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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 11

村の作物を全部抜き終わると、一周して、サーシャの家の前まで戻ってきた。


村人は皆馬車でギルドの方に集まるようで其方に向かって行った。


村の端にある場所には、誰も周りに居ない。


カレンと二人、カレンは汚れを魔法で落としている。


「カレン、よくやったのさ。」


青い髪を手で撫でてあげる。


「セリカ様のご要望ですので。」


また舌を出したり入れたりしているカレンは、顔を下に向けているも、嫌な素振りは見せなかった。


少し長い間、撫で続けて、ギルドの方に歩いて戻る。


途中カレンが嬉しそうにミズラのセンスの良さを褒めていた。


並ぶと姉妹の様な二人、その武器も同じで少し羨ましい。 私も弟子?みたいなのに出会えたらいいなぁ。


そんな事を思いながら、カレンの話を聞いてギルドに向かう。



「おう、戻ってきたのか。 皆を手伝ってくれたみたいだな。 もう出れそうだぜ。」


ジッダが私を見つけて声を掛けてくる。


馬車が12台、ギルドの前に綺麗に横に並んでいる。


私達の来た門に向かって、並んでいる馬は皆ヒヒに比べて小さかった、


荷台には山積に成った作物と家具。 申し訳ない程度の人間が座る空間がある。


幌のある馬車はギルドの馬車だけ。 後は全部平らな板に煽りが付いただけの馬車。



村人は全部出てきているのだろうか、昨日見かけなかった老人が居る。


全部で40人ぐらいだろうか。


「これで全員なのかね?」


「おう、村人全員そろってるぜ。 もう出るか?」


「そんなあっさり出て良いのかね。 思い出とか無いのかね。」


「年寄りはあるかもしれねぇが、俺等はずっと昨日みたいな感じで扱われてたんだ。 あんまりいい思い出ねぇや。」


「そうかね。 良いなら行くかね。」




ジッダは、ギルドの方に歩いていく。 入口で止まると、集まっている村人たちに話し出した。


「おい皆! 聞いてくれ! これから村を出て旧エルフの国に身を隠す。」


村人皆がジッダの顔を見ている。 少し家族構成が歪な村人、居ない人はプロトン国とやらに生贄として連れていかれたのだろうか。


大人の男が4人しか居ない。 ジッダを入れて5人。 極端に少ない。


「みんな聞いてると思うが、昨日居なかった奴も居るだろう。 紹介しときたい奴が居るんだ。」




いつの間にか横に居たサリーが、どうぞと腕をジッダの方に向ける。


私に挨拶しろと言ったジッタは私をずっと見ていた。 カレンと目を合わせて頷く。


朝、素振りをしていた時に話した事をやるいい機会だ。


村人の視線を浴びながら、ジッダの元に歩いていく。


ミズラもアズラもサーシャと一緒に村人の輪に入っていた。 彼等にも始めてだ。 このままで良いだろう。


ジッダが後ろに避けたので、そこに立って村人の方を向く。


冒険者ギルドの扉の前、そこで村人に挨拶をするのだ。


「セリカなのさ。 昨日色々あって、こうなってしまったのさ。 私にも責任があると思ってるのさ。

皆を無事に、エルフの国とやらに連れて行けるように約束するのさ。」


村人は何も言わずに聞いている。



ジッダが近寄ってこようとする。 私はまだ終わっていない。


「一つ大事な話があってねぇ。 ジッタにも言ってない事があるのさ。」


「なんだよ、言ってない事って。」


ジッダが近寄るのをやめて私の後ろから言っている。


村人の方を向かったまま話を続けた。



「私達は、異国人でも無いのさ。 冒険者でもないねぇ。」


少し困惑する村人達、ずっと私の方を見ていたのに、周囲とヒソヒソ喋り出す。



「この世界の者でもないのさ、私とカレンは魔界から来たのさ。」



『悪魔』その言葉が村人から出てくる。 広がるそれは、彼等の顔を少し歪ませた。



「お前等、悪魔なのか? あの人を殺すだけの悪魔?」


