人間界 セリカ編 18
何もない荒野、そこにアズラと黄色いドラゴンが1匹。
少し遠くで見守る私、アズラの存在の大きさなら余裕のハズのそのドラゴン。 その行方を見守る。
ドラゴンがアズラの真上に飛び上がり、ブレスを打とうと口に魔力を溜めてそのまま真下に急降下する。
アズラはそれに対応するために、杖をドラゴンの口に向ける。
二人が同時に魔力を打った。
黄色い雷のブレスがドラゴンから。 グレーの細い線がアズラの杖から。
上空で交わったそれは、グレーの細い線がブレスを貫通して、そのままドラゴンに向かう。
急降下してきているドラゴンが目を見開いて、ギリギリアズラの攻撃を避ける。
「なんなのですか、この人間。 私のブレスを打ち抜くなんて……」
「俺の魔法があいつのブレスを打ち抜いたぞ……」
二人して、止まってしまうその戦闘。
「止まってるのさ。 やる気ないのかねぇ。」
先にドラゴンが動いた。
また急上昇すると、ブレスを何発も違う場所からアズラに撃って来る。
それに対応するアズラは、杖から1発1発グレーのレーザーで打ち消す。
10発は撃たれたブレス。 丸い形をした黄色い魔力の塊はグレーのレーザーに撃ち抜かれるが数が多い。
何度も何度も打ち続けるアズラ、やっとそのブレスを消し終わった。
急降下してきたドラゴンが尻尾をその勢いのままアズラに向けて打ち付ける。
飛び退くアズラは少し体制を崩してしまった。
それをみたドラゴンは、そこにまたブレスを何発も撃って、それにアズラが対応する。
そんな戦いが、目の前でずっと続いていた。
アズラも、ドラゴンも真剣に対峙しているように見える。
周辺の何もない音の中に、その戦いの音だけが響いていた。
「なんなのよ。 この人間。 全然仕留めきれないじゃない! 一発でやってやるんだから!」
動きが鈍く成ってきたアズラに、ドラゴンは、飛び回りながらブレスを口に溜め始める。
ドラゴンの口の中で丸く徐々に溜まる魔力は、アズラのレーザーの一発の魔力を超え始めていた。
アズラもそれを感じたのか、焦って灰色のレーザーを連発する。 尽く避けられるレーザー。
ドラゴンが遂に溜めたブレスをアズラに向けて放出した。
一瞬ドラゴンの口が、光が爆発したように明るくなる。 そこから放たれた白くなったブレスは、アズラの背丈より大きい。
アズラは、灰色のレーザーを打ち反撃するも、黄色いブレスに呑まれてしまう。
咄嗟の判断で横に飛び退いたアズラ。
地面に穴を開けるドラゴンのブレス、えぐれた地面が直撃を逃れたアズラに当たってしまう。
地面に転がるアズラ。 ドラゴンは相当消耗した様で、追撃をしてこない。
「クソッ、俺だって役に立ちたいのに……」
杖をついて、やっと起き上がるアズラ。 地面の欠片を受けた右肩のローブから血が滲み出ている。
「まだやるのですか。 人間の癖に!」
ドラゴンがもう一度上空に上がって、口を開けた。
下を向いたままのアズラ。
ここで止めようか、そう思った時杖の上に魔力が溜まり始める。
ドラゴンはまた、口にブレスを溜めて垂直に落下してくる。 羽を閉じて一直線に成った体は、アズラに迫る。
アズラの杖から、魔力が放たれた。
「何回も同じ事やっても一緒よ! 高い魔力ばっかり撃ってきて当たらないわよ!人間。」
真っすぐにグレーのレーザーがドラゴンに向かう。 それが無数に空を向いて拡散した。
「ちょっと! そんなの見たことないわよ!」
それを見たドラゴンは、羽を広げその範囲から逃げようと進路を変える。
