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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 4

5層目は、風景が変わって、なにやら広い石のドームみたいな所だ。


デカイ2足歩行の牛が、包丁を持って居る。


2匹いる牛。 その後ろに私達は降りた。


その牛以外何も無いドーム。


牛はデカイ5mぐらいあるんじゃないのか。


がっしりした足が美味しそうだ。


割った天井は徐々に修復しているのか狭く成っていく。 不思議なところだ。 帰りは上を突き破って行こう。


牛は私達に気付かない。 鈍感なのかな。


「ミノタウルスです。 多分、ダンジョンのボスです。」


「俺等は3層までしか知らないんだよ。 急になんでボス部屋まで来てるんだよ。」


「床を割ったら着いたんだねぇ。」


なるほど、少し大きな存在。 ボスと言われるのが解る。


少し遊んでみたくなった。


「ミノタウロスとやら、後ろに居るのさ。」


大きな声で叫んでやった。


後ろを見るミノタウロス。


モーーー!と牛らしく叫んでいる。


「何声かけてるんですか、人間でも40人とかで戦う相手ですよ。」

「自分から声かけるとか、おかしいんじゃないのか。」


「人間40人かね。 余裕なのさ。」


その太い腕で持っている包丁を振り降ろしてくるミノタウロス。


包丁は中華包丁のように大きく四角い。


2匹とも同じ動き、2匹で私を仕留めに来る。



それを真正面から受け止めるセリカ。 両手で剣を構えて、顔の前で横にしている。


包丁が溶けだす。 大剣が当たっている所からジワジワと、それが加速度的に広がる。


腕まで溶かそうとするその毒に、ミノタウロスは本能で手を放す。


「軽いねぇ。 2匹居るんだろ? もうちょっと出来るんじゃないのかい?」


その言葉に怒ったのか、ミノタウロスは叫びながらもう片方の包丁を両手で振り落としてくる。


また2匹同じ動き同じタイミング。


また真正面で受けたセリカ。 大剣と包丁が当たって火花が散った。


楽しいのか笑っているセリカ。


「まだまだ軽いねぇ。 次は私なのさ。」


ずっと構えていただけだったセリカが動き出す。


包丁を両方とも溶かされたミノタウロスは、大きな拳を合わせて、両手でセリカを潰そうと振りかぶって来る。


ギリギリで飛び上がると、勢いのまま両手を地面に叩きつけるミノタウロス。


その胴体を二匹とも切り裂いた。


""モーーーーー!""


