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2.カフェラテとカフェオレ

世間は夏休みだそうですね。

ぼくのなつやすみはもうありません。

 カランコロンと鐘が鳴る。

 お客さんだ。布巾を前掛けのポケットに入れて、あたしは歩く。

「いらっしゃいませ、クロックヴィクトリアンへようこそ!」



 *******





 事の始まりはやっぱりあの日。コーヒーをいただいたあたしは家に帰ることにした。あたしはとんとんとステップを上がっていった。ドアの前に立ち、見送りに来てくれた二人へ頭を下げた。


「ありがとうございました。コーヒー美味しかったです」

「いやいや、こちらこそ来てくれてありがとう。良かったらまたおいで」

「気が向いたらで良いよ。次はお客さんだけどね」


 にこりとせずに言葉を放つ美形さんに、水野さんは軽く小突いた。しかし美形さんは頭を摩れども、しらっとしたままだ。うーん、強か。


 なんて思っていたあたしは、水野さんの腕の中に不思議なものを目にする。速やかにドアへ向こうとした身体を戻し、あたしは聞いた。

「水野さん、それなんですか?」



 あたしが指さした先にあったのは、水野さんの腕の中の紙束だ。この店のステップはせいぜい2,3段くらいの緩やかなもの。ただ一番上の段の入り口にいるあたしと最下段の店内スペースにいる水野さんたちとの距離は莫迦に出来なくて、実際に紙に何が書いてあるかまでは読めなかった。


 あたしはじぃっと細目にした。そのお陰で四角いスペースの中に何か図形が書いてあるのはわかった。まぁ、それ以外はちんぷんかんぷんだったけれど。

水野さんは言った。


「これは求人のポスター。この後に貼りに行くんだ」

「求人って、アルバイトの?」

「そうそれ。さっきはこれを作ってたんだ」




 むむ。

 あたしは下に降りて水野さんに近づいた。ポスターをあたしへ手渡しながら水野さんは続けた。


「こいつの他に大学生の女の子もいるんだけど、卒業論文が忙しくなっちゃったらしくてさ。ちょっと人手が足りなくて」

「まぁその子以外にあともう一人いるから、しばらくはどうとでもなるけど。先のことはわからないから募集しておこうって、話になったんだ」


 むむむ。

 頷きながらあたしはポスターを見た。黒地に白や明るい茶色の文字が並んでいた。必要最低限のことしか無いけど、かえって読みやすくわかりやすかった。時給も時間も条件も至って普通で、スタなんちゃらやドトほにゃららみたいなカフェのとあまり変わらないと思われた。


「これって大学生限定ですか?」

「そんなことはないよ。学校と親御さんの許可さえあれば、高校生でも良いなぁって思ってる、かな」


 むむむむッ。

 あたしはポスターから顔を上げた。その拍子に水野さんの肩が僅かに揺れたので、ちょっと申し訳ない気もした。

 ええい、儘よ。


「あたしをここで雇ってくださいッ!」





 *******



 勢いよく頭を下げたあたしは、その日の夜に両親の許可を勝ち取り、翌日には履歴書と共にカフェへ凱旋した。言わずもがな、あたしの高校はバイトが認められているので速攻採用。夏休みなので週3日から4日のペースでシフトが組まれる運びとなったのである。


 ということで、現在アルバイト2日目。あたしは店内の掃除や皿洗い、コーヒーのサーブといった基礎の基礎からやらせてもらっていた。



 ぽこぽこと音がしてカウンターを見る。金属みたいな筒、つまり抽出槽が下がり、そこから出てきたコーヒーがフラスコの中を埋めていた。


 最初はフラスコが下で抽出槽が上の方にあるんだけど、フラスコの中から抽出槽へお湯が全部入ると、今度は抽出槽が下でフラスコが上へと位置が逆転する。理科の授業で、ピンセットを使っておもりを乗せていたあのはかりみたい。などと言えば、天秤型だからねと返されたのはつい昨日の話だったりする。



「ドリンクできたよ。先に持って行ってくれる?」

「あ、はいッ」

 美形さんの声にあたしの意識が戻った。はきはきと返事をして、トレイを持つ。把手を、取ろうとして勢いあまった右手は、マグカップの表面をつるりと撫でる。


「あちゃッ」

「大丈夫?ちょっと指見せて」

「す、すみません」

 あたしは右手を美形さんへ見せた。



 水野さんが言うには、ちょっと特殊なステンレス鋼らしいのでマグカップに触って火傷はしないらしい。カップの把手はプラスチックだし、特に今の季節は冷房があるし金属部分もそんなに熱くならないのだとか。でも流石に淹れたてほやほやカフェラテが入ったステンレスカップは、ちょっと熱い。自業自得だけどね。


 一通りあたしの指先を見た美形さんは頷いた。

「うん、大丈夫だね。じゃあよろしく」

「わかりました」

 今度こそあたしは把手でマグカップを取り、お客さんの元へ行った。




 お客さんは店の奥の窓際の席にいた。このカフェ、なんと角店だったのです。あっ、待って待って。全部言わせて。


 最初見たときに、ビルの一階部分へ窓があるのはあたしも知っていた。あたしの足元から頭の上をゆうに越えるくらい大きい窓だった。だから最初に見たとき、隣に美容院でもあってそこの窓なのかなって思っていたんだ。だってお洒落な美容院とか、全部掃き出し窓のところとかあるでしょ?


 そんなわけで。昨日、このお店の窓だったとわかったときはびっくりした。この店って半地下みたいな構造だから、店内では腰窓でも外からでは掃き出し窓になってしまうらしい。不思議だよね。

閲覧ありがとうございました。次投稿は23日の12時です。


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(※簡易的ですがいつも評価ありがとうございます、マジで気力に直結してます)


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