人間界 セリカ編 0
緑が生い茂る大地と、輝く太陽。
流れる水の中には魚影が沢山確認できる。
その水が流れる川に沿って、畑がいつまでも続く。
周辺には村があり、そこから煙が出ている。
遊ぶ子供の声、鳥の音。
大人たちは馬車に乗り、狩ってきた麦を降ろしている。
その川を下って、しばらく行くと、大きな木製の跳ね橋。
その跳ね橋の奥に白い石造りの大きな門。
その門では多くの人が行き来をしている。
門の上には塔があり、その上に大きな設置式の弓。
横に広がる壁は周囲にある水堀に囲まれながら、高く高くそびえる。
壁の中は人でごった返し、色々な声が聞こえる街。
栄華を誇こるこの街は、プロトン王国の首都ロサ。
バンブー王国の様な見た目の白い城、白い町、白い壁。
だがそこには多くの人が行き来して生活している。
大きな城の他に、このロサには大きな建物がある。
城を三角形に囲むように存在する、ドーム状の建物が3個。
周囲の建物より異様に大きな真っ白な建物は、城以外のどの建物より高い。
召喚所。
そう呼ばれるこの場所はこの国を大国に押し上げた。
召喚から生まれる勇者は、1人で他国の軍を壊滅させ、降伏させた。
人間の国は全て滅ぼし、一部の異種族まで降伏させた勇者。
彼は今、この国と共に世界制覇へと向かっている。
何故か一度に2人しか生まれない勇者。
それを各実に呼び寄せる為にこの国はひたすら召喚を続けていた。
一日に何度も召喚をする。 そのためだけに国費の大半を費やす。
大きな魔法陣は毎日光り輝き、召喚儀式を繰り返していた。
その3個の召喚所の内の1個、第三召喚所と呼ばれる一番新しい召喚所。
その中心にある魔法陣で新しい召喚に備える召喚師が居た。
サイラ、第三召喚所所長。
金髪青い目白い肌、プロトン国民の特徴をした彼女は今日も仕事に追われていた。
召喚陣の前にある彼女の机、その上には膨大な量の紙が積まれていた。
毎回無茶な期日でこちらに言ってくる魔法大臣、一度蹴り飛ばして辞めてやろうかと何回思ったか数えられない。
私がここの第三召喚所の所長に成ってから、一度も勇者を召喚出来ないのが原因なのは解っている。
第一、第二の所長からも見下され、立場は血の底に落ちていた。
第一の勇者は魔界に旅立って帰って来ない。
先日勇者の灯が入った白魔石が消えた。 死んだのだ。
第一、第二召喚所はまた勇者召喚を始めている。
私達、第三召喚所がこんな事をさせられているのは第二召喚所で出た勇者のせいだ。
彼は、竜の国を落とせていない。
何度も失敗し続ける勇者。
業を煮やした国王は遂に悪魔まで召喚しろと言い出した。
それを私達第三召喚所が今取り掛かっている。
馬鹿な話だ、悪魔召喚は過去の文献によるとハズレが多い。
弱い悪魔ばかり出てくるのがセオリーなのだ。 勇者に一撃で葬られるような悪魔そのために生贄を消費する。
生贄自体は構わないが、その後誰かが契約して対価を払わなければ成らない。
何を要求してくるかは分からない。 その悪魔次第。
そんな失敗が確定しているギャンブルの様な召喚を私達はさせられている。
召喚陣の下には生贄に成る、エルフやドワーフ、獣人共が押し込められて数日経つ。
早くしないとこいつらが死んで使えなくなってしまう。
「シャロス、進捗具合はどうなってる?」
「明日には初回召喚が出来そうです。」
同じような真っ白なローブを羽織った彼女はシャロス、同じプロトン人の特徴を持つ私の部下だ。
毎日献身的に働いている。
勇者の時と何も変わらない風景。 聖鉄の柵の中に召喚陣。
ミスリルを加えたこの柵は聖剣と同じだ。 勇者は聖剣を壊せない。
洗脳が終わるまでこの中で監禁される。 それは私の仕事ではない。 魔法師の仕事だ。
ただその召喚陣が違うだけで、全てを書き替えている。
壁、天井までびっしり覆った召喚陣。
この部屋には窓が無い、逃げられないようにするためにだ。
天井は分厚い石で出来た天井。
一度洗脳が終わってから、それさえも壊してしまう勇者が居たが、魔界で死んでしまった。
所詮兵器の勇者。 どこかに行って毎回死んでいる。
死ぬ度に繰り返される召喚、それでもこの国はそれで一番に成った。
昔は敵国も召喚を行っていた。 勇者が二人で勝った負けたを繰り返す戦争。
それに巻き込まれる村、街、兵士。
その勇者2人どちらも召喚してしまえというのが、この国の覇権につながった。
一方は魔界で訓練させ。 一方は戦争に連れ出される。
それをずっと繰り返し、世界の9割は手中に収めたこの国は栄華を誇っている。
負けた国、種族はひたすらに召喚に使われる、そんな世界だ。
