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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 58 ~セリカ編 9~

宿を後にして昨日勇者にあった場所を目指す。


宿から西門は綺麗な街並み。


存在も多くある。


少し顔をあげて、北西を見る。


途中から無残な姿に成った家が多い。


大きく開いている穴。 そこに存在はほとんど感じない。


本当にもっと早く来ていればと、少し残念な気持ちになる。


大きな鉄板を運んだ馬車が、沢山並んでいた。



その綺麗な街と破壊された街の堺ぐらいに降りる。


いつもと違う風景、オーク3人掛かりで鉄板を持って、それを壁に体で押し当てる。


デーモンとヌイグルミの様な奴らが、火魔法で何かを溶かしてくっつけていた。


プチデーモン彼らが居た。


彼等は魔法を使いすぎると死んでしまう。 昔のルルのように。


近くの道には存在が薄く成ったプチデーモンが沢山転がっている。




朝までの気持ちがひっくり返った。


あいつらは何をしているんだ。 道具のようにプチデーモンを使って街を治している。


せっかく街が好きに成ったのに。 手に力が入る。 どうしたら良いか解らない。


悲しいような、怒っている様な 複雑な感情。


お腹の中から魔力が溢れてくる。 体があいつ等をやってしまえと言ってくる。




「セリカ様 ですかな? ミドラと申します。

昨日はありがとうございました商人ギルドを代表して、お礼を申し上げます。」


後ろで声がする。


振り返ると腰を折る朱色の髪のデーモン。


こいつがココの責任者か。



「あんたら何してるんだねぇ。 殺されたいのかねぇ。」


全部怒りに変わってしまう。 この男にぶつける。


固まってしまう男。 怯えている場合か、何か答えたらどうなんだい?


「セ、セリカ様 何かお怒りでしょうか。」


「プチデーモンをあんな風に使って、何考えてるのかねぇ。 同じ小さい存在をさ。」


何が私を怒らせているのかもわからないのか。 やっぱり魔人は魔人なのか……


刃の奥を噛みしめる。 痛いほどに、本当にどうすればいいんだこいつらは。




「か、か、彼等は協力していただいています。 強制ではありません。」


協力?


改めてその作業を見る。


此方を見て止まってしまっている街。


転がっているプチデーモンの下には何か敷いてある。


並んで寝ている?


