表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍2巻発売中】あなたのしたことは結婚詐欺ですよ(WEB版)  作者: りすこ
外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール
52/61

22 妻になってほしい

 オネットの実家があるヴァランタン領は、国境付近にある。

 岩場の露頭から崖を見下ろすような形で作られた要塞があり、侵入者を防いできた堅牢な城壁があった。


 将軍の辞任と共に人手に渡りそうになった城も、父が資金を出して所有者は変わっていない。


 俺は崖の下にある住居の城を訪ねる。

 早くオネットの顔が見たくて、手紙を出す暇をおしんで会いに来た。


 オネットと別れて一年以上、経っている。

 ようやく、迎えにこれた。


 そう思っていたのがよかったのか、オネットはすぐ見つかった。

 外で洗濯物を干していたのだ。

 前よりも、やせたみたいだ。

 線の細くなった彼女を見て、心が締め付けられた。


「オネット、」


 呼びかけると、無性に泣けてきた。

 震えそうになる口の端を、かっこつけて持ち上げる。


「オネット……」


 彼女は俺に気づいて、持っていた洗濯かごを手から落とした。

 信じられないと言わんばかりに、大きく目を開いている。


「迎えに来たよ」


 そう言って、彼女の元に駆け寄った。

 呆然と立ち尽くす彼女をたまらず抱きしめる。

 ぴくっと小さく震えた彼女。

 腕の中に彼女がいて、泣きそうだ。


「……遅くなって、ごめん」


 また謝ってしまった。

 だが、それを言えるのさえ、嬉しい。


「会いたかった……」


 すんと鼻を鳴らして、彼女のぬくもりを確かめる。

 しばらくそうしていると、違和感をおぼえた。


 オネットが何も言わないのだ。


 おかしい。

 どうしたんだ?


 不思議に思って彼女を見ると、目を点にしたまま口を引き結んでいた。

 よくよく確かめると体が硬直している。


 おかしい。


「オネット……? どうした? 俺だ。アランだ」


 声をかけても、彼女は無反応だ。


 まさか……

 オネットは俺を忘れているのか……?


「オネット、俺だ! アランだ! アラン・フォン・ポンサール――った」


 オネットが不意に手を持ち上げ、俺の髪を掴んで引っ張った。

 ぐいぐい引っ張ってくる。


「アラン様……?」

「う、うん。そうだよっ……たたっ……」

「アラン……さまっ」

「うん。俺だよ? たたたっ……オネット、毛がむしり取られそうなんだがっ……」

「アランさまぁぁぁ」


 オネットが俺の髪を引っ張りながら、ポロポロと大粒の涙を瞳から流した。

 赤子みたいに泣きじゃくっている。可愛い。

 じゃなくて。


「ごめん、オネット。遅くなったっ ててっ」

「ううっ。アランさまあ、ごぶじだったんですねえ」

「う、うん。俺は無事だ。元気だ。ぐっ……オネット、それ以上、引っ張ったら、ハゲるっ」

「ほんとうによかったですぅぅぅ」


 ブチンと毛が抜けた時、オネットはうわーんと泣き出してしまった。

 まいった。本当に。


「心配かけて、ごめん……」


 そんな彼女を見て、俺は平謝りするしかできなかった。



 オネットが泣き止むのを待って、今までのことを話した。

 オネットは途中まで悲痛な顔をしていたが、俺と妹の冤罪が晴れたと聞いて、ほっと息を吐いた。


「アラン様まで投獄されるなんて、本当にシャルル陛下は一体、なにをしていたのでしょう……」

「あの方はあの方で、色々あったんだ。俺はまた陛下に仕えるよ」

「……アラン様は優しすぎますっ」


 ぐずぐずと鼻を鳴らしながら言われてしまった。可愛い。

 じゃなくて。


「大丈夫だ。死にかけたが生きている」

「死にかけるのは、おやめくださいっ」


 鼻を真っ赤にしたオネットの手を握った。


「それはたぶん、無理だ。これからも死にかけるよ。でも、生きて帰ってくるから、だから」


 彼女の手の甲にくちびるを寄せる。

 手の甲にキスを落として求婚した。


「俺の妻になってくれないか?」


 そう言うと、オネットは硬直し、またも目を点にした。

 喜んでいる顔ではなく、戸惑っているようだ。

 眉を寄せて俺をじっと見ている。


「えっ……どうしてですか?」


 どうしてって……なんでだ?

 ダミアン曰く、俺はバレバレじゃなかったのか?

 オネットにもバレているんだろう?


 俺は戸惑いながらも口を動かす。


「それは、……オネットが好きだから……」


 声にだすと、無性に恥ずかしい。

 顔が熱くなる。

 伝わったと思ったのに、オネットは目を据わらせた。


「アラン様。私に対して優しさはいりません」


 ――は?


