人間界 セリカ編 19
真っ白な壁真っ白な天井、赤い絨毯。
今日もその上を歩いて王の元へと向かう。
相変わらず窓からは第三召喚所の穴が見て取れる。
修理は簡単には進まない、異種族からの協力が得られない。 この国は嫌われすぎていた。
「カッサス大臣、お勤めご苦労様です!」
いつもと変わらぬ挨拶をしてくる門兵。 彼は悪くないが彼の声を聞くとここに来たんだと痛感させられる。
依然悪魔の行方は分からない。
第三召喚所が破壊されてから、多く問題が起きている。
西で龍が出たとか言う、おとぎ話のような話。
それはまだ良い。 西方巡回軍がそれに全滅させられたという。
意味が解らない。 ロドス大将率いる西方巡回軍、一番実践に疎い部隊ではあったが全滅とは。
更に悪い情報は重なる。 旧エルフ国までの街道にある関所がドラゴン共の襲撃を受けて壊滅。
旧エルフ国に派遣している武官フロイドが殺害された。 そこに派遣してるプロトン人兵士の半分も一緒に死んだ。
依然として進まない竜の国への侵攻。
ココまで悪いことが重なったのは始めてだ。 快進撃を続けて来たプロトン我が国家、最後の最後で詰まってしまっている。
気が重いが、この扉を開けない選択肢は無い。
何も言わない門兵を横目に、扉を開けた。
「カッサス軍務大臣、来られるのが遅いのでは?」
細身の男、内務大臣のボルテウスが扉を開けるなりこちらを向いて話してくる。
嫌みな男だ、誰が税を巻き上げていると思っているんだ。
その横に見知らぬ男が一人、杖を持った太ったローブ。
あれが噂の新しい魔法大臣か。
左に内務大臣 右に魔法大臣
真ん中に赤い絨毯、その先に少しの階段、そして国王。
その姿はいつもと違い、椅子から身を乗り出している。
「カッサス、どうなっている。 余も聖人では無いぞ。」
回りくどい言い方をする。 怒っているのだ。 そんな事は解っている。
「国王陛下に申し上げます、 西方巡回軍は全滅。 一人たりとも生きていないとの情報。」
「本当に全滅したのですか? また予算が!」
ボルテウスが大げさに顔を手で覆う。
「街から見ていた住民によると、原因は龍だとされます。 その後、龍の姿は確認できておりません。」
「お前も龍だというのか。 おとぎ話からまだ進まんのか。」
「それ以上の状況については、調査中にあります。」
ここまでは昨日話した事と同じだ、ここから重ねなければ成らない。
「速報で2件ございます。」
「ほう、良い知らせだろうな。」
「残念ながら…… 旧エルフ国の領内にある関所の一つがドラゴンによって破壊されました。」
「関所が破壊されただと! 勇者は何をやっておるのだ!」
「前線から離れられぬかと存じます。」
「そこを抜かれるな。 と言っておるのだ。」
声がどんどん荒くなる国王、体がどんどん前に出てくる。
内務大臣は喋らない、雰囲気が悪く成ったら黙る。 そういう男だ。
「その対策については別途申し上げます。 さらにエルフで1件、派遣武官が何者かによって殺され、同時に駐屯兵の半分が全滅。 これについては調査中であります。」
黙り込む国王、机のひじ掛けを掴む手の血管が浮き出ている。
「エルフを絶滅させろ。 すぐにだ。 見せしめにしろ。」
またこの男は滅茶苦茶を言い出した。 その口から言うのは容易いが10万は下らないエルフ。
それを絶滅させろと無茶を言う。 死霊族とは数が違う。 しかし王命には逆らえない。
「横から申し訳ないのですが、陛下あれが使えます。」
「サキラズマ、あれの楔は終わったのか?」
「陛下先、先ほど完了いたしました。 あれの能力です少し異種族をお借りしたく。」
「かまわん、エルフを全てやった後に、そのまま北へ向かって忌々しいドラゴン共を駆逐しろ。」
「御意に。」
ローブの男、新しい魔法大臣のサキラズマという男は、そのまま謁見の間を出て行こうとする。
「軍務大臣初めまして、貴方の尻拭きは私が致しましょう。」
去り際に顔も見ず過ぎ去って行くサキラズマ。 こいつも嫌みな男だ。
あれ、うわさに聞く新勇者が行くのか。 詳しくは知らない。 私は今立場が無い教えてもらえないのだ。
「カッサス、お前は第三召喚所の復興には、もう関わらんでいい。」
元々魔法大臣の仕事だ。 あいつにやらせるのだろう。
「聖剣の作り手が見つかった、奴を牢に入れておる。 奴に聖剣を作るようにさせい。 第三召喚所の新しい召喚陣とその聖剣でドラゴン共を根絶やしにしてやるわ。」
