魔界編 ススカ 54 ~コテツ編 11~
メランの太刀を一度溶かして魔鉱石の合金で作り直した俺。
その出来栄は、生涯一だった。
納得してくれたメラン。 そして隅からその様子を見ていたムジとその作業場に居る。
「コテツ、教えてくれよ。 俺もやってみたいぞ!」
子供のようにはしゃぐムジ。
「ムジは、合金?とかいうので忙しいでしょ。 それが出来てからね。」
「ねぇちゃん、そんな、ひどいのじゃ!」
駄々をこねだすムジ。 完全に子供だ。
背中を地面に着けて手足をバタバタさせている。
「メラン、その事で相談があるんだが。」
「何、コテツ。 出来る事ならするわよ。」
「俺の人間界に飛ばしてもらえないか。 合金もなんだが、柄や鍔の作り方を一度きちんと勉強したいんだ。」
「コテツを人間界に?」
「そうじゃ! それが解れば、わしも魔鉱石で色々作れるぞ!」
悩む仕草のメラン。
ただ作りたいだけのムジ。
「条件を付けても良い?」
「なんだ。 聞かせてくれ。」
「ムーと一緒に行ってほしいの。 コテツ一人じゃ正直不安だわ。 私は行けないし」
「ムー? メルサの所のか?」
「そうよ、ムーはかなり強い魔物よ。 人間界で不自由する事は無いわ。」
そうなのか知らなかった。 配膳と飯を食っている所しか知らない。
「ちゃんとムーの了承を得てね。」
「わかった。」
「あともう一つ、コテツの人間界で作った物ある? それがあれば、それに所以があるところに飛ばせるわ。」
「沢山あるぞ。」
人間界から持ってきた刀。 それを見せる。 道具棚に置いてあった無銘の刀と村雨。
勇者になまくら刀と言われた村雨だ。
「2個もあるんだ、どっちかコテツの持ちたい刀はある?」
「俺のか? どうするんだ。」
「もしもの為の守り刀よ、私の魔力を入れておけばそこに行けるから。」
メランは、自分の魔力がある所に飛べるらしい。
どんどん現実離れしていくな彼女。 飛べる時点でおかしいが。
迷わず村雨を出す。
「これでお願いしたい。」
受け取った村雨が一瞬で黒に染まる。
「ちゃんと持っててね。 なんか変な気あったから出しといたわよ。」
「メラン、ありがとうな。」
変な気? 気にしないでおこう。
「ムーは良いニャ。 コテツの世界見たいニャ。」
メランを迎えに来ていたムーは、快く承諾してくれた。
ムジは炉に帰ると寂しそうに自分の馬車に乗り込み、俺とムーはメランに掴まれて、メルサの宿に飛んだ。
もう赤の月がてっぺんを超えていた。
相変わらず騒がしい店内。いつもの様に席に着く。
ベルカウルのステーキを持ってくる別の色のヘルキャット。
ムーも席について食べる準備をしている。
「ムーはメルサに言わなくて良いのか?」
「後で言うニャ。 でもお店は最近手伝ってないニャ。」
「そうなのか? どうするつもりだったんだムーは。」
「ムーはね、魔界を旅する予定だったのよ。 それで調度良いと思って。」
「魔界を旅? そんなにムーは戦闘できたのか?」
「サイクロプスは一撃だったニャ!」
サイクロプスが一撃? そんな猫だったのかこいつ。
嬉しそうに言うムーはステーキを食べ始める。
「私が人間界から帰ってきたって言ってたじゃない? その時の魂を全部ムーにあげたの。」
「魂をあげる? そんな事出来るのか。」
「えぇ、人間はどうやってるの?」
「武器を媒介するんだ。 聖剣とかは解りやすいな。」
「あの剣ね。 人間て大変なのね。」
遠い目で言うメラン。 一度勇者と戦ってるんだよな彼女。
「まぁ色々違うな。 人間界から帰るってダンジョンでも行ってきたのか?」
「違うわ、全部滅ぼしてきたの。 腹立ったし。」
「滅ぼした? 人間界滅ぼしたのか?」
「メラン凄かったのニャ。 地面全部切って人間界全部火の海に成ってたのニャ。」
「俺の帰る場所、ねぇじゃねぇか。」
正直滅びたら滅びたで良かった。 いい思い出は無い。
「コテツの人間界じゃないわよ。 多分。」
「人間界って何個もあるのか!?」
「星の数ほどあるわよ。 魔界に星無いけどね。」
ステーキを食べながら言うメラン。
少し笑っている。 そういや星無いな。
俺の生まれた世界は残ってるのか。 多分て言わなかったか?
