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21 あなたもまた、被害者のひとりです

「ちょっと待ちなさい! 代理人って何よ! 本人じゃない!」


 わたしを指さし、リリアンが叫んだ。枢機卿がリリアンに向かって話す。


「リリアン様、お静かに。陛下の御前です」

「だって、このふたり、同じ髪色と瞳じゃない!」


 確かに、同じではある。それを肯定するつもりはないけど。

 黙って状況を見届けていると、リリアンに向かって、王太子殿下がピシャリと言い切った。


「彼女の身元は、ルベル皇帝の名の元に保証されたものだ」

「っ……そんなの嘘よ……わたくしは納得できませんわ」

「リリアン……審問の場を騒がせるなら、口を封じるぞ」


 苦々しい顔をした王太子殿下が衛兵に指示して、リリアンに猿ぐつわを付けさせようとする。わたしは挙手をした。


「申し訳ありません、私の発言をお許しくださいませ」


 王太子殿下は神妙な顔をしながらも、頷いた。枢機卿に促され、わたしは手を下げ、陛下を見上げた。


「恐れ多くも国王陛下にお伝え申し上げます。王子妃殿下に猿ぐつわを付けることは、どうかお止めくださいませんか」


 リリアンと王太子殿下が目を見張る。視線を感じながらも、枢機卿が声をだした。


「理由をお聞かせください」


 わたしは陛下を見上げながら、答えた。


「セリア・フォン・ポンサール様は、自身が処罰された際に、兄上であるアラン・フォン・ポンサール様が止めに入ってくれましたが、猿ぐつわを付けられ、声を出せないようにされたと仰っていました。

 猿ぐつわを付けることは、異なる意見を封じ込めるための、非常に不適切な行為に映ります」


 わたしはリリアンを涼やかに見つめる。


「そもそも王子妃殿下であるお方が、審問の意味や内容についてご存知ないわけではないでしょう」

「っ……!」


 リリアンが歯軋りをして、わたしを睨みつけた。わたしは視線を陛下に戻す。


「どうか厳粛な審問の場を騒ぎ立てるようなことはなさらないようお願い申し上げます」


 敬礼をすると、陛下の口が動いた。妃殿下が声を聞き取り、何度かうなずく。そして、陛下の代弁をする。


「リリアン王子妃殿下の振る舞いは、審問の場にふさわしくはない。しかし、アメリア・ウォーカー三等保安士の意見は一考する。次に審問の場を騒がせた場合、リリアン・フォン・サイユは退場し、おって沙汰をくだす」

「ご一考いただきまして、誠にありがとうございます」


 わたしは手を下げた。リリアンはギリギリと爪を噛んでいたし、「私は未熟だ……」と呟く、王太子殿下の声が聞こえる。わたしは涼しい顔のまま、説明に入った。



 兄の容疑を晴らすためには、セリア(わたし)の容疑を晴らす必要がある。それを証明する人がいると訴えた。ペーターさんが探してくれた侍女だ。


 リリアンの実家に侍女として勤めていた彼女は、カトリーヌ・カネという。顔にそばかすのある若い女性だ。カトリーヌは全身を震わせながら、審問の場に入ってきた。枢機卿が彼女に尋ねる。


「あなたがされたことを述べなさい」

「はっ……はいぃ……あのっ……わたしっ……わたしはっ……!」


 カトリーヌは崩れるように床に膝をつき、土下座をした。


「リリアンお嬢様に言われて、セリア様の名前をメッセージカードに書きました! 申し訳ありません‼」


 リリアンがカッと目を見開く。


「枢機卿! わたくしは、このような女を知りませんわ!」

「なっ……」


 カトリーヌが顔を上げ、絶望したように蒼白した。


「……そんなっ……リリアンお嬢様が、書けと……」

「あなたにお嬢様と呼ばれる筋合いはないわ。どなたなの?」


 嫌悪を隠さず言われて、カトリーヌが無言になった。

 リリアンは何がなんでも容疑を認めない気なのだろう。そっちがその気なら、戦うまでだ。

 ハラハラと涙を流すカトリーヌに、わたしは腰をかがめ話しかける。


「大丈夫ですよ。あなたは被害者ですから」

「えっ……」


 わたしはカトリーヌの擁護をした。


「カトリーヌ・カネ様は王子妃殿下のご実家に侍女として雇われておりました。わずか10日ばかりですが、クローデル男爵夫人も認めております」

「はっ? お母様が……」

「ええ。クローデル男爵夫人は顔にそばかすがある侍女がいたような気がすると言っています」

「そんな、あいまいな」

「それに、カトリーヌ・カネ様が侍女として働いていた10日間。男爵家の庭を彼女が掃除をしている場面を複数の方が目撃しております。彼女は雇用契約書を作るわけでもなく、口頭で侍女になる契約をし、王子妃殿下に突然、解雇されています」

「っ……それが、なんだって言うのよ! お母様は何も言わなかったわ!」

「だとしたら、クローデル男爵家は、労働者を保護する法律に違反しています」

「はあ?」


 わたしは粛々と述べた。


「雇用契約は書面でし、解雇通告するのは家を任された男爵夫人でなければなりません。王子妃殿下は娘ですので、侍女を解雇する権限はございません。それを男爵家では認めてしまっていたのです」


 ぎりりっと、リリアンが爪を噛んだ。


「カトリーヌ・カネ様は幼い弟二人の身を案じて、真実を打ち明けることはできなかったそうです。ご両親を早くに亡くして、三人でスラムに身を寄せていました。彼女もまた、被害者のひとりです」

「あっ……ああっ」


 カトリーヌはその場で泣き崩れた。頭を床にこすりつけて震えている。


「申し訳ありません。申し訳ありません。どうかどうかっ……罰はわたしだけにしてくださいっ……弟たちは無関係です……」


 カトリーヌが打ち明けてくれればと思うのは確かだ。でも、彼女を恨みたくはない。わたしは陛下にお願いをした。


「カトリーヌ・カネ様につきましては、寛大な処置をお願いいたしたく存じます」


 陛下がうなずく。カトリーヌは保安隊のひとりが支えて、退室していった。

 枢機卿がほぅと息を吐く。


「お二人の発言を聞いていると、リリアン王子妃殿下に虚偽の疑いがありそうですな」

「っ……あの女の発言だけでは、わたくしが仕組んだこととは言えませんわ。あの女が嘘をついているかもしれないじゃない」


 よくもまあ、次から次へとしゃべるものだ。わたしは爆弾が見つかったことを証言した。控えていたペーターさんが火薬が抜かれた本を持ってくる。


「こちらはクローデル男爵の研究所の倉庫にあったものです。見た目は本ですが、中はくり抜かれ、涙型のガラスが6つ入っています。このガラスは不思議な性質を持っており、細くなった方を折ると全体がくだけ散ります」


 ペーターさんは証拠を提出してすぐに部屋の隅に控える。


「この爆弾は本に偽装していることから、ルベル帝国で指名手配中のブックマンのものであると推察されます。また、倉庫にあったことから爆弾を持ち出せる人間は限られていました」


 わたしはすっとリリアンを見る。


「王子妃殿下、あなたもその一人ですね」

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