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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 3

ぼんやり光る洞窟の中の一室。


アリババは相変わらず何もせず、ひたすらにその掠れた茶色の目をカレンに向けている。


結構な時が経った、だがコイツに掛けるしか今は無い。


ただひたすらに膝を付いたまま、人形の様なカレンを見続ける。



「こいつの魂が、何か無理やり剥がされたように欠けているのじゃ。 お前さん何かやったか?」


「人間に召喚されて、操られていたカレンの魂の周りに有った何かを、私の魔法で溶かしたのさ。」


また黙るアリババ、目を私に向ける。


「言ってることが滅茶苦茶じゃが分かったのじゃ。 おそらくその時に魂が欠けてしまったんじゃな。

お前さん何者なんじゃ。 そんな事出来る奴は聞いたことないのじゃ。」


「私は龍なのさ。 急に人間界に飛ばされたのさ。」


「ドラゴンじゃなく、魔界の龍が人間界に…… 一体何人使ったんじゃ。 こいつも龍か? 魂が大きすぎるのじゃ。」


「カレンも私と同じなのさ、でもカレンは操られていたのさ。」


「こいつの召喚にお前さんがくっ付いて来たんだねぇ。 まぁ、直せるのじゃ。 ただ条件があるぞ。」


「直せるのかい? 条件とはなんなのさ。」


「このアズラとミズラをレイスにしてやって欲しい。 私達はもう同族がほぼ狩られてしまって居ないのじゃ。

魔界の龍ならば魂ぐらい分け与える事は出来るじゃろ?」


「分け与えるって何なのさ。 すまない、分からないのさ。」


「お前が倒した魔物の魂を、彼等に分けてやって欲しいのじゃ。 近くにダンジョンがある。 そこで彼等をレイスにしてくれたら、

こいつを助けてやるのじゃ。」


ダンジョン? よくわからないがそこで魂をこの小さいのに分ければ良いみたいだ。 カレンの為だ、それぐらい。


「分かったのさ、ダンジョンはどこにあるのさ。」


「ミドラが知ってるのじゃ。 一緒に行ってくるのじゃ。 お前達。」



「こいつとダンジョンに行くのか? 大丈夫なのか。」

「私も不安です。 よくわからない人とダンジョンなんて。」


小さいローブは否定的な用だ。 何とかしないと。


アリババが背後に浮かんでいる小さいローブに話しかける。


「お前達、よく聞くんじゃ。

魔界の龍は1体で人間界を滅ぼせるはずじゃ。 そんな奴とこんな風に話ができるだけでも奇跡なのじゃ。

それが手伝ってくれるんじゃぞ。 助けてくれと頭を下げておる。 長い事生きとるが、こんなに興奮しているのは初めてじゃ。」


どうやら人間界を滅ぼせるらしい。 全く実感が無い。 


とにかくカレンを元に戻さないと。


「さっき一発でオーク倒してたもんな。」

「私はさっき魂貰いました。」


黙り込む小さいローブ。


「助けると思って来て欲しいのさ。 私が全部やるのさ。」


「アリババがそこまで言うなら。」

「わたしもアリババの言う通りにします。」


「セリカなのさ、よろしくなのさ。」


「この子は私が見ておいてやるのじゃ。 そこらの魔物には負けやしないのじゃ。」


小さいローブがこっちに寄ってくる。

「アズラだ。 よろしくな。 セリカ!」

「ミズラです。 セリカさんよろしくお願いします。」


「あんまり派手にやり過ぎんようにな、人間に見つかったらダンジョンが人間まみれに成ってしまうのじゃ。」


「わかったのさ、行ってくるのさ。」


大鎌を置いて、洞窟を2人と後にする。


カレンは相変わらず人形のようにうつ伏せで動かない。


早く、彼等をレイスとやらにして、カレンを起こしてあげたい。




外に出ると、明るく成っている。


真っ白な眩しい何かが全ての世界を照らしている。


肌にその光線が当たって、反射して居る。


「太陽が昇ってしまいましたね。 私達は魔法が撃てなくなるのでよろしくお願いします。」


「太陽?が昇ると魔法が撃てなくなるのかね?」


「俺達は闇魔法しか使えないんだ。 昼間はただの彷徨う魂さ。」


闇魔法? なにかそういう物らしい、私が試しに近くの草を焼くと、地面ごと焼けた。


「セリカ、お前何してるんだよ。 どうしたら地面が溶けるんだよ。」

「びっくりです。 龍とはそんなに凄いんですね。」


アズラとミズラが感想を述べている。 こんなのチョットだぞ?


