする。


そこへ、

「あなた方、見かけない顔ですね。どちらにお住まいですか?」

橋方の落ち着いた声色が響いた。

「お前誰だよ?」

「このエリアの世話人みたいな事をしてます。橋方といいます。で、あなたは?」

「俺が誰だとかどうでもいいだろうが」

「どうしてこちらに名乗らせといてそちらは名乗らないのですか?」

「うるせえな、山田だよ、山田」

「わかりました、では、ふらーさん」

橋方さんに妙な呼ばれ方をした男は眉を寄せる。

「あ?なんだそれ?山田だって言ってんだろ!」

男がイラついた口調で怒鳴る。

「どうせ嘘でしょう。ならこちらで勝手に呼ばせてもらいます」

橋方は男の暴力的な物腰を微風とも感じてないふうで、涼しげな顔をしている。

「てめえ、なめてんのか?」

「さっきから、ふざけた口を聞いてるのはあなたでしょう、ふらーさん。私はあなたにどこに住んでるか聞いたはずです、早く答えてもらいたい」


ふらーさんて、何だろう?

すみれは全く動じない橋方に驚くと同時に、その名前の可笑しさに、何だか面白くなってきた。


その時ずいっと男の後ろから1人、つなぎの男が前に出て橋方の方へ向かっていく。

坊主頭の男だ。

橋方はそれに気づいて立ち上がる。

坊主頭の男は橋方に近づくといきなり胸ぐらを掴んだ。

「いつまで調子乗ってんだ、お前」

ドスの聞いた低い声を出し顔を橋方に近づけた。

それでも橋方は涼しい顔を崩さず、掴まれた胸元に目をやった。

「何ですか?これは」

「あ?わからねえならわからせてやろうか?」

坊主頭は険しい顔で今にも殴りかかるような仕草をする。

橋方はため息をつき、

「困った人だ」

と言うと、おもむろに手を伸ばす。

その時初めてすみれは、伸ばされた橋方の腕がとても太いのに気づく。

特に前腕部が異様に太い。

その手が坊主頭の腕を握ると、

「うぁっ」

と坊主頭が呻き、橋方さんを掴んでいた手を力無く離した。

そのまま橋方さんは握り続ける。

力がこもってないように見えるが、男は電流が流れたように身体を硬直させた。

「て、てめえっ」

と抵抗の言葉を口にするが、余程痛いのか坊主頭の男は膝をがっくりと付いて

何もすることができない。


その様子を仲間の男達はあっけにとられて見つめるばかりであった。

橋方さんは

「あんまり面倒をかけないでもらいたいですね」

と素っ気無く言うと、掴んでいた腕を開いた。

「うわ」

すみれは思わず驚きの声を漏らす。

坊主頭の男の腕が、指の形にドス黒く変わっていた。

どういう握力なら短い時間であんな風に肌が変色するのか。

男は座り込んで腕を摩るばかりでその場から動けない。

「ええと、そろそろ答えてもらえませんか?あなた方はどちらにお住まいですか?」

橋方さんの静かな問いがその場に響いた。


「お前には関係ねえだろうが」

ふらーさんと呼ばれている男が言い返す。

「いいえ、さっき言ったでしょう。このエリアの世話役だって。だから住人の事は知る必要があります」


「うるせえ!」

ふらーさんはいきなり怒鳴ると

「おい、行くぞ」

と坊主頭に声をかける。

坊主頭はまだ腕を押さえていたが、立ち上がり橋方さんを睨みつけると、ふらーさんの方に戻っていった。

「お前、顔覚えたからな」

ふらーさんは橋方さんをじぃっと嫌な目つきで睨んだ。


「まだ話終わってませんよ」

橋方は呼びかけたが、男達はそれには取り合わず去って行った。




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