END 王の処刑人、アラン・フォン・ポンサール
最終話です! ちょっと長めです!
――バキィィィン!!
せっかくオネットを堪能していたのに、ドアを粉砕して将軍が突撃してきた。
俺ははだけたオネットの肌を見せないよう、咄嗟にシーツを彼女にかける。
「婚前交渉はまだ早いぞ!」
「いつならいいんですか」
「せめて婚約してからにしろ!!」
将軍は剣を俺に突きつけてきた。
「アラン、表に出ろ。煩悩は叩きのめしてやる!」
「いいですけど。俺の方が強いですよ」
「くっ……かわいくない小僧だっ!」
「俺が勝ったら、オネットの結婚を認めて、宮廷に来てください」
中途半端にされた腹いせに俺は将軍を叩きのめし、無事にオネットとの結婚を確約できた。
まずは婚約ということで、俺はすぐさまヴァランタン領にある聖堂で婚約式を挙げた。
父には事後報告でいいだろう。
いちおう、手紙は出しておいた。
その日はオネットの実家で、婚約祝いをしてもらった。
「オネットまで結婚するのか……」
「あなた、結婚式はまだ先ですよ」
「結婚するのか……」
将軍は目頭を熱くして、いつも以上にワインを飲んでいた。
「アラン様。私も宮廷に行きたいです」
その晩、オネットは俺を見上げていってきた。
「もう一人で待っているのは、嫌です。連れてってください」
真剣な目で言われて、まいった。
「オネット、言った通り、俺は死にかける。そういう仕事に就くんだ」
「だったら、なおさらっ!」
オネットは目を開いて、声を張る。
「生きて戻ってくるように、私がアラン様のお守りになります」
「オネット」
「アラン様、言いましたよね? 私が支えだったって」
オネットは俺の頬に手を置いた。体温を確かめるように顔を近づける。
「私のために、死なないでください」
強烈な口説き文句だった。
まいったな。
「……わかったよ。俺はオネットがいないと無茶するから、一緒に居て、見張ってて」
そう言うと、オネットは頬を紅潮させて、ほほ笑んでくれた。
――あ、この顔。
ずっと見たかった、笑顔だ。
宝物をようやく見れて、俺は少しだけ泣きそうになった。
オネットと共に宮廷に戻った俺は、近衛隊の編成に奔走した。
ブリュノとリリアン、並びに彼らを支援した議員たちによるポンサール家への冤罪は政府から公表された。
それにより、王宮前には市民のデモ隊が詰め寄ってきた。
妹が訪問していた教会からも抗議の声が上がっている。
「なぜ、今まで冤罪を隠していた! セリア様はどこにいらっしゃるのだ?!」
王家への批判の声と、ブリュノの所在を求める声は大きい。
正義の王子と言われたブリュノは、婚約を冤罪で断罪した、ただの浮気者とののしられていた。
彼の横暴なふるまいが、どこからかもれ、市民の大衆新聞に連日のように書かれている。
怒りの声は大きいが、イノシシみたいな将軍が目を光らせているため、大きな暴動は起こっていなかった。
シャルル陛下は市民のデモをあえて止めなかった。
「活動を抑制したら、不満がたまる一方だろう。ただし、活動に隠れて略奪行為をする者が出たら、すぐに逮捕しろ。そこに遠慮はいらない」
宮廷前は騒がしく、落ち着かない状態が続いた。
そんな中、マーガレット様が大きなお腹を抱えて、バルコニーから顔を出すと言い出した。
陣痛がいつ始まってもおかしくない状況だったが、マーガレット様はあえて民の前に出たいと言った。
「沈黙しているだけでは、市民は納得しないでしょう。わたくしはサイユ王妃です」
「わかったよ。ふたりで市民の前にでよう」
俺たちが厳重警戒する中、陛下と妃殿下はバルコニーから姿を現した。
