魔界編 ススカ 57 ~セリカ編 8~
目が覚める。
昨日と変わらず気配は多い。
小さな存在が無数に近くに居る。
ルルも主も起きていない。
相変わらず主は、魔力を浮かせては消している。
前より早く成ったその魔力の踊る姿。
主は不思議だ。
起こすと悪いと思って、大剣を持って、先に部屋を出た。
「おはよ! セリカ!」
廊下に出た途端、声を掛けられる。
昨日居た子供の一人だろうか。
私の名前覚えてくれたんだな。 なんだが嬉しくなる。
何人かに声を掛けられながら、下の階に向かう。
相変わらず混雑する店内。 出ていく魔人も見られる。
私は昨日結局酒しか飲めなかった。 何か食べたい。
端の開いている床に適当に座る。 大剣は見える所に立て掛ける。
「セリカ起きたかニャ。 朝どうするニャ?」
「お願いするねぇ、余裕があるなら多めが良いのさ。」
「分かったニャ!」
ムーが声を掛けてくれて、朝飯の仕度をしてくれるようだ。
周りの魔人はパンと昨日と違う少し透明のスープを食べている。
私もあれが食べたい!
周りを見ながら待っていると、あの坊主が店を出ていくのが見えた。
こっちを見て手を振っている。 相変わらず、わざわざ腰を曲げて挨拶してくる両親。
「どこか行くのかね?」
「私達は西門の向こうですので、早く出ようと思いまして。」
コテツの店の近所の魔人だったのか。
「私もその内顔出すさね。」
コテツにこの剣に細工をしてもらうんだ。 その時寄ろうと思ってそう声を掛けた。
「お待たせニャ、セリカ。」
「ありがとなのさ、ムー」
ムーがパンを3本と、スープを持ってきてくれる。
お代わりもあると言うムー。
久しぶりの食事だ。 周りの魔人がやっているようにスープにパンを付ける。
少し湿ったパン。 そこにスプーンで具をすり潰して塗る。
スグに潰れる野菜や肉は柔らかい。
それをそのまま口に入れる。 パンを食べたのは2回目だがこんなに旨いのか。
スープがパンに染みて、パンの味と絡まって旨い。
何度もそれを繰り返す。 夢中に成ってしまった。
「セリカ、おはようございます。 何食べてるんですか?」
ルルに声を掛けられる。
横の床に座るルル。 私のパンは後1本しか無かった。
「ムーに朝食持ってきてもらったのさ。 ルルも食べるかねぇ?」
「美味しそうですね! 私も食べます!」
その声に気付いたのか、ムーがやって来る。
既に持って居るパンとスープ。 ムーは出来る奴だ。
私のおかわりはまだかね?
ルルも食べ始める。 スープを飲んで一口一口感動しているルル。
魔人達の食べ方をルルに教えてあげる。
感動している時間の長くなるルル。 ルルは純粋だ。
「ルルおねぇちゃん!」
食事をしているルルの後ろから抱き着く黄髪の女の子。
昨日最初に声を掛けて来た子だ。
「ラーナ! すいません。朝から…」
「ラーナちゃんおはよう。ご飯食べる? 良いんですよ。」
母親が謝っている。
それをルルは笑顔で答えていた。
私達の前に座る3人。 ラーナと、母親と父親。
別のヘルキャットがスープとパンを持ってきた。
「熱いから、冷まして食うのニ゛ャ。」
ムー以外にも居たんだと、改めて周りを見渡す。
気にしていなかったが他にも居る。 昨日は入ってきたヘルキャットの一部だろう。
「大きい人は、誰なんです?」
「セリカっていうんだ。 よろしくなのさラーナ。」
「セリカ大きいです!」
小さなパンでちぎって食べているラーナ。 その世話を横で母親がしている。
父親と、ルルと私でその光景を見守っていた。
私もチョコチョコ食べて無くなってしまった朝食。 まだいけるが、皆の分が先だ。
元気なラーナを中心に話をしながら朝飯を食べる。
一息ついた所で、両親が出ていくという。
近所に店があったという両親。 そこの片づけに向かうそうだ。
