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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 13

エルフのサエルミアは、ミカエルとサーシャの馬車に乗っている。


平たい馬車、床に腰を下ろし、白い肌の足は宙を浮いてぶらぶらしている。


キャラバンは大穴を左手に見ながら、北西へ進んでいく。


カレンが消火した後の森は凍ってしまって、土がむき出しになって、大穴の向こう側がずっと見えている。


空が赤く成り始めた。 向こうから見える場所での野営は避けたいとのジッダの意向で森に隠れる所まで進んでいる。


カレンとミズラは、夜ご飯を探しに飛んで行っている。 今日は何の肉だろうか。


ゾーイから貰った芋も美味しかったなぁ。



「サーシャちゃんはもあんなに強いの?」


「サーシャはあんな事出来ないの。 セリカとカレンはめちゃ強なの。」


「そんなに凄いんだ。 あの剣でバッタバッタ倒す感じ?」


「ちがうの、お口からバァァァって光を出して、こんな風にするの。」


「こんな風って横のこれ?」


「そうなの。 これセリカがやったの。」


「彼女達は龍なのじゃ。 エルフの小娘怒らせるでないぞ。」


後ろでサエルミアとお話しているサーシャとミカエラ。


「こんな事できるのって…… 龍? おとぎ話の龍?」


「そうじゃ、龍じゃよ。」


サエルミアが左横の大穴を見ながら固まってしまっている。


私も細かい魔力調整を練習しないと。 さっきから歩きながら手に火の玉を出している。


ルルとラーナがやっていた練習。 それを基礎からやって何かを見つけようと思って居た。




歩き続けて周りが暗くなった頃、ようやく両端が森に成った。


「ここで野営にするかねぇ。」


「ご飯なの。 今日何食べるの?」


カレンとミドラが、背中に大きな牛をのっけて帰って来る。


5mぐらいある牛、カレンが4匹、ミドラが1匹。


サエルミアが月光に照らされた、その姿を見て固まっている。


村人は慣れているのか、前に集まってきた。



「セリカ様、これは食べれそうです」


「セリカ、牛が居たよ。」


「ビッグホーンカウだねぇ。 ごちそうじゃないか!」


ミカエラが珍しく声を張り上げている。


村人も何やらざわつきだした。


「その牛は30人とかで狩る牛ですよ。 なんで4頭も2人で持ってきてるんですか。」


「エルフの嬢ちゃん、あいつらに驚いてたらずっと驚いてないといけないんだぜ。」



ごちそうと聞いて、私は火の準備をする。


道の横にあった木を抜いて、そのまま爪で良い大きさで重ねる。


どうせ野営するんだと、その辺の木を20本ほど抜いて、要らない分は森に投げ返しておいた。


森の中で別の木に当たって、メキメキ言っているが存在は少ない大丈夫だろう。


カレンは牛を指でさばいている。 次々に出来る肉の塊。 昨日の鹿より脂身が多そうだ。



「なんで木を手で抜いてるんですか! そんな簡単に投げないでください。」


頭を抱えて叫んでいるサエリミア。 楽しんでくれている様で何よりだ。


木を抜いたおかげで、出来た広場に木を積み上げて、火をつける。


「セリカ様、よろしいですか?」


「カレンありがとうなのさ、ほりこんでくれればいいのさ。」


捌き終わった肉を皮の上に並べたカレンは、片っ端から肉の塊をその木が燃えている中に掘り込んでいく。


馬車がその火を中心に道から外れて集まって来る。


適当に止まった馬車から村人達が降りて来た。



皆一様に、焼ける肉を楽しんでいる中、サエルミアだけはその皮を見ている。


「この皮頂いても良いでしょうか?」


「食べれない物は構いませんよ。」


「なんに使うのさ。 それ。」


「私服を作っていまして、皮をなめして服にするんです。」


「服作れるのかね?」


「はい、その材料を取りに行って捕まってしまったので。」


サエルミアは服を作れるんだそうだ。 良いじゃないか彼女に作って貰えば。


