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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

南方からの生還者

作者: オガ



その日は元夫(もとお)の声で目が覚めた。

「お父さん早く起きて、今日はデパートの屋上遊園地に行くんでしょ!

 ねぇお父さん?」

 自分の腹の方を見ると元夫が俺に乗っかって跳ねていた。

 「ねぇお父さん、はやくはやく!」

 正直もう少し寝ていたかったが、元夫のこの声を聞いたら二度寝する訳にもいかない。

「分かったから、お父さんの上から退いてくれ」

 返事を聞くと元夫は弾けるような笑顔を見せながら、俺の上から飛び降り居間へ走っていった。

「お母さーん、お父さん起きたよー」


 居間へ行くと妻の幸恵が朝ご飯を並べていた、献立は白米と味噌汁あと昨日の晩飯の残りの金平牛蒡だ。

「あら、おはようございます。

 今朝のご飯はデパートに行くということでしたので少し少なめにしておきました」

 幸恵はとても良くできた妻だと思う、しっかりと夫の三歩後ろに居ながら芯がしっかりとしており、器量もよし。

 だが自分個人としての欲が少くたまに我慢し過ぎてないか心配になる。

「ありがとう、しかしいいのか?

 俺と元夫だけでデパートに行ってきて」

「はい、私は私で用事が有るので」

「そうか、それならいいんだが…」

 すると玄関から元夫の声が聞こえてきた。

「お父さーん、まだー?僕待ちきれないよ」

「おう、ちょっと待っててくれ」

 俺はすぐにご飯と味噌汁で猫まんまを作り口に掻き込み玄関に急いだ。

「いってらしゃいませ」

「ああ、行ってくる」

「行ってきまーす」



 街に出ると日曜だからか心做しか賑やかだった。

「お父さん見て見てちんどん屋さん!」

「そうだな、最近はどんどんと街が活気に満ちているな、()()()()()()()()()とはよく言ったもんだよ」

 実際にその通りで俺が帰ってきた時の東京は瓦礫やトタンのバラックしか無かったが、最近は見違えるほどに開発が進んでいる。

「元夫は遊園地で何に乗りたいんだ?」

「僕はね、観覧車に乗りたい!!」

 しかしながら俺にもこんなにも可愛い息子が出来るとは。



 遊園地に着くと人で溢れかえっていた。

「お父さん見てみて、観覧車!」

 そう言うと元夫は走って向った。

「おーい、走ると危ないぞ」

「大丈夫、僕小学校でも一番足が早いんだよ」

と言って走りながら俺に振り返ったからなのか顔面からすっ転んでしまった。

「おい、大丈夫か?」

 俺が元夫の元に駆け寄って覗き込むと膝に擦り傷をつけ、顔にも土が付いていた。

「僕ねもうね、お兄さんだから転んでもね、泣かないんだよ!」

 と元夫は唇を噛み締めながら土だらけの顔をくしゃくしゃにしながら涙を堪えていた。

「おー偉い偉い、流石男の子だ、偉いぞ流石お父さんの息子だ。

 ほら、観覧車に乗るんだろ行って来い」

「うん!!」

 すると元夫は今さっきころんだことを忘れたのかは知らないが再び走って観覧車に向かった。


 その後元夫と一緒に遊園地で遊んでいると昼になっていた。

 そろそろ腹も減ってきたし、何処か適当な飯屋にでもよるか。

「元夫、お腹空いてないか?」

「すいてる!」

「よし、じゃあ何処か食べに行こうか。

 何が食べたい、ビフテキかそれともカレーか?」

 すると元夫は少しだけ考えた素振りを見せると

「じゃあ、僕お寿司食べたい!

 普段あんましお父さんお寿司食べないから、食べに行きたい!」

 確かに俺は生物を食べられないから寿司を普段あまり食べいていない、だが今日くらいは元夫に付き合ってやるか。

「じゃあ寿司屋行くか!」

「いいの?やった!」



 その後デパートを、出て手頃の寿司屋を探して近くにあった寿司屋に入った。

「ねぇ、お父さん見てみて!

 沢山の魚が泳いでる!」

 店に入ると元夫は生け簀の中で泳いでいる魚達にはしゃいでいた。

 今度は水族館にでも連れてってやるか。

 すると店の奥から板前が声をかけて来た。

「おう坊っちゃん、そん中から好きなのを選びな俺が捌いてやるから」

「えぇ、食べちゃうの?可愛そうだよ」

「でもな坊っちゃん、生きるってのは誰かの命を貰うって事だ、だから食べる前にはいただきますってちゃんとした言うんだぞ!」

「分かった!

