魔界編 ススカ 61 ~セリカ編 12~
街会議が終わり、剣だけをダンテに預けてコテツの所に持って行ってもらっている。
色々考えた末だ。
私達は、主とルルとラーナでメルサの宿へヒヒの馬車で移動していた。
メルサの宿に着いた時、主とルルが話をしていた。
メルサの宿の周辺の家が少ないと。
ルルが全て切り刻んでしまったようで、修理が出来ないようだ。
でもルルは解決策を見つけていた。
木で家を建てる予定だと。
主も欲しいと言っている。
私も家が貰える時が来るのだろうか。
メルサの店に着くと、ムーが出てきてヒヒの馬車を外してくれる。
「おかえりニャ、今日はお魚だにゃ、ごちそうにゃ。」
今日の晩飯は魚だと嬉しそうに言っている。
私も楽しみだぞ!
鉄の扉を開けて、店内に入る。
テーブルと椅子が復活している。
カウンターにしか居ない人。 他の人は寝たのかな?
ラーナは眠いのか、そのまま上に上がってしまった。
今日はムーと一緒に食事だ。
黒いヘルキャットが、配膳をしてくれる。
朝見た奴だ、名前をエーテと言うらしい。
「キングヘルサーモンのムニエルだニ゛ャ、他のも持ってくるニ゛ャ。」
旨そうではないか! 食べようぞ主!
主がムーの体の心配をしている。
ムーは体調が悪いのか? 大丈夫だろうか。
ぁ! ルルがもう食べてる! 私も食べる!
肉とは違う油が何とも言えない。 塩と合うこの濃い味。
口が幸せだ。
「ニャニャ、骨は分けた方が良いのニャ。」
もう皿には何も無い。 ムーそう言うのは先に言うんだぞ!
「セリカ、おかわりでしょ~。 持ってきてあげたわよ~」
メルサが出てくる。 手に一杯の皿!
それは私が食べて良いのか?
メルサはまだまだあるという。 勿体ないでは無いか、私が食べてやろう。
一回骨を取ろうと思ったがめんどくさくてやめてしまった。
パク、パク2口で終わってしまうサーモン。
でもメルサは次々持ってくる。
最近多く食べることが無かったからか、無限に入る。
私、限界感じた事あったか?
その後、メルサが持ってくる分だけ食べた。
「セリカ、解ってたけど、滅茶苦茶食うのにゃ。」
「そうかい? まだまだ行けるけどねぇ。」
そんなに驚くことないじゃないかムー。
そのムーにルルが抱き着いていた。
ムーに別れの挨拶をして、宿の部屋に帰る。
なんだか見慣れた風景、そこでいつもの様に今日の出来事を話しながら眠りに着いた。
目が覚める。
また二人は寝ていた。
私が早いんだろうか。 主は今日は小さい竜巻みたいのを出している。
「セリカねぇ、起きたか。 おはようだぜ。」
「ヒヒ、おはようなのさ。」
小声で話すヒヒ。 また人参を食っている。 昨日の話は何だったんだろうか。
「先に下に降りてるねぇ。 起こしても悪いのさ。」
「朝飯だな、楽しんで来るんだぜ。」
無意識に大剣を探してしまう。 今はコテツの所か。
部屋を出て廊下に出る。
またそこに居た魔人達に挨拶を済ませながら下に降りていった。
少し人が減ったような店内。 でも最初と比べたら大賑わいだ。
昨日晩御飯を食べた所の席が空いている。 どこでも良かったがそこに座った。
「セリカおはようなのニャ! 朝ごはん置いとくニャ!」
「ムーおはようなのさ。 今日も旨そうなのさ。」
野菜の沢山入ったスープとパン。 昨日と少し色が違う。
スープだけを飲んでみる。 濃い野菜の味がして美味しい。
植物を食べたのはこの体になってからだ。 こんなに美味しいなんて知らなかった。
主に感謝だ。
「セリカおねぇちゃん! おはようです!」
味わって食べていると、ラーナが目の前に座る。
両親はもう出てしまったのだろうか? 周辺に居ない。
「ラーナ、おはようなのさ。」
相変わらず元気なラーナ。 昨日のルルとの出来事を楽しそうに話していた。
ルルも街直すの頑張ったんだねぇ。
「セリカ、ラーナちゃん。 おはよう!」
そのルルが降りて来た。 今日もニコニコのルルだ。
ルルとラーナで、食事を取る。
ラーナは刀に興味があるようで、ルルにあれこれ聞いていた。
私はひっそりお代わりを貰うと、その味を楽しんでいた。
その後少し経って、主が降りてくる。
今日も凛とした主。 昨日と違い鎧も着ている。
今日はベルゼブブの所に行くのか、思い出した。
メルサの料理もしばらく無しだ。 少し寂しく成る。
ルルは今日は、木工ギルドのカガラの所に行ってから、コテツの所へ行くようだ。
入れ違いに成るな。
ラーナが主に、どこか行くのかと聞いていた。
主、お土産って何か当てがあるのかね。
忙しそうな、メルサとムーに挨拶を済ませて宿を出る。
ヒヒが遅めだと茶化してくる。
魔王様の馬車だぞ! と笑ってやると、何故か主に睨まれた。
少し自重しよう。 主が怒ると怖い。
ルルとラーナと別れて、ヒヒの馬車に乗り込む。
前に戻ったような人の流れ。 少し違うのはプチデーモンを街中で見る位か。
白い月がまだ昇ったばかりだ。 コテツは起きているだろうか。
「お二人さん、俺はここで待ってるぜ。」
