人間界 セリカ編 1
ススカの街で壁を拡張して、4本目の木を生やしたところで突然目の前が真っ暗な空間に成った。
カレンは居るが、周りは存在も気配も何も感じない。
その黒い空間に突然現れた光に包まれて目を開けると、魔法陣と鉄格子の中にいた。
見える景色は一面の魔法陣と鉄柵、その奥に居る人。
それに気付かれたのか、床から真っ白が上がって目の前が真っ白に成った。
何をされているのか分からないが、床から何か魔力を感じる。
徐々に弱まる魔力と共に視界が元に戻った。
癖で周囲の存在を調べる。
無数に居る小さな存在。 こんな数は感じた事が無い。
何処なんだここは。
カレンは、未だに動かない。
存在ははっきりしている。 何か白いモヤを感じるような。
「魔法大臣と、衛兵を呼んで来い。 早く!」
何か叫んでいる。
魔法大臣? 衛兵? 一体何なんだ。
カレンから離れて周りを見渡す。 鉄柵でみにくい。
ローブを纏った人が沢山。 全部金髪青目白肌。
勇者の特徴をもつそれに、何か似たものを感じた気がする。
コテツ、人間の気配。
こいつら全員人間なのか。
小さな存在、そしてこの気配。 確かにコテツに似ている。
そしてそれ以外を感じない。
こんなに魔力の小さい魔人は感じた事が無い。
「火炎陣、発動させろ。 早く!」
目の前が真っ赤に染まる。
また感じる床からの魔力。 そして徐々に弱まっていく魔力。
何か攻撃をされているのか? この鉄の檻に閉じ込められて。
あの女が喋っている。 一体私達に何をしたんだ。
そこから何も起こらない、カレンの様子がおかしい。 ずっと固まっている。
何かされたのか?
「青髪の悪魔、赤髪のその目をやめさせろ。」
急に動くカレン、でも動き方が変だ。
ぎこちないような、体の一部だけで動いている様な。
大鎌の紫の刃が私に向いている。
後ろに居るカレン。
あの女はカレンを操っているのか?
白いモヤが気になる。 あれは一体なんだ。
「セリカ様、私は体がいう事を効きません。 お一人でお逃げください。」
カレンが喋った。 体を乗っ取られている?
一体何に……
女が口元をあげた。 ニヤリとする口元。
「セリカ、赤髪。 私に従え。 その顔をやめろ。」
一体カレンに何をした。
「セリカ様、早く、」 カレンの声が小さく成っている。
カレンを捨てて逃げる選択肢なんか無い。
白いモヤあれを如何にかすればいいのか。 鎌にわざと首を近づけて魔力を流す。
徐々にカレンに行き渡る私の魔力。
魂の周辺が何かおかしい。 そこだけ私の魔力を全く受け付けない。
徐々に首に食い込んでくる鎌。 ルルの魔力が効いた鎌だ。
私の首を跳ねるのも時間の問題だ。
後ろでカレンの唸る音が聞こえる。
耐えている。 必死で耐えているんだ。
一発勝負、それでカレンの魂の周りを吹き飛ばしてやる。
方法を必死で考える。 最も魔力を流しやすい方法。
やると決めた、時間は無い。
全神経を集中させる。
後ろを向いてカレンの唇を奪った。
抱き着いて、体を私が支える。
その勢いで私の魔力を一気にカレンに流し込む。
届け! なんとか届け!
白いモヤが赤く変わっていく、もうすぐだ。
召喚所に入ってきた魔法大臣と衛兵達。
その聖鉄の中で行われている美しい行為に思わず目を奪われる。
その場にいた全員が一瞬固まるが、魔法大臣が正気に戻り命令する。
「何をさせている! 動いているぞ! 弱らせろ!」
私の脚に槍が迫る。 弾ける矢先。
「ミスリルの槍が効きません! 壊されます!」
「魔力を込めんか!」
また槍が私の足に迫る。 何か魔力を抱いた矢先。
そんな小さいのでは同じだ。
今は集中しているんだ辞めてくれ。
カレンの手が私を押し戻そうとしている。 その手が明らかに震えている。
まだ私の魔力は魂を囲う白いのを覆いきれていない。
カレンが必死で抵抗しているんだ邪魔するな!
