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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 8

ミドラが狩った鹿を肩に担いで、村に戻ることにする。


彼女が狩った雷鹿は、全て鎌の背で殴ったのか切り傷は無かった。 


ただ一部打撲の様な跡が見られる。


魂は全部ミドラにあげた。 勝手に吸い込んでたんだけど。



「セリカさん、この鎌ありがとうございます。 鹿、重く無いですか?」


「いいのさ、それぐらいは。 一杯あったほうがお金になるのさ。」


ミドラは少しだけ赤く成った鎌をずっと嬉しそうに見ながらゆっくり飛んでいる。


私は、私よりも大きな鹿を、肩に10匹積み上げて歩いている。


遠くから見れば折り重なった鹿の山が動いているように見えるだろう。





歩いて森を進んでいると、途中で大きな存在がこちらに近づいて来た。


カレンがアズラの首根っこを捕まえてこちらに飛んでくる。 アズラのローブが取れて、紫の短髪が見えている。


アズラが魔法で仕留めたであろう、頭に穴の開いた鹿がこちらも10匹。 全て凍っている。


それを浮かせて持ってきているカレン。 首根っこを掴まれたアズラが手足をバタバタさせて暴れている。


「カレン、俺も飛べるんだって!」


「アズラの飛行速度は遅すぎます。 セリカ様を待たせてはいけません。」


「カレンがあんな遠くまで行くからだろ!」


二人で何か言い合っている。 楽しそうで何よりだ。


「あの鹿、浮いてますよ!」


ミドラは浮いている鹿に興味があるようだ。


ガヤガヤ言い合いながら、私達の前に来るカレン。


「セリカ様の鹿お持ちしましょうか?」


「あんまり人間に魔力使ってるところ見られたくないねぇ。」


「そうですか! では私も担いでいきます。」


アズラを解放して、凍った鹿を私のように担いで、皆で森を歩いて行った。


アズラがミズラの鎌を見て、俺もやってくれと言うが、木はやった事が無いから解らない。


主なら何か出来るかもしれないが。


少ししょんぼりするアズラを、ミズラが慰めていた。




森を抜けて木の柵が見えて来た。 木の門はなんとかしゃがめば、通る事が出来た。


門兵が固まっている。 今回は、後3日と言わなかった、何をそんなにびっくりしているんだろう。


「ミズラ、あいつ等は何をあんなに固まっているのさ。」


「鹿が珍しいんじゃないですか? あんまり買い取り無いって言ってましたし。」


村の住民はこちらを見ては、同じように固まっている。 私達はそんなにおかしいのだろうか。



村の中を歩いて、冒険者ギルドの前についた。


中にはこのまま入れないので、ミズラとアズラにジッダを呼んできてもらう。


「はい、呼んできますね!」

「俺も行って来るぜ!」


元気に返事をする二人。 アズラの機嫌は直ったようだ。


ローブを被ったままの2人が、中に入って行く。


「セリカ様、降ろしますか?これ。」


「ジッダの言う所に持って行くのさ。 また積みなおすのは魔力無しじゃ、めんどくさいのさ。」





「何で外なんだよ。 めんどくさいじゃねぇか。」


扉の方からジッダの声が聞こえる。


頭をボリボリ搔きながら出てくるジッダが扉の前でこちらを見て止まっていた。


「ジッダ、買い取りしてほしいのさ。 金貨20に成るのかねぇ。 どこに置けばいいのさ。」


何も言わないジッタ。 


「ジッダさん。 どうしたんですか?」


ミドラが横から突いてやっと動き出した。


「お前ら、どんな力してんだよ。 というか丸ごと持ってくる奴なんていねぇよ!」


「どんなって、持てるからねぇ。 邪魔だから早くどこかに降ろさせてくれないかね。」


その後もブツブツ言い続けるジッダ。 ギルドの建物の裏に降ろす。


「高額になるから、マスター呼んでくるからよ。 そのまま、待ってろ。」


ギルドの建物を丸く囲った道は、そこから奥に似たような風景が広がる。


逆側にも門があるようだ。 私達の通った門と何も変わらない木の門。




鹿の山を降ろして待っていると、金髪青目の男を引き連れたジッダがやってきた。


「なんです? ジッダさん。 高額買い取りなんて、こんな村にあるわけないでしょう。」


「何か遠くから来たとかで今日ここに着いたみたいなんですよ。 ロックさん、お願いしますよ。 実績上げたら帰れるんでしょう?」


「私はね、ジッタさん。 ここが無くなるまで読書をして過ごしたいのです。 邪魔をしないでいただけますかな。」


細い長身のロックと呼ばれた男、中世貴族のような恰好をしたベストの男は、ずっとジッダを見て、何か言っている。



「ジッダ、早くしてくれないかね。 ずっと待ってるのさ。」


やっと私達の方を見たロックは興味が無さそうな顔をすると、またジッダの方を向いてしまう。


「異国人ですか。 適当に定価2割引きで引き取っておきなさい。」


「彼女達の目の前でそれはないでしょう。 ロックさん。」


「いいんです、どうせ生贄に成るんですから。 あなたも気を付けない、ジッダさん。」


ロックと呼ばれた男は、そのまま向こうの方へ行ってしまう。 気分の悪い男だ。



「俺はギルド員だ、マスターのいう事は守らなきゃいけねぇんだ。 20匹で金貨16枚、これでしか買い取れねぇ。」


「ジッダ、そのマスターてのは何なんなのさ。 感じの悪い人間だねぇ。」


「戦争に負けてからマスターは皆プロトン人であんな感じだ、俺等は家畜と同じなんだよ。 俺も気に食わねぇけどどうしようもないんだ。」


少し顔を背けて話すジッダ。 人間も大変そうだ、カレンが珍しく怒った顔をしている。


そんなに魔力を溜めて、どうするんだいそれ?