 じゃあ僕はね、あの魚食べたい!」

 元夫は生け簀の中の鯵を指差して言った。

 その切替の速さに俺と板前は少しだけ驚いた、やはり子供は少しの事は気にしない生き物なのか?

「お、おうじゃあこいつか?

 捌くから少し待っててくれ」

 板前は少し驚きながらも流れるような手捌きで魚を捌いていった。

「はい、鯵の姿作りだよ、親父さんは何を食べるんだい?」

「済まないが俺は、生物が食べられなくてな、玉子をくれ。

 だがその分は元夫方食べてくれるよな!」

「うん、この魚美味しいね!」

 どうやら鯵に夢中で話を聞いていないらしい。

「はい、じゃあ玉子と坊っちゃんは何かたべるかい?」 

「僕マグロが食べたい!」

 どうやら俺の話はよく聞いて無くとも、注文はちゃんと出切るようだ。

 それを聞くと板前はものの一分しないうちに寿司を、作り上げた。

そして出された寿司を口に運ぶと

「あ!お父さんそれ僕の!」

その言葉を聞いた途端自分の食べたものが元夫が頼んだマグロだということに気がついた。

 すると胃液が上がってくるのが分かり、視界が白くなってきた…

 



 ――ふと気がつくと俺は船に乗っていた、だいぶ年季が入っている。

 隣には…

「おい…おい…佐伯聞いているのか?」

「すまんなんだ?」

「本当に聞いてなかったのか…」

 思い出した、こいつは九戸勇、俺と同じ連隊の仲間だ。

 良いやつなんだが、少しだけ血の気が多いところが何とかしてほしいが、軍隊とはそういうもんだろう。

「そんな感じだと直ぐにアメ公に殺れてしまうぞ!」

 そうだ俺達はアメ公から皇国を護るためにこれから南方の島へ向かっているのだ。

「アメ公なんか俺が、全員ぶっ殺してやる」

「だいぶ張り切っているな」

「あったりまえよ、初めての実戦だせ?

 血が滾るってもんよ」

 確かに俺達にとっては初めての実戦投入だ、しかしそれも込にしても些か張り切り過ぎのような気がする、空回りしないと良いが。

 すると上空からエンジン音が聞こえ始めた。

 そこには大規模な戦闘機の編隊が飛んでいた。

「おお、ありゃァすげぇな。

 あれは隼の編隊だな、あんなに居るんだったら俺等が戦う前にアイツ達が先にアメ公を殺っちまうかもな」

 確かにとても良い大規模で統率の取れた立派な編隊たが、あの隼達が向かっているのは前線とは反対方向だ、何故反対方向に…

 そんな事を考えていると突然船中に警報が鳴り響いた。

「五時の方向に的潜望鏡を発見セリ、敵は魚雷を持っていると思われる、総員直ちに…」

 その警報が終わる前に、俺達の船から火柱が上がった、自分からは結構離れていたのに熱がとても身近に感じるほどに、凄い火力だった。

 そっからは阿鼻地獄だった、爆発で飛んできた船の破片で身体半分が無くなる者、日を消すと言って火の方に向かったが、それと同時に積んでた弾薬に誘爆したようで、火を消しに行った奴は跡形も残らなかった…いや少しは残っていがそれがアイツのもんなのかそもそも人間の一部かすら判別不可能になっていた。

「総員海に飛び込め!そしてこの船と一緒に沈みたくないものは早く船から離れろ!」

 突然鳴り響いたその声はこの船の船長のものだった、内容を聞くかぎりこの船は沈むのか、しかしもし一緒に沈まなくともこの海のど真ん中で生き残れるのか?

