人間界 セリカ編 12
村を出る前に私達の正体を村人に明かしておこうとカレンと人間界で初めて龍の姿に成った。
龍に成って感じたロックの存在。 軍隊を引き連れてやってきていた彼。
1匹残らず全て、私とカレンのブレスで駆除した。
とりあえず姿を見せた私とカレンは、そのブレスを見て固まる村人の前に人化して戻った。
視線がどんどん低くなっていき、人の姿に戻る。
龍化するのも良いが、この姿が好きだ。 主と同じ人の姿、武器も使える。
自分の手を見て、しっかり動く事を確認すると周囲を確認する。
馬車にせっかく積んだ荷物が少し落ちてしまっている。
抑えたつもりなのに、やはり細かい魔力調整は嫌いだ。
「あの龍は、ホントにお前等なんだな。」
「そうなのさ、普段はこの姿なのさ。」
「そうか、すげぇのと出会っちまったな。」
「もう攻めてこないんだから、どこか行かなくても良いんじゃないかねぇ?」
「西の巡回軍"駆除"しちまったんだろ。 こっからでもバカでかい魔力が爆発するの見えたぞ。
誰かが知ってたら俺達は反乱軍になっちまった。 下手したら勇者が討伐に来る。」
勇者、ススカにも襲ってきた魔人より強い人間。 あいつが来れば村なんてひとたまりも無いだろう。
あれがココに来るなら逃げたほうが良いのかも。
「ついでにチェリーとかいうのも吹き飛ばしとけば、よかったのかね。」
「セリカ様、そうですね。 見ている者が居なければ、良いんですものね。」
「やめてくれ、ホントに悪魔になっちまうよ。」
笑って冗談を言い合う私とカレン。 ジッダは真顔で答えてくる。
村人達が気になった。 一人一人の顔を確認する。 また歪んでしまった顔。
やはり彼等の言う悪魔と一緒にいるのは嫌かと、少し残念な気持ちになる。
「セリカ、カッコよかったの! お口からビューって、すごいの!」
「セリカさんとカレンさんの龍の姿初めて見ました。 綺麗な龍ですね。」
「俺もあんな規模の魔法打ってみたいぜ!」
サーシャとミズラとアズラの3人がこっちに向かって話してくる。
「龍様じゃぞ。 それも2匹。 長生きして良かったのじゃ。」
「安心して行けるかもな、味方だもんなお前等。」
ミカエラとジッダが話し出す。
そこから村人達が皆何かを喋り出す。
テトテトと歩いてい来るゾーイ。
途中で地面に落ちてしまった芋を両手で持って、私に渡してくる。
「お姉ちゃん。 ありがとう。 これあげる。」
「ゾーイ! もうちょっと何かあるでしょ。」
そのゾーイを見て母親のエミリーが駆けよって来る。
「いいのさ。 ありがとうなのさ。 ゾーイ。」
サーシャより小さい頭、しゃがんで目を合わせて頭を撫でてあげる。
「うん。」
ゾーイは短く返事をしながら気持ちよさそうに目を細めていた。
途中で邪魔が入ったが、自己紹介は終わった。
とりあえず皆受け入れてくれたようだ。 最後に他には言わないようにだけ言っておく。
厄介事は嫌だった。 彼等も危険に晒すかもしれない。
人間界に大切な彼等を作ってしまった。
落ちた荷物を馬車に乗せるのを手伝う。 相変わらずボロボロの服、汚れた髪の毛の村民達。
ついでに一人一人に生活魔法をかけてあげた。
カレンも同じようにしてくる。 感謝を述べる村人達。 ロックはそんな事無かったと思い出す。
「ジッダ、ロックの髪はなんであんな綺麗だったんだい?」
「あいつは、仕事してなかったし、たまに街に行って風呂に入ってたぜ。」
「風呂? なんだねそれ。」
「お湯を張って、その中に入る人間の行為です。 セリカ様。」
「風呂はプロトン人とお金持ちしか入れんのじゃ。」
準備が終わった皆がこちらに寄ってくる。 お風呂なんだか楽しそうだ。