私は別にどうでも良かった、昔なら馬鹿にされて怒っていたかもしれない。 でも今は何も思わなかった。





そのまま鹿をそこに置いて、ギルドの中に入る。 買い取りカウンターでジッダが金貨16枚をカウンターの引き出しから出してくれた。


それを布袋に入れて渡してくれる。



「これで1年は仕事が出来るぜ。 また来てくれよな。」


「あの鹿、どうするのさ? あのまま、ほっとくのかい?」


「角だけ取るんだ。 後は金に成らねぇから、この村で食うか肥料になるだけだな。」


「お金に成らないなら貰えないかねぇ。 私らも何か食べたいのさ。」


「角を取るのに時間が掛かるんだよ。 取ってからなら良いぞ。」


「セリカ様、私が取ってまいります。」


「カレン、すまないねぇ。 私も手伝うのさ。」


「取るって、そんなスグに取れねぇからな!」


カウンターの椅子に座ったジッタは、また椅子に体を預けてダランと座り込んでしまった。


サリーと呼ばれていた女はまた机に顔を伏せたままだ。




4人でさっきの鹿の山まで戻る。


積み上げられた鹿の山、食べれると思うと少し涎が出てくる。


「セリカ、食べるってどんな感覚なんだ? 初めてでさ。」

「私も初めてです。 この口ってのに入れるんですよね?」


「そうなのさ。 これ終わったらそこら辺で焼いて食うのさ。」


「人型って不思議な事するんだな。」

「私も同じ事思いました。」


フードを被った彼等が、二人で食べるについて話している。


私も人型で食べた最初の食事は感動した。


二人もルルのように成るのだろうか。 ルルは元気だろうか。



カレンがツノを持って山から引き出し、私が爪でツノを切った。


簡単に切れるツノ。 一体何が時間かかるんだろうか。 5分もたたずに終わった作業。


アズラとミズラはそれを見て、食べるに思いを語っていた。


カレンに解体を任せて私は角をジッダの元に持って行く。


また、やる気の無さそうに座っていたジッダが、こちらを見て目を丸くした。


「もう取れたのかよ。 雷鹿の角はノコギリが中々入らないんだぜ。」


「切れたのさ、これでいいかね。」


一応お金の入った袋も持ってきていた。 何かあった時に金を返せと言われると思ったからだ。


「ほんとに切れてやがる。 どうやって切ったんだ? 魔法でもあるのか?」


「魔法? 無いねぇ、普通に切ったのさ。」


「普通は切れねぇんだよ!」


そんな大声を出さなくても良いのに、横のサリーはそれでも起きない。 疲れているんだろうか。


「とりあえず角は置いとくのさ。 裏の場所使っても良いかね。」


「秘密か、どこの国から来たんだよお前ら…… 勝手に使ってくれていいぜ。」


鹿の角を一本一本カウンターの奥の方に持って行くジッダを後にして、鹿の山に向かう。



鹿の山は肉の山に変わっていた。


剥ぎ取った皮を絨毯に綺麗に並べられた肉の山。 そこにカレンは見当たらない。


「セリカさん、カレンさんが木を取りに行くって行ってしまいました。」


「そうかねぇ。 少し待つかねぇ。」



少しだけ待っていると、木を丸ごと担いだカレンが門から歩いて来る。


また注目を集めるカレン。 道の両側から村人が顔を出して何やら話している。


「セリカ様、1本で足りるでしょうか?」


「十分だと思うねぇ、足らなければまた取りに行けばいいのさ。」


また爪でその木を適当に切って、山にする。 葉っぱも根っこもどうせ焼けるだろう。


速く食べたいんだ私は。



少しは魔法操作が上手くなったのか、木を丸焦げにせず火をつける事が出来た。


木の山が燃えて、煙がギルドの2階に当たっている。


「とりあえず掘り込むのさ。 焼けたらそこから取って食うのさ。」


カレンと二人で適当に、火の中に肉を掘り込んでいく。


少し肉の焼けた良い匂いがしてきた。 火の中で肉が汁を出して、それが火に焼けて"ジュゥ"と音を出している。


「なにかいい匂いがするんだぜ。 これを食うのか?」


「そうさね、私は料理できないから焼くだけなのさ。」


