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【書籍2巻発売中】あなたのしたことは結婚詐欺ですよ(WEB版)  作者: りすこ
外伝 王の処刑人 アラン・フォン・ポンサール
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4 選ばれた人間

『理不尽を強いるのが、王族だったらどうする?』

『もちろん、逮捕する。王族だって皇族だって、国に住む一人でしょ? 法に守られた国民。神ではない』


 迷いのない紅い瞳を見て、言葉を失った。

 デュランは肩をすくめて、なんてことはないように言う。


『ルベル皇帝ってのは王が失墜した時、国民投票で選出されるんだ。皇帝が犯罪者になったら、俺の出番だよ。逆もしかり』

『実の父親だろ? ……逮捕できるのか?』

『するよ。犯罪者ならね。血縁者だからといって、慈悲はかけない。それが保安隊だよ』


 迷いのない目で言われ、言葉がでなかった。

 堂々と言い切る彼の姿は、とても同じ年とは思えなかった。

 だが、引き込まれるものはある。

 俺はずいぶん視野が狭かったのかもしれない。


 それでも、デュランみたいに割り切れるほど無情になれないが。


「デュランがいる国に行ったら、セリアも認められそうだな……」


 サイユ王国より100年先を行くというルベル帝国。

 そこに行けば、妹の能力は今よりずっと評価されそうだ。


「……はっ、なにを夢見ているんだ」


 気弱になりかけた心を奮い立たせ、立ち上がった。

 部屋に鎮座する彫刻をどかして、元の位置に戻し、裏にある隠し通路から部屋を後にする。


 広大な緑の中庭に出ると、母屋とは別の使用人が住む棟に足を運んだ。与えられた部屋に戻ってくると、オネットと従者のクロードと妹がいて、俺を見て顔を青ざめた。


「にいさまっ……」

「ぼっちゃまー! どうしたんですかー?!」

「アラン様、大丈夫ですか? すぐに冷やしましょう」


 オネットはきびきびと動いてくれ、妹は申し訳なさそうに体を震わせている。


「リア、大丈夫だよ。大したケガじゃない」

「ですが……」

「大したケガに見えなくても、ケガはケガです」


 オネットは冷えたタオルを俺の頬にあてる。痛みで顔をしかめても、ぐいぐい冷やしてくる。


「……オネット、自分でやるから」

「いけません。アラン様に任せておいたら、骨が折れても、そのままにして寝ていそうです」


 妹までこくこくとうなずき、俺は苦笑いした。


「すぐに医師を呼んできます。セリア様、アラン様が逃亡しないか見張っててください」

「うん。ありがとう、オネット」

「とんでもありません」


 オネットは素早く立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。妹が悲し気に目を伏せ、俺のケガを冷やしてくれる。


「リア、ブリュノ殿下の様子がおかしい。今日のように何かされたら、すぐに言うんだよ」

「……でも、それではにいさまが……」

「にいさまはリアと鍛え方が違うから平気だよ」


 そう諭しても、妹は沈んだ顔をする。


「シャルル殿下が帰ってこられたら俺が報告して、ブリュノ殿下を戒めてもらう。シャルル殿下がいない今は、俺に言うんだよ。それに父上も動いてくれるはずだ」


 妹は弱々しくうなずいた。

 オネットが医師を連れてきて、俺を診察する。

 骨に異常は見られないと言われ、オネットはほっと息を吐いた。


「……よかったです」

「心配をかけたね」


 そう言うと、オネットは首を横にふる。


「アラン様が無理をしないように見張るのも私の仕事ですから」


 オネットがはにかむような笑顔を見せた。

 愛らしくて、心がうずく。

 でもすぐに、思いを心の奥底に沈めた。


 妹が幸せな結婚ができそうにないのに、俺が幸せになるわけにはいかない。


 だから、オネットへの想いは秘密だった。



 ***



 その後もブリュノ殿下の態度は改められず、セリアにつらくあたっていた。

 何度も話をしても、話にならない。


 たまらず父上に報告したら、陛下に話す機会を設けると言ってくれた。

 しかし父が陛下と会うことはかなわない。

 陛下は面会禁止となり、妃殿下も陛下に付きっきりになってしまった。


 重い空気を感じている時、ある人物が会計顧問として、王宮に復帰した。

 父を閑職に追いやったモールドール伯だった。

 杖をつきながら現れたモールドール伯は、父と俺を見て、満足そうに笑った。


「議員から、どうしてもと言われましてな。ポンサール公は、免税である特権階級の者から税をとろうとしているとのこと。いけませんな。実にいけませんね。われわれは選ばれた者なのですよ?」


 父は忌々しげにモールドール伯に言った。


「……税収が落ちているのに、課税をして農民から巻き上げるよりは得策だ」

「はははっ。農民は税を納めることが義務なのです。人には身分にあった生き方をするのがいいのですよ」

「……税収が落ちたのは、小麦が不作だったからだ。これ以上、農民を苦しめてどうする」

「フン、知ったこと。無学な彼らの代わりに国の取り決めをしているのです。われわれはノブレス・オブリージュ。選ばれた人間」

「市民に選挙権を与えず、何を言うか! 無学なのは彼らが悪いわけではない。学ぶ機会を与えられないだけだ!」

「話になりませんね。学ぶ機会を得られないなど、馬鹿な。現に、識字率は上がっていますよ?」

「王都だけであろう。国の識字率は、調査すらされておらん」


 父の意見は、のらりくらりとかわされ、議員たちもモールドール伯を支持しだした。父だけではなく、俺も嫌みを言われた。


「ブリュノ殿下はご子息の顔を見るのも虫唾が走るそうですよ。いけませんね。いけませんよ。殿下へ忠義を曲げるようなことをしては。不敬罪として、牢獄行きになってもおかしくはありません」


 俺自身は何を言われても良かった。

 彼らの理論は聞くに値しないからだ。

 でも、父は不敬罪の一言を重く受け止めていたのだろう。


 心労がたたったのか、以前よりかなり寂しくなった後頭部をさすりながら、父は俺に釘を刺した。


「……今、殿下には何も言うな」

「ですが、リアがあまりにも不憫です」

「今は耐えろ。王太子殿下が戻ってくるまでだ」


 その言葉に奥歯をかむ。


「せめて、セリアとブリュノ殿下の接点を最小限にしてください」

「……わかった。だが、セリアに任せた教会への慰問は無くすことはできない。行く回数を減らそう」


 妹とブリュノ殿下を離せば――

 その時は、最良の方法だと思っていたのだ。


 まさかそれを逆手に取られて、リリアンがブリュノ殿下に近づき、セリアを犯罪者にするなど、思いもしなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ノブレス・オブリージュの意味を間違えて使ってるところにおっさんの教育水準の低さが見えるような(笑) ずいぶんイキってますが政治学も未修とみました。きっと若い頃は勉強せず享楽にふけるドラ息子だ…
[良い点] ああ…… デュラン閣下が出てきてくれると、安心する ε-(´∀`;)ホッ
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