「じゃぁ行くかね。 エルフの国とやらに。」
「旧だがな。 関所もある、とりあえずそこまで目指そうぜ。」
皆が揃った所で、大体のスケジュールを決める。
まだ太陽が頭の上にある。 半日は太陽が昇って居そうだ。
途中は野宿、全部で3日は掛かる工程を進んで、今からエルフの村を目指す。
「忘れてたのさ。 アズラとミズラは元レイスなのさ。 2人もよろしく。」
「レイスって何? ミカエルはしってるの?」
「魂を狩る死霊族さ。 こんな見た目じゃなかったと思うけどねぇ。」
「俺はリッチ?らしいんだぜ。」
「私はデスサイズ?とかいうのみたいです。」
「特別討伐対象が2匹も居るのか……」
ジッタだけ何か遠くを見ている。
アズラに抱きかかえられたゾーイと、ミドラに抱きかかえられたサーシャは空に浮かんだ二人の腕の中で。
手足をバタバタさせて笑っている。 それを見た村人達がその風景を皆、笑顔で見ている。
二人も大丈夫そうだ。
エルフの国へ移動を始めた。
両側を森に囲まれているただの土の道。
馬車2台ギリギリすれ違えるぐらいの道幅しかない道をひたすらに進む。
さっきのブレスのせいだろうか、この辺は存在が私達以外あまり感じられない。
二股に分かれる道の手前になにやら人間の存在をいくつか感じるが、小さい存在は脅威には成らないだろう。
今日中にあそこまで付くのだろうか。 出来れば会いたくは無かった。
さっき龍に成った時にきちんと見ておけばよかった。 少し後悔する。
一列に成って移動するキャラバン、その先頭に私とカレンが歩いている。
後ろにアズラとミズラ。 一番前には一番遅いミカエラの馬車。 一番後ろにジッダとサリーの乗ったギルドの馬車。
ミカエラの馬は鼻も鳴らすことなく、静かに着実に一歩一歩ゆっくり歩いている。 鹿毛の馬体が少しくすんでいたので綺麗にしてあげるも反応は無かった。
荷物を載せ込んだ荷物が丸見えの馬車、御者席にミカエル。 ミカエルの前にサーシャがミカエルを椅子にして座っている。
孫と、老婆。 サーシャはミカエルにエルフの事を聞いていた。 2人の会話に耳を立てる。
エルフは、長寿で長生きするようだ。 300年は生きる彼等。 緑の髪と緑の目、尖った耳が特徴的な彼等は、若い姿で止まってそのまま死んでいく。
人間はその若さが欲しいので、ずっとエルフを使って色々な実験をしているようだが、その若さを手に入れてはいない。
長い月日を生きる彼等は、生まれ持った魔力と長年の知識を生かして、戦闘や生産に取り組んでいる。
魔力が少し掛かったエルフ産の服は、この世界で高級な服として重宝されているようだ。
そんな彼等もプロトン国では異種人として、奴隷の様な扱いを受けている。
街に売られるエルフを載せた馬車が村に来た事もあったようだ。
「エルフは美しいそうです。 主様やセリカ様には敵いませんが。」
「カレンはそんな事よく知ってるねぇ。」
「アリババの記憶が少し残っています。 その記憶が勝手に頭の中で再生されます。」
「そうかね。 アリババは死んでも助けてくれるんだねぇ。」
「有難い存在でした。」
魂を修理したアリババ、そのまま消えてしまったが記憶がカレンの中にあるそうだ。
彼女はカレンの中で生きているのかもしれない。
後ろの馬車にも村人が乗って、楽しく話しながら移動している。
逃亡していると思えないその雰囲気。 朗らかな雰囲気のまま、土の道を進んで行った。
少し太陽が西の山に差し掛かった頃、私が作ったクレーターが見えて来た。
突然無くなる森はカレンが凍らせた物だろう。 土だけの場所それが少し続いて、急に崖に成っている。
その奥に見える反対側の崖には多くの人間が集まっている。 霞んで見えるそれは500mは先にありそうだ。
