魔界編 ススカ 55 ~セリカ編 6~
また時が遡ります。
主とルルと私で未開の森で一緒に練習をした後、ススカに戻った。
戻ったススカは勇者の襲撃を受けていた。
死にかけのコテツと守備隊長とギルドマスター。
その風景に、私のススカへの認識が少し変わった。
蛇の時は、未開の森以外は村しか知らなかった私。 多くの魔人昔はただのエサだった。
主と関わり私は変わる。
魔人と街に対して、少し興味が沸いてきたんだ。
その私の魔人と街を襲った勇者。
そのうちの一人と戦う。 私にとっては小さな存在。
そんな存在だが街の魔人はもっと小さい存在。
未開の森の頃を思い出す。
クマやイノシシは小さな蛇の私にとって恐怖でしか無かった。
そんな奴が意識を持って襲ってくる。
昔ならただの出来事だった。
今は違う、私の中で大きな出来事に成った。
忘れられない怒りがこみ上げる感覚。 あれは魔人や街に対する何だったんだろうか。
勇者は駆除した。 主に言わなくては。
でも少し私は先に周囲の魔人が気になったんだ。
大剣の布を巻きなおす。 実際こいつを使うまでも無かったかもしれない。
でも作った男の前で見せたかった。 半分はその気持ち。
この作業も他の2人の武器に比べて少しめんどくさい。 でも嫌いでは無かった。
布を巻いていると守備隊長が声を掛けてくる。
「セリカだっけか、ありがとうよ。 街を守ってくれて。」
「いいのさ、私も少し腹が立ったのさ。」
「腹が立ったか、そうか、遅れたがダンだ。 この街で守備隊長をやっている。
お前には倒れてるとこしか見られてないがな!」
笑いながら言ってくるこの男。 家の壁に埋もれて死にかけていた。
「ダンも、頑張ったんだねぇ。」
「仕事だからな。 後処理があるので失礼する!」
右手に拳を作り、左手に胸を当てて敬礼してくるダン。
その後、手を振って行ってしまった。
入れ替わりで入ってくる牛の骨の頭をした骨の女。
私が冒険者ギルドで魂を掛けた女だ。
「龍様、この度はなんと申し上げたら良いか。」
「良いのさ、あんたがシールド張ったから、これですんだのさ。」
「私は1発であの様でしたが。」
体の骨までヒビが行っていた彼女。 存在が揺らいでいた。
彼女も必死で街を守ったんだろう。
「それでもさ、あんたは守ったんだ。 それでいいじゃないのさ。」
「ありがとうございます。龍様に言っていただけて光栄です。 私も後処理がありますので勝手ながら失礼させて頂きます。」
彼女は飛んで行った。 魔法が使えるのだ。
布をやっと巻き終えた、背中に背負う。
やはりこの大剣は良い。 ルルとの勝負もう一度したい。
遠くから見ていたのだろうか、色んな魔人に声を掛けられる。
"ありがとう。"と、悪くは無い気持ちだった。
ちょっと残っていた怒りが小さく成った。
まだ道路で倒れている男。
この大剣を作った男。
存在は揺るいでないが、魔力が本当に小さい。
人間だと言っていたコテツは、この街を捨てずに勇者と何か取引をして、どうにかしようとしていたのだろう。
その結果があれだった。
血を流しながら飛んでいたコテツ。
私の魔力でなんとか、血は止めた。 その後、口答えもしていた。
でも、それから動かない。 私の魔力ではやはりどうにもならなかったのか。心配した。
コテツに手を差し出すと、返してくる。
そのまま引き上げてやる。
少し足元がふらついている。 本当に何をされたんだろうか。
少し怒りがぶり返してくる。
勇者、奴が次に私の物に何かしたら、私も主のように暴走してしまうかもしれない。
本当に大丈夫なんだろうか、声を掛ける。
「あぁ、良い物見せてもらったぜ。 ありがとうなセリカ。 街守ってくれてよ。」
良いんだ、あんたが一番戦闘とかに関係ないのに一番ボロボロだったんだ。
勇者の話もしていた、一番あんたが知っているだろうに。
「セリカ、龍様って言われてたけど、何なんだ?」
コテツに私が龍だと告げる。
「龍? セリカがか?」
冒険者ギルドマスターの様な反応になると思っていた。 少し違う反応。
「そうなのさ、見てみるかい?」
「いや良い、遠慮しとく。」
