対立
RPの人々がその場を去っていくのを聴取のため警官達のうち2人が追いかけて行った。
残りの警察達は貝崎に事情を聞くようだ。
貝崎がボランティアスタッフの方にやってくる。
「すまんな、俺は警察と少し話をするから配給の手配を頼めるか」
ボランティアスタッフの1人が広場の外を確認して頷いた。
「もう配給の車、来てましたね」
「そうなんだ、悪いがよろしく頼む」
貝崎はスタッフ達の方を見る。
するとすみれがしゃがみ込んでいるのに気づいて心配そうに尋ねた。
「どうした?具合が悪いのかい」
「いえ…」
すみれが少し口籠ると
「さっきの騒ぎで飛んできた石が足に当たったんですよ」
コウが咎めるような視線を貝崎に投げつけると、語気を強めて言った。
「それは申し訳なかった、巻き添え食わせちまったな。病院に行くか?」
肩を落として貝崎は詫びる。
「大丈夫です」
すみれはしっかりとした声音で答えた。
「本当かい、後で痛むかもしれないよ」
コウが屈み込んですみれの肩に手をかけると、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「本当に済まない。他にケガしてる人はいないだろうか、」
貝崎が周りを見渡す。
スタッフ達は顔を見合わせる。
やはり幾人かが飛んできた石に当たっていたようだが、大事にはいたらなかったようで、
それぞれ首を振ったり「大丈夫です」などと返答があった。
貝崎は少しホッとした顔をすると、頭を下げた。
「みんな、怖い思いをさせてしまって申し訳なかった。だが今日のところはもう大丈夫だと思う。遅れてしまったが、改めて配給を始めてもらいたい」
スタッフは気を取り直したように頷いた。
するとコウが手を挙げた。
「すみません」
「どうした?」
「今日来たあの団体、もう来ないんですか?」
コウの目元が険しい。
すみれが危険な目にあった事にまだ憤慨しているようだ。
貝崎は少し逡巡した。
「それは・・・・わからないな。ただ、今から警察と話をするが、あの団体が騒ぎを起こさないようにして欲しいと言ってみるつもりだ」
「でも、たぶんあのRPっていう団体はまた来ますよ?これから毎回あんな感じで危険な事が起こるなら、配給は止めておいた方がいいんじゃないですか?」
コウはさらに言い募る。
貝崎が直接悪い訳ではないと分かっていても、すみれが怪我をしたことがあまりに衝撃的で、思わずきつい口調になってしまう。
「確かにあの団体が来ないという保証はない。だが配給だって止めるわけにはいけないんだ」
貝崎の方は言い含めるような言い方をした。
「ですけど今日のような事があって、本当にケガ人が出たらどうするんですか?」
コウはまだしゃがんでいるすみれを心配そうに見る。
「それは…」
貝崎は珍しく躊躇うような表情を浮かべた。
「ケガ人が出てからでは遅いと思います。現にすみれはこうやって足を怪我しました」
すみれは慌てて言った。
「コウ、私は大丈夫だから」
彼女はさっきからコウが貝崎に対して責めるような言い方をするのにハラハラしていた。
コウは首を振った。
「今日は大丈夫だったかもしれないけど、次はもっと危険な目に遭うかもしれないよ」
「大丈夫よ、遠くに逃げるから」
「そういう問題じゃないよ」
コウはそう言うと、きっぱりとした顔で、
「少なくともあの団体がもう来ないって分かるまで配給は止めるべきだと思います」
と言い切った。
「だっておかしくありませんか?いくらあのRPって団体が言っている事に腹を立てたとしても、揉み合うくらいならともかく、石を投げたりするのは危険じゃないですか。
そういうお年寄りがいる限り、何度でも同じ事が起こるし、もっと危険にもなりかねません。
今日の有様を見てたら、それこそあの団体が言うように過激な行動をする老人だと思われても仕方ありませんよ?
残念ですが、あの人達が言っていることも正しいような気がします」
「コウ!何を言ってるの!」
すみれが叫んだ。
コウが自分の心配をして抗議してくれているので口を挟みづらかったが、今彼が言い放ったのはすでに老人達への不満だ。
コウがまるでRP側に立っているように思えてすみれは大きな声を上げずにはいられなかった。
貝崎が怒り出すのではないかと思ってその顔色を窺う。
しかし貝崎は怒りの表情を微塵も見せず、
「確かに君の言う通りな所もあるだろう。だが、ここには配給を当てにして生きている者もいるんだ。配給が途絶えさせる事は出来ない」
と静かな口調で言った。
その表情は固かったが、譲れないという意志が現れていた。
「では僕達は配給のお手伝いは出来ません」
「コウ!」
すみれはまた叫んだ。
「勝手に決めないで。私は配給のボランティア続けるわ」
「でも危険じゃないか、今日だって怪我をしてる。そこまでして続ける必要ある?」
「いいの、私が続けたいと思ってるんだから」
「それで大怪我したらどうするの?」
「コウ、私は続けたいの!」
二人が言い争いをしていると、貝崎が口を挟んだ。
「配給を続けるか続けないかは二人で話し合って決めてくれ。だが、話したとおりここには配給を続けないと困る人が大勢いる。それこそ今日明日食べるものがない者だっているんだ。だから俺たちに配給を中止する、という選択肢は無いんだ」
「それはわかりました。ただ僕はああいう争いが起きるなら、危険を冒してまで配給をする必要はないんじゃないかと言わせてもらっただけです」
「それはそうだろう。だからこの先配給の手伝いを続けるか続けないかは自身の判断で決めて欲しい。あのRPってやつらが来るかもしれないからな。また今日のような騒ぎが起こらないとは言えない」
「そうします」
コウが答える。
「で、どうする?こんなことになっちまったんだ、今日の配給のボランティアは止めとくかい?」
「やります」
すみれが答える。
コウが困った顔をする。
「すみれ・・・・その痛そうな足じゃ無理だよ」
貝崎が見かねて、
「君らは話がまとまらないようだ。俺たちは今日の配給を続けるから、もし手伝ってくれるようなら来てくれ。今日は本当に申し訳なかった」
そう言って頭を下げると、他のスタッフを促しその場を去っていった。
すみれとコウの二人だけがその場に残った。
しばらく沈黙が続く。
先にコウが口を開いた。
「すみれ、前からちょっと思ってたけど、どうしてそんなにこのボランティアにこだわるの?」