魔界編 ススカ 59 ~セリカ編 10~
北の山。
北門を抜けたその先にある山は、昨日コテツが話していた白い魔法の粉を取るためだろうか、
多くの魔人共が白い石を削っている。
その手前ではデカイ奴が、土を馬車に入れていた。
そこを超えて、街道に降りる。
先には森、道は森の中に入って行っているが、その先は暗くて解らない。
コテツはまた泡吹いてないか。
後ろを見ると顔を上げているコテツ。
いつも何も無いツルツルの頭に、私の髪を被っている。
思わず笑ってしまった。
恥ずかしいのかコテツ。 また赤く成ったぞ。
それでその鉱石ってのはどれなのか。 私には全く分からない。
全部の山が同じに見える。
「これなんだ、この黒い鉱石。 切り取れるか?」
山から、むき出しに成っている黒い石。 普通の石じゃないのか。
一回爪で切ってみようか。
久しぶりに爪を伸ばす。 毒は無しだ。
簡単に出来た。 こいつをその黒い石に突っ込む。
コテツ指まで入るぞ?
これは柔らかい奴だな。
でも私は細かいのは無しだ。 そのまま手の平で抜き取ってやる。
手を広げて、そのまま少し押し込む。
ズブズブ入って行く手、これ大丈夫なのかね。 こんなんで刃入るのかね。
「おう、もう良いぞ。 そこら辺の欠片で十分だ。」
いつの間にか崩れている山の上の方。
そこから同じ鉱石が欠片に成って落ちている。
それで良いらしい。 コテツが良いというんだ。 良いんだろう。
腕を抜くと、目の前の脆い黒い石はヒビを広げる。
上空から落ちてくる塊。
そのまま受けても良いが、コテツに欠片が当たったらしんじまう。
手に魔力を集める。 優しく、クッションのように。
なんとか、受け止められた。
コテツも生きてるな。 うん。
もうこれでいいんじゃいないのかね。
「そんなデカいの店が潰れるぞ!」
言われてみればそうだ。
爪を伸ばす。 あのレンガ?とかいうのぐらいで良いか。
少しだけ上に黒い石の塊をあげて、速さを意識して切る。
ルルに負けない為の練習だ。
こんぐらいで良いんだろうか。 先に聞いておけばよかった。
コテツが切った黒い塊を持っている。 それそんなに脆いのに持って帰ってどうするんだ。
「あぁ、ありがとうなセリカ。 何個か持って帰る。」
コテツが言うんだ、大剣の改造が出来るかもしれない。
コテツを背負って、爪で黒いのは刺して持って行く。
10個で足りるのか? いいや、あとは抱えて持って行こう。
背負ったコテツは結局一個も持って帰って来なかった。
私が持ってきたからいいんだぞ、コテツ。
店に帰って来る。
コテツは店ではなくて、その奥に入れてくれた。
水槽と炉、色んな道具と鉄クズ。
そこに魔力は火を起こす道具だけ。
本当に力で作るんだと少し感動した。
「あんま人に見せるもんじゃないからな。 セリカ、あの大剣持ってきてくれ。」
黒い石を置いて、大剣をカウンターから持ってくる。
またウキウキしてくる。 どう変わるんだろう。
でも同時に不安もある。 また削れないんじゃないか。
まぁコテツが行ってるんだ出来るんだろう。 できるよな?コテツ。
地面に置くように言われる。 ここの床は鉄ではなくて地面だ。
けして広くない地面に大剣を置く。
それでこれから削るのかい?
「この形に一回切ってもらえないか?」
さっき使ったミノを見せられる。
この黒いのをその形にすればいいのかい?
また爪を伸ばす。 最初は大胆に、後は繊細に。
細かいのは苦手だがなんとか出来た。
コテツはその作業をじっと見ていた。 あの作業をするときの顔だ。
出来たミノを渡す。
金槌と、ミノを持って、コテツが大剣に刃を立てる。
気になって私ものぞき込んでしまう。
"カン"
剣が反応してないぞ。 大丈夫か?
