魔界編 序章 7 ~ルル編~
長いので前回6の続きです。
また気を失ってしまった。
気付くと、どこかに寝かされていた。噂に聞く人間界だろうか。
ここも空は紫なんだ。始めて来た。
周りを確認する為に羽を動かし浮き上がる。
見た事のある家、まだ私の集落だ。
浮いていくと目の前にあの蛇が現れる。
「ヒッ!」
反射的に声を出してしまった。
何をするわけでも無く、こちらを見てふわふわ浮いている蛇。
宿舎の本の知識を拝借する。
じっと目を見て話さない。
それを実践していた。
「何、仲良くなったの?」
女魔人に声を掛けられる。
周りを見回っていてくれたのだろうか、いくつかの家の扉が開いている。
「目を離せないんです。 咬まれたら死んじゃいますよ。」
「そんな事しないよね? セリカ。」
本通りの対処法を女魔人に教えてあげる。
彼女が蛇の名前を呼ぶと、蛇はそのまま彼女の肩にフワフワと移動していった。
肩に載せ指でその変異体を撫でる彼女。
「あわわ………肩に載せてます。」
どんどん、本の内容なんてどうでも良くなって、語録が無くなっていった。
しばらく蛇を睨んでいると彼女が話し出す。
「ルルちゃんで良かったかな? 仲間残念だったね………」
仲間、日常だ。もう今は何も感じない。
「いえ、大丈夫です。 慣れていますので。」
「嫌だったらかまわないんだけど、奴隷っての教えてくれない?」
その後森育ちの彼女に私の知っている範囲の事を教えた。
神話の事、奴隷の事、森の事。
話している内に目を離してしまったが蛇が火を吹いている。
口に溜まった火を抑えているのか口からチラチラ火があふれ出しているみたいだ。
そこから知っている蛇の話をする。
変異体かもしれない、街でステータスを見てもらえば良いと提案する。
ステータスこの世の生物すべてにある不思議な数値。
私も一回だけ行った事がある、出現してすぐに街に連れていかれ、一応種族を確認するのだ。
プチデビルと分かった瞬間、仕事が割り当てられる。
そこからの地獄の日々。またあそこに戻るのか。
街の事は覚えていない、ただ教会とやらに連れていかれてステータスを見たのは覚えている。
「それで、ルルちゃんはこれからどうするの?」
自分はこれから地獄の日々に戻るのだ。
村に誰も居なくなった事を連絡し、どこの仕事に着くか決めないといけない。
それをしないと、この場所では生きていけない。
正直嫌だが仕方ない。これが最弱種族の生きる道だ。
その事を彼女に伝えると、抱き着かれた。
暖かい魔法が体を包む。
気持ちいが、これからこんな事が無くなってしまうのかと、心底自分の種族を恨む。
ふとお礼を言おうと彼女の名前を言おうとした。
そう言えば名前を知らない。
「あの魔人さん、お名前なんて言うんですか。」
「メランっていうの、よろしくねルルちゃん。」
優しく抱いてくれる彼女、メランと言うのか。
多分少しの命だが死ぬまで忘れない。
メラン、とある物語に出てくる救世主の名前だ。
救世主、誰も私を救ってくれない。
少なくともこの魔界と呼ばれる場所では。
結局メランさんと一緒に、街に向かう事に成る。
あの蛇も一緒だ。
少し前に歩いた道と同じ道。
彼女と一緒に歩いていると、楽しい。
ただ苦痛だった毎日と、あまりにも違うこの雰囲気。
恐怖も感じない、彼女が出す恐怖に比べれば周りのその他の恐怖は無だ。
蛇も居るし大丈夫だろうと、彼女の目線に合わせ飛んで移動している。
いつもビクビクしている私が自由に成れている気がする。
ふと彼女が空の話をしてきた。
あの未開の森の中では空も見えないのかと知っている事を話す。
楽しい時間をすごして居ると、ふと提案される。
「ルルちゃん、良かったら私が背負ていくから休憩しておいてよ。」
奴隷なんかを運ぶ。そんな魔人はこの世界に存在しない。
彼女はそれをすると言ってくれている。
もう少しでなんとか回復する魔力。魅力的な提案だったが葛藤が起こる。
「いいの!私が歩くから、ね?」
また抱き寄せられる。びっくりしてしまう。
でも感じる暖かい魔力。人生で一番幸せだ。少し甘えさせてもらう。
そのまま歩き出すと思ったが、違った。
ドッ!という音がすると、彼女が地面を爆発させ風を引き裂く。
流れる風景の速度がおかしい。
全てが線に見える。
「ちょ、えっ、あの。」
ドッ!ドッ!彼女がまた地面を蹴る。
蹴る度に上がっていく速度、私の耳なんて風を受けてペシャンコに成っている。
それがどうでも良くなるほどの恐怖。速い速すぎる。
また気を失ってしまった。
まだ赤い月が昇っている一日中寝てしまったのだろうか。
でも魔力は回復しきっていない。
ずっと寝ている訳には行かない、あの優しい魔力がまだ体に染みついている。
彼女は行ってしまったのだろうか、またあの生活か。お礼ぐらい言いたかったな。
いつもの様に飛んで空から地上に目線を移す。
遠くの山
私が働いている鉱山がある山だろうか。
草原が見える。
森からは抜けたんだ。
石畳の道。
街まで行く街道だこの近くは危険だ。
角ありの魔人と、オロバスと馬車。
!!見つかると殺される。
焦げた平原とその真ん中に居るメラン。
あんなに"いっぱい"私にくれた彼女。
その彼女に笑いながら角ありの魔人が近づいている。
角成しの彼女が角ありに勝てるわけない。
"逃げて!"
