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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 5

ただ嬉しかった。


カレンが、このまま動かなかったらどうしようと心の奥でずっと思って居た。


私の魔力操作が下手なばかりに彼女をこのままにしてしまうのでは無いかと。


カレンの指が私の目の下をなぞる。


「セリカ様、綺麗な顔が濡れてしまっていますよ。」


その指は濡れていたんだ。




「カレン、痛く無かったかい? 辛く無かったかい?」


「セリカ様、何も痛かったりはありません。 全て聞こえていました。

アリババというレイスに感謝ですね。」


カレンが、後ろを振り向いている。


アリババが着ていたローブと持っていた杖が地面に落ちている。


それをひたすらに見つめる、アズラとミズラ。 


その紫の目と青い目は、ただ丸いだけで表情は解らない。


でも、そのままそっとしておこうと思った。




存在が近づいて来る。


人間の存在が沢山。 こんな時に、さっきのあいつ等だろうか。


カレンが立ち上がる。 鎌を拾うカレン。 肩に担いで、そのまま出て行こうとする。


「カレン、大丈夫なのかね。 まだ体動かないんじゃないのかね。」


「セリカ様、私も少し腹が立っているのです。 今回はやらせていただきます。」


自分の欲望をこれまで言った事が無いカレン。 初めて自分でしたいと言った。


それを聞こうと思った。


私も二人を残してカレンの後を追う。




洞窟の入り口、何かを察知したのか、さっき感じた全ての人間がそこに集結している。


フルアーマー、魔法使い、弓使い。 斧や大剣を持った大男。


色々だ。 チェーンを振り回してる奴もいる。 さっき見た奴も見えた。


「隊長、あそこです。 あの洞窟を差しています。」


「その魔法針合ってんだろうなぁ。 たまに全然違う所差すぜ。」


「今回はさっき会ったばっかりです。 あそこにレイスは居るはずです。」


「ホントかよ。」



さっき見た茶髪と、隊長と呼ばれる勇者の特徴をした大男が話をしている。


鎧を着こんだ男は、その金髪を肩まで伸ばして、肩の鎧に掛かっていた。


手には大きな斧。 魔法の掛かった斧は、刃だけで男の半分はある。



そこにカレンが鎌を担いで進んでいく。


「お引き取り頂けますか? 少々取り込んでおりまして。」



「美人じゃねぇか! おい、レイスなんてどうでも良い。 あいつを捕らえろ。」


「隊長、なんか青い鎌持ってますぜ。」


「あれもレイスの仲間か一石二鳥じゃねぇか! あれだけ美人だ死体でも売れるぜ。」


ガハハと大きく笑う隊長。 そのまま森から出てきて、ノシノシと洞窟の前の広場に出てくる。


後に続いて出てくる剣や斧を持ったフルプレートの人間達。


後ろでは、杖や弓を構えた人間が、カレンを一様に狙っている。



「白斧の誓いが、お前らを捕獲するぜ!」


大男がカレンに飛びかかる。


その斧を真上に振りかぶり突進してきた。


同じように魔法と弓が一斉にカレンに向かう。


大男の後ろから、剣を前に突き出したフルプレートアーマ達が駆け出してくる。


「お引き取り頂けないのですね?」


カレンが小さくつぶやいた。


鎌を横に構えて、そのまま止まる。


迫る大男と、魔法や弓。


飛びかかる大男をカレンがくぐって、そのまま鎌を一振り、180度振りぬく。


その方向にある全てが切れた。


魔法、弓、鎧、木、人、草。


見える限りの物が切れて凍り付いた。


真っ二つに成った人が木が、凍り付いてそこら中に転がっている。



「捕獲されるんでしたっけ? お一人では難しいですね。」


「今何をした、全滅だと!?」


足元をくぐられた隊長と呼ばれた男、また斧を振りかぶりカレンに振り下ろす。


カレンは鎌の背でその斧を受けた。


凍っていく斧と、大男。


顔だけの残すとその凍結は止まる。


「おい、何をした! 体が動かねぇぞ!」


カレンが男の首を抱えるように鎌を首に回す。


鎌を短く持って、男に近づくカレン。


カレンより大きな男は首が凍って、カレンを目でしか見れない。


「私、最近の出来事で人間さんが少し嫌いに成りましたの。」


それだけ言うと、手前に鎌を引いて、首を跳ねた。


落ちていく男の頭は凍ってしまっている。 それを足でカレンが蹴り上げる。


粉々になる男の頭だった氷の塊。


そのままの勢いで回って、体を蹴って氷の粒に変えてしまう。


「あっけないですわ。」


指をぱちんと鳴らすと、凍り付いた物全てが、粉々に成って氷の粒の山に成ってしまった。


遠くまで続く氷の粒が、風で流されてどこかに飛んでいく。


「セリカ様、ありがとうございました。 少しスッキリしました。」


「そうかね、よかったのさ。」


カレンを怒らせてはいけない。 一つ心に刻んだ。





洞窟に戻る。


