人間界 セリカ編 20
私達の上空で円を描き続けるライラ。
その光景に未だに街道の波は戻ってこない。
関所は誰居らずに、ただ誰も
「それでなんなのさ、そのエルフ。」
ずっと固まっている茶色の鎧達。 村人は朝ごはんを再開したようで、芋にかじりついて、上空を見ながら話をしている。
「セリカ殿、失礼した。 先日もお会いしたエルロンドと申す。 後ろのはオルガだ。」
「オルガと申します。」
緑の髪をこちらに向けて腰を折って来る2人、キャラバンに並んで4列で立っている茶色の鎧を着た兵達は動かない。
「なんでもよ、助けてほしいんだと。」
「助けるって何なのさ。」
「私から言ってもよろしいかな?」
頭を上げたエルロンド、その手に一枚の紙を私に向けてくる。
「昨日発行の軍の命令書です。」
「細かい文字は嫌いだねぇ。 何書いてあるのさ。」
「失礼。 簡単に言うと、エルフは絶滅対象に成ったと書いてあります。
「絶滅かね。 物騒な国だねぇ。」
「絶滅かよ」
「絶滅ですか。」
アズラとミズラは思う所があるようだ。 アリババの話では死霊族とかいうのも絶滅寸前だとか言っていた。
「敗れた国の将として、これまでプロトン国に尽くしてきた。 しかし、昨日を境にまた敵に成った。 負けるのは見えている。 時間が無い。 なんとかあなた方の力をお借りしたい。」
また頭を下げるエルロンド。 さっきより深い礼はその背中をわずかに見せる。
「私達が手伝って何かあるのかね。」
「逃げて来られたとカレン殿よりお聞きした。 ご協力いただいた礼として、エルフの国で彼等を迎え入れたい。
それしか現状では出来ない。」
「セリカさん、私からもお願いします。 私もエルフなんです!」
サエルミアが後ろから言って来る。 彼女もエルフだった、少し忘れていた。
「カレンはどう思うのさ。 戦争に巻き込まれるかもしれないのさ。」
「私は、プロトンが嫌いです。」
少し怒る顔をするカレン。
「条件があるのさ。 魔界への行き方教えて欲しいのさ。」
「魔界か…」
頭を上げたエルロンドは、整えられた緑の髭に手を当て少し考える。
「女王ならば知っていると思われます。 一度お会い頂けますかな?」
「どこにいるんだね。 その王族っていうのは。」
「ケレブスィールの城、その地下におります。 無事であればいいのですが。」
「アグラレス様は女王様は、生きておられるのですか!?」
サエルミアが後ろから急に大声を上げる。
「国民には極秘にされていますが、生きておいでです。」
「そうなんですね。 セリカさん! アグエアレス様を助けに行きましょう!」
私を向いて言って来るサエルミア。 魔界の帰り方も解りかもしれない。
「わかったのさ、どうせ向かう予定だったのさ。」
「礼を言う。 オルガ村の方々を護衛して向かうぞ。」
「ハッ!」
頭を上げたエルロンド、横に居るオルガに命令して、馬へと向かおうとする。
「待つんだねぇ。 その前に全員兜取るのさ。」
「兜をですかな? おいオルガ。」
「ハッ! 兵は兜を取れ!」
オルガが大声で茶色い兵隊に命令する。
兜を外し始める兵達、皆緑の色。 同じような見た目。
でも違う存在が3個ほど混じっている。 存在は隠せない。
カレンも解っているようで、兵の列に沿って歩き出した。
ゆっくり歩くカレンに近くに居る兵達がビクつく。 違う存在を睨みながら歩みを進めるとその前で立ち止まった。
緑の髪の3人の男。 その横にカレンが立つ。
「セリカ様、殺しますか?」
カレンがわざと大きな声で言って来る。
「お待ちください。 何故、殺そうとされるのですか。」
見た目はエルフな男がカレンに話す。
カレンはその男を上から見下しながら、尖った耳を手で引きちぎった。
下に現れる人間の耳。 その一瞬の動作に、カレンが声を掛けた事で、男がやっと気づく。
「貴方プロトン人ですね。」
「耳が…… 囲め! 敵兵が混じっているぞ!」
「一人じゃないのさ。」
カレンが槍を構えようとした茶色の兵を2人、どちらの耳も引きちぎる。
「なんでバレた! クソッ!」
走り出すそうとする3人。
「逃げれるわけないでしょう?」
カレンは素早い動きで3人を蹴り上げる。
宙に浮く3人、周りの木の高さまで上がった3人はそのまま落ちて、鎧を砕いて気絶してしまう。
「これで良いのさ。 行くかねぇ。」
「あぁ… 敵兵が混じっていたとは、失礼した。」
「良いのさ。 あの時やらなかったのが今に成っただけなのさ。」
笑いながらエルロンドに言うも、何も返ってこなかった。
縛られて、茶色い兵に担がれる気絶した3人。 その横でオルガがずっと見張りながら歩いていく。
「国の兵隊さんの護衛とは、結構なもんだなぁ。」
「ジッダ気が抜けすぎじゃないかね。」
エルロンドの護衛で、ケレブスィールまで行くことに成った私達は、街道を進む。
相変わらず上空には、ライラがずっと飛行している。
次第に交通量が戻って来る街道だが、上を見上げた人間や、エルフたちはやはり森に隠れてしまう。
目の前には、エルロンドの馬、後ろに村人達、その両横にエルフの兵が居る。