存在が薄く成っているプチデーモンに何かを送るデーモン達。


その先は濃い存在に変わっているプチデーモン。



協力しているのか。 一緒になって直している。


「そういうのは先に言うのさ。 あんたをぶっ飛ばしそうに成ったよミドラ。」


なんだ勘違いか、一瞬で魔力がお腹に帰る。 体から力が抜ける。


「す、失礼しました。 先にお伝えすべきでした。」

そうさ先に言ってくれないと。


「いいのさ、ミドラ。 それでどれぐらい進んでるのさ。 私も手伝うのさ。」


「セリカ様がお手伝いをですか?」


「なんなのさ、私だって出来る事あるのさ。」



並んでいる馬車、その上には鉄板が乗っている。


それを降ろそうとして固まっているオークが数人。


そこへ向かう。 重ねてある鉄板、その一枚一枚に木が挟んである。


その隙間に指を入れて持つ。


プチデーモンが寝ている道路を歩いて、穴が開いている家まで行く。


まだ何もしていない家。 あの勇者がレーザーを放ったんだろう。 


丸く穴が貫通している家。 その奥の家も丸く穴が開いてしまっている。



その壁に鉄板を当てる。


手の平で押し当てると、少し鉄板が凹んでしまった。 火力の練習をすると昨日決めたんだ。


少しの魔力、微力の魔力。


鉄板が赤くなる。 そこで止めると、壁にくっ付いた。



「これていいのかね?」


周りの魔人達が拍手をしてくれた。 プチデーモンも一緒だ。


「ありがとうございます。 お任せいたします。」


ミドラの許可は貰った。


「あんたら穴が開いてる家に行って、壁から物退かせてほしいんだね。

焼けちまうさ。」


頷く魔人達、皆で北門の方や、路地に入って行く。


一々取りに行くのはメンドクサイ。


あまり得意ではないが、魔力で見えている鉄板を全て空にあげる。


固まる引手達と、魔人達。


「早く次の持ってくるのさ。 終わらせちまうのさ。」


待機していた馬車の列が一斉に逆を向いて走り出した。


400枚ぐらい浮いている鉄板。 それを一個一個手で押し当てて、くっつけていく。


コテツの所の様な路地も多い。


そこを歩いて迷路のような場所もひたすら直していく。


周辺で走り回る魔人達に、声を掛けながら、次の場所を教えてもらう。


400枚はすぐに終わってしまう。



大通りに出ると、馬車がまた並んでいる。


繰り返しだ。 でも一々手でやらなくても出来る気がする。


試しにやってみる。


勝手に動き出す鉄板。 勝手に壁に当たる。


それを浮かしている魔力を使って温度を上げる。


くっついた。 いい練習だ。 そう思った。


見えていないところは解らないので、裏路地を歩きながらそれを繰り返す。


あわただしくなる魔人達。 あんまり無理するんじゃないと言うが、皆必死で働いていた。



何回もその作業を続ける。 別に鉄板丸ごと熱くしなくても良いんじゃないかと思うように成る。


端だけ、糊付けするように。


速度は変わらないが難易度は上がる。 それをまた繰り返す。


寝ているプチデーモンは居なくなった。 ただ飛び回って家の片づけをしている。




夢中に成ってしまった。 北門がすぐ近くだ。


大通りと壁の周辺を回っている道の交差点が見える。


主の存在を感じる近くまで来ているのだろう。 東は主がやるのだろうか。



「メラン! 来てくれたんだ!」


急に足に何かが飛びついた。 茶色の髪の男の子。 あの昨日メルサの店に居た坊主だ。


鉄板が浮いたままだか、この頃には一瞬穴を見ただけで作業が出来るようになっていた。


「坊主、元気してたかね?」


「お家直してくれたんだね、ありがとう!」


足に抱き着いてそのまま顔を上げて見てくる男の子。


道の脇にある店の中から、デーモンがお辞儀をしていた。


両方とも茶色の髪、茶色の目のデーモン。


彼の両親だ。


「坊主もうちょっとで終わるから一緒に行くかね。」


「いいの? 行く!」


チャコと言う、この男の子を肩車して、そのまま作業を続ける。


「高い! 飛んでる! くっついた!」


ずっとそんな事を上で言っているチャコ。 楽しんでもらえたようで良かった。


「セリカ様、北西はもう終わりに御座います。 全て終わりました。」


チャコがやって来る。


後ろでオーガとプチデーモンがハイタッチをしている。


「そうかね、後は何かあるのかね?」


「いいえ、後は個人の片づけですので。 本当に一日でやってしまうとは。

ありがとうございました。 お礼に御座います。」


革袋、金貨の入ったそれを出してくるミドラ。


「金は要らないねぇ。 皆に配ってやるのさ。」


「よろしいので? 私達、返す物がございません。」


「商人ギルドなんだね? 素材でも買い取ってくれればいいのさ。」


「素材ですか……」


ミドラは引き下がって、袋の中を見ながら西門の方へ歩いて行った。



「セリカ! お家来てよ。」


「いいのかね? どこだったかねぇ。」


「こっちだよ!」


私の頭の上で指を差して指示してくれる彼。


その指示に従って、さっきみた店に入る。


「セリカさん! チャコをありがとうございます。」


「いいのさ、楽しかったしさ。」


チャコを地面に降ろして、その店に入る。


前から射抜かれたこの店は、やはり真ん中には何も無く成っていた。


だが両端には商品が残っている。 アクセサリー屋。 そんな感じだ。