「そうだな星無いな、魔界は。」
笑って返しておく、色々聞いても参考に成らなさそうだ。
ステーキを食べる。 旨い。
「私、今日コテツ見てて思ったんだけど、魔力が無いわけじゃないと思うの。」
「俺は生まれつき魔力無いぞ。 人間界でもそう言われた。」
神社に行って、ステータスを見たことがある。
少年時代の記憶はそれと親父の後ろ姿しかない。
確か魔力は0だった。
「でも、今日打ってるとき出てた気がするわ。」
「気のせいじゃないか?」
「うぅん、あんまり間違えないんだけどね。」
無いもんは無いんだ、メランには悪いが間違いだと思う。
旨いなこの肉。
「コテツは帰って何するんだっけ。」
「とりあえず合金だ。 俺の世界にも炉はあった。 そこで情報収集する。」
「ムジの宿題の奴ね、後、鍔と柄だっけ。」
ムジは宿題にされてるのか、すまんなムジ。
「そうだな、今あるのは、ほとんど人間界から持ってきた奴ばかりだ。 出来れば学んで帰りたい。
そう思っている。」
「わかったわ、じゃぁ明日で良い?」
「おう、ムーが良いタイミングで良いぜ。」
「じゃぁ、そうしましょう。」
やっぱ旨いなこの肉。
3人で食べ終わって歓談を続ける。
ムーの戦闘の話や俺の過去の話色々だ。 時間が早く過ぎていく。
「ねぇちゃん、美人じゃないか。 人間界がなんだって?」
「俺達もつれてってくれよ。」
リザードマンの酔っ払い、この店で見ない奴らだ。
リザードマン、サタン領の難民か?
メランに絡むとかすごいなこいつ等。 まぁ美人なのは美人だ。
「興味ないの。 ほっといてくれない?」
周囲が騒ぎ出す。
「やめとけ、死ぬぞ!」「お前、何に手だしてるか解ってるのか?」
見かけた顔が何個かある。 正しい忠告だ。
「釣れないなぁ。 いいじゃねぇか。」
一人がメランの髪に触れようとした。
浮いて店の外にすごい勢いで飛んでいくリザードマン。
扉が壊れそうな勢いでバタバタしている。
「あなたも、ああ成りたいの?」
肘をついて、そこに顔を乗せるメラン。
冷たい笑顔で残ったリザードマンを見る。
怖い。
ガタガタ震えるリザードマンは喋らない。
「喋れなくなっちゃったの? 農園で彼等と働いてもらおうかしら。」
農園? 彼等? 何の事だろうか。
その言葉にリザードマンは尻尾を巻いて逃げ出した。
徐々に元に戻る店内。
ため息を付いて、メランが言う。
「最近人が増えたのか多いのよ。 殺してないから安心してね。」
「魔王様も苦労するんだな。」
脛を蹴られた。 しばらく声が出なかった。
ムーは助けてくれない。 水をひたすら舌で舐めている。
ムーの防御態勢はこれか。
「明日から出るし、そろそろお開きにしましょうか。 コテツは帰るわよね?」
「あぁ、すまない。 馬車で帰るぞ。」
「コテツ明日ニャ! 楽しみにしとくニャ!」
「ムーもよろしくな。」
「いいわよ、連れてくわよ、すぐだし。」
首根っこを掴まれて、そのままメランは飛んだ。
店の前に着く、何も変わらない店。
「メランすまない、湿気だけ取ってくれるか? 全部錆びちまう。」
「良いわよ?」
瞬間吹く風、全部水気が飛んでいく。
「このまま残しとくわよ。 帰ってきて全部錆びてるの嫌でしょ?」
「そんな事できるのか。 ありがたいぜ。」
「いいわよ、簡単だし。 明日また迎えに来るわね!」
メランは白い髪をたなびかせ、飛び去った。
誰もきていないであろう店内、入口の鉄の壁、カウンターの床になってしまっているそれ。
何年ぶりかに持ち上げて、入口の横に立て掛けておく。
店を見渡す、しばらくここともお別れだ。
炉も消しておかないとな。
作業場に入る。
座っているドワーフ。
「よぉ! 人間界行くんじゃろ? 教えてくれ。」
ムジがそこに座っていた。
道具の説明から始まり、炉の説明、魔鉱石の配合等を一通りを朝方まで説明する。
満足したようなムジ。
どうせ俺は開けるんだ。 炉を維持してくれている方が良い。
「それで魔鉱石はどうやって砕くんだ?」
「メランに頼むしかないな。」
最後の最後に固まってしまったムジ。 カナヅチで出来なくも無いが、途方もない時間が掛かる。
「コテツおはよう!」
「コテツ、おはようなのニャ!」
ムジは、口に指で罰を作り奥に隠れてしまう。 ばれると良くないのか。
「メラン、ムーおはよう。」
俺は店に出る。
白い胴着に、グレーの袴、グレーの帯。
俺の国の格好だ。
「ルルみたいな恰好なのね。」
「元々俺の国の格好だからな。」
「ムーも行ったら買うニャ!」
ムーのサイズはあるだろうか。 子供用ならあるか。
「準備は良い?」
「あぁ、その鉄の扉だけ閉めといてくれ、一応な。」
「分かったわ、その刀貸して。」
脇差に2本刺してあった刀。 無銘の方を渡す。
ムーがこちらに駆け寄って来る。
抱き上げて、待機する。
「私も、ルルちゃんかセリカが帰ってきたら行くから。 でも早く帰ってきてね。」
目の前が黒い魔法に包まれる。
黒い空間を漂って、光が目の前に現れた。 それを突き破るように抜ける。
石の煙突、朽ち果てた木の家。 朽ち果てた街
人間界に久しぶりに帰ってきた。




