人間界 セリカ編 6
何かが突き抜けた天井からは光が差し込んでいる。
その光の先には穴の開いた召喚陣、その周りには溶けた聖鉄。
何かで溶けている召喚陣だった台座は、無くなって、下の生贄エリアまで溶かしてしまった。
今もブクブクと蒸発する召喚陣の台座を溶かした何かは、触る物を全て溶かしてしまう。
異人種が2人、触った所から溶けてしまったのだ。
その穴は何かが通ったように、奥に続いている。 その先に報告によれば魔法大臣があった場所。
ただ穴が開いているだけの場所は、そこも溶けて下の生贄エリアまで見えてしまっている。
生贄エリアも地面まで抜けてしまっているのだが。
視点を変えると切り裂かれた机。 その先の壁は大きく抉れている。
サイラ所長が居た机。 それが無残にも切り裂かれていた。
勇者が竜の国を落としきらない。 魔界へ強化に行った勇者は消えた。
焦って悪魔召喚に手を出した結果がこれだ、その悪魔は未だこの世界の何処かにいるだろう。
白い豪華な城内、赤い絨毯の上を進む、窓からは街が一望でき第三召喚所の穴も見える。
軍務大臣として王に報告せねばならない。
魔法大臣が死んだ、悪魔が逃げたと。 あの王は何を返してくるかわからない。 辛い仕事だ。
「カッサス大臣、お勤めご苦労様です!」
真っ白な鎧を纏う門兵が敬礼してくる。 軽く手を額に当てて、その扉を開いた。
何度も見た風景。 相変わらず白い床と壁天井、そして赤い絨毯だ。
このミスリルを含んだ聖鉄で出来た城の上層部。 これを作ったドワーフ共も属国になって久しい。
反発があっても勇者には敵わない。
大きな空間に窓は無い。 ただ上からぶら下がるシャンデリア。 10段ある階段の上に王座。
壁面にはこの国の国旗、盾が描かれている赤い垂れ幕が一面に下がっている。
王座に座る老人。
金髪と青目金の髭を整えた老人は、この国の国王カンドラ25世。
大柄な彼がこの国をここまで大きくした。
いつもの様に赤いカーペットを歩いて、国王の前で膝まづく。
「カッサス軍務大臣ではないですか、何をしにいらしたのかな?」
憎たらしい口調で先客が横を見て言ってくる。
ボルテウス内務大臣、細い男も特徴は同じだ。
大臣の色である金色のローブを纏った男は、この国の予算を握っている。
俺は、金色の鎧だ、趣味が悪いとは思うが決まりだ仕方ない。
「カッサス、第三召喚所の件か。 世に聞かせい。」
ガラ声、そんな声の国王の声が上から降ってくる。
「国王陛下に申し上げます、第三召喚所サイラ所長は死亡。 ドミンガ魔法大臣も死亡いたしました。」
「そんな者はどうでも良い、召喚所はどうなのだ。」
「失礼いたしました。 召喚所は何かに溶かされており、聖鉄の檻は無く成り、召喚座も損失しております。」
「召喚ができんのか、どれくらいで直せるんだ。 ボルテウス。」
「総動員致しまして、2カ月はかかるかと。」
「1カ月でやれ、良いな。」
この国王は大臣や勇者が死んでも気にも留めない。 自分を押し上げた召喚所だけが彼の興味だ。 毎回そうなのだ。
「続きまして、竜の国への侵攻について……」
この頃には国王の興味は無く成っている。 どうせ勝てばすぐに耳に入るのだ。
この半年ほど、この国の侵攻は止まっている。
最初は激怒していた国王も、最近は同じことの繰り返しで聞き飽きている。
そんな変わらない戦況を頭の中から取り出して伝えていくのであった。
目が覚める。
岩の洞窟、地面が固い。 あのベッドが恋しくなる。
珍しくカレンも寝たままだ。 床に仰向けで寝ている彼女は、手を横にほりだて、足を大股で開いて寝ている。
顔からは涎が垂れて、青い髪がグチャグチャに成っていた。
普段きちんとしている彼女、あまり寝相は良くないみたいだ。 すこし可愛い一面を見れた。
アズラとミドラは二人で、アリババのローブに包まって寝ている。
皆を起こすのも悪いと思って、声を掛けず洞窟の外に向かう。
やることが無い。 大剣を外で素振りでもしようと持って行くことにする。
壁に立て掛けられた大剣、横に大きな鎌が2本と大きな杖。
仲間が増えたんだと少し嬉しくなる。
空がまだ赤い。 昇り切っていない太陽は、まだ姿を見せていない。
何か空気が美味しかった。
カレンが切ってしまった空間は、氷は無くなりただの土が出ているだけの場所に成っている。
遠くに見える木、そこまでずっと同じ土。 そこには何の存在も感じなかった。
大剣を握って、前に構える。 振りかぶって、早くを意識して振り下ろす。
それを何回も繰り返した。 こんな朝も良いのかもしれない。
「おはようございます。 セリカ様、少し長く寝てしまいました。」
「おはようなのさ、カレン。」
ずっと剣を振り回していた所にカレンが挨拶をしてくる。
白い布が付いたままの大鎌を展開して両手で前に持っている。
「ご一緒してもいいですか?」
「構わないのさ、カレンが作った場所なのさ。」
そこから二人並んで素振りを繰り返す。
カレンはどうしても大振りに成ってしまうが、回ったり反動を生かしたりして青い髪が踊っている。
しばらくそれを続けて居た。
