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底から  作者: ぼんさい
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人間界 セリカ編 2

死者の森と呼ばれるその森は、プロトン国の外れにあり元々は死霊族の国があった場所でもあった。


人間の国同士の戦いが終わり、次に目を付けられた異種族の国。


元々見た目から嫌われて居た彼等は、真っ先に滅ぼされる。


最初に攻め入られた死霊族。 人間の軍の猛攻はすさまじく、一族が絶滅しそうに成るまで殺戮が続いた。


勇者召喚に適さないこの種族。 肉体を基本持たない彼等は、運搬が難しく次第に国から忘れられていった。





森に飛び入った。 夜?だからだろうか、辺りは不気味に静まり返っている。


さっき上から見えた近くの川を目指す。


どうやら、追手は今の所無いようだ。


暗いのは森の生活で馴れていたが、夜がこんなに暗いとは知らなかった。


視界はほぼ役に立たない。


ひたすら気配を探り、神経を研ぎ澄ます。


小さな存在が少し居るが、どれも人間と違う気配。 全て薄い気配。


こっちに寄ってくるでも無く、ただただ、そこに居るだけ。



目の前でお尻が光った虫が飛び回っている。


それらの気配は多すぎて気にしないことにする。



好都合だった。 邪魔されない場所で、集中してカレンを見てみたい。


踝の背丈の無い草を踏みしめながら、その川にやってきた。



人の背丈も幅が無い川。 その水は透き通っており激しい流れに関わらず、空にある二つの月を映し出している。


近くに丁度良い岩があった。 そこにカレンを寝かせる。


なんとなく、水を手で掬って飲んでみた。 特に体に異変は無さそうだった。


相変わらず近くを飛んでいる無数の虫が少しうっとおしいが、害はない。



あれから、全く動かなくなってしまったカレン。 確かに生きてはいるが動かない。


手をカレンの首元に当てて、再び彼女に魔力を流し込む。


白いモヤは確かに赤く成っている。 でも無く成ってはいない。


6面あるうちの5面は消えてなくなっている気がする。


あと1面、こいつを無くしてしまえばカレンは意識を取り戻すのではないだろうか。


1面を崩すイメージで魔力を流し続ける。


徐々に真っ赤になる白いモヤは、そのまま簡単に崩れた。


目を開ける。 寝ているカレン。


でもはやり動かない。 安らかな顔で目を開けない。





「ダークボール!」


背後から声が聞こえた。


集中して気付かなかった。 私の背中に小さな魔力が当たって無く成った。


「人間がこんな所まで何しに来たんだ! ダークボール!」


30cmぐらいの小さな灰色のローブが何か飛ばしてきている。


そのローブの中は黒いモヤと紫の丸い目だけ。


それが空中に浮いて、ローブの袖をこちらに向けて何か打ってきている。


相変わらず小さな弱い魔力の玉は私の身体に当たって消える。



「アズラ止めましょうよ。 サイババが、人間には会ったらダメだって。」


同じ灰色のローブがそれを止めているようだ。


もう一匹は目が青かった。



「ミズラは臆病すぎるんだ! 俺だって人間の一人ぐらい!」


また飛ばしてくるその黒い玉、手の平の大きさしかない玉は、カレンに当たる角度でゆっくりと進んでいる。


手の平でそれを打ち消した。


「私は良いんだけどねぇ、そこのカレンは今デリケートでねぇ。」


「そこの奴、魂が欠けてるんだよ! そんなんもわかんねぇのか人間。」


「魂が欠けてるのかね? もうちょっと詳しく聞かせてくれないかね。」


言ってる間にも何発か、黒い玉を打ってくる。


魂が欠けてる? 彼等には私の見えない物が見えているのかもしれない。


「なんで人間なんかに、教えなくちゃいけないんだ!」


あまり聞いてもらえないようだ、人間嫌われすぎではないのか。


でも私は人間では無い。 彼等の協力を得たい。


「私は人間じゃないねぇ、魔界から来たのさ。」



「悪魔よ! ミドラ逃げないと!」


「悪魔か! 通りで俺のダークボールが効かないんだ。」


悪魔、人間達も言っていた。 私達の事を悪魔と。


魔獣も悪魔も一緒なんだろうか。 よくわからない。



そんな事よりも、あのローブが逃げている。


カレンを助けてほしい。


「助けてほしいのさ、カレンを目覚めさせてやりたいのさ。」


無視して離れていくロープ。 手荒だが仕方ない。


地面を蹴って、その2匹の直後に移動する。


そのままローブを、掴めなかった。 空気を掴んだような感触。


「俺達が素手で掴めるわけないだろ!」

「速い! 早く逃げないと!」


どうやら物理的には掴めないようだ。


彼等は森の奥へ奥へと入って行く。


カレンと離れてしまう。


多分これで行けるはずだ。 手に魔力を纏わせる。


そのまま飛んで、二人のローブの背中を、掴んだ。


「魔法使えるのか! 離せ!」

「捕まった! 殺さないで、お願いします。」


二人で騒ぐ騒ぐ。 両手でローブが上に下に行こうと暴れまわる。


周辺に彼等の声だけが周りに響き渡る。


「殺さないのさ。 ただその魂が欠けている、を教えて欲しいのさ。」


「人間じゃないのか?」

「殺さないでくれるんですか?」


