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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 9

ギルドの裏手で焚火をして肉を焼いていると、2階の窓が開いた。


「ウォーターボール! ウォーターボール!」


そこからギルドマスターが手をこちらに向けて水の玉を飛ばしてくる。


弱い魔力、火に触れて蒸発する水の玉。


「異国民共、すぐやめなさい! 私の本が臭くなってしまう。 肉なんてそんな所で焼いて、野蛮な!」


顔を真っ赤にして上から怒鳴って来るギルドマスター。 ロックと呼ばれていたその男、火を消したかったのか、もっと魔力を出せばいいのに。


まだ焼けてないんだからやめてほしい。



私に昇っていた子供や、楽しく話していた村人が、皆下を向いてしまう。


「あなた達、生贄にされたくなかったらすぐ家に帰りなさい! 草でも食ってればいいのです。」


さっきまでのガヤガヤが消えて、肉の焼ける音と、ロックの怒鳴り声だけが聞こえる。


下を向いたまま、家に帰ろうとする村人達。



カレンは私を見ていた。 顔が怒っている。 その魔力は村が無くなってしまうぞ。


「あんた何なのさ、煙は悪かったのさ。 もう少しで消すから少し待ってくれないかね。」


「異国民が口答えするのですか? あなたは生贄に本国へ送還するまでもありません。」


また手をこちらに向けてくるギルドマスター。 顔がにやついている。


「ウォーターカッター!」


三日月状に成った水を私に飛ばしてくる。 少し速い程度のその三日月。 


「赤髪のお姉さん、避けて!」


私と遊んでいた少女が、私に向けて叫んでいる。


顔に当たる水、ただの水だ。 少し顔が濡れただけ。


「何がしたいのさ。 もうすぐ消すって言ってるのさ。」


「ウォーターカッターが効かないだと! えぇい、お前らも同罪だ!」


また顔を赤くするロックは、ウォーターカッターと連呼する。


一体どこを狙っているんだ、適当に幾つも飛ばしてくる三日月。


村人たちが必死に逃げている。 でも彼等は声を出さない。



私に叫んでいた少女は、真っ先に水を前からお腹に受けて、血が噴き出した。


「痛い… 」 地面に倒れ込む少女、声をかみ殺す。


その少女を私の魔力で覆ってやった。



ロックは村人を殺害しようとしているのだ。 この時初めて分かった。


あの三日月は村人に向けられた物だったんだ。


また少女に迫る三日月。 咄嗟に少女との射線に入る。


背中で弾ける水は、私にとってはただの水だった。


「ヒヒッヒ! この虫けら共が、異国民は処分だ!」


背中からロックの声が聞こえてくる。 昼間と違い楽しそうな声。



「すまないのさ。 私達が来たばかりにさ。」


少女のお腹は直っていたが、顔が強張ったままだ、声を掛けても顔が変わらない。 恐ろしかったのか震えている。



何か抑えていたのが、どうでも良くなった。


「カレン、殺すんじゃないのさ。」


「かしこまりました。」


アズラは杖から出す魔力で、三日月を消している。


ミズラは鎌で三日月を薙ぎって消していた。



私と同じように村人を庇って水を体で受けていたカレン。