無理に私に合わせようとしてくるカレン。
少し剣を交えたくなった。
「少しだけ、やるかね。」
「よろしいのですか? 是非お願いします。」
カレンも良いようだ。 顔が少し明るい、嬉しいのだろうか。
二人でそのまま向かい合う。 布を付けたままだ。
カレンの構えは横からが基本な用で、足を開いて鎌を右に大きく構える。
私は、前に自然に構える。
「魔力は無しなのさ。」
「かしこまりました。」
言うや否や、地面を爆発させて鎌を横に構えて、一気に突っこんで来るカレン。
カレンがどんなものか解らない。 まずは受けてやろう。 脚を開いて大剣を横に構えた。
カレンが足を地面に踏ん張って、その勢いを鎌に乗せる。 大振り、まさにそれ。
迫りくる鎌が私の胴を切り裂こうと迫って来る、長い刀身の真ん中に大剣が当たる。
音と衝撃波が周囲に広がる。 踏ん張っている私の足が地面を少し凹ませた。
「重い!」
カレンが顔を歪ませて力押ししてくる。 最初の頃の私と同じ。
大剣を外に払って、鎌が弾かれたカレンは体制を崩す。
"クッ"
カレンが悔しそうな声を出す。 私はそのままの勢いで、カレンの首元まで大剣を払い、止めた。
「参りました。」
「力押しでは私には勝てないのさ。」
少し悔しそうなカレンにルルの戦い方を教えてあげる。
そこから何度も繰り返す。 毎回私が勝つが、徐々に素振りをしていた時のように青い髪が踊り出す。
反発する力を使いだしたカレンは、大振りで隙があるようであまりない。
鎌は横に構えると、円周の1/3を覆ってしまう。 回り続ける刃が、彼女の隙を無くしていた。
「ありがとうございました。セリカ様。」
肩で息をするカレンが、鎌を畳んで閉まった時、太陽は完全に昇って空が明るく成っていた。
「すごいです!」
「すげぇなぁ。 早くてあんまり見えなかったぜ。」
「私達も教えてください!」
「俺も剣がよかったぜ。」
いつの間にか起きていた2人。 彼等も武器を持って出てきていた。
カレンはミズラと話ながら鎌を振っている。
背の高いカレンに教えれれるミズラ。 さながら姉妹の様だ。
アズラは、杖で私を殴ってきている。 万が一の近接戦闘を想定して、素手で相手をしていた。
「もう、無理なんだぜ。 どんだけなんだよ。 何にも入らねぇ。」
「私ももう無理です。 そんな早く振れません。」
「もうばてたのかねぇ。 そんなんじゃ人間界滅ぼせないのさ。」
「滅ぼさなくて良いです。」
「目標おかしいんじゃないのか。」
座り込む二人の目標は人間界を滅ぼす事では無いようだ。
「セリカ様、よろしければどうぞ。」
カレンが、手に水玉を出してくれる。 少し汗をかいた、冷たい水で顔を洗うと気持ちよかった。
「セリカ様、少し洞窟に用がありまして、出ていくのは待っていただいて、よろしいですか?」
「いいのさ、急がないしねぇ。」
カレンは洞窟の入り口まで行くと、手で掴んで岩をそこから引き抜いた。
カレンの身長ぐらいある岩。 それを地面に置く。
「何するんだね?」
「アリババの墓を作ろうと思いまして。」
爪を伸ばしたカレンは、器用にその岩を削っていく。
墓、思いもしなかった。 カレンは、そんな物どこで知ったのだろう。
思い返すも覚えが無い。 考えている内に墓は出来たようだ。
かまぼこ型の大きな墓、最後に"アリババここで眠る"と掘って、一番奥の部屋まで持って行く。
「ローブと杖を埋めてしまいますが、よろしいですか?」
「私は良いです。 アリババが居た証拠が残るなら。」
「俺もそれが良いと思うぜ。」
アズラとミズラに了承を得たカレンは、手で床を掘って、そこにローブと杖を入れた。
「埋めてしまいますよ。」
もう一度聞くカレンに、2人は無言の頷きで返す。
少し土を入れて、その上にさっき作った墓を置くと、アリババの墓が完成する。
手を合わせて、目を閉じるカレン。
それを真似するアズラとミズラ。 私もそれに習った。
アリババとの別れ、それがきちんと出来た気がした。
皆で洞窟を出て、人間の村に向かう。
何も無い大地、それを森の方に歩いていた。
「ここ、なんでこんな事に成ってるんだ? 朝のあの音が原因なのか?」
「何か凄い音がしました、洞窟が崩れると思いましたよ。」
朝?そんな事あっただろうか。
「セリカ様と私が剣を交えた際の物かもしれません。」
最初の一撃を思い出す。 確かに何か出ていた。 存在もこの近くには相変わらずない。
少し派手にやり過ぎただろうか。
ミズラと、アズラは、レイスの時の癖が、浮いて移動している。
その素足が土で汚れていた。
「魔物が居ないと服も買えないのさ。」
「その内出てくるのではありませんか?」
「そうだねぇ。 そうだといいねぇ。」
私の感知できる範囲では人間しか居ない。
困った物だ。
「それで、セリカさんとカレンさんが戦うとこうなるのですか?」
「これはカレンが氷漬けにしたんだねぇ。」
「氷漬け? こんな広範囲をか?」
「そうだねぇ。 カレンだからねぇ。」
二人が目を丸くしている。 事実だもの、仕方がない。
結局何も見つけられず、そのまま森をぬけてしまった。