脚に背中に飛んでくる何か。 全部無視した。 うっとおしい。
「ドミンガ大臣! すべて弾かれてしまいます!」
「馬鹿な、ミスリルを弾く悪魔だと。」
何か言っている。 そのまま黙って居てくれ。
「私がやる、離れろ!」
白い魔力、勇者が使っていたそれが私の顔に当たる。
送っている魔力が乱れる。 白いモヤが押し返して来た。
集中する、細かいのは苦手なんだ。 私の精一杯でなんとかカレンを助けてやらなければ。
何発も当たる白い魔力、そいつが私の邪魔をする。
殺す、あいつは絶対に殺す。
怒りを何とか収めて、カレンに集中する。
やっと私の魔力で染まった白いモヤが晴れた。
目を開ける。 脱力したカレン。
自分自信とずっと戦っていたんだ、消耗したのだろうか。
存在は揺るいでいない。 疲れただけだろう。
未だに到来する色々な物、槍、魔法、騒がしい雑魚
久々に一気に頂点に達する魔力。
今まで魔法や槍を黙って受け続けていたセリカ、カレンに使っていた魔力が無く成った事で魔力が外にあふれ出す。
真っ赤な魔力に染まる聖鉄の内部。
その中心に居るセリカ、髪は浮き上がり、口からは牙が伸びて、指は長く伸び黒く変色している。
そこから落ち続ける毒液は、下にある召喚陣を溶かし穴だらけにしてしまう。
体が龍に成れとはやし立てる。
今龍に成ったらカレンを何処かに連れていかれるかもしれない。
爪から毒が溢れているのが解る。
地面を溶かすそれに、カレンに当たらないようにだけ注意する。
「な、なんだ! 化け物か!」
あれが魔力を打ってきていたのか。
肥えた男の金ローブ。 手にオモチャの杖を持っている。
相変わらず勇者の見た目の奴らばかり。
柵の中に入ってくる槍を掴んで引き込む。
その槍を持っている鎧を鉄柵に当てると、そのまま潰れて死んだ。
「ミルナンドを呼んで来い! 悪魔が暴走している!」
それから魔力しか飛んでこない。 どうという事の無い魔力。
一つの存在がここから離れていく。
「逃げれると思うのかね。」
魔力で浮かせて鉄柵に当てる。 またそのまま潰れてしまった。
金ローブ、アイツをやるのはもっと直接的に、だ。
鉄柵が邪魔だ、目の前の柵を爪で触れて溶かしてやる。
「聖鉄が溶けているぞ! 警報を鳴らせ!」
瞬時に何の抵抗も無く溶ける鉄柵。
まだ2個もある。
めんどくさい、全部魔力で一気に溶かす。
金ローブの顔が良く見える。 今更何を怖がっているんだ。
周りの奴らが逃げ出そうとしている。
そんな事させるはずがない。
浮かして、一か所に集める。
そこで押し付けといてやる。
「あんたかね? カレンにこんな事したのは?」
金ローブが倒れて後ずさっている。
「答えてくれないのかい? 私は今までで一番怒ってるのさ。」
勇者の時に学んだ、言わないと解らないんだこいつらは。
「カレン! セリカを殺せ!」
最初に聞いた声がする。 こいつがカレンを操っていたんだ。
その声を出す奴に爪で斬撃を当てる。
机と一緒に切り裂かれて消えた。
「私じゃない。 彼女がやったんだ!」
金ローブが何か言っている。
「そうかねぇ。 じゃぁまだ私の怒りはどこに向ければいいのさ。」
「助けてくれ、金か? 地位が欲しいのか?」
「命乞いかね? 許すわけないのさ。」
爪から垂れるづけている毒を金ローブに何滴か垂らす。 悲鳴を上げる金ローブ。
そのうち消えるだろう。
魔法陣のカレンの元へ戻る。
鎌を手から落として、完全に力が抜けて仰向けに成っているカレン。
彼女を抱える。 首さえ座っていない。 頭から大事に腕で抱える。
ここには何か小さいのが沢山集まってきている。
何をされるか解らない。
どこか別の場所で、彼女を元に戻さなければ。
上空に飛んだ、天井と突き破って外へ。
上空には、黒い空、2個の明るい月と無数の小さな輝き。
下には大きな城と広い街並み。 そこから溢れる光が沢山。
私が出てきた所と、同じ形の建物が、あと2個ある。
そして、無数の人間の気配。
人間界に飛ばされた。 この時確信した。
一撃で吹き飛ばしてやりたい衝動を抑えて、カレンが優先だと言い聞かせる。
人間の気配が少ない方に飛んだ。
カレンは未だに意識が戻らない。 どこか人間の気配の無い場所。
飛んでも飛んでも人間の気配だらけ。
人間界は、こうにも人間が多いのか。
やっと見つけた暗い森。
その中心に、逃げ込むように突っ込んだ。