そのまま真横に避けたドラゴン。 アズラのレーザーは当たらなかった。
「小賢しい真似するじゃないの!」
アズラは目を閉じて下を向いたまま動かない。
そこにもう一度強烈なブレスを放つべく口を開けて魔力を溜め始めるドラゴン。
ドラゴンの後ろから、アズラが放ったレーザーが進路を変えてドラゴンに突き刺さった。
羽がボロボロに穴が開いたドラゴンは、背中から衝撃を受けて、弓なりに成って地面に落ちていく。
アズラもそのまま膝を付いてうつ伏せに地面に倒れてしまった。
存在はしっかりある、魔力操作で消耗しただけだろう。
アズラから放たれたレーザーが拡散して曲がった。 少し私もびっくりした。
彼は何か出来るように成ったようだ。
必死に羽をバタバタさせているドラゴンは穴が開いてしまった羽のせいで落下が止まらない。
「足が地面に……!」
地面に大きな足を叩きつけるように落ちて来たドラゴン。
瞬間に周りに白い魔力が現れる。
関所にあったバリスタ、それが10個、人間の白い鎧と共に現れた。
人間が100人ぐらい、バリスタと共に現れる。
弓を引いた状態のそのバリスタ、全てがドラゴンを狙っていた。
「放ててぇぇぇぇぇ!」
剣を上に掲げた一人の人間、それが叫ぶと、バリスタの矢がそのドラゴンに刺ささる。
吠えるドラゴン。 五月蠅いとカレンに言われた時と同じように顔を上に向けて叫ぶ。
鱗を貫通した矢はそこから血が飛沫の様に出てくる、徐々に弱くなるドラゴンの咆哮、羽が胴が地面につく。
「クソッ! 人間共がぁ!」
頭も地面に着いて、へばりついたように動かないドラゴン、口からブレスを出そうと魔力を溜めるも、その魔力がすぐに収縮してしまう。
バリスタの矢を補填して、弦を引いている人間の兵士達。
その遅い動作を前にドラゴンは身をよじるだけで動けない。
「助けてほしいのかねぇ?」
現れた人間の後ろに居た私。 あの魔力の感じはススカに来た勇者と似たような感じだ。
何かされているのだろうと、ドラゴンに聞いてやる。
ドラゴンより前に、声に気付いた人間の兵士達が先に喋った。
「異国人がこんな所で何をしている!」
「おい、あれ上玉じゃねぇか、中隊長。 どうせドラゴンはこのままだ、先にアイツ捕まえましょうぜ。」
「ずっと、戦場生活なんだ。 異国人ぐらいいいだろ。」
「久々にドラゴン落としたんだ、褒美ぐらい貰わねぇとな。」
興味を完全に私に移した白い鎧達。 兜を取ると皆プロトン人の特徴。
それが私に向かって進んで来る。
「邪魔しないでくれるかねぇ。 今訓練をしてただけなのさ。」
「訓練だと? ここは戦場だぞ。 異国人が戦闘ごっこする場所じゃ無いんだよ!」
皆、笑うプロトン人の兵士達。 中隊長と呼ばれた男がにやけ顔でこちらを見てくる。
「お前、一緒に来い。 可愛がってやるよ。」
剣を向いたまま此方に歩いて来る中隊長。
その後ろから灰色のレーザーがそれを打ち抜いた。
「なんだ? どこから来た?」
アズラが真上に放ったレーザーが角度を変えて、10人ほどの人間を射抜いた。
それに気付いた人間達、私を無視して、アズラの方を向く。
「へへ、コツを掴んだぜ。 どんなもんだい。」
杖にしがみ付いてやっと立っている状態のアズラ、またうつ伏せに倒れる。
「異国人がぁぁ!」
殺到するプロトン人の兵士達。 私は大剣を抜いた。
布を吸わせて、露に成る大剣、その剣先をプロトン人共に向けてレーザーを放つ。
分かれる赤いレーザーは、私の目の前に居た人間全てを射抜き溶かした。
バリスタも同じように射抜くと赤く溶けて地面がグズグズに成っている。