「この城の地下牢ですよ。 カッサス大臣。」
「御意に。 続きまして竜の国の侵略状況を……」
そこからは同じことを繰り返す。 停滞その状況を表すのに幾つの言葉を使っただろうか。
ライラに乗って、アズラを抱えながら皆の元に帰る。
ドラゴンの飛行は思ったより静かだ。 風の音も聞こえない。
魔力で外を覆っているライラ、私達を気にしているんだろうか。
「ドラゴンってのは、何で人間と争ってるのさ。」
「私の聞いた限りでは、人間が一方的に攻め込んできたと聞いています。」
首を少しこちらに向けて、黄色い目をこちらに向けてくるライラ。
「どこも同じだねぇ。」
「ドラゴンは元々あまり干渉する種族では無かったのです。 それを人間が来た事であんな国に。」
「あんなって何なのさ。」
ドラゴンの事を話してくれる。 卵から生まれる彼等、マザーと呼ばれるドラゴンしか卵を産まない所属なのだそうだ。
大きなカレン程の大きさのドラゴン、あれがマザー。
火や氷、毒、ライラのような雷の属性ごとにマザーが居る。
人間が攻め込んで来てから突然生まれた、ホーリードラゴンと呼ばれるドラゴン。
ゴッドと自らを名乗るそいつがマザーを束ねて今の状況を作ってしまう。
親しみを持って接していたマザーはいつの間にか兵を量産し、使えない物は処分するだけの存在に成った。
あの大きなドラゴンはそれなりの存在があった。 あれが戦えば勇者なんてすぐに終わるのではと思ってしまう。
「マザーってのがやれば勇者なんて、すぐじゃないのかね。」
「マザーは聖域を出れません。 出れば普通のドラゴンに戻ってしまいます。」
その結果があの地域だけ永遠に戦い続ける事になっているのだとライラは説明してくれた。
「ここどこなんだよ!」
「アズラが戦ってたドラゴンの上なのさ。 これで毎日訓練できるのさ。」
「ライラです。 アズラよろしくね。」
「ドラゴンの上って…… あんな事毎日やるのかよ!」
「そうなのさ。 毎日やればアズラも満足できるのさ。」
肩に担いでいたアズラが目を覚ます。 ライラの背中に居る風景に突っ込んでいたアズラだったが、今は毎日の訓練の方が心配な用だ。
大丈夫だ死にはしないさ。
空が暁色に染まって、朝が始まろうとしている。 今日はあの列を超えて、ケレブスィールに着けば良いが。
関所が見えてくる。 大きな木の森の中にあっても、人工物は上から良く目立つ。
上から見ると街道の馬車や人の列は無く成り、速いスピードで流れている。
ライラに乗ってきたのに、関所の塔に駆け上がる人間も居ない。 何か妙だった。
関所から少し離れた所に、流れをせき止めるように止まっている私達のキャラバン。
その横にもう一列茶色の兵隊が並んでいる。
「このまま、向かっても良いですか?」
「何かおかしいのさ。 カレンの真横に降りてほしいのさ。」
「大丈夫なんですか? 殺されません?」
「大丈夫なのさ、気付いてるのさ。」
キャラバンの中の大きな存在、カレンの存在が、一番前に居てこちらを見ている。
私の存在にも気付いているはずの彼女は、顔を向けているだけだった。
ゆっくりと降り立つライラ。 そのドラゴンの登場に街道はパニックに成る。
流れていた馬車や人はその周辺から逃げるように方向転換していく。
変わらず進む獣人の馬車と、引き返す人間の馬車が激突し、その道を更に渋滞させていた。
「セリカ様、お帰りなさいませ。 大きなお土産をお持ちですね。」
「あの時のドラゴンさんなの… 」
「セリカさん、ドラゴンに乗って帰って来るのカッコいいです!」
「今度はドラゴン連れて帰ってきたぞ。 毎日飽きないなお前等。」
「ドラゴン!! 兵共武器を持つな!」
「将軍命令だ! 武器を持つな!」
カレンとサーシャは手を繋いでエルロンドと呼ばれていたエルフの前に立っている。
その横にジッダ。 頭を抱える彼に何かあったんだろうか。
村人は馬車に乗って固まっている。 馬車を引っ張っている馬たちも固まってしまっていた。
茶色の鎧を着た兵も動かない。 ずっと気を付けの恰好でそのまま固まっていた。
「戻ったのさ。 遅くなってすまないねぇ。」
ライラの頭に飛び移って、立ちながら皆に手を振る。 カレンとサーシャとミズラは手を振って返してくれた。
街道の横の森にその胴体を窮屈に押し込みながら降り立ったライラは、頭を下げて私を降ろしてくれる。