まだアリババのローブと杖を見ている二人。


私達には解らない彼らの関係があるんだろう。


カレンは困った顔でその様子を遠くから見ている。


私は、背を向けている彼等に近づく。


「私が来たばかりに、すまないねぇ。」


「セリカさんのせいでは無いんです。 解っているんですが。」

「俺もセリカのせいでは無いと思う。 近いうちにこうなるのは解っていたんだ。」


押し黙る二人、顔はやはり目だけしか無くて、分からない。


でも声が悲しい声に成っている。


主はこういう時どうするんだろう。 思い出す。


二人の頭を撫でてあげる。 優しく、ゆっくりと。


「ミズラ、アズラ。 アリババの言う通り私達と来るかい?」



今度は赤い魔力に包まれる二人、そのまま赤く収縮していく。


グチャグチャに成った赤は何かを内側で爆発しているように膨張と縮小を繰り返す。


やがて収まるその現象。


すっと、元のレイスぐらいの大きさに成ると、それは収まった。



ローブを着た、人型が2人。


紫の横を刈り上げた短髪、紫の目の男。


青い背中まである長い髪、青い目の女。


どちらも同じローブを着て、男は杖を。 女は鎌をその白い肌が輝く手で持っている、


10代後半ぐらいの男女は、ルルぐらいの身長で、素足でそこに立つ。


その目からは涙が流れ始める。 声も出さずただ流れる涙。 顔を伝って、顎から地面に落ちる。


地面が彼等の何度も落ちる涙でどんどん黒く変わっていく。



その二人を私はそのまま抱き締めた。 背中から優しく。


鳴き声が、洞窟に響き渡った。






落ち着いた二人、まだ目元が赤いが声は出さなくなった。


しばらくそっとしておこうと、抱いている腕を退かせる。


「私を連れて行ってください。 魔界でもどこでも良いです。」

「俺も連れて行ってくれ。 どこでも良いんだ。」


まだ赤い目で私を見て言ってくる2人


「いいのさ、とりあえず服を探さないとねぇ。」


また頭を撫でて答えを返してあげた。



「始めまして、ミズラさん、アズラさん。 カレンと申します。」


顔を横に傾けて笑顔で挨拶をするカレン。


「カレンさん、よろしくお願いします。」

「カレン。 よろしくだぜ!」


腰を折ってお辞儀をするミズラと、立ったまま挨拶をするアズラ。


挨拶が終わった所で、今後の話をする。



「とりあえず服だねぇ。 そのままじゃ色々いけないねぇ。」


「ローブじゃダメなんですか?」


裸にローブを羽織っただけの二人。


黒いモヤモヤの時は良かったが、人型に成ってしまうと色々困る。


「そのままはいけません。 セリカ様が言うように何かを着ないと。」


「さっき、人間の村を見たのさ。 そこに行けば買えるかもしれないのさ。」


「セリカ様、お金はあるんですか?」


「無いねぇ、何か売らないとダメだねぇ。」


「俺人間が、ウサギやシカを持って帰るの見た事あるぜ。」


「それを売って、なんとかするかねぇ。」


とりあえず、その方向で動こう。 もう外は暗い。


朝に成ってから向かおうと思う。


「魔界に帰る方法も探さないとねぇ。」


「セリカ様、人間界滅ぼすんじゃないんですか?」


「セリカ滅ぼすのか?」

「セリカさん、やるんですか?」


皆、過激派だ。 アリババの様な奴が居るかもしれない。


それは、何か違う気がする。


「私はそういうのはしないのさ。 勇者が魔界に来るんだから何かあると思うのさ。」


コテツがダンジョンを抜けるとと言っていたが、さっきのダンジョンではそんな事は無かった。


別のダンジョンがあるんだろう。 それを探して帰るのが良いと思う。


「滅ぼすって、出来るんですか?」


「カレンでも出来ると思うねぇ。」


「カレンも出来るのか?」


「セリカ様が言うなら出来ます。」


固まる二人、カレンの方が怖いんだぞ。 さっき私も知った。


それから色々人間界の知っている事をアズラとミドラに聞いた。


彼等もここから出たことが無いので、良く知らないようだ。


ただ、さっき来たのは、冒険者ギルドの連中だと言う事は解った。


この世界の冒険者ギルドも締めて回らないと解らないのかもしれない。



後は人間と竜が何やら戦争をしているらしいという事。 アリババが言っていたそうだ。


人間は、人間同士の争いが終わると、異人種の国を滅ぼし始めた。


ココも元々は異人種の国だったそうだ。 何も残らない程に壊された国。


勇者がやったと伝わっている。


この世界にも勇者が居るのか。 もう出会わないと良いなと思う。


そこから食べ物の話になって、皆で眠った。


アズラとミズラは肉体を食べた事は無いそうだ。 人間界も美味しい物があればいいなぁ。


主は何をしているんだろう。 まぁ主だ。 人間界を滅ぼしてもう帰って居そうだと思う。


そんな事を考えていると、人間界での1日目は終わった。

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