「約束するのさ。 すまないがカレンを助けてやってくれないか。」


二つが静かに成った。


カレンの所に戻る。 相変わらず息だけはしているカレン。


しかし人形のようになってしまい動かない。


周囲でローブが2匹カレンの上を飛び回っている。


「やっぱり魂が欠けてるな。 こりゃ起きないな。」

「この人の魂大きいですね。 こんな大きなの初めて見ました。」


「魂が欠けてるのかね、どうすればいいのさ。」


「サイババに聞かないと解んないな。」


「サイババなら、何か知っているかもしれません。」


サイババ? 名前だろうか。

「そのサイババってのはどこに居るのかね。」


「俺達の巣に居るけどよ。 あんたじゃ入れないと思うぜ。」


「入れない? どうしてなのさ。」


「オークが住み着いてる。 あいつ等を倒さないとあんたは入れないぜ。」


オーク、魔人だろうか。 話せばわかるかもしれない。


「構わないから連れて行ってくれないかねぇ。」


「どうなっても知らねぇぜ。」

「私達は手伝えませんからね。」



そこから森の中を歩いた。


カレンを抱いて、草を踏みつけながら進む。


相変わらず周囲には何も出てこない。 似たような風景が続く。


低い草、普通の森、飛び回る光る虫。


空の月が、気付けば一番上まで昇っている。 無数に光る星が綺麗だ。


カレンにも見せてやりたい。 なんとか成れば良いが。



前に小さな山の陰が見えて来た。


少し開けた場所に、私の背丈の2倍はありそうな洞窟の入り口が見える。


そこに居る1匹のオーク。 鉄の槍を持ったそのオークは魔界のに比べて小さい。


鼻を鳴らして周囲を見ている。


奥に同じ存在が2匹。 寝ているのだろうか動いていない。



「着いたぜ、俺達は相手にされないが、肉体のある奴らは襲われるぜ。」


「あいつらは喋れないのかい?」


「魔物は喋れません。 喋るんですか? オークって。」



彼等には聞こえないだけかもしれない。


カレンを抱いたまま、少し開いた空間に出る。


此方を見てくるオーク。 その緑色した筋肉の塊は、槍を此方に向けて突進してくる。


"ンボォォォ”


「私は話をしに来ただけなんだねぇ。 少し通してくれないかぃ?」


無視してそのまま突っ込んでくるオーク。


槍を、片手で掴んでもう一度話す。


「話せないのかねぇ? 通してくれないなら倒すしかないのさ。」


ずっと叫びながら、槍を取り返そうと踏ん張っている。


人間界に来て初めての魔獣。 そいつは喋らなかった。


カレンの為だ仕方ない。


火の魔力で燃やす。


断末魔をあげながら、そのオークは死んでしまう。


奥から存在が近づいて来る。 同じような奴ら。


洞窟の入り口から槍を向けて此方に突っ込んでくる。


それも同じように燃やした。 そのまま居なくなった。


「あんたら、魂要るかね?」


「魂を操作できるんですか?」


「出来ないのかね、あんたやるのさ。」


青い目をしたローブにオークの魂をぶつける。


彼等も食らうようだ。 そのまま吸い込まれるオークの魂。


「火一発で倒しちまった。 お前、すげぇなぁ。」

「ホントに私に魂が来た……」


何から彼等と常識が違うようだ。


「そのサイババってのは奥に居る奴かねぇ?」


奥の方に少し大きな存在を感じる。


そいつだろうか、他に比べるとかなり大きな存在。


「そうだぜ、サイババに会いに行こうぜ!」


小さなローブが洞窟の中に入って行く。


ぼんやりと光る謎の石が薄暗く洞窟内を照らす。


入口の近くは、オークが居たのだろう藁の敷き詰められたベッドに小さな骨が散乱している。


少し絞れた洞窟、その奥の空間は突き当りで岩しか見えない。


そこに大人の人間ぐらいの大きさのローブが居た。


黒いモヤが中に入っているローブ。 目は茶色で少し霞んでいる。


浮いているのに何故か杖を地面に突き刺すそのローブ。


それに2匹の小さいローブが寄って行った。



「サイババ、客連れて来たぜ!」

「サイババ、すいません急に連れてきて。」


私を見ているそのローブは何も言わない。


ただ、じっとこっちを見ている。


「サイババ? 初めましてなのさ。 セリカと言うのさ。 この子を助けてほしいんだね。」


「真名があるのかぃ? それを私に教えていいのかぃ?」


掠れた老婆の声、その声がローブから発せられる。


「真名とか解らないのさ。 ただ、このカレンを助けてやって欲しいのさ。」


頭を下げる。 他に何も思い浮かばなかった。



「あんた、魔界の物じゃろ。 それがこんなレイスに頭下げるなんて、変な悪魔じゃ。」


「他に手だてが無いのさ、出来る事ならするのさ、何とか助けてほしいのさ。」


主ならばなんとかするかもしれない、けど此処に主は居ない。 このレイスだけが頼りだった。


「分かった。 ただし、私が見たからって何か変わる訳じゃないからの。」


アリババと呼ばれるレイスの前に、膝を付いて、カレンを床にそっと置く。


鎌は私が川から背負っている大剣と一緒に。


「頼むのさ。 なんとかしてヤッて欲しいのさ。」


「見るだけじゃ。 私は何も出来んのじゃ。 少し時間が掛かるぞ。」


そのままずっとカレンを見つめるアリババ、静寂の時間だけが過ぎて行った。

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