目の前にカレン達が居る街道。 アズラはライラの背中から飛んで降りて来た。
「ライラって言うのさ。 アズラとミズラの訓練相手にと思ったのさ。」
「私とアズラのですか? ありがとうございます。」
「俺は勝ったぜ。 ミズラ。」
腰に手を当てて威張るように言うアズラ。 倒れてたのは内緒にしてあげよう。
二人で何やら言い争いを始めるミズラとアズラ、アズラの元気が戻ったようで何よりだ。
「セリカ様、それは食べるのですか?」
「ドラゴンって食べれるの?」
「昔は良くドラゴン肉ってのが出回ってたねぇ。」
皆が食べるのか。 聞いて来る。 ベルゼブブもそういえば食べていた。
「ライラは美味しいのかね。」
「セリカ様! ご勘弁ください…」
大きなライラの目がウルウルしている。 ちゃんと聞かないと。 結局私がやる事に成るけど良いか。
「ライラも一緒に行きたいっていうのさ。 でも皆の誰かが嫌といえば置いていくのさ。」
「昨日は何も知らず皆様には失礼を致しました。 ライラと申します。 皆さんと一緒に行かせてください。 お願いです。」
ライラの目が真剣な目に変わる。 縦長い瞳孔が細く成って、顔を地面にさらに埋める。
土が負けて周囲が盛り上がる。
「セリカ様がおっしゃるなら、私は構いません。」
「セリカが良いなら良いぜ!」
「私もセリカさんが良いなら良いです。」
カレンとミズラ、アズラはすぐに返事をしてくれた。
「ドラゴンですか…」
サエルミアが呟くだけで他の村人は何も言わない。
サーシャは少し覚えてしまったのか、カレンの腕に抱き着いている。
周りをキョロキョロ見渡すジッダ。
「ドラゴンは昔、良く手伝ってくれたのじゃ。 私はええと思うぞ。」
芋をかじりながら話すミカエラ。 その言葉に誰も反応はしなかった。
列の後ろの方から歩いて来るゾーイ。 小さな足でテトテトと街道を歩いて来る。
何も言わずにライラの方に向かうゾーイ。
「ゾーイちゃん!」
時間の戻った母親のエミリーが後ろから叫んでいた。
それを無視して進むゾーイは、ライラの顔の真横までくると立ち止まってその顔を見上げる。
目の前には大きなライラの顔と、目。 その目がゾーイを向いていた。
「もう、ブレス吐いてこない?」
「えぇ、貴方達には吐きませんよ。」
「触っても良い?」
「構いませんよ。 鱗の端っこだけ尖っているので注意してください。」
「うん。」
ゾーイがライラに小さな手を当てる。 鱗一枚より小さな幼女の手。
「スベスベだぁ。」
ゾーイは手でペタペタと鱗を何回も触る。 その様子に他の子供達も馬車から飛び出してくる。
「ドラゴンだ! すげぇ。」
「ねぇ、飛べるの?」
ゾーイを含めた5人の子供達がゾーイと同じように、ライラの身体をペタペタ触る。 最初は心配そうにしていた村人達も次第に顔が緩んで行った。
「乗りますか?」
畳んでいた羽をゆっくり地面に降ろすライラ。 その羽をスロープにして、子供達皆が昇っていく。
頭から尻尾まで生える背中の棘に捕まって遊ぶ子供達。
「サーシャちゃんもおいでよ。」
「うん!」
頭まで来たゾーイがその上からサーシャに声を掛ける。
少し怯えていたサーシャは、その風景を見てか、一緒にライラに昇って遊び出した。
「とりあえず構わないかね?」
「あぁ、子供が良いならいいんじゃねぇか。」
ジッダがその風景に顔を緩ませて言う。 誰も何も言わない。
ライラはとりあえず受け入れられたようだ。
「ライラは飛べるの? 飛んでみたい!」
すっかり元気になったサーシャがライラの頭の上からライラに話しかけている。
私を見るその黄色い大きな瞳。
「あんまり遠くに行くんじゃないのさ。 撃ち落とされるかもしれないのさ。」
「セリカ様、少し行ってまいります。 皆さん背中に集まってくださいね。」
「うん! 皆お空に行けるよ!」
ワイワイ背中で騒ぐゾーイやサーシャ達の声が聞こえる。
「落とさないようにしなさい。 ライラ。」
「カレン様、かしこまりました。」
ライラは頭をあげて、羽を広げる。
羽を広げると30mに成るライラ。 大きな体に小さな人間が背中に5人。
「ちゃんと背中の棘に捕まっててくださいね。」
ライラが自分で背中に魔力を纏わすと、ゆっくり羽を羽ばたくて、そのまま上空に上がって行く。
小さく見えるように成ったライラは上空で円を描いて飛んでる。
「私も乗ってみたいなぁ。」
サエルミアが上を向いて呟いていた。