「私達此処で宝石店をしていまして、北の山ではたまに宝石が出るんですよ。」


「宝石かねぇ。」


残っている商品を見る。


ガラスに入っている物、むき出しで置かれているネックレスやピアス。


宝石だけも売っている。


ふと、白い石が目に入る。 真っ白な石。 魔力も何も感じない。


指先の大きさも無いその石は裸で置いてあった。


「それは白魔石だよ。 セリカ。」


宝石屋の子供だ良く知っている。


「それはそちらかと言うと鉱石なので、安い物です。

こんなのはどうでしょうか。」


赤く輝く丸い石。 確かに綺麗ではあるが、やはりこの白い石が気になった。


魔力まで何も無い石、魔力で見ると見えないこの石に興味が沸いた。


「そちらがお気に召しますか? 差し上げます。」


「くれるのかい? 商品じゃないのかね?」


「昨日のお礼です。 受け取ってください。」


安いと言っていたし良いか。 少し欲しいし。


「ありがとうなのさ。 今度はちゃんと買い物に来るのさ。」


「はい、お待ちしておりますね。」


「セリカ! バイバイ!」


「元気でするのさ。」


ジャケットのポケットにその白魔石を入れて、店を出る。


一つ思い出の物が増えたんだ。




街は、以前のように商売を始めていた。


お店は営業を始め、魔人が出入りしている。


変わった事は、プチデーモンが店番をしていたりする事だ。


急に変わりすぎて少し不思議に思ったが、良い事だ気にしない。


歩いてコテツの店に向かう。


途中店から出てきて寄って行ってくれというデーモンが数人。


昨日メルサの店に居た奴らだろうか。 また今度と言ってコテツの店を目指す。


コテツ倒れてるかもしれないもんな。 大丈夫なんだろうか。


次第に不安になる。


最後まで起きなかったコテツ。 急に心配が支配して結局飛んでしまった。



暗い裏路地、そういえば初めて一人で来た。


なんとなく覚えてしまっている街の場所。 その一つコテツの店。


相変わらず人気のない路地を歩いて、店に入る。


コテツがカウンターでうつ伏せに成っていた。



体でも悪いのかと一瞬不安に成ったが、イビキ声に寝ているんだと気が付く。


存在もちゃんとしている。 魔力も相変わらず極小だが安定している。


驚かせてやろう。


ちょっとした、いたずら心で寝ているコテツの前に立って声を掛ける。


「昨日忙しかったんだよ、何しに来たんだ?」


なんだ、驚かないじゃないか。 本当に疲れてるかコテツは。


剣見てくれるって言ったじゃないか。 忘れちまってるのかね。


「見るけど、別物に成っちまってるぜそれ。 どうしたいんだよ。」


ルルに対抗できるように速く振りたい。 ただそれだけ。


魔力を込める量を増やせばなんとか成る、そう思った。


「模様? それに傷なんて入るのかよ。」


コテツなら出来るさ、やってみてくれ!


背中から大剣を出して、カウンターに置く。


布を魔力で剣に吸わせた。 今日の作業で身に着けた一つだ。



「ちょっと待ってろ。」


嫌な顔一つせずに奥に入っていくコテツ。


やってくれるのかね!


「少し試しに入れてみるが良いか?」


良いよ! コテツならできるさ!


ワクワクする。 大剣を改造、実はそんなに期待していなかった。


断られると思ったんだ。 でもコテツはやってくれそうだ。



いつもと違う顔に成るコテツ。 真剣な顔。 思わず息を呑んだ。


ミノとカナヅチどちらもボロボロ、使い古された道具。


それをごつい手で握っているコテツ。


"カン"


大剣が弾いた。 嫌がっている気がする。


「こいつ、ミノ溶かしちまうぞ。」


攻撃されたと思って、毒を吐いたのか。


コテツはそんな事しないぞ。


大剣に言い聞かせて、刃の部分だけ魔力を吸い取る。 お仕置きだ。

何か拗ねている気がする剣。 あんたの為でもあるんだよ?


さぁコテツ剣にも言ったぞ、やってみてくれ!


「お前そんな事も出来るんだな。」


布の事かい? 今日練習したからね!



また真剣な顔で向き合うコテツ。


私達と違う、ただの力だけの一撃。


何回かやる。 ミノの刃が欠けてしまう。


「セリカ、こいつはもう俺の手じゃ無理だ。」


コテツでもダメなのか。 少し残念だ。


一回できると思ってしまった。 余計に悲しい。


でも彼が無理だと言っているんだ。 出来る奴なんて居ないだろう。


大剣もこれ以上魔力を抜くと、こいつじゃ無く成ってしまう。



「セリカ、その内時間あるか? 北の山まで行けないか?」


北の山? そこに行けば出来るのか!?


「昨日見つけた鉱石があってな、もしかしたら行けるかもしれん。」


行く、今すぐ行く。


あ、でもコテツ疲れてるんじゃないのかね。 まぁ寝てたし大丈夫か。


決めたらすぐだ。


座っているコテツを掴んで、そのまま背負う。


ごつごつした体が感じられる。 魔力の無いコテツ努力の結晶だ。


なんか抵抗しているが、嫌なのかね?


なに赤く成ってるんだコテツ。



昨日泡を吹いていたのを思い出す。


ちゃんと声を掛ける。 心の準備ができていれば大丈夫だろう。


そのまま北の山に飛んだ。


なんだかんだ、付き合ってくれるコテツは優しいな。

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