その前にお肉が焼けて来た。 焦げないように取り出さないと。


火に手を突っ込んで、それを取り出す。


皆が皮の前で待っている。 そこにカレンと取り出して並べて行った。



「火に手突っこんでますよ! おいしいですね、これ。」


肉を食べながら注意してくるサエルミア。 この牛旨い。


肉を食べながらサエルミアの話を聞く。



エルフの街で服飾店をしているというサエルミア。


自分で着る服はプロトン国に指定された服だけだが、プロトン人は服を買いに来るようだ。


戦争に負けたエルフは、昔自分たちが楽しんでいたファッションを禁止され、全て今は人間の為に作っている。


昔ちょっと有名だったというサエルミアは、店を潰されずに済んでいる様だ。


「私の店にきてください。 助けて頂いた恩返しで服ならいくつでも作れますよ!」


大きな店を所有しているというサエルミア。


今は無き職人の為の宿舎が空いているので、そこに村人もこればいいという。


後でジッタと話をしよう。 そう決めた。




サエルミアはまた、森の方に興味があるようで、一人で木をグルグル見ている。


それから何か取って、こっちに戻ってきた。


「これです。 この蜘蛛が出す糸で作る服が一番いいんです。 あんまり糸出さないんですけどね。」


サエルミアの指に乗っている小さい真っ黒な蜘蛛、私がサエルミアの指に私の指を並べると、私の方に飛び乗ってきた。


「なんだねぇ。 逃げないのさ、こいつ。」


指の腹ぐらいの大きさしかないその蜘蛛、こっちを向いて胴を上下に揺らしている。


「なつかれちゃったんですかね。 聞いたこと無いですけど。」


シルクスパーターと呼ばれる蜘蛛、シルクは西の国で生産されているようだ。


東はこの蜘蛛の糸で服を作っている。


片方の手で肉を持ちながら、もう片方の手で蜘蛛をずっと見つめていた。


ずっと胴体を上下に揺らしている蜘蛛。


「お前も来たいのかね? 糸出せるのかぃ?」


激しく胴体を揺らす蜘蛛は、お尻から白い糸を出し始めた。


空中に放たれたその糸は、空気を漂い切れずにずっと漂い続ける。



「本当に出しました! すごいですね。 ドンドン出てきます。 出すところ初めて見ました!」


サエルミアが興奮している。 そんなに珍しいのか。


蜘蛛が糸を出し終えると、私の胸ポケットに入ろうとする。


とじてしまっているポケットを開けてやると、小さな体で中にあった白魔石を持ち出してきた。


魔界の白魔石。 もらったその石に、糸をまた吐き出し始める。


吸い込まれていく糸。 それをずっと続けて居る。


「なんですかその石!? 糸を吸ってますよ。」


「白魔石って言うんだねぇ。 魔界の石さ。」


「魔界!? 魔界はすごいところです!」


糸を吐き続ける蜘蛛は、そのまま自分も白魔石に吸われるように入ってしまった。


「吸い込まれました?」


「自分で入ったんだと、おもうのさ。」


中から存在をきちんと感じる蜘蛛、 その石を指で撫でて上げると、石が勝手に少し動く。


「なんか懐かれちまったねぇ。」




普段鳥のエサにしかされない、シルクスパーダ―。 彼等は魔力を吸って生きている。


魔物の死骸や、草木が放つ魔力を少しづつ吸いながら、木の皮に、石の裏に隠れて暮らしていた。


感じた事の無い、美味しそうな濃い魔力を感じた蜘蛛は、木の外に出てしまう。


そこに居たサエルミアに捉えられてしまった。


指に乗せられた蜘蛛は、その美味しそうな魔力に夢中でずっとセリカの方を見ていた。


そこに近づくサエルミア、好都合だった。 その魔力の塊が指を出して来たのだ。


その指に乗った瞬間、美味しい魔力で体を満たされる。


自分より大きな目でこちらを見てくる魔力の塊。 そのお腹からはえげつない量の魔力を感じる。


これを食べていたい。 そう思った蜘蛛はなんとかアピールしようと体を動かし続けた。


糸を出せるか?と言われて、チャンスだと糸を出した。


普段すぐに、無くなる魔力は、この人間みたいなのから補給される無限の魔力で無くなることを知らない。