「ラーナはおねぇちゃん達と一緒にいるです!」
「ラーナ! 迷惑かけちゃダメでしょ?」
「迷惑じゃないですけど、お母さんと行かないの? ラーナちゃん?」
「おねぇちゃん達と居るのです!」
駄々をこね始めるラーナ。 よっぽど好かれてるんだなルル。
そこから押し問答が続くも、ラーナが押し勝つ。
「迷惑かけちゃダメよ。 すいませんがよろしくお願いします。」
「はい。 ラーナちゃん良い子にしてるもんね。」
「はいです!」
ルルが面倒を見る様だ。
両親が去って、広く成った空間、ラーナが近づいて来る。
「セリカおねぇちゃんは、どうしてそんなに大きく成れたの?」
「大きくかい? 一杯食べる事さね。」
「セリカは食べすぎですけどね。」
「ラーナも早く大きく成りたいです! お代わりください!」
私達の後ろに居たヘルキャットに声を掛けるラーナ。
良くやったぞラーナ。
そこから追加のパンとスープが来て3人で食べる。
「セリカは今日はどうするんですか?」
「私は何も考えてないねぇ。 ルルはどうするのかね。」
「私は、ラーナちゃんとこの周辺を手伝おうと思ってます。」
「そうかい、じゃぁ私は北西かねぇ。 さっき後で行くって言ったしねぇ。」
「そうなんですね。 メランさんに聞いて良かったらそうしましょう。」
「そうだねぇ、主遅いね。 大丈夫かね。」
「ルルお姉ちゃんと一緒に行けるのです?」
「そうだね、一応メランさんに聞いてからね。」
「わかったです!」
主は毎回ゆっくりだ。 でも起きてる時間は主が一番長いと思う。
それに寝てる間も魔力で何かしているんだ。 しっかり休めてるのかね主。
その主が降りて来た。
気になると存在を探してしまう。 大きな主の存在はすぐわかる。
周りと挨拶をしながら此方に向かってくる主。
今日も元気そうだ。
「おはようなのさ、主」
「おはようございます、メランさん。」
「おはようございます。 メランお姉ちゃん。」
ラーナが私にパンをくれる。
私は良いんだ、ラーナが食べなきゃ大きく成れないぞ?
そんなにこやかな会話をしていると、主が私とルルの間に座った。
「おはよう、皆、楽しそうね。」
主もなんだか楽しそうだ。
私はパンをちぎってラーナにあげる。 大きく成るのさ。
主がルルにラーナの事を聞いていた。
ラーナの店は近くに飛んでしまったようだ。
店の中に居なかった、ラーナは一人で近くを彷徨い、ルルの近くで勇者と対峙している所を見たそうだ。
それでルルに駆け寄って行ったのか。
ラーナがメランにルルは強いんだと説明している。 ルルの真似をして素振りしている姿が可愛い。
「私より、メランさんとセリカの方がずっと強いんですけどね。」
ルルがそんな事を言う物だから、私がラーナに質問攻めにされる。
ルルの方が速いですよ? ラーナさん。
ムーもやってきて一緒に成って朝食を取る。
ムーも楽しそうだ。 この街を大事にしよう。
「よく眠れたかしら? 久しぶりの大忙しで顔出せなくてごめんねぇ。」
メルサがやってきた。 いつもより元気が無いぞ。 忙しいんだろう、メルサの飯は旨いからなぁ。
主が街を廻るとメルサに伝えている。
あれを言わなくては。
「主、私はコテツの店の方に行くのさ、そこで店やら家を直してくるねぇ」
「メランさん、私はこの周辺をやりますね。 ラーナちゃんをお母さんに届けないといけませんし。」
「じゃぁ、私は高炉方を見てくるわ。 その先の北東の街も手伝ってくる。」
主の許可も貰った。 ムーに見送ってもらい私は北西へ行くのだ。
様変わりしてしまったメルサの店の前。
馬車が多く止まっているが、その周りの家が無い。
昨日あった魔人達の家を早く治してあげなければ。
そう思って昨日戦った場所に飛んだ。