浮き上がって、ロックの目の前まで一瞬で移動する。


「浮いているだと!? 王宮魔術師並か貴様!」


目の前のカレンに、手をかざそうとするロック。


その腕をカレンが掴んだ。


青い髪がわずかに重力に逆らって浮いている。 彼女の魔力を受けてか、窓の周りが凍っていく。


「殺すな、と言われましたので殺しません。 でもこの手は邪魔ですね。」


カレンが掴んだ所から、一瞬で凍り付くロックの手と腕、肩まで達した氷は冷たすぎるのか煙が出ている。



ロックは驚いた顔をしたが、すぐに顔を怒りに染める。


「貴様! プロトン人の私に何をしたかわかっているのか。 重罪だぞ! 本国から貴様を殺しに兵が来るぞ!」


「兵隊ですか?」


溜まっていた魔力を手に集めだすカレン、手を森の方へ向けると、青白い身の丈ほどあるレーザーが発射される。


一瞬で凍り付く遠くの森。


「こうなりますが、人間の兵隊が何か?」



「ば、化け物か貴様! なんでもいいこの手をなんとかしろ!」


ロックはその風景を見てもまだ、カレンを怒鳴りつける。


カレンはロックの手を握りつぶして粉々にしてしまった。


その間にも、冒険者ギルド全体に広がっていく氷、木で出来た壁が青白く冷気を放つ。



「カレン、やめろ。 今巡回軍がチェリーに来ているんだ。 そいつをやったらそれがこの村に来るぞ。」


凍り付いた建物に異変を感じたのか、ジッダが慌てて来て、1階の窓から叫んでいる。


ジッダの言葉では、収まらないカレン。 そのままロックの部屋の中へ爪で斬撃を飛ばして何かを破壊している。


窓から氷の粒が吹きあがる。



「カレンもう良いのさ、 肉が焦げちまうよ。」


「セリカ様、それはいけませんでした。」


こちらを向いたカレンは、固まるロックをそのままにして、下に降りて来た。


「セリカ様、もう火は消しますか?」


「そのままで良いんじゃないかねぇ。」


窓からロックの姿は消えていた。 存在は確認している。 村から出て行こうとしているようだ。


固まる村人達を背に火からお肉を取り出す。 それを頬張る。 少し焼きすぎたかな?


寄ってきたミズラとアズラにもお肉を渡して一緒に肉にかじりついた。


カレンは、何かしてほしそうに横でずっと待っている。 少し鼻息が荒い。


「よく我慢したのさ。 良い対処だったと思うのさ。」


その青い髪の頭を撫でてあげる。 蛇の時の癖か、舌を出したりひっこめたりしている。


カレンも可愛いのだ。




「お前ら、飯食ってる場合かよ。」


「ジッダは食わないのかね。 冷めちまうと、おいしくないのさ。」


「多分、討伐軍が来るぞ。 村が皆殺しにされちまう。」


「私らが何とかするのさ。 あんたも食うかね。」


私に叫んでいた少女、彼女に持っていたお肉をちぎってあげる。


私の手のひらサイズのお肉を、両手で持って必死にかじりついていた。


カレンは満足したのか自分で肉を取ってかぶりついている。



「皆も食わないと無くなっちまうのさ。」


笑いながら周囲に言うと、村人がまた寄ってくる。


火から肉を全部取り出して、勝手に持って行くように言っておいた。


私も無く成るまで食べるんだ。 カレンに負けてられんぞ!