叫ぶミノタウロスは、そのまま血も出さず消えてしまう。


「ボス倒しちゃいましたよ。」

「ボス倒してんだぜ、一人で。」


勇者よりちょっとマシぐらいな魂が2個浮いている。


それを2人に1個づつ当ててあげる。


「なんか熱いぜ!」

「体がポカポカします。」


何か変化があるようだ。 黒くグチャグチャに成っていく2人。


でもなんだか存在が小さいな。


少し私も魔力をあげよう。主がしていたように。


そのグチャグチャに少しだけ私の魔力をあげる。


「熱いです! これが進化ですか?」

「すごい力を感じるんだぜ。」


二人は何かを感じているようだ。

そのグチャグチャが収まった。


普通の人間サイズのローブ、中には黒いモヤモヤ。 これがレイスだろうか。


大きく成っただけというイメージ。


だけど何か武器を持っていた。


青の目はカレン様な大鎌を背負っている。


背丈はあるような曲がった木の棒、それに着いた背が黒い刃が銀色の鎌。 刃だけで彼女の背丈をぐらいある細い弓なりに曲がった刃。


紫の目は、杖を持っている。 アリババの様な木の杖、その大きさはアリババのよりも大きい。背丈ぐらいの杖。


「セリカが小さく成ったぜ。 でもまだ大きいな。」

「レイスに成ったんだと思います。 視界が全然違います。」


何かには変わっている。 それは解るんだが正解か解らない。


でもこれでカレンを助けられるはずだ。 正解を聞いておけば良かったな。




「ダークレーザーが撃てるぜ!」


「私は闇の波動が飛ばせます!」


アズラは杖の上から黒い線が出ている。 それがダンジョンの壁に当たって消えた。


主が撃ったレーザーの弱い奴。 それを嬉しそうに打っている。


レーザーを打つたびにローブがその衝撃で跳ね上がり地面から浮いているのが良くわかる。


ミズラは鎌を振り回すと、その先から黒い斬撃が飛んでいる。


それがダンジョンの壁に当たって消えている。


鎌を振り回す度にローブがめくりあがり、こちらも飛んでいるのが解る。


カレンもあんな戦いをするんだろうか。


浮いている2人は上下左右関係なく色んな姿勢で打っている。


「とりあえずカレンの所に帰るのさ。」


「分かったぜ!」

「分かりました!」


壁への攻撃をやめてくれた二人。


二人は扉の方に向かおうとする。


やはり少し小さい頃よりも速い。 でも行くのはそっちじゃない。


「どこに行くのさ? 上に帰るのさ。」


「「上?」」




二人の背中を掴んで、飛び上がる。 天井に大剣を突き立てる。


簡単に開く天井。 1層までぶち抜く。


1層その入口に出て来た。 目の前には階段。


無ければ山ごとぶち抜いてしまおうと思ったので階段に出てきて良かった。


「相変わらず滅茶苦茶なんです。」

「もう気絶しないぜ。」


大きく成った二人の後を付いて、ダンジョンの階段を昇って行った。


明るい光が見えてくる。 外だとわかるその明るい光。


そこを目指して階段を昇り切った。


少し外に出ると、階段が上にせり上がって入口が無くなってしまった。


ただの浅い洞窟に成ってしまったその空間。




「おい、レイスだ。 レアものだぜ。」


「あぁ、コレクターに売れば金に成るな。」


森から何か聞こえて来る。


人間の存在、近くに5人、遠くに大勢50人ぐらい。


売る? 捕まえるつもりか。


人間に邪魔されたくない。 前に居る二人をかき分けて前に出ようとした。


「セリカ、俺にやらせてくれ。」


「セリカさん、私がやります。」


二人も人間の存在に気付いているようだ。 


「分かったのさ。 でも危なく成ったら手出すのさ。」


頷いた二人は杖と鎌を構えて、森に向かってフワフワ進んでいく。


一応爪だけ伸ばして、その場で立って見守る事にする。





「こっちに来たぞ! やっちまえ殺すな、生け捕りだ!」


誰かが叫んだ。


手に魔力の籠った剣を持った奴が2人。


フルアーマーの剣と盾が1人。


森の奥に杖を持った奴が1人と弓を構えているが1人。 全員武器に魔力が纏ってある。


でも勇者の特徴じゃない。 茶色い髪の奴ばかりだ。



フルアーマーがミズラに迫る。


全身魔法まみれのフルアーマーが身の丈ほどある盾を構えながら、剣先を前に向けてミズラに突っ込んでくる。


少し浮き上がり、大振りで下から上に鎌を振るうミズラ。


鎌が盾ごとフルアーマーを真っ二つにした。



「くそ、ファイアーボール!」


森の奥から杖が火の玉を飛ばしてくる。 大振りのミズラに迫るその火の玉。


車軸に割り込んだアズラが黒いレーザーを出した。


レーザーにあっけなく撃ち抜かれる火の玉、そのまま散って消えてしまう。


そのレーザーは、杖の顔をぶち抜いた。



「なんだ、軍隊の生き残りか?」


「強すぎる、一撃なんて!」


残りの奴が叫んで逃げ出してしまう。


追撃しない2人。


「追わないのかい?」


「もう手を出してこないと思います。」

「手ごたえ無かったんだぜ。」


まぁ二人が良いなら良いかと、また背中を掴んで洞窟に帰った。


途中、森の中から煙が見える。 人間共が何かあそこでやっているようだ。


少し気に成ったがさっきので懲りただろう。 とりあえずカレンの方が先だと、洞窟へ急ぐ。




洞窟に戻ると前と何も変わらない風景。


藁のベッドがある汚れた広場の奥の部屋に、アリババと寝たままのカレンが待っていた。


「戻ってきたのさ。 アリババ。」


「えらく速いじゃないか……」


そこで固まるアリババ、なんだろうか。


後ろを見てもアズラとミドラの二人しか居ない。


「帰って来たぜ、アリババ。」

「アリババただいまです。」


「私はレイスにしてくれと頼んだのじゃ。 なんじゃその鎌と杖は。

デスサイズとリッチじゃぁないか。」


違ったのか、でもどうすれば良かったんだ。


「これじゃぁダメなのかねぇ。 私にはこれ以上できないのさ。」


「いや、良いんじゃ。 何年ぶりかねその姿を見るのは。」


茶色の霞んだ目がアズラとミドラを見ている。


「その姿はレイスから進化した姿なんじゃ、飛び越えておるのじゃ。 何を食ったのじゃ?」


「ミノタウルスです。」


「ミノタウルス、あそこのボスを食ったのか。 そうか、そうか。」


声が笑っているアリババ。 良いなら早くカレンを助けてやって欲しい。


「アリババ、カレンを助けてやって欲しいのさ。」


「わかっておるのじゃ、すまぬ、もう一個だけワシの願いを聞いていただけぬか。 魔界の龍よ。」


急に声が重くなるアリババ。 願い? なんだろう。


「ミズラとアズラの面倒を見てやって欲しいのじゃ。 魔界に連れ帰って貰っても構わん。」



「私はアリババと一緒にいたいです。」

「俺もアリババと一緒が良い。」 



「よく聞け若いの、さっきチャンスだと言ったじゃろ? この龍はお前達を殺さなかった。

私も殺さず、ただ願いを聞いたのじゃ。 そして、私が願いをかなえる番じゃ。 釣り合わんがこれをやるとワシは消える。

最初から、そのつもりだったんじゃ。」


押し黙る二人、アリババは最初から死ぬつもりだった?


「このまま、ここに居ても何も変わらん。 ババの最後の願いじゃ。 黙って聞いておくれ…… 」


何も話さない二人。 沈黙だけが流れる。


何をするのか分からないが、私は何もできない。 これ以上魂の事は解らない。


ただ返事をしよう。 それが命を掛ける物への精いっぱいの誠意だと思った。


「アリババの願い受け止めるのさ。 セリカがこの二人を守ろうじゃないのさ。」


「龍よ、ありがとうなのじゃ。 ワシはお前との約束を果たす。」


アリババのローブと杖が落ちた。 丸い黒いモヤモヤと、掠れた茶色の目だけに成るアリババ。


そのままカレンの胸元に入って行く。



「アリババ! 俺は……」


途中で黙るアズラ。


ミズラは何も言わない。


アリババが、カレンの中に入った。 そのまま、また沈黙。



"ンッ" 


カレンの喉元が動く。


指が、足が動いた。 上半身が起き上がって私を見る。


「セリカ様、ご迷惑をお掛けしました。」


カレンを黙って抱き締めた。

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