「おい佐伯!何呆けているんださっさと降りるぞ!」

 そう言うと勇は俺の腕を引っ張りながら、海に飛び込んだ。

 するとそれを見た人達がどんどんと海に飛び込み始めた。

「急げ船が沈む時には渦ができるそれに飲まれると溺れ死ぬぞ」

 もう既に船長は船外へ逃れているようだ、なんとまぁ仕事が早いことだ…


 ――その後俺達が乗っていた船は船尾から海に沈んでいき三十分後には大きな渦を生み出しながら海へ消えていった。

 だが海に漂っている俺達は鮫にとっていい餌に見えたんだろう、弱っている物から段々と食われていった。

「フカだ逃げろ!」

 海に漂っている者の中にはどうにかして鮫から逃げようとしているものがいたが、悪戯に体力を使うこととなり最後には沈んでいった。

 鮫というものは怖いもんで俺達の周りを回っているときは黒い目をしている、まるで光がねぇ。

 そして回るのを辞めたと思ったら下から食いに来るんだ、しかも食べる直前になると白目を剥く、そん時の俺からしたら、米軍なんかよりよっぽど怖かった。

 そのまま鮫の恐怖に怯えていると、船が沈む時に信号を送っていたらしく、友軍の船が来て俺達を引っ張り上げてくれた。

 しかし無事に船にたどり着いた人数は元々船に乗っていた、人数の十分の一だそうた。


 その後数日したら地平線上に久し振りに、水面以外の物が見えて来た。

「おい、見てみろ島だ、3週間ぶりに地に足がつけるぞ!」

 その言葉を聞くと船中にか、船首に人がワラワラと集まりだした。

 その後陸に着くと、ささやかな歓迎会が行われた、歓迎会と言っても元々この島にいた駐屯兵の人達がココナッツやパインをくれただけだったが、長い間海の上にいた俺達にとっては水菓子は至高とも言える物だった。

「おい、佐伯も食ってみろよ、すげー甘いぞ!」

 勇は両手に水菓子を持ちながらすごい勢いで食べていた。

 翌日早速作業に入った、俺の役割は鶴嘴で防空壕を作ることだ、だがこの時になってから防空壕を、掘っていて間に合うのか?

 それにしても、昨日の果物美味かったな、また食いてえなぁ。

 そんな事を思いながら掘っていると急に空襲警報が鳴り響いた。

「佐伯ぼさっとすんな、さっさと逃げるぞ!」

 すると勇が大急ぎで駆けて来た。

「え?でもまだ防空壕できてないよ?」

「んなもんどうでもいいから、さっさと茂みに隠れろ!」

 そう言うと、勇は俺の服を掴んで無理やり茂みに引きずり込んだ。

 その瞬間さっきまでは俺がいた所に爆弾が落ちて来た、多少は離れているはずなのに、熱で顔がヒリヒリした。

 その後さらに空爆が過酷になっていき、俺と勇は茂みで縮こまっているしかなかった、途中横にあった小屋に爆弾が直撃したときは心だと思ったが、何とか俺と勇は生き延びた。


「おお、佐伯大丈夫だったか?」

 そう言って俺の方に向いてきた勇の右耳からは血が流れていた。

「お、おい勇、耳…」

 俺がそう言うと勇は自分の耳を触った。

「うわ、まじか…

 確かにさっきから音が少しばかし遠いと思ってたんだ。

 鼓膜やられたか…

 おいおい、そんな顔すんなって、俺は大丈夫だ!」

 いつの間にか、俺の顔に不安の表情が浮かんてきたらしい。


 その後被害の調査をしたところ、人的被害は少ないが、糧食や銃、弾薬の類が大きく被害を浴びたそうで、その日から、目に見て配給が貧相になっていった。

 だが、敵は空腹より分かりやすく、着実に近づいて来ており、ここの所空襲が激しくなってきており、アメ公の上陸が近いことは明白だった。



 それから数日が立つ頃には島から見える水平線の全てが敵の軍艦やら輸送艦で埋め尽くされていた。

 すると横にいた勇は絶望した顔をしていた、そこにはこの島に来る前にあった、好戦的な態度は全く見えなかった。

「なんだありゃ…

 俺らはあんな奴らと戦争していたのか?

 そりゃ勝てねぇよ…」 

 近くに上官もおり聴こえている筈だったが、何も行ってこなかった…

 それだけこの空間では誰も勝てるなんて思っていなかった…


 それからは、毎日のように敵艦から鉄の雨が降ってくるばかりだった。

 もうその頃になると本部からの指令も届かずただ耐えているだけだった、そのため俺等は四六時中敵の砲弾の爆発音やらを聞いて1日中を終える、そんな生活になっていった。

 終いには砲弾が飛んでくる音でどんな砲弾がわかるとようになってきた。


 だが、そんな能天気なことを考えていられる時間は少なくなっていった。

 俺と勇が、潜んでいた壕近くに砲弾が着弾し、その破片が俺の左肩に刺さってしまったのだ。

「おい、佐伯!大丈夫か?