結局ジッダも受付に居たサリーも肉を頬張っている。


私は途中で食べるのをやめた。 皆の分が無くなるからだ。


気付けば、空が暗く成り、焚火の火だけが周りを照らす。


途中までロックの気配を追っていたが、門兵を連れて村から離れた所で意識するのを止めた。



村人が私達と離れた場所で食べながら何かを話している。


真剣な顔、でも肉を食べるのは辞めない。


その輪に入っていたジッダがこちらに向かって歩いて来る。


「お前らどこか行くのか? ここに居ても殺されるかもしれないし、連れて行って欲しいんだ。」


「どっかかい? この近くには何があるのさ。」


カレンが、ジャケットの内側からメモを取り出す。 相変わらず準備の良いカレン。



「お前ら本当にどこから来たんだよ。」


ジッダ曰く、この世界には大きな大陸一つしかない。


南側に大きくプロトン国その勢力は、北の一部を除き全てがその国。


北にはドラゴンが済む地域があって、そこはまだ侵攻できていないようだ。


ここ死者の村は、西の端、あの岩山の向こうはすぐに海なんだそうだ。


海の向こうには行けない。 海の魔物が強すぎて出れない。 どこかで聞いた話だ。


その少し上にエルフの国があった場所、その上に獣人族の国があった場所。


南の東から北に向かうとそんな感じ、その上にドラゴンの住む場所がある。


そこから西側の海に沿って、ドワーフの国がある。 そこから南は人間の別の国があった場所。


人間の国をぐるりと囲うようにあった異人種の国は残すはドラゴンの国だけだ。


そんな世界情勢を聞いた。



人間の国においてはプロトン国が覇権を握って、軍隊やギルドの偉い人は皆プロトン人。


金髪青目白肌の、その見た目はこの世界では特権階級のようだ。 ロックもその一人である。


一部、村の門兵のようにその特権に縋りつく輩も居るようだ。 軍なんてのはその象徴だと。



勇者で覇権を取ったプロトン国は、異人種と異国民を生贄にして勇者を呼び出す。


どうせ生贄に消耗されるだけと、ほとんど奴隷の様な扱いを受けている彼等。


プロトン国の中心に行けば行く程その傾向は強く、この辺境はまだそんなにひどくはないとの事。


ひどく無くてロックの用になるのかと思うが、あれもどこからか来ていたんだろうか。



「とりあえず服を買いたいのさ。 なんでもいいのさ、ミズラとアズラがずっと裸足なのさ。」


「服ならエルフが有名だな。 チェリーの街は行かない方が良い。 さっき言ったみたいに巡回軍が来てる。」


「来ててもいいがねぇ。 無視すればいいんじゃないのさ?」


「あっちが無視してくれねぇよ。 3000人とか居るんだぜ。」


「人間ですよね? 別に良いのではセリカ様。」


「あんまりめんどくさい事はしたくないのさ。」


「それじゃぁ、エルフの所に行くのか? 道なら俺がわかるぜ。」


「ジッダ解るのかい? それじゃぁそこに行くのさ。 その兵とやらはいつ来るんだね?」


「3日は掛かると思うが、なんでだ?」


「皆準備とかあるんじゃないのかね。 私達は無いけどさ。」


「でも早い方が良いぜ。 すぐに動いたら2日とかで来るかもしれねぇ。」


「どっちなんだね、じゃぁ明日の夜出るのさ。」



そこからエルフの村にはずは向かうようだ、3日も掛かる工程。


村民は畑に成った野菜や果物を全て持って行くようだ。


どうせプロトンの連中に取られるぐらいなら持って行けばいいという考えのようだ。


「あの、赤髪のおねぇちゃん。」


さっき怪我をしていた少女が声をかけてきた。 服は切れているが、怪我は大丈夫そうだ。


「なにかねぇ? まだ痛いかね。」


「違うの! 服だったら、家に有るよ。 おばあちゃん以外皆どっか行っちゃたから。」


「そうなのかい? 皆どうしたのさ。」


ゼッダが顔を横に振っている。 ロックが生贄とか言っていた。 この子の家族はそれに成ったのかもしれない。


「でも良いのかい? 大切な物なんじゃないのかい?」


「どうせ帰って来ないの。 私も解ってるの。」


小さな声で言う少女に何を言えば良いのか分からなかった。


「セリカ様、頂きましょう。 ほぼ裸のあの二人は目立ちますので。」


「カレンの姿も目立つよなぁ。 王宮の秘書みたいだ。」


「ゼッダさん? そうなんですか……」


少し考えるカレン。 カレンと私は背が高いので普通の服は入らない。


オークとかが居れば別だと思うが、どちらにしてもエルフとやらに会って作ってもらえば良いんだ。



「明日取りに行くのさ、名前なんていうのさ?」


「私? サーシャだよ!」


「私はセリカなのさ。 よろしくなのさ、サーシャ。」


「うん!」 元気よく挨拶したサーシャは、テトテトと家に帰って行った。



何か段々やることが増えて行っている気がする。 魔界に帰るのはいつに成るんだろうか。


ゼッダ辺りに聞くべきか。 急に言ったらこの村との関係が崩れてしまうのか。 それで言い出せずにいる。


ゼッダの案内で、ギルドの2階の宿に泊めてもらう。


一番奥の部屋、そこしか氷が解けていなかった。 3個のベッドで4人で寝る。


「カレン、魔界から来たって言うべきかねぇ。 帰り方も知りたいのさ。」


「セリカ様、言ってしまえば良いのではないですか? 彼等も敵には成らないでしょうし。」


「そうかね、じゃぁ早めに聞くことにするのさ。」


ミズラとアズラはずっと、服の話と肉の話をしている。 楽しかったようで何よりだ。


明日は村人の引っ越し作業でも手伝うか。 そう思って、眠りについた。

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