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【書籍2巻発売中】あなたのしたことは結婚詐欺ですよ(WEB版)  作者: りすこ
外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール
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14 君が責任を感じる必要はない

「ダミアンが手紙を届けてくれたのか……」

「必死に頭を下げられた。いい従者だね」

「……ダミアンは?」

「保安隊が保護している。船の上で待っているよ。彼の存在が公になると、彼自身が危うくなるからね」

「……そうか」


 無性にほっとして、深く息を吐いた。


「君の手紙を見て、保安隊が出動できたよ」


 くすくす笑うデュランに、脱力する。


 彼の先導で、勾留所を進んでいくと、気絶して白目をむいた獄吏たちが倒れていた。

 横目で彼らを見ながら、嘆息する。


「……デュラン、おまえ」

「ああ、彼ら? どうにも話が通じないから尋問して、ついでに寝てもらったよ」


 あっけらかんと言われて、笑うしかない。


「変わらず、直進するんだな」

「そういうアランは変わったね。前の君なら、脱獄はしない」


 手に持っている鍵束を見ながら言われて、ぽいとそれを捨てた。


「理不尽が嫌になっただけだ」

「そう、いいことだね。ここの衛兵は無能ばかりだね。彼以外は――」


 デュランが前方を見ると、マルクが息を切らせながら走ってきた。


「デュラン保安監っ……早すぎで……す……」


 マルクが俺を見て、ひゅっと息をのみほす。


「あっ……あ、ああっ……アラン閣下!!」


 デュランを押しのけて駆け寄ってくるマルク。

 マルクは目を真っ赤にして泣きそうな顔をしていた。


「閣下じゃないだろ……」

「何、言ってんですか! 閣下は閣下です!! 俺は! 本気で! 心配して!!」


 泣き出したマルクに、俺はあいまいに笑う。


「心配をかけたな……」

「彼はいい部下だね。彼が君の場所を教えてくれたんだよ」

「……そうか……ありがとう、マルク」


 マルクはぶんぶんと首を横に振った。


 デュランが先頭をきって歩いていく。

 拘置所の外に出ると、衛兵たちが待ち構えていた。

 近衛隊長が前に出て、つばを飛ばしながらまくし立ててきた。


「デュラン保安監! 勝手なことをされては困ります! ここは帝国ではなく、サイユ王国ですぞ!」

「シャルル王太子殿下の許可は取った。勝手なことではないんだけど」

「ぐっ……アラン・フォン・ポンサール容疑者は、刑が執行されるまでここにいるように、われわれは命令を受けているのです……」


「刑の執行ね……それが毒殺か――」

「――なんの話、ぐぅっ!」


 デュランは近衛隊長の胸ぐらを掴んで引き寄せた。

 締め上げる勢いなのか、近衛隊長の顔が青くなる。


「保安隊の突入と同時に毒殺計画か。 証人もろとも始末しようとしたのか」

「ぐおぉぉぉっ! そ、れはっ……!」


 ドスのきいた声を響かせながら、デュランが近衛隊長を投げ飛ばす。


「これがサイユのやり方か、反吐がでるね」

「うぇっ……お、お待ちくださ、いっ……これには理由がっ……」

「理由?」

「……私は本当に命令されたのですっ……」

「誰に?」

「……それはっ……その」


 デュランがしりもちをついた近衛隊長の首を、左手でガッと掴んだ。


「吐け! くそ野郎はどこのどいつだ!」

「ぐ、ぐぐぐっ……! も、モールドール伯……がっ!」


 ――モールドールのやつかっ!


「クズはそいつか。刑の執行命令書は? 出ているんでしょ?」

「……い、いえ……口頭で指示されていまして……で、ででで、でも! 本当にっ! 私は指示を受けてっ!」

「へぇ、王の印もなしに刑が執行できるんだ。それ、帝国ではあり得ないよ」

「うっ……」

「近衛って、宮廷警察のトップだよね? トップが法を逸脱しているのか。笑わせんじゃねえよ。クソが」

「ひっ……」


 デュランの怒号が飛び、近衛隊長が再び投げ飛ばされる。

 隊長は極度の緊張に陥ったのか、気絶にした。

 ひぃっとすくみ上がる近衛兵を一瞥し、デュランは言い切った。


「だいたい、君たちはなんでここにいるんだ。ブリュノ・フォン・サイユとリリアン・フォン・サイユの確保はされているんだろうな。彼らは容疑者だ」

「あのっ……それ、は……」


 失神した近衛隊長の代わりに、誰かが声を出す。

 デュランは残酷で美しい笑みを浮かべる。


「彼らを自由にしていたら、君たちを赦さない。とっとと、行け」


 バタバタと走り出した近衛を見送り、デュランはふぅと息を吐いた。

 くるりと振り返り、目を据わらせて言う。


「ほんと、無能が多すぎるね。アランもマルクくんも苦労したでしょ?」


 嫌そうな顔で言われて、笑ってしまった。

 マルクはびっくりしすぎて目を点にしている。


「まさか、デュランに同情されるとは思わなかった」

「ん? そう? 酷い状態だよ」


 デュランは肩をすくめると、俺を見てほほ笑んだ。


「アラン。君と妹の再審議が決まったよ。シャルル殿下も承諾済み」

「……本当か……?」


 信じられないことだ。俺の願いが、かなおうとしている。


「刑は決まっていないけど、君は何も悪くないよね?」

「デュラン……」

「シャルル殿下に交渉して、審議が終わるまで王宮は封鎖だ。ネズミ一匹出したくない。そこで、マルクくん、アラン、君たちの協力を願いたい」

「え? お、俺たちの、ですか?」

「うん。サイユの宮殿は広くて古いからね。場外警備兵の君たちの協力がないと、保安隊だけでは手が回らないんだ。ネズミが逃げ出すかもしれないから、確保して」


 マルクが目をキラキラと輝かせる。


「わかりました。やります!」

「ありがとう。アランもお願いね」


 軽口で言われて、目を据わらせる。


「待て、デュラン」

「なに?」

「俺の容疑は晴れていないんだ。俺を自由にしたら、おまえの立場が――」

「――アラン、それは気にしなくていい」


 すっと目を細めて言われ、声が出なかった。


「俺がアラン・フォン・ポンサール警備兵に協力を願った。君が責任を感じる必要はない。これは俺の判断」


 ほんと、おまえというやつはっ。


「そんなこと言われたら、何も言えないだろ!」


 頭をかきむしって言うと、デュランはぶはっと大笑いした。


「くくくっ。ああ、アランにこれあげる」


 制服のポケットから何かを取り出し、ポイポイッと投げ渡される。

 キャッチすると、携帯食だった。


「きちんと食べなよ。あと、風呂に入りなよ? くさいよ」

「……ドウも、アリガトウ」

「ぶっ。ははは! その言い方、君の妹にそっくりだね」


 デュランは見たことがないほど笑顔になる。


「君の妹は天使じゃないね。君にそっくりだよ」

「……妹と会えたのか……?」

「うん。会えたよ」


 デュランはとろけるように優しい眼差しになった。

 それを見て、よく分からないが、妹は無事なのだと思った。

 デュランは嘘を言わない。

 言えるようなやつじゃない。


「……そうか……」


 デュランは口の端を持ち上げると、俺に向かって敬礼した。


「じゃあ、アラン。頼んだよ」


 そう言って踵を返し、猛ダッシュで行ってしまった。


次回は、アランにーちゃんのターンです。

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