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【書籍2巻発売中】あなたのしたことは結婚詐欺ですよ(WEB版)  作者: りすこ
外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール
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8 俺も嫌いだ!

 父が領地に来た。


 父から聞かされたのは、父の政界からの引退、そして俺の宮廷への復帰だ。

 言葉にならなかった。

 俺だけが、責任を追及されていないみたいで、納得ができない。

 言葉を詰まらせていると、父は白髪頭を撫で俺に言った。


「家族の発言は証言として認められぬ……お前もわかっているだろう……」


 その通りだった。

 家族がいくら証言しても、証拠にはならない。

 身内をかばっているとしか思われないのだ。

 それがどんなに真実でも。


「追放者の烙印を押された以上、あの子はこの国はいない方がいい……いいのだ!」


 父は嘆きながら、声を荒げていた。

 俺にとって父は大きく、常に道を示してくれる人だった。

 そんな父が、今は小さく見える。


 悪夢が、まだ続いているようで、脳みそがぐらぐらする。


 何を間違えたのか。

 王太子殿下さえいれば。

 ――いや、殿下に任されても俺は何もできなかった。


 目覚めた妹は泣いていた。天使のような笑顔は消えていて、たまらず抱きしめる。


「守れなくて……ごめん……」


 贖罪の言葉を吐きだす。

 妹は首を横に振って赦してくれた。

 俺を責めたりしない。

 優しいんだ、妹は。



 嵐の中、妹を抱え、馬に跨り港へ行く。

 帝国にはデュランがいる。

 デュランなら、妹を助けてくれるかもしれない。

 帝国なら、妹を認めてくれるかもしれない。


 逃亡先の選択肢などない。ただそれが最良と信じて、港へ。


 妹を帝国へ行かせる為の船を探しているが、こんな嵐の中を出航するなんて何事だと誰もが戸惑っていた。

 だが、詳しい話はできない。


「お坊ちゃま。俺がお嬢様を帝国に連れて行きます」


 浅黒い肌の男たちが船を出すと言ってくれた。船長はオリバーと名乗った。


「船はちいせえですが、必ずお嬢様を帝国まで送り届けます」


 そう言ってくれたのは、澄んだ目をした船員たちだ。

 俺は彼らを信じることにした。


 出航の準備をする中、不安そうな妹に声をかける。


「リアは……帝国で生きていくんだよ……」

「にいさま……」


 何か言いたげな顔をされて、目を閉じた。

 こんな形で別れるなど、俺だって嫌だ。

 だが、俺が未練を残したら、妹は振り返ってしまう。


 もういいんだ。

 リアは自由になれ――


「船を出してくれ!」

「にいさまっ!」


 名前を呼ばれても、俺は目を閉じたままだった。

 船が出航する。そこでやっと、固く閉じていた目を開いた。


 ――頼むから、帝国まで行ってくれ!