「セリカ様、申し訳ありません。 私もそちらはお力に成れなくて。」


火に手を突っ込んで肉を回しているカレン。 彼女も料理は出来ないようだ。



しばらく経って、良い感じに成ってきた。


食べたい。 その思いが強くて、地面に座って火から肉を取り出す。


イイ感じに焼けて少し硬くなったお肉は美味しそうだ。 脚の部分だろうか、それをそのまま持ってかぶりつく。


口に広がる油は私を幸せにしてくれる。 少しあっさりしたお肉はこれはこれで美味しい。


メルサの料理の様には行かないが、これはこれでうまい。


カレンも地面に座って肉の塊にかぶりついている。 顔が綻んでいる所を見ると彼女も満足しているのだろう。


骨も行けるなこれ。



アズラとミズラが突っ立っている。 彼等は食べないのだろうか。


「それ取って食えばいいのさ。 結構いけるのさ。」


「火に手を入れたら火傷するぜ?」

「取れないんです……」


なんだ、取れないのか。 前は皆で手を突っ込んで取ってたぞ?


火から取り出して、二人に分けてあげる。


余った皮の上に置いたその肉を、二人がそのままかぶりついた。


モグモグしている口、目が肉にくぎ付けに成っている。


「食べる、良いいぜ!」

「おいしいって、こういう事を言うんですね!」


「まだ欲しかったらいうのさ。 取ってあげるのさ。」


「アズラさん、ミズラさん、私にも言ってくださいね。」


二人も満足しているようだ。


カレンは2本目に突入している。 私も食わなくては。


そこから、ひたすらに4人で食べ始めた。 気付けば肉は無くなってしまう。


まだ3倍はある肉。 全部焼いてしまおう。



生肉の山に歩いて近づいて、カレンと2人で火の中に肉を掘り込む。


アズラとミズラは最初の肉をまだ食べている。 骨は食わないのかい?



「あの、すいません。」


若い女の人間が、女の子の手を引いて声を掛けて来た。


茶色の髪、目の女と女の子。 この村の人間だろうか。


よく見ると布の靴と服がボロボロだ。 頬が痩せこけている。


子供は人差し指を口で咥えて、涎を流して私を見ていた。


「なにかねぇ? 邪魔だったかねぇ?」


「いえ、邪魔だなんて。 勝手を言うんですが、少し分けて頂けないでしょうか。

お肉なんて食べる機会がなくて、この子の分だけでも良いので。」


頭を下げてくる女、横で子供が真似して頭を下げている。


こちらを見てくるカレン。 カレンは私にゆだねる様だ。


「良いのさ、一緒に食べるのさ。 椅子は無いけどねぇ。」


「良いのですか! ありがとうございます。 ありがとうございます。」


何度も頭を下げる女。 真似して事も頭を下げる女の子。


子供は人間でも可愛かった。 ラーナより幼い女の子。


「ありがとう!」だけ言うと、地面に座る。


「良かったね。良かったね。」という母親。 村人は肉も食えないのか。


なんだが、人間も大変そうだ。



全部の肉を火にほおりこんで焼けるのを待まっていると、その間に村人が次から次へとやって来る。


老人、男、子供。 皆ボロボロの服。 


「セリカさん、分けてしまって良いんですか?」


食べ終えたミドラが、聞いて来る。 口に肉の食べカスが一杯ついている。


それを指で取ってあげる。


「私達は、すぐにでもまた食えるのさ。 皆で食う飯は良いものなのさ。」


少しガヤガヤしている周囲。 メルサの店を思い出す。


アズラはカレンと話をしているようだ。 その周りでも村人が座って火を囲んでいる。


30人ぐらいだろうか。 村の全員が集まっている様な景色。


なんで子供は私を昇ってくるんだろうか。 ミドラとはきちんと座って話をしてるじゃないか!



日も傾いてきて空が赤くなってきていた。 今日はギルドの宿にでも泊まろうか。


そんな事を考えて上を見ていると、ギルドの2階の窓が開いた。

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