笑いながら言ってやると遠慮されてしまった。 少し寂しいかもしれないぞ。
コテツにこれからどうするのかと聞かれる。
主の所に行くと答えると、高炉に用事があるようだ。
高炉を作るのに人間界の知識があると。
コテツも役に立つ事があるんだねぇ。
綺麗な街並みと、壊れた街並み、その境ぐらいがコテツの店だった。
相変わらず暗い路地裏の店。
そこで、コテツが魔法の粉とか言うのを持ってきた。
人間は粉にして魔法を使うのか。
主が居る高炉へ向かう。
あの黒い魔力の塊が何度も存在を消していた場所。
主が食い止めたのか、高炉から西寄りは綺麗な街並み。
そこに西に逃げていた人が逆流して東に流れていた。
そんな風景を見ながら飛ぶ。
コテツはビビっているのか、喋らなかった。 かなり丁寧にとんでるんだけどねぇ。
他と違う鉄の大地、高炉のすぐそばに、主が見えた。
存在は解っていたが、主は大きすぎる。
炉のすぐそばに居たので、中心がどこにあるのか分かった時には真下に居た。
少しコテツに気を使いすぎていたのかもしれない。
「主~~!」
嬉しく成って叫んでしまった。 短時間だが主に会えなかった。
少し残っている怒りを鎮める為にも、主と話したかった。
そして、解らないこの気持ちもなんとかしたい。
主は、街並みを壊さなかったようだ。 暴走はしなかった、そう思った。
「セリカ、どうだったの勇者は。」
勇者自体は何でも無かった。 でも街が魔人が傷ついた。
わざわざそこまで言う必要は無いと思った。
それより主あの黒いのはなんだったのさ?
この鉄の大地と関係あるのかい?
「黒い玉? あれね、閉じ込めてちょっとわからせてあげたの。」
ちょっとなのか、あの回数は… 主は相変わらず滅茶苦茶である。
「それよりコテツ泡吹いちゃってるけど。」
今まで主しか見ていなかった。 忘れていた。
私の背中を見ると、コテツが固まって泡を吹いていた。
この男は、そんなんで勇者によく立つ向かった物だ。
少し愛おしくなって、鉄が無い地面に寝かせた。
「りゅ、龍様?」
緑の髪の横にデカい男が話しかけてくる。
冒険者ギルドで頭下げてたやつか。
その龍様っての止めないかねぇ。 周りの奴が龍様龍様って言いまわって、広がってくよ。
「いや、そんな急には変えれないって。」
こいつ口答えするのか、ちょっと睨んでしまった。 すまない、私はまだ興奮しているんだ。
横から小さい男が声を掛けてくる。
コテツの様な肌の色、白い髪、白い髭は立派に生えている。
30cmぐらいしか無いこの男こういう種族だろうか?
ムジと名乗った男。
短い手を此方に差し出している。 少し脚を折って握手をする。
こいつは、龍だと言っているが、何も物応じしない。
良い奴なのかもしれない。 でも止めてほしいなぁ。
ダンが横から何か言ってくる。
なんだねまだ文句あるのかね。 そういやあの張り紙の件マスターに言うの忘れたね。
もうどうでも良いか。
北の山、主の方が派手にやっている。 主は相変わらずだ。
私の方が大きいって? いや、私のは狙ってやったんだ。 主のは掠っただけであれだろ?
話していると、ルルが着た。 胴着に入ったムーもいる。
無事だったんだ。 少し嬉しかった。
ルルの胴着が少し赤く血に染まっている。
ルルが返り血を浴びた? どんな相手だったんだ。
「メランさん~~~!」
ルルとムーが手を振っている。 なんだか心が癒される。
そんな風景。 これも最近覚えた感覚だ。
飛んでこっちに来るルル。
「最後になっちゃいました。」
ムーの頭を撫を撫でている。 いいなぁ私もやりたいなぁ。
こっちはごつい男と骨しか居なかったぞ。
「ルルちゃん、そっちの勇者はどうだった?」
そうだ、ルルが血を浴びるほどだ、よっぽど変な事してくる奴だったのか?
「あれ勇者だったんですか、なんか弱かったですねぇ。」
「ルルさんは凄いのニャ、凄い速さで片付けたのにゃ。」
なんだ弱かったのか、近くで見るとムーが血で汚れているでは無いか。
これはムーの血なのか? 許せん勇者。
主がムーを撫でている。 私もやりたいぞ! 主!