そこから山沿いに森を歩く。 夜と違って、存在がそこら辺で動き回っている。


途中でツノの生えたウサギや、角に電撃を纏った鹿を見た。


あの森では見たことのない生物が沢山動いている。


「ダンジョンってのは遠いのかね?」


私の両端に浮かんでいる彼等。 ふわふわと浮かぶ彼等はそんなに早くない。


「後2時間ぐらいですかね、ずっとこの山沿いを進めば着きます。」


「ちょっと我慢するのさ。」


二人をさっきみたいに魔力で掴んで、そのまま飛び上がる。


一面に広がる森、その奥に草原があって、遠くに人間の村が見える。


逆側は山、岩肌をむき出しにした山がずっと続いている。


「セリカさん!? 何するんですか?」


「何って飛ぶんだのさ。」


その山沿いを木のギリギリまで降りて飛んだ。


ローブがバタバタする。


途中でさっきの洞窟の入り口みたいのが見えた。


あそこだろうか。


「セリカさん、あれがダンジョンの入り口です。」


ミズラが教えてくれた。


あれがダンジョンか、奥から存在を何も感じない不思議な場所。


何も居ないんじゃなくて、無い。 そんな場所だ。


目の前に降り立つ。


手を離すと、アズラが落ちそうに成る。


もう一回捕まえた。


「アズラが気絶しちゃってます。 急にセリカさんが飛ぶからですよ。」


「すまないねぇ。 短気なもんでさ、よく怒られるのさ。」


「アズラも気絶するほどじゃないのにですね。」


「ミズラは平気なんだねぇ。」


「私は、アズラよりも強いですから!」



アズラを置いて、ダンジョンの前でミズラと話をする。


彼女達は魂を交配させて出来る種で、先祖はなんと魔界にあるようだ。


ただでさえ減ってしまう種なのに、人間によって捕獲され大半はどこかに行ってしまった。


アズラとミズラは、小さい事もあるのか人間に確保されなかった。


そこから同種はアリババしか見た事が無いという。


人間は召喚の生贄に、異種族を使うのだとか。 勝手な奴らだ。



アズラが徐々に浮き上がる。


「セリカ! 急にあんな速度出したらびっくりしちまうよ!」


「すまないねぇ、言うべきだったのさ。」


「気を付けろよ!」


「ミズラは気絶しませんでしたよ?」


「お前はさっき魂貰ってただろうが!」


アズラはご立腹の様だ。 とりあえずダンジョンとやらに入らないと。


「行くかねぇ、とりあえず中の魔物?を倒して魂を分ければ良いのかね?」


「俺からだからな!」


「ハイハイ、次はアズラからね。」


彼等の話はまとまったようだ。


目の前にある洞窟、そこには何故か階段がある。


そこを下って行った。




徐々に狭く成る階段を下ると、岩で出来た通路が現れる。


光る鉱石が照らしている通路、その通路に入った瞬間存在が何個も確認できた。


アズラとミズラを横に浮かべて進む。


「セリカさんは、その剣使わないんですか?」


「強いの出てきたら使うのさ。」


あんまり派手にやるなとアリババに言われた。


大きな存在は感じない、魔力で燃やすだけで十分だろう。


コツコツ鳴る岩の洞窟を進む。


存在が近づいて来る。 どんな奴だろうか。


そいつが姿を現した。


一角ツノのウサギ。 外に居た奴。


黒い毛と赤い目をした外とは少し違う色のそいつ。



「ホーンラビットだぜ、突進して角で差してくるんだ。」


ホーンラビットというのか、そのまんまの名前。


そいつが跳ねて突っ込んでくる。


魔力を飛ばして燃やすと、そのまま消えてなくなった。


残った魂をアズラにぶつける。


「どこから火だしてんだよ。 術名とか無いのか?」


「術名? 無いねぇ。 魔力を当てるだけなのさ。」


「魔力を当てる? よくわかんねぇ。」


「アズラは術名? を使うのかい?」


「セリカにも当てたぜ。 何も起きなかったけどな。」


ダークボール。 何か叫んでいた気がする。


そんなのいう意味が解らない。


そこから見える魔物は全てそのホーンラビットだった。


歩きながら駆除していく。


だんだんめんどくさく成ってきた、この先全部燃やしてしまえばいいのでは無いかと思い始める。