後ろからジッダがはっきり聞いて来る。 村人の視線がまた私に戻る。


「人間界では勘違いされてるみたいだけどねぇ。 魔界にもいろんな奴がいるのさ。 私達があんた達を無駄に殺そうとか思わないのさ。」


皆が黙る。 ミズラとアズラはどうしたら良いのか分からないのか困った顔で私を見ている。



「セリカはセリカなの。 悪魔とか知らないの。」


サーシャが沈黙を破った。 少し潤んでいる目。 その目が私を見ている。


「そうだな、悪魔とか会った事も無いしな。 おとぎ話みたいなもんだな。」


ジッダが、後ろからそういうと、村人がザワザワし出した。


まだもう一個あるんだ。 言っておかないと、カレンと決めたんだ。



「私とカレンは、魔界の龍なのさ。 この姿は人化してるだけなのさ。」


「龍? ドラゴンじゃなくて、おとぎ話の龍?」


ジッダがまた後ろから言って来る。 声が裏返っている。 おとぎ話?この世界に龍は居ないんだろうか。


カレンの方を向いて、目配せをする。 カレンと一緒に龍化するのだ。


お腹から魔力が溢れてくる。 体が魔力に満たされる。




突然セリカとカレンが赤と青に包まれると、その赤と青は空に上がって長細く広がっていく。


太陽を埋め尽くさんばかりに一瞬で広がった赤と青は、立派な龍に変わる。


赤い龍は目だけで家ほどの大きさ。 口は村を一口で何件も家を食べてしまいそうなほど大きい。


牙一つでも村の家より大きな牙は、いくつもその口に並んでいた。


その後ろに大きな鬣、顔より薄い赤の鬣は、完全に太陽を隠して村人全員を影に入れてしまっている。


鬣から出てしまうほどの長い一角の角は黒く、額から生えて、顔ほどの大きさがある。


そこから伸びる真っ赤な胴体は、蛇のように長く、空で複雑に絡み合ってずっと動いている、赤い幾つもある鱗はキラキラと宝石のように魔力で光る。


胴の途中にある前足と後足は、その黒い爪だけで冒険者ギルドの建物より大きい。


その龍が胴を浮かせて、顔だけを胴より下に持ってきて地面の小さな村人達を見ている。



青い龍は、赤い龍の半分ほどの大きさ、それでも十分に大きい。


縦に大きく伸びたその龍は、顔だけを地面に向けている。


褐色の目、青い鬣、青い胴、真っ赤な角は赤い龍と同じように、顔ほどの大きさがある。


爪は角と同じく真っ赤で、そこから落ちる真っ赤な液が、村の家を畑を溶かしていた。






小さい点に成った村人達、冒険者ギルドは手の平の大きさも無い小さい箱に成ってしまった。


横に私の半分ぐらいの大きさの青い龍。 カレンも龍の姿に成った。


村人たちは完全に固まってしまっている。 一番冒険者ギルドに近い点、多分あれがジッタだろう。 


魔力を探ってやっとジッタと解る。 そんな小さな存在。 それに話しかける。



「元の姿はこれなのさ。 先に言っておいた方が良いと思ったのさ。 何か騙してしまったみたいで悪かったねぇ。」


なんとなくだが、大事な物を見つけた気がしていた。 それが確信に変わった頃に、無く成るのは嫌だった。


なので、この段階でこれを見せておく。 拒否されればさっさと魔界に帰ればいい。 彼等は彼等の世界があるんだから。



「龍様じゃ。 龍様!」


ミカエラが叫んで、地面に頭を付ける。 それに習って、周りの村人も同じようにしだした。


「そう言うのはいいのさ。 普通に接してくれた方が良いねぇ。」


「セリカは龍なの!」


サーシャの声が聞こえる。 龍の姿は焦点を絞れば音を普通に聞き取れる。


また嬉しそうにはしゃぐサーシャその姿に、周りの村人が頭を上げ始めた。


ミドラとアズラは平気そうだ。 サーシャを笑顔で見ている。



「魔物に襲われる心配は無く成ったかもな。」


ジッダの声が聞こえる。 とりあえずは大丈夫そうだ。


少し周囲を探る。 この姿は存在の感知も広い。



横でセリカが唸っていた。 奥歯を見せて、その奥から冷気がこぼれている。


赤い爪から真っ赤な毒が、村に落ちて家を溶かす。