さっさと竜国を滅ぼしてバカンスを楽しみたい。
「シェロス、今日中にはできると思いますよ、ほらココを簡略して。」
彼も私の部下だ、バース。 同じプロトン人。
召喚所にはプロトン人しか居ない。 反乱を起こされたら困るからだ。
「早くできればそれで良い、どうせ悪魔召喚だ。 ハズレだよ。」
魔法大臣の為にやっている様な作業、形に成れば何でもよかった。
「では、バースの案で進めます。」
「そうして、今日中に終わらせて、今回こそは勇者を第三から出すわ。」
本音は早く第三召喚所から勇者を出したかった。
とりあえず悪魔が出てコレバそれでいい。
それを法務大臣の目に入れればこの仕事は終わりだ。
20人は居るこの召喚所、ドームの周りは衛兵の詰め所と、働く人の住居に成っている。
この仕事は休めない。 給料をもらっても使う時間が無い。
ひたすら動き続ける部下達に、サボっていないか目を光らせるのが私の仕事だ。
自分でコーヒーを継ぎに行く。 召喚陣の上に置かれた机はお菓子や飲み物何でもそろっている。
最近エルフ共が生産したマメが入ってくるようになった。
私の唯一の楽しみだ。
席に座り、鉄柵の中を見つめながらコーヒーを楽しむ。
「所長、準備整いました。」
バーズは召喚陣を完成させたようだ。
後は私がこの机にある魔石に魔力を通せば召喚が始まる。
「早速始める。 各自記録の用意。」
部下に告げ、水晶の様な魔石に魔力を通す。
部屋全体に黒い線が走る。
勇者召喚では白の線、悪魔召喚は黒。
その黒が不気味に光り出すと、鉄柵の真ん中に、黒いモヤが出て来た。
広がるモヤ、それが聖鉄の柵に触れてはじき返されている。
異様に長い時間何も起こらない。
これが閉じてしまうと失敗だ。 また生贄を魔法大臣に頭を下げてもらわないといけない。
それだけは嫌だ。 魔石を持つ手に力が入る。
「所長出てきました!」
シャロスが叫ぶ。 確かに何か出て来た。
鎌? 青い鎌が現れている。
大きな悪魔でも出てくるんだろうか。
徐々に表れる青い鎌
「もうすぐ10分経ちます、召喚陣が壊れてしまいます!」
点滅を繰り返す召喚陣はより早く点滅を繰り返す。
どうせこの次は勇者召喚するんだ。 私は止めない。
「続行! 出てくるまで実施!」
青い鎌が全て出て来た。 低い位置、大きな悪魔ではないのか。
褐色の手かそれを持っている。
腕が出て、また同じ色の手。
手が四本ある悪魔なのか?
青い髪が現れて、青い目が付いた顔が出てくる。
背の高い女の悪魔、それが出て来た。
だがその後ろにも何か続く。
赤い髪赤い目の青と似たような背丈の悪魔。
そいつが出て来た。
服を着て、鎌を二人で持っている悪魔、後ろの赤は大きな剣を背負っている。
閉じるゲート、2人の悪魔が出て来た。 成功だ。
「当たりか?」
悪魔は良くわからない。 ここ数百年実施されていない召喚だ。
誰も答えない。 解る奴なんて居ないか。
「デーモンが2匹です。 何か大きな鎌を持って居ます!」
シェロスが言う。 そんな事は見たら解る。
赤髪の赤い目が動いている。
勝手に動いている。 悪魔は呼びかけないと、動かないはずではなかったのか?
「目が動いてるぞ! 弱らせろ!」
防衛用の雷撃陣を作動させる。
「魔法大臣と、衛兵を呼んで来い。 早く!」
バースが走って行った。 もう魔法陣は輝きを失っている。 扉が開いても問題ない。
電撃人を、止めた。
赤が、青から離れて、立っている。
二人とも立っているのだ。 勇者も悶えるこの電撃。 それを耐えた。
悪魔に電撃は効かないんだろうか。
「火炎陣、発動させろ。 早く!」
今度は火に包まれる鉄柵の中。
真っ赤に燃えているが、何も起こらない。
何も言わない悪魔。
陣が終わり止まった。
青は変わらない。 赤がこちらを睨みつけている。
効いていない。 焦る。
だが鉄柵の中だ、どうせあそこからは出て来れない。
青は文献通り服従しているようだ。 赤を黙らせればいいのではないか。
「青髪の悪魔、赤髪のその目をやめさせろ。」
青が動いた。 早かった。 こんな早いのは勇者でも見た事が無い。
鎌を構え、後ろを取った青は赤の首に鎌を当てている。
「セリカ様、私は体がいう事を効きません。 お一人でお逃げください。」
青が喋っている。 完全に支配できていない。
でもあの悪魔は真名を言った。 馬鹿だ。
赤の名前はセリカと言うらしい。
「セリカ、赤髪。 私に従え。 その顔をやめろ。」
下を向いた赤髪、これで大丈夫なはずだ。
なにやら震えているが、抵抗しているだけだろう。
魔法大臣と衛兵が部屋になだれ込んで来る。
これで私の仕事は終わりだ。