「ミズラ、あんたら息はするのかね?」


「しませんけど、何でですか?」


「確認だねぇ、ちょっと後ろに下がってるのさ。」


少しだけ、魔力を手に溜める。


それを目の前の通路全体に放出する。


黄色い炎が、先の通路を焼き尽くして進んでいく。 横の通路にも広がって居そうだ。


存在はどんどん消えていく。 そこから魂だけをこちらに集めて、二人にぶつけていく。


「セリカ! 何やってるんだ!」

「セリカさん、魂一杯来ますよ!」


「焼いてるのさ。」


ずっと火を手から出し続ける、その内存在が全て消えた。


「全部終わったのさ。 まだレイスとやらに成らないんだねぇ。」


「全部? まだ下があるんだ。」

「全部焼いちゃうとか龍って凄いんですね!」


まだ下があるのか。 結構かかるんだな。


下ってどうやって行くんだ。


一か所、魔力の届かないところがある。


そこに向かって歩いていく。


通路は焼けてしまって少し黒い。


存在がポツポツと一か所で沸き始めたが、この階の魔物では足りないようだ。


そのまま無視して進んだ。



魔力の届かない場所、そこには階段があった。


ダンジョンとは不思議な場所だ。 また不自然に表れた階段を3人で下っていく。


2層目も同じ景色だった。 続く岩の通路。


そのには1層で居たウサギと、狼が追加されている。


「ウインドウルフだぜ。 風魔法を飛ばしてくるんだ。」


アズラが説明してくれたが、やることは同じだ。


火をその層全体に回らせて、魂を刈り取る。


唖然とする2人を連れて、3層に入る。



3層目急に風景が変わる。


空がでて、森に成った景色。


壁が曖昧で分かりずらいが確かに有る。


存在が一定か所で途絶えている。 でも広いなここ。


「こんな空間が中にあるんだねぇ。」


「ダンジョンですからね。」


ダンジョンとは不思議なところだ。


どうしようと思っていると、羽の音がしてくる。


ブーンという虫の音。


「キーラービーだぜ、3層は毒を飛ばしてくる蜂だ。」


その彼らぐらいの大きさがある蜂が姿を現す。


此方に向かってくる蜂、お尻の針を飛ばしてくる。


「セリカさん! 避けないと!」


私は毒がどれくらいの物か知りたかった。


わざと腕で受けてみる。 針が溶けた。 なんともないそれ。


「おい、体で針受けたぞ。 あれ即死じゃないのか。」


「セリカさん、大丈夫ですか?」


「私も毒もってるのさ。 こいつらに効くかね。」


蜂が怒ったのか、一杯やってくる。 羽の音がうるさい。


手の爪を全部黒く変えて、毒を乗せて斬撃を飛ばす。


見える範囲全部に飛ばした。


蜂はそこに居なかった。 溶ける木と地面。


視界が少しだけ開けた。


「セリカ、何やったんだよ。 その爪なんだ?」

「ダンジョンが溶けてます……」


「爪かい? 私は龍なのさ。」


龍の爪、私の爪は蜂の毒より強いようだ。


まだ一杯いる存在、ここは広くて全部は大変そうだ。


地面がジュウジュウ言って溶けている。


床を崩して下に行けるのでは無いか。


大剣を手に取って、布を吸わす。


少し存在が寄ってきているが、私の毒を飛ばした範囲には近づけないようだ。 一定の場所に溜まっている。


久々に露に成る大剣に、少し気持ちが浮かれていた。


「なんだよその赤い剣、見てて怖いぞ。」

「なにか恐ろしい物を感じます。」


ミズラとアズラが何か言っている。 良い剣だろ? コテツが作った剣だぞ。


コテツ元気かな。 今はカレンだ。 と力を入れて剣を地面に叩きつけた。


あっさり割れた地面から、下の森が見える。


勢いが良すぎたのか、目の前が扇状に地面が無くなってしまった。


「飛び降りるのさ。」


二人を腕で抱きかかえてそのまま落ちる。


「地面割ったぞ! 滅茶苦茶しやがる。」

「ダンジョンの壁は壊れないんですよぉぉ」


その勢いのまま4層の地面も大剣を突き刺して落ちて行った。


「滅茶苦茶ですぅぅ!」


ミズラが叫んでいる。 早くレイスに成りたいだろ?

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