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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 15

周りの森は黒く焦げて焼けてしまっている。


関所があった場所は、木の残骸しか残っていなかった。


破壊された門がこちら側に倒れているが、半分以上を焼けてしまっているその門はまだ燃えていた。


街道は半分以上が石が剥げて、ドラゴンを叩いた時に出来たクレーターが良く目立つ。


所々に燃えている馬車がまだ残っていた。


森は黒く焦げて、その奥から火の手が上がっているのが見える。


カレンの魔力の外は、来た時と大きく姿を変えてしまった。


空も赤い、結局一日関所で待たされたのだ。



カレンの魔力の上に浮いている私の肌に水が当たる。


急に赤い空が真っ暗な雲に覆われて、水が降り出した。


空から降り注ぐ水は、周辺の馬車や森に降り注ぎ、音を立てて地面を叩いていた。




「セリカ様、申し訳ありません。 私がほとんどやってしまいました。」


「かまわないのさ。 急に襲ってくるあいつ等が悪いのさ。」


下に降りると、いつもの調子に戻ったカレンが話しかけてくる。


怒ったカレンを見たのは初めてだった、白斧の時と違う雰囲気。


私もあんな感じに見えているんだろうか。


また少し村人達との関係がおかしくなりそうで、少し怖くなる。



カレンの魔力は空から降る水を防いでいた。


「雨だねぇ。 いいタイミングで振って来るのぉ。」


ミカエラがサーシャを抱きかかえたまま、空を見ている。


その抱えられたサーシャは怯えた顔をそのままにしていた。


空から降る水、雨の叩きつける音だけが聞こえてくる。


そこに足音を鳴らして、私はサーシャに近づいた。


横に居るサエルミアも、顔が少し怖い。 何も話さない彼女は、体を震わせていた。



「怖い思いをさせてすまなかったのさ。 逃げればよかったのさ。」


「逃げても焼けてたのじゃ。 あんたらのお陰じゃよ。」


ミカエラが、サーシャの頭を撫でる。 目から急に出てくる涙。


顔をくしゃくしゃにしてりまう、サーシャは泣き出してしまった。


他の村人が黙り込む中、泣き声と雨が地面を叩きつける音だけが響く。



「あのね。 あのね。 セリカとカレンが怖いんじゃないの。 わかってるの。 でもね。 体が震えるの。


勝手にこんなに涙が出てくるの。」


泣きながら嗚咽を吐いて必死に言うサーシャ、どう対応したら良いか分からなかった。


ドラゴンが怖い、その後の私達が怖かったのか。 わざわざ口に出すんだ、そんな気がした。


龍の姿とは違う、この姿の私達が怖かったのか。



後ろから飛んで来たアズラとミズラは、空気を察してか、ミカエラの馬車の後ろで浮いたまま動かない。


カレンも困った顔をしている。


私もなんて言ったらいいのか分からない。 どうすればいいか本当に解らなくなった。



ミカエラが、手をこちらに寄るように振っている。


わざわざ手をサーシャに見えないように、背中に回しながら。


サーシャに近づく、まだ泣き止まない様子のサーシャは、真っ赤にした目から溢れる涙を指で必死に拭っていた。


ミカエラがサーシャを抱きかかえていた腕をほどいた。


小さな手で、ミカエラの服を力いっぱい握りしめた手は、固く服を離さない。



出来る事は一つしか思い浮かばなかった、ミカエラからサーシャを預かって、腕の中に優しく抱きかかえる。


私のジャケットの袖をつかんだ小さな手は、白くなって力が入っているのが解る。


顔をお腹に押し付けたサーシャ。 体の震えが私に伝わる。


お尻に、背中に回した手がそれをもっと敏感に伝えてくる。



顔を見て話そうと思った。


私に押し付けている顔を、背中に回している手をほどいて顔の下から、優しく顔を持ち上げる。


目を真っ赤にさせたサーシャの顔、



「怖い思いをさせたのさ。 ちゃんとここで、約束をするのさ。 私達はサーシャを守るのさ。」



「うん。」



次第に、泣き声が弱まっていくサーシャは、そのまま腕の中で寝てしまった。


そのサーシャを優しく抱き続ける。



「本能がおそれるのじゃ。 子供は特に敏感じゃのぉ。 私は枯れてしまって居るがの。」


ケラケラ笑いだすミカエラ。