自分の命を削って火魔法を放つ。
「メランさん!逃げてください。」
喋ると殺される、もうどうでも良いじゃないか、どうせあの生活に戻るくらいなら彼女を助けたほうが、ましだ。
「プチデーモンが居るぞ、奴隷の癖に反抗しやがって。」
気付かれた、これで終わりだ。
私の魔力じゃ男の服を燃やすだけで精いっぱいだ。
他に居る角付き魔人達が、私に魔法を当てようと練っている。
水、雷、炎、光、闇、なんでもありの攻撃。あんなのに当たったら吹き飛んでしまう。
自分はあれの1/10の魔力を6回も打てば死んでしまう。
やはりこの種族が憎い、プチデーモンの私にはメランの逃げる時間さえ作れない。
飛んでくる魔法、私もどうにでも成れと魔法を放つ。
目の前に真っ赤な壁が現れる。あの魔法を防いでくれたようだ。
"グオォォォォ"咆哮を上げる龍。
乱入者だろうか、メランを逃がすチャンスだ。
その龍めがけて魔人が魔法をいっぱい放つ。
私に向けられた物より何倍もの、それ。
それを受けても怯まない龍。
私は決めたんだ、メランを逃がすって。
このチャンスを逃しちゃダメだ。
魔人に向かって、自分の命を削って何回も魔法を放つ。
火、水、火、水、火………
龍の炎と比べてあまりにも小さいその魔法。
良いんだ、役に立ちたい物に出会ったんだ。
遠退く意識、もう何をやってるのかもわからない。
向いても居ないのに空が見える。
メラン逃げられたかな。
意識が薄れゆく中、時間の感覚もおかしくなる。
ふいに何かに拾われる。
魔人に今から虐められて殺されるんだ。
良いんだ、もう全然感覚が無い、次は楽しい人生が良いな。
「ルルダメだ、あんたが逝っちゃ、"メラン"が悲しがるよ!」
メラン、彼女生きてたんだ。
意識が遠くなる、何の感覚も無い。
生き返ったら、また彼女とあぜ道を歩いてお話したいな。
……
急に熱くなる体、今まで感じた事の無い感触が私に入ってくる。
怖い何かどす黒い物で支配される私の体の中。
拒絶したくなる。
怖い怖い。
中にメランの暖かい魔力を感じる。
怖さが無くなった、そのまま入り続ける何か。
受け入れ続ける。ドンドン入ってくる。
体が、心が、魂が書き換えられていく。
彼女の優しい魔力が体を支配していく。
心地いい。一緒に過ごせたらいいな。
目の前には知らない赤い髪の女の魔人が居た。
「あなた誰?」
赤い髪、赤い目、褐色の肌。
その女性が泣きながら私の"髪"に顔を押し付けてくる。
抵抗できない私、その女性が落ち着くのを待つ。
違う。メランだ、彼女はどうなったのか。
体全身を使って、赤い女からの脱出を測る。
"自分の手"が赤い女を押しのけた。
魔人の様な手、腕と爪がある。
その先にメランが仰向けに白い髪を扇形に広げ倒れている。
彼女は無事だった。その顔がこちらを見る。
「ルルちゃん、調子はどう?」
怠そうに立ち上がった彼女。思わず"抱き着いて"しまう。
「メランさん、ありがとう。」
また彼女の優しい魔力が体を包む。
包むスピードがちょっぴり遅く成っていた。