コテツが逆側から叩く。
"カン"
小さな鉄の欠片が大剣から零れ落ちた。
出来た! 嬉しかった。 コテツがこちらを向いている。
「出来たねぇ、流石コテツなのさ。」
「セリカの魔鉱石のおかげだな。」
作業をするときの顔から、普段の顔に戻るコテツ。
魔力を使わずここまで考えるんだ。 コテツは凄い。
でも一回でこれだけしか取れない。 何回やるんだこれ……
少し気の遠くなりそうな作業に、なんだか申し訳なく成る。
「預かりで良いか? 一日で出来ると思うんだけどよ。」
大剣を見ているコテツ、頭の中に完成図を描いているんだろうか。
1日で出来るのか? すごいな。 あれ何回やるんだ。
何か他に手伝える事無いのかい?
コテツの実験とやらに付き合う。
新しい武器?が作れるかもしれないとコテツは言う。
なんだそれ! 私も欲しいぞ!
近くにあった包丁を割ってくれという。
指で持って、割る。
曲がった。
コテツはあの作業する時の顔だ、真剣に私の手元を見ている。
割れば良いのか?
曲がった所をもう一回持つ。 割れた。
これが何なんだい?
黒い石の棒を渡される。 私が削った奴だ。
同じように割る。
これは割れた。
どっちも脆いけど違うんだ。 なんだか、おもしろいなこれ。
それをコテツは説明してくれた。 硬すぎると割れやすいんだと。
私達は普段壊すばかりだ、他は魔力でやっている。
コテツがしているのは魔力を使わない創造。
なんだかすごい事をしているんだなコテツは。
「セリカこれ溶かせるのか?」
黒い石を差して言うコテツ。
溶かす? とりあえず炙れば良いのか。
地面に落ちている欠片を集めて、指の上で魔力の火であぶる。
徐々にゆっくりと温度を上げる。 指の上で溶けた。
なんだかあっけなかった。
これで剣でも作るのかね? コテツ。
私は笑いながら言ってしまったんだ。
コテツは真剣な顔でその溶けたのを見ていた。
少し申し訳なくなった。
この男の作業をする目は射抜くような目をする。 それを茶化した気持ちに成る。
コテツは怒るでもなく、そのまま何個か鉄と混ぜてほしいと頼まれる。
ずっと真剣なコテツ。 一緒に作業をする。
20個ぐらい鉄と黒い石の割合が違う板が出来た。
それにチョークで割合を書いていくコテツ。
ここから彼は何をするんだろうか。 ずっと見て居たくなる。
何か手伝いたくて、コテツが使っていたカナヅチとミノを、黒い石で作っておいた。
「助かったぜ、セリカ。 良いの作るから待ってろよ。」
コテツが喜んでくれた。 嬉しかった。 でも私は何かこの男に帰せるんだろうか。
またそんな事を思ってしまう。
今からする事を手伝えば良いじゃないか。
そう思った時に、人が入ってきた。
「二人で何してんだ。」
少しコテツとしていた時間を邪魔された気がした。
無意識にムッとしてしまった。
「すまん、邪魔した。 セリカ、街会議が臨時であるらしいんだが来るか?」
ダンテだった。 この街の守備隊長。
街会議? そんなもんどうでもいい。 コテツの作業を見て居たい。
「何かメランの事でやるみたいだ、一応声かけようと思ってな。」
主の事。 それは重要じゃないか、行かないと。
無意識に大剣を持ってしまう。
預けておけば良いか。 と思いコテツに声を掛けようとした。
サンプルの板を見ているコテツ。 やはり其方が気になるようだ。
さっきも全然真剣度が違った。
私のは後でいいやと、コテツにまた持ってくると伝える。
「あぁ、待ってるぜ。」
またカウンターで寝るんじゃないぞコテツ。
そうして、店を出た。