ミカエラに助けてもらった。 そんな気に成った。



「私も、きちんと話をしないといけませんね。」


寝ているサーシャの上に手を載せるカレンは優しい顔をしていた。



「こういう時どうしたら良いのか分かりませんでした。」

「俺も全然わからないぜ。」


私に寄ってきた、ミズラとアズラも優しい顔でその風景を見ていた。



動き出した村人達、私とカレンで、一人一人に声を掛ける。


ゾーイた他の子達も怖かったようで、泣き顔の子が多い。


一人一人に約束をしていった。



雨が降り続く中、サエルミアだけ雨に濡れてなにやら地面を漁っている。


「セリカさん、この牙と爪持って行きたいです!」


カレンがドラゴンを殴りつけた時に取れた牙と爪を刺して、こちらにアピールしている。


「そんなの持って行ってどうするのさ。」


「加工するんです! ドラゴンの牙と爪ですよ!」


「ギルドで売りゃぁ、1個500金貨はするだろうな。」


前に戻ってきた私達に付いて来たジッダが500金貨と言っている。


結構高いのか、鹿よりは高いみたいだ。



「牙は無理ですが、爪ならいくらでもありますよ?」


カレンが爪を伸ばして、根元から切る。


切った所がすぐに元に戻った。


私も同じ事が出来る。 爪を伸ばすと、ジッダがそれを興味深く見ていた。


魔力で切ると、また戻る爪。 白い爪に毒は無い。


「そんな簡単に…… でも、あれも持って行きたいです。」


「どこかに詰めたらいいのさ。」


「ギルドのに載せるか?」


「アズラとミズラに頼むのさ。 積んだらまた出発するのさ。」


もう空が薄暗い、ここでこのまま野宿は出来ないだろうと思って、少し進むことにする。


アズラとミズラは身の丈の半分以上ある牙と爪を軽々持ち上げて、ギルドの馬車に載せていた。


その様子にジッダがまた目を丸くしていた。



いくつかの小さなクレーターを避けて、破壊された門を抜けると、ドラゴンの足型が残っている。


緑が残したその足跡に、水が溜まっていた。


それを無視して踏みつけながら進むキャラバン。 カレンの魔力はそのまま覆っていて、足元だけが濡れている。


完全に暗く成った道を、指に火を起こして進む。


広い街道には誰も通っていない。 不気味な景色。



両側の森の木が突然大きく成った所で、その木の葉によって雨がすこしマシに成った。


弱まった音を聞いて、今日はココで野営をするんだと決める。



今日はアズラとミズラが雨の中、牛を見つけて来た。


1匹づつ背負ってきた彼等を乾かしてから、木をカレンに用意してもらって、火をつける。


その肉を火に入れている時、サーシャがやっと起きた。



いつもの顔に戻ったサーシャは、自分で顔を上げて私の方を見てくる。


茶色い瞳と私の目が合う。



「セリカ、おはようなの。 セリカ暖かいの。」


「おはようなのさ。 よく眠れたかね。」



いつもの顔に戻ったサーシャ起きた事を察知したカレンがこちらに寄ってくる。


私はカレンにサーシャを渡した。


嫌な素振りも無く、カレンに渡ったサーシャ。


「私もサーシャにきちんと言わなければなりません。 誓いましょう、貴女が危ない時に私も貴女を守ります。」


「うん。 私もごめんなの。 これからもよろしくなの。」


カレンの胴に抱き着くサーシャにカレンは幸せそうな顔を見せる。


「俺もさ、守れるように頑張るよ。」

「私も、もっと強くなりますからね!」


ミズラとアズラが寄ってきて4人でサーシャを囲う。 辺りを見回したサーシャは「うん。」とだけ笑顔で答えるのだった。



「セリカ。 私も抱っこしてほしい。」


スカートのすそを引っ張るゾーイ。


「かまわないのさ。 これで良いかね?」


「暖かい。 セリカ暖かい。」


同じようにゾーイを抱きかかえる。



「私も~」

「俺もやってよ!」


村の子供達が寄ってくる。


脚を昇ろうとして来るサーシャぐらいの子供達。


「なんだね、ちびっこ共が、私を昇れるのかね。」


その子供たちに、カレンと一緒に玩具にされる。


「私達の龍様は子供のオモチャじゃ。」


ケラケラ笑うミカエラ近くで、大人たちも笑顔で私達の方を見ている。


髪の毛はグチャグチャに成ってしまったが、それでも嫌じゃなかった。

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