彼等が集まっている所も土が丸出しだ。
クレーターの底はまだぐずぐずに溶けた土が赤く熱を発している。
私達の方の崖の所に人間が20人ほど、あまり知らない存在が1匹。
崖を見下ろす彼等は、様々な髪の毛の色をしていた。
茶色やシルバー、紫の髪の毛をした異国人と呼ばれそうな彼等は、村に居た門兵の様な恰好をしている。
服の上に皮の胸当てと、膝宛をして、木の棒や槍、弓や剣を背中に抱えている。
肩に担がれた、布を纏った白い女性は、長い緑の髪の毛を地面に垂れている。
意識が無いのか、だらんとした手と足。 背中にいくつも傷が見えた。
「少し止まるのさ。」
右手を開いて上にあげる。
止まるキャラバン隊、村人が何事かとざわついている。
「あれは、人さらいさねぇ。 山賊とか言われる奴らさ。」
「ミカエラはあの人達知ってるの?」
「エルフを売るのさ、村からさらってきての。」
ミカエラとサーシャが話している、山賊とかいう奴らなのか。
「どうかしたんですか?」
「人間かあれ?」
後ろからアズラとミズラが飛んでくる。 村人はその姿に驚いたりはしない。
もう頭にローブは被っていなかった。
「山賊とかいうのがいてねぇ。 どうしようかと思ってたのさ。」
「襲ってくるんですかね。」
「でも、一人金髪が居るのさ。 何かしてきそうだねぇ。」
エルフらしき女性を抱えている銀髪の男の横に、金髪の男が居る。
金髪はプロトン人だ、人間界に来てから彼等に良い事をされた記憶は無い。
「村の方からキャラバンが来てますぜ頭! 前に居る異国人の女胸でけぇっすよ!」
「今回は一匹だけだったからな。 追加で持って行くのもありだな。」
「やりましょうぜ、頭! なんか武器持ってますけど異国人の女だ。 プロトン人の頭に勝てるわけねぇ!」
「さらっても道がないじゃぁないか。 どうするんだよ。 頭。」
金髪と黒髪と紫髪が話をしている。
剣を持った金髪、斧を持った紫髪、弓を持った紫髪、女のようだ。
たまに胸が大きいと、言われる。 こんな脂肪の塊何が良いんだろうか。
コテツも好きそうだったな、顔赤くしてたしな。
あいつは今何をしてるんだろうか。
彼等が一斉にこっちを向く。 鏃をこちらに向けてくる弓を持った奴ら。
他の奴は、剣や槍を手に持って歩いて来る。
「お前等何してるんだ? プロトン人以外は許可が無いと移動しちゃいけないんだぜ。」
「逃亡民か、多いな。 突き出せば金に成るな。 褐色の奴らは奴隷商に売るか。」
黒髪と金髪がこっちらに歩きながら相談してる。
「ミカエラ、山賊が近づいて来るの!」
「目の前の穴作ったのが誰かわからんのだろうねぇ。」
サーシャが怯えてしまっているではないか。 ミカエラは呑気だ。 後ろに有った人参を持ってかじっている。
その様子を馬車に立って見守る村民も皆何かを手に持って食べている。 見世物を見ている雰囲気。
アズラが杖を構え、ミズラが鎌を構えた。
「あの青髪のちっちゃいのも美人ですぜ! 頭!」
「一年は働かなくても良いかもな、喜べお前等。」
向かってくる山賊が全員顔がにやけている。 私達を捕まえて売った後の事を考えているのだろう。
「私らはエルフの国に行くだけなのさ。 そこを通して欲しいのさ。」
「通すだと? お前らは檻に行くんだよ!」
近づいて来た彼等が、走り出した。 弓兵が矢をこちらに向かって打って来る。
一応声を掛けたが無駄の様だ。 遅い速度で近づく彼等に、アズラが黒いレーザーを打った。
走ってきている斧を持った山賊を1人貫通した黒いレーザーは後ろに居た弓を一人貫く。
その後ろの大穴に魔力が消えて行った。
「魔法使いがいるぞ! 遠距離からに気を付けろ!」