アズラがしたやつを試した。 見ただけだが、なんとなくやってみたら出来た。
目の前には地面に血だまりを作って伏しているドラゴンと、うつ伏せのまま動かないアズラだけの風景に戻った。
アズラを担ごうと動くと、足の裏に少し違和感を感じる。 あの勇者の魔力。 それが私の足にもへばりつく。
簡単に切れるそれは、どこを歩いても感じるその魔力。
少しうっとおしかった。 地面に私の魔力を注ぎ込む。
赤色が一瞬地面に広がって消える。 そのあと地面にへばりつく魔力は無くなった。
「何をしたんですか! 勇者のトラップを消し去るなんて!」
相変わらず動かないドラゴン、口も動かさずに器用に喋る。
「これがココの勇者の能力かねぇ。 なんだか地味だねぇ。」
そのまま歩いてアズラに近づいて肩に担ぎ上げた。
体に力が入らないアズラは、まるで人形のようにだらんとしてしまう。 唯一右手の杖だけは握られたままだった。
「よく頑張ったのさ。」
アズラから反応は無い。 ただ、少しねぎらってあげたかった。
ドラゴンとの約束は守る、アズラが何かを得たんだ、そいつを治療しろと魔力に訴える。
赤い魔力がドラゴンを包むと、切れた手も元に戻っていた。
「手が戻った! 傷が! すごいわ!」
「約束だからねぇ。 また相手してやって欲しいのさ。」
傷が治ったドラゴンは、すぐに顔を起こして、治してやった手をクルクル動かしている、爪をカチカチ合わせて感覚を確認しているようだ。
そのまま帰ろうと、エルフの国の方を向いて飛ぼうとする。
「ちょっと待って!」
ドラゴンに声を掛けられた。
「私も連れて行ってくれませんか、龍様。 一度失敗して先兵にさせられて死ぬだけなのは嫌です。」
「先兵? 関所を簡単に落としたのにあんたが死ぬとかあるのかね。」
「勇者が居るこの戦地だけは別です。 戻っても殺されます。 ファブラもボドラも……」
荒野の奥を見るドラゴン、さっき地面に火を吹いていたドラゴンが大量に押し寄せるバリスタの矢に羽を射抜かれ体勢を崩すと、そのまま山へ飛んで帰ろうとする。
山から現れた大きなドラゴン。 カレンぐらいの大きさのそれは、そのドラゴンを巻き込んで巨大な火の玉を人間の兵にぶつける。
消えてしまった小さい火を吹いていたドラゴン、その魂が大きなドラゴンに吸収された。
戻っても殺されると言っているのは、その風景で分かった。 ドラゴンも色々大変なようだ。
練習相手に良いかと思ったが、このデカイドラゴンがついて来るのは問題だと思った。
カレンの気持ちもわからない。 少し悩む。
「何でも致します。 せめてお傍に…… 」
「私の村の人間は襲っちゃいけないのさ。 後、サーシャとカレンを自分で説得するのさ。 それが出来ればかまわないのさ。」
エルフの軍や、プロトンの軍にも手を出した。 今更どうでもいいかと、ドラゴンを連れ帰ろうと思った。
ただ、サーシャやカレン、村人がダメだと言ったらダメだ。 それだけ自分でなんとかするなら良いだろう。
「ありがとうございます、私ライラと言います、龍様。 一度お話させていただけませんか。 その… 青髪の方は私が姿を現しただけで殺されそうで……」
「私はセリカなのさ。 滅茶苦茶怒ってたのさ、カレン。」
笑いながら話すと、ライラの体に力が入る。 踏みつけている地面に足が少し沈んだ。
「私がライラに乗って行っても良いかねぇ。 一緒に居ないとホントに殺されちまうのさ。」
「是非。 セリカ様、よろしくお願いします。」
頭を地面に着けるライラに乗って、皆の元へ帰るのだった。