 祈るような気持ちで船を見送る。


「……アラン様、ここでは雨に濡れます。どうか家の中へ」


 見かねた町長が声をかけてくれたが、断った。


「船が見えなくなるまで、ここにいたい」

「わかりました……」


 風が強く吹いていた。

 雷は空を走っていて、不気味な唸り声をあげている。

 針のような雨が体を刺して、体から温度がなくなっていく。

 小さな船は、波にのまれても力強く進んでいく。


 その光景を見ていたら、母の優しい声を思い出した。


『アラン。お父様とセリアを守ってね』


 その言葉に胸が締め付けられそうだ。

 俺は、ふたりを守れなかった。

 苦痛に心臓が痛ませながら、将軍の言葉を思い出す。


『――アラン……俺みたいになるなよ』


 そして、デュランの言葉も。


『――理不尽は嫌いだよ』


 感覚のなくなった手をぐっと握りしめた。



「……っ、俺も……俺も、理不尽は嫌いだッ!!」


 そう叫んだ時、地平線の彼方へ、船が消えた。



 ***


 数日経って、違う船でオリバー達は戻ってきた。

 妹を送ったという報告を船に乗せて。

 それにほっとし、俺は宮廷へ向かうために準備をした。


 オネットは実家に戻ってもらった。

 泣いて嫌がられたけど「迎えに行くから、待っていてほしい」と、ありふれた言葉で、彼女の心を縛った。

 父もオネットに頭を下げた。


「預かっているお嬢さんに、もしものことがあれば、ヴァランタン将軍に言い訳できぬ。耐えてくれ」


 オネットは口惜しそうに下唇を噛んでいた。


「わかりました……でも、ずっと待っています。何年でも……」


 魔物だらけの宮廷に、彼女をこれ以上、置いておけない。ここから先は、俺だけの戦いにしたい。


 俺はクロードの代わりに父の従者だったダミアンを伴い、再び宮廷に足を踏み入れた。

 復帰したが、近衛の階級は下げてもらい、新人衛兵がする場外警備兵にしてほしいと自ら志願した。


 部屋で支度をして、東棟にある場外警備兵の詰所へ行く。

 俺を待っていたのは、上官になったマルクだ。


 俺は足を揃えて、右手を額に付けて、マルクに敬礼をする。

 マルクは顔をしかめながらも左足を一歩、引いた。


「今日から復帰か……」

「はい。ご指導、宜しくお願いします」


 礼を持って挨拶をすると、マルクは他の衛兵に指示をだして部屋から出した。

 二人だけになると、俺から目をそらし、そばに置いてあったテーブルをおもいっきり叩いた。

 ガンッ――と、木を叩く音が部屋に響く。


「あなたが俺の部下になると、王太子殿下から聞きました」

「……そうか」


 マルクはかっと目を開き、叫ぶように言う。


「俺は! あなたの部下でありたかった! それなのに帰国したら、あなたもセリア嬢もいなくて……俺は……何も聞かされていなくて……っ 急に場外警備兵のトップにされて……っ」

「……そうか」

「教えてください。何があって、こんな事が……」

「マルク」


 俺は詰所の壁にかかっている軍師の絵画に目を向ける。

 つかつかと近づき、目隠しをするように絵画に手を置く。


「東棟の絵には幽霊がでるらしい。幽霊が聞いているかもしれない」


 マルクは目を泳がせ、足音を立てずに絵画に近づき、壁に耳を当てた。


「……幽霊には足が付いているんですか? 足音が聞こえます」


 小声で尋ねられ、俺は微笑する。


「そうだな。ずいぶん、すばしっこい幽霊だろう」

「アラン閣下……」

「やめてくれ。閣下はマルクだろ?」


 マルクが口を真一文字に引き結ぶ。


「……俺にできることはありませんか?」

「王太子殿下に会えるなら話がしたいと伝えてほしい。……一兵では、言葉を交わすこともできない」

「……わかりました。必ず」

「そんなに肩に力を入れるな。警備に行ってくる」


 俺は軽く笑うと、帽子を被り、割り当てられた場外警備の任務にあたった。


 宮殿の前庭は広く市民に開放されている。

 王族の権威を市民に見せるため、一般公開されていた。

 その分、盗人が多いのだが。


 警備兵も市民に愛想を振りまくばかりで、目を光らせることはしない。

 これではダメだ。

 その日俺は、盗人を2組、捕らえた。


 マルクも場外警備の甘さを嘆いていた。


「やる気がなさすぎます! なんなんですか、ここは!」

「落ち着いてください、閣下」

「……すみません」

「一日、二日で何とかできる問題でもないな。閣下の指導次第でしょう」

「あああ……俺は、指導者に向いていませんよ……」


 嘆息するマルクの肩をポンっと叩いた。


 警備兵となって数日後。マルクがメモを俺に渡してきた。

 メモには暗号のようなものが書かれていた。


「……渡すように言われたのですが……」


 マルクが不安げに言う。

 声をひそめて言ってきたのを考えると、相手はシャルル王太子殿下だろう。筆跡も殿下のものだ。

 マルクは読めなくて、不安になったのかもしれない。


「ありがとうございます」


 暗号文はすぐに読めた。

 俺はマルクに敬礼をして、暗号に書かれた場所に足を運んだ。


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