「紫だ! あの紫のローブを先にやれ!」
飛んで来た弓はミズラが鎌で掃って落とす、ミズラの鎌を抜けてきた矢は、手で掴んで止めておいた。
「矢を掴むだと!? でもね、その矢にはキラーボイズンバイトの毒が塗ってあるんだよ。 持っただけで手が溶けるよ。」
紫の髪が、遠くから説明してくれている。 何か毒が塗ってあるのか、あんまり解らないな。
その説明にカレンもあまりピンと来ていないようだ。 矢を自分の腕に刺そうと自分で刺そうとしている。
カレンの腕に強く触れた瞬間にその矢は溶けてしまった。
「カレン、あんまり実験するもんじゃないねぇ。」
「セリカ様、すいません。 ついどんな物かと。」
「良いけどねぇ。 またカレンが倒れたら私は寂しいのさ。」
「セリカ様! 以降、気を付けるようにします!」
カレンと話している間も、前ではミドラとアズラが山賊を片付けている。
迫る矢を鎌ではじき返すミドラ、その後ろからアズラが黒いレーザーで山賊を貫く。
ミドラは近くに居るのをたまに撥ねていた。
「緑のは殺すんじゃないのさ。 他は要らないねぇ。」
「セリカさん! わかりました。」
「セリカわかったんだぜ。」
「こいつら何なんだ、頭! 撤退を……」
首をミドラに跳ねられた黒髪はそれ以上喋らなかった。
「プロトン人の私にこんなことをして、どうなるか解っているのか!」
金髪がどこかで聞いたような事を言っている。
他の山賊は皆倒れてしまった。 残っている金髪。 ミドラが私を見てくる。
「緑以外要らないねぇ。」
黒いレーザーが金髪に当たって体を貫き、鎌が、首を跳ねた。
存在の大きさで解っていたが、ミドラとアズラも人間に負けるような感じは無い。
勇者よりも大きなその存在は、そこら辺の魔物とも全然違う。
「緑の人、持ってきましたよ。」
ミドラが飛んで、横に転がされていた緑髪を背中に担いで持ってきてくれた。
尖った耳が特徴的な女はミドラと同じぐらいの年のような容姿をしている。
スタイルも同じような感じだ、出ている所は出ているし腹は縊れている。
存在ははっきりあるが、意識が無い。 何かで眠らされているんだろうか。
私の魔力で、なんとかしてみる。 こういう時は魔力にお任せだ。
静かに成った戦場を見て村人が前に集まってきた。
地面に置いた、エルフの女を皆で見ている。 赤くぼんやりエルフを囲っていた魔力が消えると、顔に力が入った。
「セリカは何でもできるんだな。 治癒魔法かそれ?」
「魔力で補填してるだけなんだねぇ。 治癒魔法とかはわからないのさ。」
「魔界は不思議な所なんだな。」
「何でもしますから、殺さないでください。 あれ? 何か違う人間さん。」
ジッダと話している内にエルフの女は気が付いたようだ。
体を仰向けにしたまま、体を起こして周りを見ている。
「山賊? とやらは皆殺しちまったのさ。 あんたは誰なのさ。」
「殺した? あんなに強いのに?」
当たりを見渡すエルフ、倒れている山賊を見て、少し怯えだす。
「ホントに死んでます。 じゃぁこの人たちはあの人達よりも強いって事?」
「そうなのさ。 それも良いんだけど、あんたが誰か知りたいねぇ。」
「す、すいません! 私はエルフのサエルミアです。 蜘蛛の糸を取りに行く途中で捕まって、気付いたら今ここに居ます。
何でもしますから、殺さないで!」
緑の目を向けてウルウルしてくるサエルミア。 両手を握って祈る格好をしている。
「皆が良いなら良いのさ。 どうなのさジッダ。」
「エルフに案内してもらえると有難いかもな。 俺等も土地勘とか無いしな。」
「道案内ですか? 何処へでも案内します! お役に立ちますからぁぁぁ!」
こうしてエルフが一人キャラバンに加わった。