「ムーちゃんを虐めてたので、少し懲らしめてやりました。」
やっぱりムーは勇者と会ったのか。 私だったらそんな風景を見たら、街ごと吹き飛ばしてしまうかもしれない。
主がムーから手を離した。 チャンスだ。
このモフモフとムーがゴロゴロ言うのがたまらない。
こんな奴を虐めるなんて…… でも今はこの感触が気持ちいい。
ムーは可愛いのだ。
ムジとルルが話している。
すこし長話してくれてもいいんだぞ。
ルルが動いてしまった。 私とムーの時間が!
「もう、ムーの悪口いう奴なんて、いないと思うよ。 ね?ダン」
「あぁ、色々考え方改めないとな。」
ムーの悪口? 白がどうとか言ってたな。
「ニャ! ムジ、よろしくなのニャ!」
ムーが今までに見たことないぐらい嬉しそうな声で、ムジの手を握って挨拶している。
やっぱりムジは良い奴だったんだな。
その後ダンとも、握手をしたムー。
ダンも良い奴じゃないか。 許してやろう。
周囲に居た奴も集まってきて、ムーに挨拶をしている。
皆、良い奴じゃないか。 ムーが喜ぶのは良い事だ。
「なんだ、この前はすまなかったな。 一回死んで考えが変わったよ。」
この前? よくわからないが、 一回死んだって何だ。
主何かやったのかね。
「魂だけ浮んでたからね、そのまま肉体と魔力適当に補ってあげたのよ」
相変わらず主は何でもできる。 自慢の主だ。
「ねぇ、ムジこの鉄は要らないの?」
私も気になる。 結構足を動かす度にうるさい。
「皆さん上からどいてもらえますか?」
ルルが急に皆にどいてくれと言う。
処分するのか、色々くっ付いてるけどできるのかい? 私がやると全部一緒にとけちまうね。
「セリカも手伝ってください。」
ムーと他の魔人とのやり取りを見ていたら、何故か気分が良いんだ。 そら手伝うさ。
ルルから、鉄板を持ち上げてほしいと言われる。 ルルは切って溶かすんだそうだ。
出来ると思うけど、その炉の外壁も一緒にやればいいんじゃないのかい?
ムジからは許可は取った。 持ち上げるだけだ。
鉄の瓦礫の山が見える。 そこで鉄の地面は止まっていた。
こうやって止めるのかと思いながら裏側へ回る。
街の魔人が皆退避して、遠巻きに私を見ている。
失敗できないと思い少し目の前の鉄の山をつまんでみる。
土のようにボロボロ崩れる鉄。 昔はさわさわ毒で溶かして入っていたのに。
龍となった体は強靭だ。
その鉄の山の下に両腕を突っ込む。
下から掬い上げるように立ち上がる。 難なく上がった。
地面が少し窪んでいるがそれだけた。 私は下に潜り込んでもっと上げる。
大きすぎる鉄板、向こうの方が全然上がっていない。
仕方ないか。 上に跳んだ。 呑み込まれた街全体が上がった。
重さを感じない。 下からは歓声が上がっている。
黒い髪がその上で高速に移動する。 ルルが刀で呑み込まれた家を切り取っている。
ルルはより早く成っている気がした。 すぐに終わったその作業。
ルルは鉄の地面では無かった所に降りて、手をかざした。
順番に溶けていく鉄がルルの頭上に集まっている。
「なにしてるんだ、あれ!」
下の群衆に混じったダンが叫んでいる。
掃除だと答えて上げると、その後何も言わなく成ってしまった。
私の目の前も熱くなる。 でも感じない。 空気を焼く鉄は陽炎を見せ始める。
そして全て終わった。 すぐだった。
主がルルに近づく。
「メランさん!?」
ルルが驚いたような声を出すと、主がその鉄の溶けたのを片手で奪っていた。
主だからなぁ。
「あの山セリカがやったのよね。」
主が私に聞いて来る。 あの山そうさ私がやったのさ主。
鉄の塊が街の上を飛行して、私がえぐった山にたどり着くと、冷えて固まった。
何か一瞬すごい魔力を感じたが、まぁ主だ。
主がムーを撫でている。 私もまたやりたいぞ! 主!




