公園
二人はボランテイアの会場を探すために辺りを見回す。
すると、公園に老人が集まっているのが見えた。
その老人達に混じって首からネームホルダーを下げている人々がいる。
どうやらボランティアのスタッフらしい。
ただよく見てみると、そのスタッフも老齢の人がほとんどだった。
すみれ達と同じような年代の若者もいるが、数は多くない。
すみれは「コウ、私ちょっと行ってくるね」と声をかけると、公園に入ってスタッフらしい人に近寄り声をかけた。
「すいません、今日、ボランティアで伺いました。月山っていいます」
するとスタッフの一人が顔を上げた。70代くらいの男性だった。
「ああ、月山さん。お待ちしてましたよ」
とすみれに挨拶して笑いかけてくる。
細身で、穏やかな目をした70代くらいの紳士然とした男性だ。
Yシャツの袖をまくりあげ、動きやすい綿パンを履いている。
「来ていただいてありがとうございます。私、南出といいます。ここのボランティアの取りまとめをやっております。よろしく」
男性は自己紹介をしてお辞儀をした。
慌ててすみれもひょこん、とお辞儀をする。
「よろしくお願い致します。あの、参加したいっていう友達も来てるのですが、大丈夫でしょうか」
南出は微笑んだ。
「もちろんですよ、お友達もお誘いくださいってお伝えしてましたし。助かります」
「ありがとうございます」
それからコウも南出に会って自己紹介をした後、二人は皆と同じようなスタッフ証を首から下げ、南出の指示で他のスタッフと一緒に配給を行う準備をした。
まず日差しや雨よけのためのイベントテントを設営する。
他のスタッフは手馴れているのか、それほど時間をかけず設営が完了した。
続いて食料・飲料を置くためのラックを並べ、パイプ椅子やベニヤテーブルを置く。
すべての準備も終わり、二人がテントの中で待機しているところに、南出が近づいてきた。
手に持っている水のペットボトルをすみれとコウに手渡す。
「お二人共ありがとうございます。これペットボトルの水なんですが、水分をとってくださいね」
「「ありがとうございます」」
二人はお礼を言って水を飲む。
「フードバスは何時に来ますか?」
コウが尋ねた。
「12時です。あともう少しですね」
「自動運転のバスなんですね」
「そうなんですよ。無人なのにほぼ時間通りにここへ来ますよ。便利な時代になりましたよね。私の若い頃には考えもしなかったです」
南出は時計を見ると、
「12時までまだ時間があるのでもう少し休んでいてください。もし良かったら、ここの住人の方々とお話でもなさってください。私はフードバスを迎えに行きますのでちょっと失礼しますよ」
と言ってその場を離れた。
「このボランティアの人って老人がほとんどなんだね。あまりにも若い人少ないからびっくりした」
コウが口を開いた。
「そうだよね。私ももっと若い人がたくさん参加しているイメージがあったけど、違うんだね。今若い人が少ないからかも」
すみれも賛同する。
「南出さんてどこかの職員なのかな。それともこのリゾートに住んでいる人なのかな。管理人とか自治会の人とか」
コウが疑問を述べる。
「どうなんだろう。でもとってもいい人だよ」
「うん。なんか安心したよ。ああいう人がいるならすみれも大丈夫そうだね」
コウは彼女にそう言って笑いかけた。
「南出さん、お年寄りとコミュニケーション取ってって言ってたよね。私、話しかけてみようと思うんだけど」
すみれが提案するとコウも頷いた。
「そうだね、二人で話しかけてみようか」
見ると、公園には本格的に老人が集まり始めていた。
地面に敷物を敷いて座り、それぞれ知り合いを見つけては談笑したりしている。
すみれはなんとなく、配給というものに物悲しいイメージを抱いていたが、そんなこともない。
二人が話しかけやすそうな老人を探すと、芝生の上に座って静かに話している老人女性達がいたので、近づいてみる。
4人いるその老人女性のうちの一人がすみれたちを見つけて先に声をかけてきた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
すみれが緊張した声色で挨拶を返す。
「ボランティアの人かい」
声をかけてきた女性が続けて聞いてきた。
目が大きく活発そうな女性だ。半袖のTシャツにジーンズを履いている。
腕には日焼けを避けるためかアームカバーを履いていた。
若やいだ感じが出ている。
彼女は積極的に話しかけてきた。
「今日は暑いのに、よく来たね。ありがとうね」
「え、いいえ。こちらこそ、どうも」
すみれはその女性のエネルギッシュな感じに圧倒されて言葉がでてこない。
「初めてここへ来たの」
「そうです」
「そちらの男性は彼氏?」
「ええまあ」
すみれは圧倒されて言葉が出ず、しどろもどろである。
コウは後ろで苦笑していた。
その女性が言う。
「私の名前、あらえっていうの」
「あらえ?」
聞きなれない苗字にすみれは聞き返す。
「どういう字書くかわかる?」
あらえと名乗った女性はニコニコしながら聞いてくる。
すみれはコウと顔を見合わせる。
「想像もつかないですね」
すみれが答えると、コウは
「洗うに、入り江の江ですか」
と言ってみる。
「残念」
あらえさんは笑った。
「荒地の荒に栄える。それであらえっていうのよ。今まで一発で当てた人、いなかったわ。私の人生で自慢できるものって何も無いけど、それだけが自慢ね」
荒栄と名乗った女性は朗らかに笑った。
すみれとコウも自己紹介をし、他の女性たちも名乗って少し雑談をしているとメガホン越しの声が聞こえた。
「フードカーが参ります。ご準備ください」
その声にまわりの老人たちが一斉に動き出した。