真ん中を歩くその一行に、怪訝な目が集まっている。
「ケレブスィールってどんな所なんですかね?」
「街なんて行った事無いぜ。」
「エルフの首都ケレブスィールは、世界樹に守られた街なんです! 人間には負けちゃいましたけどね…」
サエルミアが、アズラとミズラに話をしている。 エルフの兵に囲ってもらっているので、皆で先頭を歩いて進んでいく。
「世界樹なんてのがあるのかねぇ。」
「はい! 世界樹の中にお城がありますよ。」
「主様の木と同じでしょうか。」
「主様? ですか?」
ススカにある主が生やした木と同じような感じだろうか、中に兵が入れたはずだ。
カレンが主の話をサエルミアにしている。
そう言えば主は元気にしているだろうか。 どちらかと言えば私の方が心配されていそうだ。
皆の顔が見たくなってくる。 でも今は近くに居る私の村人達が先だ。
ゆっくりと、皆で話しながら街道を歩いて行った。
相変わらずの森の中にある道の風景、道の先は曲がっていてゴールが見えない。
もう、空の太陽が西の山に差し掛かろうとしている。 夜までには着くような話をエルロンドはしていたのだが。
急に嫌な存在が近づく。
「カレンさん? どうしたんですか!?」
カレンが急に上空へ飛びあがった事に、カレンと話をしていたサエルミアが声を上げる。
その声に、後ろを振り向くエルロンドとオルガ、彼等は何が起こったのか分からないようだ。
カレンは一瞬でライラの前に飛び上がると、その存在からライラと子供達を守るように、鎌を構える。
「アズラ、ミズラ、後ろ行くのさ。」
「セリカ殿、どこへ行かれるのか?」
アズラとミズラは飛んでそのままキャラバンの後ろまで飛んでいく。
「あの存在は、勇者だねぇ。 狩りに来たんじゃないのかねぇ。」
「勇者だと申したか!」
「勇者が前線を捨ててこちらに来たのですか!?」
笑いながら話す私に、エルロンドとオルガが顔をこわばらせる。
「北に居る奴とは少し違うねぇ。」
ライラと模擬戦闘した時の存在とは少し違うそれ、感じたことの無い気配。
エルロンドが後ろを振り向いた事で、兵が止まってしまっている。
「あんたらは動き続けるのさ。 ここは私達がやるのさ。」
「しかし、セリカ殿、勇者ですぞ。」
「これは魔界の龍じゃ、勇者に負けるとか気にせんと、さっさと言う事聞かんか。」
「龍!?」
「いいから、はよ兵を動かすんじゃ!」
サエルミアとエルロンドが言い合いを始める。
前を向いて歩きだすエルロンドと兵に私も後ろへ向かった。
高速で動く存在、その割にもう一個嫌な存在。 聖女の存在。
その周りに20人程度の普通より少し大きい存在がある。
街道の他の連中は気付いていない、いつもより少し少ない交通の道を私達を邪魔そうに、馬車が駆け抜けていく。
「ドラゴンだ! こんな所で倒せるなんてラッキーだぜ!」
「下にエルフの兵よ、ラッド。 あれが命令された奴よ。」
「命令なんて、後だキキ。 雑魚なエルフなんか後だ。 ドラゴンの方が先だぜ。」
「また体が動かなくなっても知らないからね。 私は下を先にやるわ。」
「おうキキ全部連れて行けよ。 ドラゴンは俺がやる!」
「私の魔法で飛んでるんだからね。 ちゃんと下に戻ってきてよ。」
「キキだって、力"B"だっただろ、俺のバフ掛かってるんだ"A"だぜ、負けねぇよ。」
「アハハ! そうだったわね!」
上空で話している勇者と聖女。 声が頭に響いて来る。
勇者は剣と聖女は宝石のついた杖を相変わらず持っている。
やはりプロトン人のような見た目の彼等、金髪青目白肌、白銀の鎧な勇者と、真っ白なローブ姿の聖女。
勇者は上空を、聖女はキャラバンの最後尾、私とミズラとアズラが居るほうへ向かってくる。
「ドラゴンなんて、俺にかかれば一発だぜ!」
上空で先に勇者がカレンと、ライラに向かって突っ込んで行った。
私の前には戸惑う街道の馬車たちを無視するように降り立つ聖女。
同時に、獣人やエルフ、ドワーフの様な彼等が異種族と呼ぶ人種が多数と、数人の赤い髪の男が降りてくる。
真ん中に聖女、ニヤついた顔。 その後ろの一緒に降りて来た20人は全くの無表情だ。
アズラとミズラが杖と鎌を構える。
「何か用かねぇ? エルフは私達を連れて行ってくれるのさ。 邪魔しないで欲しいのさ。」
「邪魔するって? 馬鹿じゃないの? エルフは皆殺しなのよ! 聖女の私とやると、かわいそうだから、こいつらを先に使ってみるわ。」
聖女の後ろに居た20人が前に出てくる。 街道に押し並ぶように出てくる無表情達。
手に剣や、斧を構える。 胸と腰に布を巻いて、布の靴を履いた集団。
その中に大剣を持ってる奴が居る。
白い短髪のウサギの耳が生えたパープルの目をした獣人の女。 白いその肌は薄汚れが良く目立つ。
私と同じ大剣、それが気に成った。
ゾロゾロ歩いて来るその集団。 依然顔に表情は見られない。
「アズラとミズラ、私はあのウサギ耳良いかねぇ。」
「セリカ、任せとけよ!」
「セリカさん、わかりました!」
アズラとミズラが、私の後ろから前に飛び出て行った。




