人間界 セリカ編 7
人間の村。
それが森を抜けた先にあった。
隙間の無い木の柵が村を囲っている。
その奥から上がる煙が人が住んでいるのだと主張する。
その柵沿いに歩く、結構大きい村の印象だ。
壁の向こうには多くの存在を感じる。
皮の胸当てを付けた兵士が見えて来た。
木の棒に鉄をくっつけただけの槍を持った兵士は、
森で見た人間と同じ茶色の髪の人間だ。
頭一つ高く成っている門の上には、大きなバリスタが置いてある。
門は外に開かれている木で作られた簡素な門。
「なんだその恰好、奴隷か?」
門兵が聞いて来る。 ミドラとアズラを見て言っているようだ。
頭までローブを羽織った彼等は、奴隷に見えるようだ。
カレンが途中でそうしろと言っていた。 カレンは出来る女だ。
今は飛んでいない。きちんと大地を踏みしめている。
「馬が魔物に襲われまして、着る物も奪われてしまいまして。」
「なんだあんた、異国人か? 珍しい髪の色してるな。」
「旅の途中で襲われましたので。」
カレンが相手をしてくれている。 よくそんな事思いつくな。 流石カレンだ。
「村に入るのは無理だな。 銀貨3枚 それが入村料だ。」
「後払いは出来ませんか。 多少は戦えますので。」
「3日以内に払えよ。 あと、白斧の誓いって冒険者見なかったか。」
「すいません、知りませんね。」
「そうか、3日だぞ。 3日経ったら追い出すからな。」
兵士は私達の剣と鎌を見て納得したのか、中に入れてくれた。
白斧の誓い?何か聞いたことが有るような。
土しかない道、その脇に不規則に並ぶ木の家、高い家は無い皆平屋。
その裏では、何か植物を育てているのか整えられた畑が柵まで続いている。
その畑で何かしている人間達が沢山居る。 何か作業をしているようだ。
土の道をまばらに走る馬車にはその植物を沢山積んだ人間が乗って、馬を手綱で操っている。
その奥、道の終わりにこの村唯一の2階建ての建物が見える。
とりあえずそこに向かう事にする。
道行く人が皆私達の方をジロジロ見てくる。 全員茶色の髪。
異国人、門兵が言っていたのはそんなに目立つんだろうか。
気にしても仕方ない。 とりあえず服だ。
なにか古びたボロボロの2階建ての建物、看板は上に掛かっているが全く読めない程に朽ちている。
でも一か所かる扉に見覚えがあった。 両開きの腰辺りだけある木の扉。
冒険者ギルドの扉。 同じか解らないか、そこに入ってみる。
ススカと同じ間取りの建物、ただ入った所にある掲示板には何も貼られていない。 その横に階段がある。
左に人が居ない酒場、右に長いカウンター。 全て木で出来ている。
「異国人か、珍しいな何しに来た。」
カウンターの真ん中に居る茶髪の男が声を掛けてくる。
少しガタイのいい男。 その男は、カウンターに肘を付いてやる気の無さそうにこちらを向いていた。
上にある看板は相変わらず朽ちて何かわからない。 ススカでは総合だった所にその男は居た。
ススカで新規だった右側に女が一人、三つ編みを2つ垂らした女は、カウンターに伏して頭のてっぺんを此方に向けている。
左には誰も居ない、奥にも誰も見えなかった。
「ここは冒険者ギルドかね?」
「そうだ、死者の村の冒険者ギルドだ。 こんなとことに何しに来たんだ。」
死者の村、変な名前だ。
「服を探しに来たのです。 この辺に服を売っている所はありませんか?」
「服? そんな店ねぇよ。 街に行けチェリー、途中で通っただろ?」
「生憎、道なき道を進んでいまして。」
「エルフの所から来たのか? 変な異国人だな。 エルフの所で買えば良いじゃないか。 あそこは服の産地だろ?」
「その異国人って何なのさ。」