陛下はマーガレット様を気づかい、エスコートしている。
ふたりが顔を見せると、騒がしい王宮前は静まり返った。
お二人は市民を見つめ、何も言うことなく、心を込めて礼をした。
その軽やかなしぐさは息をのむほど美しい。
「国王陛下、万歳! 皇后陛下、万歳!」
誰かが叫んだ。
それに呼応するように、市民の間から「万歳!」の声があがる。
その三日後。
マーガレット様は元気な男子を産んだ。
国中が紫色の花弁で埋め尽くされる。
祝砲があがり、国旗を振る市民で王宮前はあふれかえった。
不満の声は聞こえない。
「おめでとうございます」
俺も今度は素直に、王子の誕生を喜べていた。
忙しくしている中、ポンサール領地の紙を使いたいとデュランから電報が届いた。
どうやら妹と婚約したらしい。
俺が婚約した時、以上に、父は涙ぐんで喜んでいて、ルベル帝国の国花が散らされた紙を注文していた。
代金はこちら持ちだそうだ。
大量の紙は船でルベル帝国まで運ばれた。
「いつか私も、セリア様にお会いしたいです」
オネットがそうつぶやく。
「案外、早く会えるかもしれない。今度、ルベル帝国に研修に行けるように陛下と調整中だ」
オネットが、嬉しそうに大きく目を開く。
「保安隊を作るにあたって、帝国の知恵を借りたい。デュランの元にリアもいるから、きっと会えるよ」
「そうですか……セリア様の大好きだったお菓子を持って行きましょう。焼き菓子だったら、日持ちしますし」
「うん、そうだね。仰々しいものじゃないから、ポンサール領の蒸気船で行けばいい。その時、リアが贈った蒸気船で行こう。オリバー船長に頼むよ」
「楽しみです」
オネットがほほ笑んで言った。
黒の近衛服を着た彼女も可愛い。
オネットは今、俺の秘書役をしてくれている。
事務処理を無表情で、正確に処理してくれるのでとても助かっていた。
「オネット、今、ふたりっきりだね」
「え? ええ、そうですね」
「じゃあさ、」
少しだけ休憩したいとねだってみる。
オネットは周りを見た後、俺に小声でささやいた。
「キャンディーでも買ってきましょうか」
「……いや、キスしたいって意味だよ」
もう婚約したというのに、オネットの俺への対応は主従を越えていない。
それがちょっと……
いや、かなり不満だ。
だから、強引な手段を取るのも仕方ないと思う。
オネットの腕をとって、その唇を奪った時。
――バアアアアン!
と、扉が開いた。
オネットは仰天して、俺から離れる。
「やあやあ、お楽しみのところ盛大に邪魔するよ~♪ へへっ★」
「キリル様、坊ちゃんは思春期をこじらせた上に、禁欲生活が長かったのです。茶化すのはやめましょう。おかわいそうです」
「いやいやいやっ、ダミアンさんっ。その言い方、結構、ひどいですっ アラン閣下、完全に怒ってますよ! ほらっ、目が激おこです!」
漆黒の制服を着たキール、ダミアン、マルクが騒ぎながら部屋に入ってきた。
胸ポケットには、白い糸で刺繍された剣の模様が縫われていた。
みな、近衛の断罪隊だ。
王の剣 通称、ブラック・ソード。
俺が集めたメンバーで、保安隊のような組織を作った。
制服が黒なのは「どんな色にも染まらないよん♪」というキールの一言で決まったものだ。
「ああ、みなさん。お揃いですね。ちょうどよかった」
尤も黒が似合う男、ミュール氏も合流する。
「ムッシュ、陛下から封印状が届いていますよ」
「ああ、ありがとう」
ミュール氏から封印状を受け取り、中を確認する。
書かれた内容に満足して、笑みがでた。
「ムッシュ、元法務大臣イルス=サヴァル・ラ・ミーズの刑罰はなんと?」
