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18 真実を見ない人に、真実を語る必要はない。今は。

 サイユ王の許可が出て、保安隊が宮廷に入った。すべての舞踏会や行事は中止となり、調査が終わるまで王宮は封鎖されることになった。


 わたしはデイ・ドレスを脱ぎ、保安隊の制服に着替えた。閣下も、ペーターさんも。


 深紅の制服を身に着けると、閣下の自信に満ちた瞳を思い出して、自分が少し強くなったような気になれた。

 髪をひっつめると、背筋が伸びた。

 胸元に刺繍された白い鷲は、あれこれ言われた胸に誇りを与えてくれていた。サイユ王国に戻ってきて、よりいっそう保安隊になってよかったと思える。


「アランが集めた証拠を押収する」


 閣下の指示で兄が使っていた部屋を調べた。兄がわたしの容疑をひとりで黙々と調べていてくれたかと思うと、ぐっとこみ上げるものがある。


「閣下。このチェストの底が、二重になっています」


 底を開くと、メッセージカードと共に、調査資料が出てくる。兄はメッセージカードを書いた人物を探していた。そして、リリアンが暇を出した侍女だろうと予想していた。侍女は不始末をしたという理由で、解雇されている。わたしが国を出た後だ。


「侍女の足取りを探って、連れてきて」

「オレ、行ってきます」

「頼んだよ。ペーターくん」


 彼女が自白してくれれば、わたしの冤罪も兄の容疑も晴れるかもしれない。期待を持ちつつ、証拠を集めていく。


 閣下はブックマン確保だけではなく、わたしの冤罪も含めての捜査を進めてくれた。だが、宮廷を守る近衛にとっては、保安隊の侵入は困惑するものだったらしい。近衛騎士団長から、閣下に抗議がきた。


「保安監! 勝手にされては困ります! アラン・フォン・ポンサールの容疑については、私たちが調べますので!」

「君たちには任せられない」

「ぐっ……サイユ王国で起こったことは、私たちがきちんと調査する規則でありまして……」

「きちんと調査できていないから、保安隊が捜査しているんだよ。わかっている?」

「いや、しかしっ……」

「アラン・フォン・ポンサールの容疑は事件の全貌を明かすのに必須。これ以上、君たちと話すことはない」


 保安隊と近衛の足取りはそろわない。王太子殿下は保安隊の侵入を許したことで貴族議員に責められているようだった。


「王太子殿下。帝国にいいようにされて属国のように見られますぞ! 諸外国になんと言い訳するのか」

「……真実を明るみにするだけだ」

「しかしっ」

「……ポンサール一族を失ってから、財務関係が立ちゆかなくなっている……私たちは彼らの価値を見誤っていたのだろうな」

「……王太子殿下」

「これは報いなんだよ。未熟な私への罰だ」


 王太子殿下はわたしたちに全面協力の姿勢を崩さなかった。



 ***


 二日後、リリアンの家族を調べていたわたしは、宮廷内を歩き回っていた。


 戸籍や彼らの経歴の書類を持って、捜査本部が置かれた大使の部屋に足早に歩いていく。廊下の角を曲がろうしていると、前方から宮廷警察の声が聞こえた。思わず、足が止まる。


「ブリュノ殿下、部屋にお戻りください! 殿下は今、取り調べを受ける身です!」

「うるさい、黙れ! なぜ、俺が拘禁されるのだ!」

「陛下のご命令です!」

「父上は病気だ! 指示を出せるわけがない!……そうか。兄上の命だな……兄上はどこにいる⁈」


 怒りをあらわにして大股で近づいてくるブリュノ殿下。深紅の制服を身に着けたせいだろうか。不思議と、怖いとは思わなかった。

 わたしが無言で立っていると、ブリュノ殿下がわたしに気づいて足を止めた。ヘーゼル色の瞳に動揺が見える。


「……その姿……君は保安隊か」


 黙っていると、ブリュノ殿下の瞳が愉悦に染まりだす。口元には、気絶する前に見た満足げな笑みが浮かんでいた。


「保安隊……そうか……君の差し金で、こんな事態になっているのか?」

「捜査に関することはお答えできません」


 きっぱり言うと、ブリュノ殿下の眉間に深い皺が刻まれた。


「……気に入らない目だな……前はビクビクしていたくせに」


 わたしがセリアだって、ブリュノ殿下は気づいている物言いだ。誰もが疑っているから、当然だろう。予想できたことでもある。


 しかし、真実を見ない人に、真実を語る必要もない。

 今は。


「何のお話か、わかりかねますわ」


 わたしはニッコリと笑ってみた。

 もちろん、嫌味で。


「どなたかと、お間違えになっていませんか?」


 ブリュノ殿下はこめかみに青筋を立てる。


「貴様! いつから俺にそのような口を利くようになった!」


 怒鳴られても、心は嵐の海のようには荒れ狂うことはない。穏やかなまま、冷えていた。

 落ち着いていたのは、ブリュノ殿下の背後に白皙の美貌を見つけたからだ。怒りに燃える紅い瞳が近づいてくる。こんな時なのに、カッコよく見えてしまった。


「聞いているのか!」


 ブリュノ殿下に腕を掴まれ、抱えていた紙がひらりと滑り落ちる。わたしは彼をキッとにらんだ。


「お離しください!」


 ブリュノ殿下の手を渾身の力で振り払った。書類を抱えながら、後ろに下がる。抵抗されると思わなかったのか、ブリュノ殿下は瞠目したまま固まった。


 と、同時に背後に回り込んだ閣下が、ブリュノ殿下の首をホールドした。首を締め上げ、ブリュノ殿下が苦しみで暴れる。しかし、閣下の拘束は強く、びくともしない。


「俺の部下に、触れないでいただけませんか?」

「ぐっ……がはっ」


 閣下はブリュノ殿下を投げ捨てると、わたしの前にさっと立った。ブリュノ殿下はむせながらも、尚も怒りをあらわにする。


「貴様っ……不敬だぞ! 誰に向かって物事を言っていると――‼」


 ――バキン!


 怒号を打ち消すように破壊音が響いた。閣下が左腕を振り上げ、木製の壁に大穴を開けていた。鋼の拳を壁にめり込ませながら、閣下が言う。


「誰に向かって……? 犯罪者に決まってんだろうが」


 ドスの効いた声が辺りに響いた。



閣下、激おこターンの開幕です。20時にもう一話、更新します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく! 待ってた。
[一言] 閣下の激おこターン! やったぜ。 それを楽しみに今日も頑張るっ。
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