「すいません、遠くから来たもので、この周辺の事を教えていただけませんか?」
カレンが補足してくれた。 カレンに任せよう。
男とカレンの話では、ここは旧ブロッサム国の死者の村。
死者の村の近くには昔は死霊族が沢山いたんだそうだ。 それで死者の村。
プロトン国に負けたブロッサム国。
プロトン国は死霊族をやたらと捕らえて持って行った。
そして殆んど居なくなってしまった死霊族。 死者の村はほぼ誰も来ない辺境の村に成ってしまった。
エルフは服を作っているのか、そっちに行ったほうがいいかもしれない。
「たまにチェリーの白斧が、残党探しだとか言って来るぐらいだ。 お前さん達が今年2番目かもな。」
笑いながら話す男、どんどん姿勢が崩れて、今はカウンターに両手組んで置いて、その上に顔を乗せている。
「金も無いのさ。 買い取りはしてくれるのかい?」
「買い取りはするぜ。 この辺だと雷鹿が1金貨で高いな。 レイスやスケルトンは100金貨はするぜ。」
レイスの言葉にアズラとミズラを見たが、何も無いように立って聞いている。 あまり気にしていないようだ。
「ウサギも居たのさ。」
「ホーンラビットか? あれは1銀貨ぐらいだな。」
何か価格を行ってくれる、あの鹿が高いのか。 あれを狩ってこればいいんだな。
あと、冒険者ギルドといえばあれだ。
「ステータスも見せてくれるのかい?」
「ステータス? おいサリー在庫あるか?」
「無く成りましたよ。 なんか街の教会でステータス見れないからって街の冒険者ギルドに全部取られました。」
右で寝ていた女がそのまま顔だけこちらに向けて言う。 教会、そこまで魔界と一緒なのか。
「無い物は、無理だな。 魔物を狩れるのか? 俺はジッダだ、何も仕事が無いとココが無くなっちまう。 出来るなら持ってきてくれ。」
「私はセリカなのさ、青いのがカレンで、ローブがミズラとアズラだねぇ。」
「そうか、なんかすごそうな武器持ってるもんな。 白斧はプロトン人で嫌な奴だが、お前らは良いやつそうだ。 登録はしてるのか?」
「登録はしないのさ。 色々あるのさ。」
「そうか、分かった。 待ってるぜ。」
「すいません、泊るところはありますか? 馬車も無く成ってしまったので。」
「2階で泊まれるぜ、1日1銀貨だ。 いつでも空いてる使ってくれよ。」
「ありがとうございます。 セリカ様、とりあえずは魔物を狩りに行きましょう。」
「そうだねぇ。 そうするのさ。」
「おう、待ってるからな。」
色々情報は得れた。 なんだかんだ良い奴だなジッダは。
ステータスを一度見てみたい。 私以外誰も見ていないステータス。 皆のを確認したかった。
でもその前にお金だ。 鹿を狩らないと。
冒険者ギルドを出て、村を出た。
また門兵が後3日だと言っていた。 いい加減しつこい。
「鹿狩りに行くかねぇ。 ミズラとアズラも行くかね?」
「私も行きます!」
「俺も行くぜ。」
「セリカ様、別れますか? 効率がいいと思います。」
「そうだねぇ、朝アズラと一緒だったからミズラと行くのさ。」
「セリカさん、よろしくお願いします。」
「カレン、よろしくな!」
そこから、飛んでいる姿を見られるとマズイと思い、歩いて森に入る。
森に入ってから浮いて移動するミズラ。 早く靴を買えたらいいんだけどねぇ。
「ミズラ、少し速くてもいいかい?」
「はい! 一回全速で飛んでみますね。」
「わかったのさ、付いていくのさ。」
ミズラが全速で飛ぶと言っている。
高くは飛べないようだが、スピードはそれなりに出ている。
景色が流れる程度にはだ。
私が存在が多い方にミズラを指示して、誘導する。
「セリカさんは、なんでそんな事わかるんですか?」
