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【書籍2巻発売中】あなたのしたことは結婚詐欺ですよ(WEB版)  作者: りすこ
外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール
46/61

16 天使が女神になった

審議シーンは本編と被るためダイジェストにしてあります。

 モールドールたちは拘置所ではなく地下牢で沙汰を待つことになった。地下には拘置所とは別の獄吏がいる。

 今度こそ逃げ出さないようにという処置らしい。

 他に出ようとする者たちを捕らえ、俺は審問の日を迎えた。


 まだ容疑者の俺は形式として囚人服を着せられ、手錠を付けられた。

 重い枷だ。

 だが、外れると信じている。


 枢機卿に呼ばれ、審問室に入る。

 中にいたのは、陛下、妃殿下、シャルル王太子殿下、マーガレット様。

 そして、ブリュノとリリアン。

 審問を進める枢機卿だった。


 陛下は顔色が土気色で、余命が短いように思える。

 シャルル王太子殿下は俺を見て、苦し気に眉をよせている。

 目をそらされるかと思ったが、俺を見ていた。


 俺は陛下の前で膝をつかされる。

 沙汰が下るまで、容疑者は口を開いてはいけない。


「これより、マーガレット王太子妃殿下、殺害未遂の審問を執り行う」


 枢機卿が俺の罪状を述べていく。

 マーガレット様の殺害未遂犯にされたというのは、今更、苛立ちはしない。

 デュランならくつがえしてくれると信じているからだ。


「アラン・フォン・ポンサールの容疑について、ルベル帝国、保安隊から容疑を否認する資料が提出されました。アメリア・ウォーカー三等保安士が説明されます」


 枢機卿の説明に眉根を寄せる。


 アメリア・ウォーカー? 女性か?

 デュランではないのか?


 振り返って、入ってきた人物に目を見張る。


 目に飛び込んだのは、鮮やかな制服の(くれない)

 そして、俺と同じ髪。

 名前は違うが、見間違うはずない。


「……リア……?」


 規則を忘れて、思わず呟く。

 その人は、向日葵色の瞳を少し潤ませた。

 泣きそうな顔は、昔と変わらない。何一つ。


「大丈夫ですから」


 その言葉も変わらない。強がっているようにも見える。


 だが、昔とは違うのは、堂々とした態度だ。

 彼女は美しく背筋を伸ばし、陛下に向かって敬礼をする。

 そこに、ブリュノの罵声に怯え、震えていた昔の姿はなかった。


「セリア・フォン・ポンサール様の代理人として参りました。帝都保安隊のアメリア・ウォーカーです」


 そう彼女が言い切った時、場がシンと静まり返った。

 彼女の姿が涙でにじんでいく。

 下を向いた時、一粒の涙が頬をすべり落ちた。


 デュラン。あの、やろう。妹を鍛えたな。


 ――俺の天使が、女神になっちまったじゃねえか。


 多幸感に包まれながら、ひっそりと笑って、妹の名弁明を静かに聞いていた。



 審議は俺が願った通りに進んでいった。

 デュランは俺が集めた証拠を使ってくれたのだろう。

 屈辱で這いつくばった日々は、無駄ではなかった。

 そう思うような時間だ。


 妹は無実だ。

 父も、俺も、正しくあろうとしただけだ。

 そう思いながら、妹優勢で話が進んでいく。


 リリアンは地団駄を踏んでジタバタしていたが、妹は冷静だった。

 リリアンとの器の違いを見せつけるような状況に、ひっそりと得意げになる。


 どうだ。俺の妹はすごいだろ?

 その存在を惜しんで、後悔しろ。


 この国は、大きな宝を失ったんだ――


 そんな妹が俺と自身の弁明をし続けた後、ふと、声を震わせた。

 見上げてみると、目を赤くしている。

 今にも泣きそうな顔。でも、この顔は怒りに燃えているようにも見える。


 妹ははっと息をのむと、声を張った。


「セリア・フォン・ポンサール様、並びに、アラン様は無実です。ポンサール公爵一族は、国王陛下、並びに王族に対して、忠義を曲げるようなことは一切しておりません!」


 妹の声を聞いていたら、片方の目から涙が流れていた。

 妹に代弁させてしまったな。


「……ありがとう、リア」


 小さい声で、つぶやいて妹に感謝した。



 ***



 審議が終わる頃、愚かなリリアンは妹に対しても爆弾を使おうとした。

 だが、妹は彼女の行為を失笑した。

 結局、爆弾は爆破しなかった。

 起爆剤が抜かれていたのだ。

 それをリリアンは知らずに事を起こした。

 彼女は自白したようなものだ。


 妹とデュランに全て先回りされて、俺の出る幕はなかった。


 遅れてやってきたデュランは爽快な笑顔で、サイユに来てから初めて俺に会ったような顔をする。

 まったく、おまえは役者だよ。

 そして、デュランは俺と妹が再会できるように人払いまでしてくれた。

 ここまで完璧に進められると、デュラン、お前は最強だよ、と認めざるをえない。


 意気揚々と姿を消すデュランを見送り、妹の顔を見る。

 妹は戸惑って俺を見上げた。


「リア……」


 呼びかけると、視界が涙で歪んだ。また泣きそうだ。


「リア……なんだな……」


 妹は言葉もなく、こくこくと頷いた。

 そして俺に駆け寄ってくる。

 小さな体をめいいっぱい抱きしめる。

 その小さな体で、いくつもの傷に耐えて、俺を守ろうとしてくれた。

 泣くのをこらえるなんて、無理だ。


「にいさま、……ご無事で……なにより……です」


 鼻をすすりながら泣きじゃくる妹を強く抱きしめた。


「にいさまは、強いから……大丈夫だよ。リア、顔を見せておくれ」


 声を震わせながら、妹の顔を見る。

 あたたかい。生きている。


「……元気そうだね。……よかった」


 そう言うと、妹は天使のようにほほ笑んだ。


「はい……元気に暮らしています……」


 ああ、変わらないな。

 俺の妹は賢くて、天使のように優しい。


 ――だからこそ、俺は。


 天使が振り返らずに、自由に羽ばたけるようにしようと思った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ううっ! アラン視点でリアの活躍を見ると、ウルッてきちゃいます ( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)
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