 肩貸せ」

 そうして壕に戻った。

「大丈夫だ、すぐに治る。

 頑張れよ!」

 たが、数日後には傷口はから蛆が湧き出てきた、それに数日前から食料が無くそれに傷口は膿んできた。


 するとある日急に島への攻撃がピタリと止んだ、俺に砲弾の破片が当たってから俺等は外の様子を見る事なんてせずに、壕の奥に引き籠もっていた、そのため久しぶりに見た外の景色に頭を打たれた様な衝撃を受けた。

 青々繁っていた草木は全て無くなり、本部かあった高地は形が変わっていた。

 そして生物の気配も無くなっていた。

 それを見た、勇は絶望した顔をしていた。

「おーい誰か居ないか?

 生き残っているやつはいないのか?

 返事をしてくれ!」

 だが、返事は全く聞こえなかった、それは敵も同じだった。

 だが俺等は生き残ったと喜ぶことは出来なかった、食料がなかったためだ。

 このままで俺等もすぐ死ぬのは明白だった。

 そのため、俺等は島を散策し食料を探し回った。

 だが、見つかったのは黒焦げになった、蜥蜴や蛇の死体しか見つからずどんどん痩せこけていった、終いには俺は、自分の傷口から出ている蛆を一匹一匹プチッ、プチッと食べておりもはやどちらが、どちらの命を支えているか分からなかった。 


 そしてそれから数日が経つと俺と勇は寝ているのか起きているのか分からなかった。

 するとある日に俺と勇はフラフラと島を食料を探して歩いていると、生き残りの人がいた。

 すると勇は虚ろ虚ろとした感じで…

「猿だ、猿がいる!

 おい、佐伯猿がいる、まだこの島には食べるものがあったんだ!」

「勇?あれはひとだぞ?

 しっかりしろ、おい」

 すると勇は俺を振り払って生き残りに向かいだそうとした。

「おい勇待てよ!」

 俺は、そう言い勇の肩を掴んだら勇はバランスを崩してしまった、そりゃあそうだ、2人とも何日もろくに飯を食っていなかったんだから。

 その後俺は自分が、勇を殺した事に衝撃を受けずっと死体の横で座っていた。

 すると死体はどんどん腐っていき俺の鼻にはニクの香りが漂ってきた。

 すると再び生き残りが俺の視界に入ってきた。


 すると俺の視界に猿が入ってきた、そして俺は死にものぐるいでその猿を追いかけ捕まえることに成功した。

 そして、俺は久しぶりに食料にありつくことが出来た。



「お父さん、起きて!」

 目を覚ますと元夫が俺を揺すっていた。

 俺は病院の病室に寝ていた。

 そうか今見たのは、あん時の夢だな…

「あ!お父さん起きた!

 お母さん、お父さんが起きたよ!」

 あれから俺は敵軍に捕まり日本を戻ってくることが出来た。

 だがあの猿を食わなかったら、それまで生き延びるのは叶わなかっただろう。

 いやあれは猿ではなく…

 



 ここまで呼んでいただきありがとうございました、今回初めての短編としての書かせていただきました。

 さて、ここまで読んだ人の多くの人はこの小説が太平洋戦争の南洋諸島を舞台にしたものだと分かりながら読んでいだいたと思います。

 この戦争は日本最後の戦争でアメリカ含む連合国に負けた戦いです、これ以降日本は戦争行為そのものを放棄しました。

 しかしながら最近になって東欧や中東などで戦争や紛争が起き始めています。

 元来戦争は政治の一環であり、相手の国が自国の要求を飲まなかった場合にとる手段として存在しました、しかしながら第一次世界大戦や第二次世界大戦は政治の手段としての戦争ではなく、戦争に勝つための政治になったと思います。

 それにしても伴い戦争で死ぬ人も増えました、そのための近年では平和を望む活動が増えています。


 少しばかし話がそれましたが、私が何故この小説を書いたかというと、今こうして呼んでいただいている人の戦争への意見やらを知りたいと思ったからです。

 実際この様な物を読んでいる、読もうとした人は、少なからず世界情勢や歴史に興味がある人だと思います。

 

 では最後に恐縮ながら私から一つ質問をさせていただきます。


 とある国ではここ最近景気が悪くは自殺者も多いです。

 その国では以前戦争に負けて以降盲目的な戦争批判が強く根付いています。

 するとある時、その国の国境沿いで貴重な資源が見つかりました、その資源を採るために隣国と戦争をしたら勿論死人は出ます。

 しかしその資源を取ったら経済が上向きになり自殺者も減りますその減り具合は戦死者を大きく上回ります。


 この場合貴方はこの戦争に賛成ですか反対ですか?

 出来ればそう思った理由も教えて欲しいです。

 



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