ヒヒが大通りに馬車を止める。 コテツの店の近くに着いた。
馬車を降りて、細い路地を行く。
あの刀の看板が見えてくる。
相変わらず壁に一面の武器、誰も居ない客。
カウンターにはコテツは居なかった。
作業場かな? とりあえず声を掛けておこう。
「コテツ、取りに来たのさ。」
此処に来ると期待してしまう。
出来てるわけ無いだろ。 と返されると思っていた。
「すまねぇ、こっちまで取りに来てくれねぇか。 重くてよ。」
もしかして終わってるのか? 嬉しく成って少し揶揄ってしまう。
昨日コテツと一緒に作業した作業場へ足を踏み入れる。
何個か曲がっている昨日作った魔鉱石と鉄の合金。
その横に私の大剣。
刀身だけ魔力が通り、赤い。 鉄の色むき出しの刃に薄く模様が掘ってある。
出来ていた。
昨日の晩に渡した所なのに。
あんなに真剣な表情で進めていた合金の事を後回しにして。
「コテツ、急を言ってすまなかったのさ。」
「良いんだ、お前らも色々あるんだろ?」
話しているコテツは、袖が土まみれで脚がふらついている。
手を不自然に後ろに回すその姿。
無理をしてやってくれたんだと思う。
一回であれだけしか削れなかった刃、それが大剣一面綺麗に模様が掘ってある。
私が寝ている間も作業をしていたんだ。 そう思うと居たたまれなく成る。
何かしてあげたい。 でも私がコテツにあげれる物はあまりない。
そっとコテツを抱きしめて、土を魔法で取ってあげる。
背中まで土まみれに成っていたコテツ。 これでゆっくり寝れるかね?
後は私が魔力を流すだけだ。
大剣を持って店に戻る。 そしてカウンターに置いて魔力を流そうとした。
「メランじゃねぇか。 元気してたか?」
コテツが後ろから付いて出てきていた。
何か主に見られていたらと少し恥ずかしく成る。
「主は魔王になったのさ。 頭が高いぞコテツ。」
照れ隠しでまた主を魔王と言ってしまった。
「頭なんて下げなくても良いわよ。」
主は笑顔でコテツに言っている。 怒っていない様だ。 助かった。
コテツもいつものコテツに戻り、刃に魔力が入っていない事を説明してくれる。
疲れているだろうに、律儀な男だ。
少し離れるようにコテツに言って、大剣を持つ。
ここからは私の仕事だ。
目を閉じて剣に集中する。
剣が迎えてくれているように感じる。 そこに魔力を流す。
大量に一気に入れるのではなくて、整頓しており重ねて出来るだけ入るように。
いままでやった事が無いぐらい丁寧に送っていく。
すぐに腹の底からあふれ出しそうになる私の魔力。
全てを突き破って出てこようとする。 それを抑えながら、ゆっくりと。
もう入らないと剣が少し拒否を始める。
でもまだ行ける。 そう感じた。
剣に少し我慢をしてもらって、慎重に慎重に入れて行く。
満足した所で、目を開けた。
刃の新しい蔦の模様に緑の色が染まっていた。
思った通りに成った。 少し剣が軽い。 完璧だ。
コテツはいい仕事をする。 魔力も使わないで仕上げた剣は、他の冒険者が持って居る剣と違う何かを感じる。
「お前、なんか前より濃く成ってないか? その剣。」
私も少しは成長したのさ。
「セリカ、自分でできるように成ったんだ。」
「ルルのお陰さね。 主」
昨日の訓練の事は黙って置こう。 コテツとの試作の話も。
主には悪いが、これは私の大事な記憶だ。
「とりあえず一回使ってみてくれ。 感想くれたら何か思いつくかもしれねぇしよ。」
わかったよコテツ、とりあえず休んでくれ。 あんたフラフラだよ。
「セリカ、お金は良いの?」
お金、そう言えば忘れていた。 しまったと思った。
昨日のミドラのは断ってしまった。
「前の500で十分だぜ、メラン」
本当に良いのか? どこかできちんと払おうと決める。
主にも私の為に付き合わせてしまった。
「セリカ良かったじゃない。 今度手合わせしてね。」
また、あの未開の森の奥でこいつを振ってみたい。
時間を見つけてやろう。 この剣がもっと好きに成った。
そう決まれば、さっさと用事を片付けないと。
ヒヒの馬車まで少し早く歩いてしまった。
主は後から乗って来る。 出来た剣をずっと見てしまっていた。
主が何をしたのか聞いて来る。 手合わせするまで秘密だ。
私とコテツだけが知っている秘密。 それを大事にしたかった。
西門に差し掛かる。
相変わらず出入りの激しいこの門、馬車が人が街に入るために並んでいる。
「おう、ヒヒじぇねぇか。 出立か。」
ヒヒがダンテと話をしている。 ダンテも昨日会議に居たもんな。 主が今日行くのを知っている。
ヒヒと話し終えたのか、そのままこちらへ向かってくる。
定位置の私と主、私の裏から回ってきたダンテは、主を見て話しだす。
「あんまり大げさなのは出来ないけどよ。」
普段すこしだらけた姿勢のダンテ、背筋を伸ばし足を揃えた。
周りから集まって来る他の衛兵。 周囲が静まった。
「ご武運を!」
胸に持って居る剣を一斉に当てるダンテと衛兵。
その姿に街を離れるのが少し寂しく成った。
こうして私はコテツの剣と共に街を出たんだ。




