まったく。微笑ましいですね(中)
2話目です!
「あのっ わたし、ドロシー嬢と文通しているのですがっ」
「そうですか。恋愛話でもしているのですか?」
「あっ……はい……ドロシー嬢は、気になる人からサプライズプレゼントをもらったらしく、嬉しかったと書いてありました」
「いい話ですね」
「はい……それで、そのっ……」
アメリアさんが真っ赤な顔で言う。
「……閣下にサプライズプレゼントをしてみたいのです……」
「そうだったんですね」
永遠にばくはつしろ、と言いたくなることをしたいわけか。
「閣下に直接、欲しいものを聞いてみればいいじゃないですか?」
アメリアさんはしゅんとうなだれた。
「それではサプライズではなく、普通の贈り物です」
「まあ、そうですね」
「お願いですっ! ペーターさんなら、閣下の欲しいものをご存知だと思うんです! 教えてくださいっ!」
必死にお願いお願いされるが、アメリアさん、あなたですよ、しか言えない。
だが、そんな事を言ったら、きっと彼女は「リボンをわたしに巻けばよいのですか?」と真面目に言うことだろう。
それも楽しそうだが、アメリアさんは閣下が喜びそうな物体を贈りたいのだ。
なぜ、オレに相談したのか。
はっきりいって恋の相談は守備範囲ではない。
しかし、保安隊のメンバーを想像して、アメリアさんが俺を頼るのも無理ないか、とも思う。
アメリアさん以外の保安隊メンバーは、男より漢らしい女性か、乙女な男性しかいない。
ハムスターみたいなアメリアさんが保安隊にいるのが奇跡なのだ。
そして、保安隊のメンバーに相談しても全員がオレと同じことを言うだろう。
閣下に突入するのみ――と。
報復が怖いからな。
それでも、両手をつけて、お願い、お願いと頭を下げるハムスターの頼みは断りにくい。
「じゃあ閣下に、欲しいものを聞いてみますよ」
「えっ……」
反射的にそう言うと、アメリアさんは目を輝かせた。向日葵の種が降臨して感激したハムスターみたいだ。
「あ、ありがとうございますっ……!」
アメリアさんが大きな声を出したとき
「お待たせしましたあああ♪」
と言いながら、コショウがやってきた。
ミューさんも来て、コショウの腹にあるトレイから、トレンチャーが乗った皿を出す。湯気の立った皿が俺たちの前に置かれた。
「えっ……」と、アメリアさんが声をだす。
オレも驚いた。
平たいパンの上に、ニワトリがまるまる一匹、乗っていたからだ。いつもより量が多い。かなり食べ応えがある。
ミューさんは真顔でオレたちに言った。
「ほろほろに煮込んである。食え、若人よ」
「ごゆっくりぃぃぃぃ♪」
そして、ミューさんはコショウと共に厨房に戻っていった。
「多いですね……」
「普段より多いですね。サプライズなのでしょう」
「えっ……?」
「食べましょう。旨いですよ」
肉の骨の部分を握り、かぶりつく。骨まで食べられる鶏肉は、口に含むと崩れそうだ。
アメリアさんは、銀製のフォークとナイフで肉を切り分けて、口に運んだ。小さな口が肉を飲み込む。
もぐもぐと口を動かしていたと思ったら、ぱっと花が咲くように、アメリアさんの目が開いた。
「ペーターさんっ! 口の中でお肉が消えました!」
「そうですか。よかったですね」
「……とろとろで、美味しいですね……」
アメリアさんが目をキラキラさせている。
なんだこの旨さの向日葵の種は……!と驚愕するハムスターみたいだ。
量が多かったが、アメリアさんは頑張って食べきっていた。頬袋いっぱいに向日葵の種を詰め込むハムスターみたいだ。和みながら、オレたちは食事を終えた。
「あ、お支払いはわたしがしますね」
「割り勘にしましょう」
「いいえ、美味しい店を教えてもらいましたし、頼み事もしましたから」
なるほど。お礼というわけか。
「わたし、昇進したので、懐があったかいのですよ」
アメリアさんは楽しそうに笑った。ハムスターが向日葵の種をあげるね、と言っているみたいだな。和む。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
支払いを済ませると、ミューさんとコショウが見送ってくれた。
「また来るがいい」
「まいどおおお♪」
コショウがスチームをボディから吹き出すと、アメリアは微笑みながら、ふたりに手を振った。
保安隊事務所に戻ると、超笑顔の閣下に呼び出された。
「ペーターくん、話があるから、ちょっと来て」
閣下はにっこにこの笑顔で、両手にコーヒーが注がれたマグカップを持っている。
「なにかありましたか?」
「緊急の案件がね。リア、これ、もらったコーヒー」
「え?」
閣下がアメリアさんにだけ、コーヒーのマグカップを渡す。オレにはないんですね。別にいらないですけど。
「香りがいいから、淹れてみたんだよ」
「……本当にいい香りですね……でも、ペーターさんの分は……?」
「オレはいいですよ。猫舌なんで」
「え?」
「はははっ、そういうこと。じゃあ、ペーターくんはあっちに行こうか」
コーヒーのマグカップを持ったままの閣下と会議室に入る。パタンと扉が閉まり、閣下が一口、コーヒーをすする。その後で、尋問が始まった。
「リアとふたりっきりで、どこに行っていたの?」
予想通りの展開だ。
閣下はイライラするとコーヒーを過剰摂取する癖があるからな。
「食事ですよ。いい店を知っているんで、今度、おふたりで行ってきたらどうですか?」
「そうなんだね。で、何を話したの?」
「アメリアさんに閣下の欲しいものを聞かれました」
淡々と答えると、閣下の目が丸くなる。今まではグルルッと唸り声をあげて警戒していたのに、急にステイをしてしっぽを振りだした白い犬のようだ。
閣下はワオン?と言いたげな顔をしていた。和む。