私もわかった。 ロックの気配。 その気配が一杯の存在を連れてこっちに向かってきている。


小さな存在、でも村人にとっては、一人一人が魔人にとっての勇者の様な存在。



「ジッダ、巡回軍とやらは別に無くなってもいいのかね?」


「無くなるってなんだよ。 そら無くなったほうが逃げやすいぞ。」



口に魔力を溜める、久々の龍でのブレス。 前より収縮が早い。


カレンはロックとその集団に向かって、すっ飛んで行った。


森の向こうに見える草原。 そこに一本の細い茶色い道。


その道に沿って幾つもの白い鎧が進軍している。


馬に乗ったの、槍をもったの、杖を持ったのまで鎧を来ている。


ずっと続くその巡回軍、それに口に溜めていた魔力を放出する。




セリカが口に溜めた魔力は、口の中で赤い玉を作る。


その玉がどんどん大きく成って衝撃波と共に、赤い玉から口の大きさのレーザーが放たれる。


光の速さで移動する赤いブレスは太い姿を維持したまま、その先が地面に到達すると、地面を凹ませてさらに溶かす。


追いついて来た残りのレーザーが、その凹みに球体をつくると、それが大きく広がっていく。


全てを呑み込むその赤い球体は巡回軍を2000人は巻き込み、大きなクレーターを作った。


抉れた地面は溶けて赤く成り、かつて草原だった場所はただのクレーターに変わってしまう。



その赤い玉が収まったタイミングで滑り込む様に突っ込んで来るカレン。


カレンも口に溜めた魔力を更に奥に向かって吐き出した。


青白いレーザーは、赤い球体が巻き込まなかった巡回軍の真ん中に放たれる。


残り約1000人全員を凍らせた後、衝撃波で粉々に砕いてしまう。


草原だった場所は何も無い凍り付いた土の大地に成ってしまった。





少しやり過ぎたかもしれない。 でもススカが勇者に襲われた時に学んだ。


魂が無く成るとどうしようも無くなってしまう。 主が居ない今、人間は死んだら戻せない。


その気持ちが、先走った。 でも後悔はしていない。


私のブレスで出来たクレーターの周りで森が焼けていた。


「カレン、その火は消しておいてほしいのさ。」


「わかりました、セリカ様」


息を突きかけるような仕草でクレーターの周りを凍らし始めるカレン。


私のクレーターの奥は、丸く何も無い土地が広がっている。


その少し奥に多くの存在。 チェリーと言っていた街だろうか。 道は私のブレスで無くなってしまった。



少し右に大きい木がある森が見える。 私の生まれた森の木よりも多分小さいその木。


そこにも存在を沢山感じる。 あれがジッダの言っていたエルフの国だろうか。


そこから続く道はギリギリクレーターに巻き込まれていない。 カレンが凍らせてしまったが大丈夫だろう。


「セリカ様、流石ですね。 あの規模のブレスは打てません。」


「抑えたつもりなのさ。 細かいのはやっぱり苦手だねぇ。 それよりカレン、村溶かしちまってるよ。」


「気づきませんでした! すいません。 皆さんちょっと失礼します。」


こちらに戻ってきたカレン、爪からの毒は垂れなく成っているが、行く前のがまだ村を溶かして広がっている。


カレンは村人が集まっている所全部より大きな口を開けて、そのまま毒が残っている部分に噛みついて地面ごと食べる。


2本の大きい牙の後が残る不自然な長細い穴がそこに出来てしまった。



「セリカ様、処理致しました。 失礼しました。」


その口から地面は無く成っていた。



「おい、何したんだよ! なんかすごい光が見えたぜ!」


「巡回軍とやらを駆除したのさ。 その方が行きやすいのさ。」


「駆除って、4大将軍の軍隊だぞ!」


「どれも一緒なのさ。」


ジッダ以外の村人は、ブレスの方を向いて固まっている。


ミズラとアズラも一緒に固まっているのは、どうなのかと思った。


こっそり小さな魂をミズラとアズラに分けて全てぶつけておいた。

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