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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 16

皆で一緒にお肉を食べて寝てしまった子供達、濡れた草の上で、そのまま寝てしまって居る。


魔力で水を払うと、着ていた服ごと乾いた。


親たちもそのままにしておくようで、私達の周囲には子供達だけが寝ている。



ジッダやミカエラ達は、その様子を見ながら遠くで雑談にいそしんでいた。


気付けば雨が上がって、月が見えている。


街道には依然人の往来は無い。


人間界に大切な物が出来た日だった。






大人たちも寝てしまう。


近くには子供達と、カレンだけ。


アズラとミズラが気を使って今日は私達がと言ってくれたが、瞼をこする姿に断った。


もう丸一日寝ていないが、カレンも私も通常通りだ。


この体は寝なくても良いのかもしれない。


少し子供達から離れて、カレンと並んで座ってお話をする。


カレンは昨日より嬉しそうな顔で、今日の出来事を振り返っていた。





話が魔力の使い方に変わった頃に、街道から音が聞こえる。


少し街道の近い位置で野宿をしている私達、念のために私とカレンの魔力で、その一帯を覆う。


少しは音がましに成るだろう。 その思いからだった。



近づく沢山の存在。 それが街道沿いに歩いて来る。


200は居るであろうその存在は人間とエルフの者だ。


道幅一杯に広がったその集団は私達の方に近づいて来る。


カレンも気付いたようだ。 会話が止まって、同じ方向を見ている。


大きな木を一本だけ挟んだところで野営をしていたので、街道からは私達は丸見えだ。


少しだけ警戒する。



ジャラジャラと鉄の音が大きくなる。 馬の蹄が石を叩く音も混ざって来る。


金属を地面に打ち付ける音。 この前見た軍隊の恰好をした奴らが、街道を歩いていた。


一番前で馬に乗っている茶色い皮の鎧を着た奴はエルフだ。


その髪と目が緑だった。


もう一つ並ぶ馬、そこに真っ白な鎧に身を包んだプロトン人が見える。


腰に刺した剣を抜きいて、ずっとその剣を見ていた。



「フロイド殿、剣を見ておられますが、そんなにいい物ですかな?」


「エルフには解らんのだ。 このドワーフ制の剣の良さはな。

逃げていた伝説剣の作り手が見つかったというじゃないか。 私も一つ作らせたいのだ。」


「そうですかな。 エルフはあまり太い剣は使いませんからな。」


「プロトン人の私だから解るのだ。 何か早く試せんか。」


「ドラゴンが見えたとの報告で来ている、フロイド殿の剣で刺されてはどうかな?」


「そうか! ドラゴンか私に丁度いい。」



前の二人の話し声が聞こえる。


後ろの兵も鎧の色が違う、茶色と白が混ざった兵隊。


それが近づいてきていた。



「止まるのだ!」


プロトン人が手をあげて、私達の前で止まる。


「エルロンド君、彼女達はなんだと思う?」


「何と聞かれましても、人間ですかな。」


「誰も居なくなった街道で突然野営をしているのだよ。 おかしいと思わないか。」


「不自然ではありますが、おかしくは無いかと。」


「おかしいのだ! おい、お前等飼い主は誰だ。」



プロトン人が、私を見て言って来る。 飼い主? そんなもの居ない。


「旅をしているだけなのさ。 飼い主なんて居ないねぇ。」



「エルロンド君、これは逃亡民では無いかな? プロトン人が見当たらないよ。」


「商人かもしれませんぞ。 簡単に決めつけるのはどうかと。」


「逃亡民なのだ! 子供も寝ているでは無いか! 兵共構えぃ!」


エルフの男は、肩を落として下を向いてしまう。



馬車から降りたプロトン人は、私に向かってくる。 その剣をブンブン振り回しながらやって来る。


筋も何も無い振り回しそんな感じだった。


「お前らは犯罪者だ、よく見たら上物の異国人では無いか。 我が使ってやろうぞ!」


高笑いするプロトン人。 その後ろから弓兵が私達を狙っている。 白い鎧だけ。


「私達は旅をしているだけなんだねぇ。 邪魔しないでほしいのさ。」



「邪魔だと! 逃亡民は犯罪者だと、さっきから言っておろうが!」


ちゃちな剣を振りかぶって私に襲い掛かって来るプロトン人の男。


私の前にカレンが入って、鎌の背で受け止めた。


真っすぐ立ったカレンは右手だけを出して鎌を右手で持ち、その剣を受け止めてしまう。



「これ以上何もしないなら、そのままです。 何かされるのであれば……」


「なんだ、私の剣が鎌に負けるわけないのだ。」


両手で必死に剣を握って、鎌を押しているプロトン人の男。 カレンのいう事なんて聞いていない。