「銃器を密輸入し、外国からの傭兵を雇い、王宮に内乱を起こす準備をしていたんだ。内乱罪の首謀者は、たとえ未遂でも無期限禁固刑か、死刑だ。どちらにするかは、俺が判断してよいとのことだ」
「つまり、抵抗されたら斬ってもよいと」
「そうだな」
「ムッシュ。元法務大臣とは因縁があります。私がお供します」
「ふふふのふ~♪ 闇討ちだね! ジュスティアン★」
「キール、その通りです」
「盛・り・上・が・っ・て・き・た・ねっ!」
「キール、それはうざいです」
「ダミアン、容疑者確保用の馬車の御者を頼んでいいか?」
「かしこまりました」
「マルクは別の近衛と共に現場の押収を頼む」
「はい! 閣下!」
俺は立ち上がった。オネットとキールが見送ってくれる。
「アラン様、いってらっしゃいませ」
「うん。帰ったら、また休憩させて」
「いよっ! 青春だね★ あ! 目くらましの新作ばくだんが出来たんだよ! 持っていってね★」
俺はキールから、袋を受け取った。
ミュール氏と共に先陣をきる。
陛下に更迭された恨みをためこんで、モールドールにひっついていた者たちと策謀したミーズは、法を逸脱していた。元、大臣が聞いて飽きれる。
やつらは夜な夜な集まって、密談していていた。
怪しい動きはダミアンが掴んたものだ。
彼らのアジトは、王都から少し離れたところにある古城。
老朽化が進んで、今は誰も寄り付いていない場所だ。
中の様子を伺っていると、ミュール氏が話しかけてきた。
「ムッシュの髪は、月明りの下でも太陽のように輝いていますね」
「そうか? ミュール氏の髪は黒いから、真っ黒だな。夜に活動するなら、あなたの方がいい」
「光栄なお言葉です。あ、彼らが来ましたよ。大砲を買ったという報告は本当ですね」
「ああ、周辺で使われると厄介だ。最速で片づける」
「いってらっしゃいませ」
うやうやしく礼をしたミュール氏に見送られ、走り出す。
ミュール氏は戦闘剣術はできません、といって戦端を開けられない。
だから、俺が行く――
キールの作った目くらましを投げつけた。
「何者っ?! ぐはっ!」
「侵入者だ! がっ!」
煙の中を駆け抜け、まずは外にいたやつを潰す。
「どうしたっ!? あ、あああっ」
のこのこ出てきた犯罪者に剣の切っ先を向けた。
「王の処刑人、アラン・フォン・ポンサールだ。元法務大臣イルス=サヴァル・ラ・ミーズ。陛下から封印状が出ている」
「ふ、ふふふっ、封印状……だとっ」
「内乱の首謀者であるおまえは、極刑だ」
「ひっ……!」
俺の横を黒い風が駆け抜けた。
「同じく処刑人のジュスティアン・ミュールです。ごきげんよう」
「しょっ、しょしょしょしょっ、しょけい、にんっ」
「あなたが俸給の支払いをしてくれなかったおかげで、私は辛酸をなめました。ですから、なんの罪悪感も抱かずに、私はあなたの首に刃をいれられます」
ミュール氏は犯罪者に向かって、優雅なお辞儀をした。
「その節は、誠にありがとうございました」
「ああああっ!!」
叫んでしりもちをつく犯罪者に近づき重い剣をむけた。
正義の文字が、月光に反射してきらめく。
俺は犯罪者に極上の冷笑をおみまいした。
「自らの足でセタンジル刑務所に行くか、俺たちに処断されるか今すぐ決めろ――!」
――外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール END
保安隊の前身、断罪隊を作って、おしまいです。
劣勢展開が多い中、お読みくださった読者さまに感謝、申し上げます。おわりました!!!
最後にお願いです。
まだの方は、少ない★でもいいので、評価をお願います。
今後の執筆の参考にさせて頂きます。
りすこ