「なんでだろうねぇ、生まれつきなのさ。」
「生まれつきですか。」
生まれつきといえば、ミズラの鎌。 進化とやらをして、急に出て来た鎌は何なんだろうか。
人間界は不思議だ。
話している間に、シカの群れが見えた、10匹程度だろうか。
「ミズラやるかねぇ。 私がやると潰しそうでさ。」
「はい。 がんばります。」
カレンのように横に構えて出ていくミドラ。
その様子を見たかった。
飛んだまま、鹿に迫るミドラ。
気付いた鹿は雷撃を放つ。 それを飛びながら避けるミドラ。
鎌で掃えばいいのにと思ってしまう。
撃つたびに、裂けるミドラは、どうしても体制を崩してしまう。
なんとか近づいて、1匹倒したミドラはそのまま戻ってきた。
「一匹仕留めました!」
「ミドラよくやったねぇ。 雷撃は鎌で受けないのかい?」
「鎌で受けると、壊れそうな気がして。」
「壊れるのかい? ちょっと借りて良いかね。」
ミドラが差し出して来た鎌の刃の部分を触る。
普通の鉄、そんな感じ。 確かに丈夫ではないのかもしれない。
ミドラの魔力があるのかと思ったが、そうでも無い。
「ミドラ、少し鎌弄っても良いかね?」
「弄る?ですか。 良いですよ。」
「少し手を借りるよ。」
彼女の細い白い腕を掴んで、一緒に鎌を持つ。
やることは魔界と一緒だ。 私とミドラの魔力をこの鎌に込めるのだ。
ミドラの魔力を押して、入れようとするが中々入って行かない。
すぐ壊れそうになる鎌。
本当に少しづつ、入って行くと、そこで壊れそうになって辞めた。
少しだけ赤く成った刀身に、薄い黒い線が刃に入っている。
人間界のせいなのか、コテツの作ったのが良かったのか。
コテツは元気にしてるだろうか。
「魔力が宿りました! すごいです!」
「ミドラが良いなら良いねぇ。 魔界に行ったら、私の知り合いに鎌作り直してもらう方が良いのさ。 あんまり入らないのさそれ。」
「そうなんですか? これでもすごいと思います。」
「そうだねぇ。 これ見るのさ。」
背中の大剣を抜いて、布を吸わせる。
ダンジョンでは魔力をそんなに入れていなかった大剣。 そこにいつもの様に魔力を入れる。
赤く暴れ出す魔力は、徐々に濃く、飢えているように外に飛び出そうとする。
それと競うように暴れる緑の魔力。 こいつは2色が打ち消し合ってこの形を保っている。
「なんですこの剣、何か襲い掛かってきそうな。」
「そうなのさ、良い武器は、意識があるように見えるのさ」
主の太刀は、全てを呑み込もうとするような太刀。
ルルの刀は、素直にただ従う刀。 それゆえに速い。
カレンの鎌は、その周辺全てを従わそうとする鎌。
コテツの作る武器はどれも、魔力を通すと特徴が出ていた。
ミドラのそれには、流しても何も感じない。
大剣を布を纏わせて大剣を背中に担ぐ。
ずっと目で私の剣を見ていたミドラには何かが感じ取れたようだ。
でも、鹿の雷撃ぐらいなら、今の鎌で十分防げるはずだ。
「魔界に行ってからやるのさ、今はそいつでやってみるのさ。」
「はい。 なんだか魔剣みたいです。」
また鹿の方に繰り出すミドラ。
3体の鹿がミドラに気付く。 角に溜めた雷を雷撃として放ってくる鹿。
その雷撃を体を回転させて鎌で薙ぎるミドラ、その勢いのまま鹿を刎ねた。
まだ2匹居る鹿も、同じように狩ると帰って来る。
「やっぱり道具は大事ですね。」
「そうなのさ。 やっぱり変わるのさ。」
鎌を見ているミドラ、後ろにある鹿を浮かせて、寄せる。
後6匹近くに居るけどやるかね?
「はい。 やらせてください。」
ミドラはそれからすぐに6匹狩って戻ってきた。
青い髪が森の中でカレンのように踊っていた。