途中であきらめたのか、その場で振りかぶって鎌に叩きつけだす。


カレンがこちらに顔だけ向けて私の方を見る。


怖い目をしているカレン。 その目が少し開いた。


何かと思って振りかえると、サーシャが起きてこちらに向かってきている。


テトテトと目を擦りながら歩いて来るサーシャ。



「セリカ、一緒に寝るの~。」


その声に、プロトンの男が気付いた。


「あの子供なら切れるのだ! 兵共こいつの相手をしておけ!」


カレンに弓や魔法が殺到する。


それを薙ぎいて払うカレン。 その横をプロトンの男が走って抜けて来た。



少しイラっとした。 このプロトン人というのは私達の邪魔を何度もする。


そもそも、人間界に来たのも、こいつらが原因だ。


「カレン、そっちをお願いするのさ。」


「セリカ様、かしこまりました。」



「エルフは、何もするな! 絶対にだ!」


大剣を抜いて布を吸わせる。


走ってきているプロトンの男を横薙ぎで真っ二つにする。


何の抵抗も無いそれは、毒で溶けてしまった。


前方ではカレンが、鎌を持って兵の中を駆け抜けている。


矢や魔法は全て鎌で掃って、抜けてこない。 青い髪が兵隊の上で踊っていた。


剣を持った白い兵が動き出す。


そいつらも同じように真っ二つにして溶かす。


1分もかからなかった。 魂は久々に私が貰った。


小さな小さな魂、何の足しにも成らないが、少しだけ満足できた。



「白いのだけにしておきました。」


カレンが戻って来る、カレンが切った白い兵は全て凍って彫刻の様に固まっている。


カレンが指を鳴らすと、崩れる氷の彫刻。



動かない茶色たち。 その前にサーシャだと気をめぐらすと、近くまで来ていた。


「兵隊さんなの?」


カレンのスカートをつまんでカレンの横に立つサーシャ。


片方の親指を口で咥えてじっと兵の方を見ている。



私は、茶色の方を処理する。


馬に乗った先頭を歩いていた奴の近くまで真っすぐ歩く、邪魔なプロトン人の乗っていた馬は片手で掴んで道を開けた。


首元に大剣の剣先を突き付ける。



「何もしないならそれでいいのさ。 帰るか、死ぬか選ぶのさ。」


「我々は何もしない、ただ、関所には行かなければ職務不履行で殺されてしまう。

この先に行かせて頂きたい。」


「そっちの理由は関係ないのさ。 勝手に切りかかってきたのはそっちなのさ。」


前を向いてそのままピクリとも動かないエルフ。 そこで少し黙ってしまう。


答えを急かそうと口を開けた。




「エルフさんは、悪い事してこないの。」


カレンに抱かれたサーシャが言う。 少し気が抜けてしまう。 サーシャが良いなら良いかと思った。


「オルガ!」


「ハッ!」


依然前を真っすぐ向くエルフが大きく叫んだ。


緑髪の鎧の女がそれに返事をする。


細い剣を地面に鞘ごと捨てて、地面に拳を付けて膝を付く茶鎧の女。


頭を下げて、兜を取ると、長い緑の髪が地面に着く。


他の兵も同じように鞘を捨てて、地面に拳を付いて兜を脱ぐ。



カレンは冷たい目でそれを見ていた。



「サーシャに感謝するのさ。 ただ、他人には言わない事なのさ。」


大剣を背に直す、男はそのままの姿で動かない。


「感謝する。 一つだけ良いだろうか。」


「なんなのさ。 さっさと行くんじゃないのかね。」


「どちらに向かわれるのか。 礼が出来るかもしれん。」


「礼? 何かくれるのかね。 ケレブスィールって所なのさ。」


「オルガ。 許可書だ。」


最初に膝を付いたエルフの女が、鎧の中から紙を出して、こちらに持ってくる。


それをじっと見ているカレンの目は見る物を凍り付かせるように冷たい。


脚が震えているエルフの女。 なんとかこちらにたどり着くと、また膝を付いた。



「通行許可書です。 お納めください。」


「紙かね。 何なのさ、これ。」


「旧エルフ国内の通行書だ。 街に入る度にこんな手間を取らないですむ。」


「私はどっちでも良いがねぇ。 貰っとくのさ。」


「邪魔に成れば捨ててもらえば良い。 それでは失礼する。」



エルフの男が馬の腹を蹴る。 何度か腹を蹴ると、馬が歩き出した。


「敬礼!」


剣を持って腰に刺した兵が、右手の拳を左手に当てると、馬と同じ方向に歩き出す。


サーシャがその敬礼を真似してる。



「もう朝なの。 またお芋食べるの?」


空が明るくなっている。 村人はまだ誰も起きていないようだ。


魔力の中は外の喧騒も聞こえなかったのだろうか。



進む兵士を横目に、3人で朝の献立を話し合いながら、消えてしまった焚火の元へ向かうのだった。

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