何かあそこに、魔力のぽっかり空いた空間がある。


そこに興味が映る。 服のポケットに入っていた白い石。 そこには魔力が無かった。


そこに身を入れる。 元々魔力の塊である自分たちはすぐにその中に入れた。


外からまだ無限の魔力が続いている。 脈打つように強くなる魔力に包まれて、石の中で安心してしまった蜘蛛は糸を出しながらそのまま眠ってしまった。





「是非店に来てください! それで、その糸を使わせてください!」


「いいけどさぁ、ジッダが良いって言ったらなのさ。」


「連れてきますね!」



村人と肉を頬張っているジッダ。 それを無理やり掴んで連れてくるサエルミア。


カレンとミズラとアズラは、サーシャ達と一緒に楽しく食べているようだ。


ゾーイが小さな口で大きな肉を一生懸命食べている姿が微笑ましい。



「なんだよ、肉食わせてくれよ。」


「大事な話なんです。 お願いします。」


「なんだよ大事な話って。 肉の方が今は大事だろ?」


「私も食べながら話すのさ。」


強制連行されたジッダにサエルミアの話をする。


サエルミアの所に行ってはどうだ。 という話。



「それどこにあるんだよ。 大きな店って、ケレブスィールじゃないだろうな。」


「そうです。 ケレブスィールです。 よくご存じですね。」


「いや、旧首都ぐらい知ってるぜ。 あそこはプロトン人が一杯いるけど良いのかセリカは。」


「私は服が買えたらなんでもいいのさ。 また手出しして来たらなんとかできるのさ。」


「セリカが良いなら良いけどよ。 一応皆にも言っておくぜ。 後俺達も服があったら嬉しいぜ。」


「お店に行けば一杯ありますので、是非! 決まりですね!」


そこからずっと素材の話をしてくるサエルミア。 その目が輝いている。


彼女の話を聞きながら夜は更けていくのであった。





皆が馬車の上で寝ている、聞こえるのは少しの寝息と、虫の音だけ。


大きな存在は横に座るカレンだけ。


私達は見張りをしていた。 普段なんとなく寝ているが、別に寝なくても疲れないと思ったから引き受けた。


最悪ミズラとアズラだけでもどうにかなると思って、カレンと一緒に焚火の残りを見て座っている。



「セリカ様は、魔力をどのように感じておられるのですか?」


「魔力かい? 暴れるのを抑えるのに必死だねぇ。 こいつらいっつも出て来ようとするのさ。」


「そうなのですね。 少し私と違いますね。」


「カレンは違うのかい?」


手から火の玉を出す。 木を抜くとすぐに青くなってしまう玉をなんとか赤になるように抑える。


「私はある魔力を整列させる感じです。 どれから行かすみたいな。 そのような感覚です。」


カレンも手から氷の塊が出てくる。


すぐに溶けたそれは水の玉に成り、また氷の玉に、それを繰り返す。


「すごい器用にやるねぇ。 私は細かいのできないのさ。」


「順番を変えるだけですよ。 でも、セリカ様の様に強大な魔力を一気に出すことは難しいと思います。」


「私のはねぇ。 ちょっと気を抜くとすぐに暴れ出すのさ。 龍の姿に成ると特にねぇ。」


「そうなのですか、一口に魔力と言っても色々あるのですね。」


「そうなのさ。 主のが一番なのさ。」


「主様のは何か別格な気がしますね。 一度触れましたけど、少し怖かったです。」


「私もねぇ、最初は怖かったけどドンドン優しく成るのさ。 主のは不思議なのさ。」


主は元気だろうか。 人間界でやる事が増えてしまった。


エルフの国とやらに行くなら少し情報収集をしよう。


カレンは、ジッタの言葉を未だに気にしているのか服を主に作り直して欲しいようだ。


別に良いと思うんだけどねぇ。 サエルミアに言って、サプライズしてもらおうか。


そんな事を考えると、またやることが増えて行った。


月も沈みかけている、もうすぐ朝だ。 皆が起きるまで、カレンと2人で他愛もない話を話し合ったんだ。

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