 オネットは切なく目を細めて、俺の手から逃れる。


「アラン様は誠実でお優しい方です。私が妻にしてほしいと言ったから、律儀に叶えようとしてくださっているのですよね?」


 なぜ、そうなる。


「いや、オネット。俺は本気できみが好きだ」

「無理しなくていいんです。わかっていますから」


 また泣きそうになるオネットに慌てて言う。


「俺は前からオネットが好きだった! 結婚したいのも本心だ!」


 そう言ってみても、オネットはちっとも信じていないようで「いいんですよ」と、身を引くようなことを言う。


 ――どうしてだ。


 ずっと前から好きで。

 いつ好きになったかも覚えていないのに。

 投獄されたときだって、オネットが支えだったのに。


 ――どうして、伝わらない。


 あまりの事態に俺の理性は、ぷつんと切れた。



 すっと離れようとするオネットの腕をとり、強引に引き寄せる。

 片手で彼女を胸の中に閉じ込め、首元をくつろげた。


「今からオネットを抱く。そうしたら、信じてくれるか?」

「えっ……」


 ぼかんとするオネットを軽々と横抱きにする。

 彼女は、俺にしがみついてきた。

 アップにされていたおでこが俺の顔に近くなり、唇をよせた。

 びくんと、彼女が小さく震える。

 劣情がぞくりと背中を走り、口の端が弧をかきだす。


「オネットに抱いてと言われて、俺がどれほど我慢したのか、ちっとも気づいていなかったんだな」

「え? え? え? あ、……え? アラン、さ、ま?」

「――今から抱く。そして、オネットと結婚する」

「えっ……!」


 大股で歩き出すと、戸惑うような小さな悲鳴がオネットから聞こえた。

 無視して、ずんずん突き進む。

 オネットの背中を片手で支え、もう片方の手で家の扉を開ける。


 バアン!


 勢いよく開けると、木製の扉がきぃとないた。


「あら?」


 中にはヴァランタン夫人と将軍がいた。


「ぶっっ」


 将軍は俺たちの姿を見て、飲んでいたワインを噴き出した。

 俺はオネットを運んだまま、ふたりに挨拶する。


「ご無沙汰しております。ヴァランタン夫人」

「まあまあ、ようこそ。こんな辺境へ。道中大変でしたでしょう」

「そんなことはありません。ここの土地も活気があるようになりましたね」

「ええ、すべてポンサール公爵閣下のおかげですわ」


 将軍がわなわなと震えながら声をだす。


「ア、アラン、おまえっ……オネットを抱きかかえて何をしている!」

「ヴァランタン将軍、お久しぶりです。俺は近衛隊長になりました。今、人員が不足していますので、将軍には王宮には復帰してもらいます。宮廷へお越しください」

「まあ」

「あと、オネットと結婚します。今後とも末永く宜しくお願いします、お義父さま、お義母さま」

「まあ、まあ」

「ちょっと待て、アラン!」

「なんですか?」

「前者も後者も唐突過ぎて、俺は付いていけんっ!」


 どうしてだ?


「ああ、役職のことですか? 将軍には場外警備のトップをお願いします。警備兵はマルクと共に鍛えてありますのでご安心ください。 今後、王家の批判が集まって警備を手厚くしなくてはいけません。巨大イノシシのような将軍がいれば、それだけで魔除けになります」

「……そっちの説明をしろとは言っていない」


 将軍がわなわなと肩を震わせる。

 俺は眉をひそめた。


 何が通じていないんだ?


「前からオネットが好きでした。結婚を申し込みます」

「なっ……!」

「まあ、まあ、まあっ」

「オネットの部屋をお借りします」

「あらあら、どうぞ。二階の角部屋よ」

「お、おいっ!」


 慌てて俺たちを止めようとする将軍に首をひねる。


「将軍、イノシシって言ったのがご不満ですか?」

「猪突猛進しているのは、おまえだっ!!」


 意味が分からなかった。

 俺は将軍の声を無視して、見えた階段を昇る。


「今日はごちそうを作らなくちゃ」

「待て、おいっ! アラン!!」


 ふたりの声が聞こえたが、オネットの部屋へ突き進む。

 扉を開けると可愛い部屋が見えた。

 ベッドにオネットをおろして、覆いかぶさるように彼女を閉じ込めた。


「アランさま……ほんき……ですか?」


 やっと信じてくれたのか、オネットの顔が赤くなっていく。


「……本気だよ。俺はずっと、オネットが支えだったんだ……」


 声が震えた。

 すがるように彼女を見下ろすと、震えた手が俺の頬を撫でる。


「アラン様……」

「妻になってほしい。お願いだ、オネット……」

「っ……」


 オネットは顔を真っ赤にして、もごもごと口を動かす。

 可愛い。たまらない。


「あの……わ、私で……よろし、けれ――」

「――ごめん、オネット。返事は後で聞く」


 俺は彼女の唇を奪い、彼女の言葉を自分のものにした。


夜20時に更新して、完結します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\5月23日書籍2発売/
あなたのしたことは結婚詐欺ですよ2書影

画像クリックで公式サイトへ

△0円の試し読みがあります♪△

― 新着の感想 ―
[一言] 将軍…… たいせつなお嬢さんが…… 御愁傷様…… (といいつつ口が笑いの形にっ ああどうしてっ……ww) いやアランのことですから、さすがに父親の頭上で本番には及ばないと信じておきます! 上…
[良い点] オネットのわからず屋め! これはわからせが必要……って、ホントにわからせ展開!? (*/ω\*)キャー!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