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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 53 ~コテツ編 10~

言われた通りに、今日は作業をしない。


そう決めた、魔王命令だしな。


綺麗に成った体、でもやはり水浴びはしたい。 昔からの習慣だ。


炊事場から出る水で水浴びをする。 ぜいたくを言うなら風呂の入りたいが無い物は仕方ない。


どうも体つきが昔と違う気がする。


相変わらず服はきつい。



今着ていた服を洗いながら、物思いにふける。


次はどんな物を作ろうか。 セリカの大剣も魔鉱石の合金で作ってみたら良いんじゃないか。


彼女が帰ってきてからビックリさせてやろう。


そんな事を無意識に考えていた。



「コテツ、居るか? ムジだ。」


珍しい客が来た。 作業場を抜けて店に出る。


高炉長だと言っていたムジ。 彼がわざわざ俺の店まで来た。


「よくわかったな。 こんな場所。」


「ダンテに聞いたんじゃ。 お前、ちょっと時間良いか?」


話ぐらいは良いだろう。


作業場にムジを入れて、椅子を持ってきて話をする。


「コテツ! お前まさか、この石。」


「すまん、言う暇が無かった。 黒魔石取れたぜ。 刀も一本作った。」


「それはどこにあるんじゃ! 見せてくれ!」


「人間界に持って行ってるよ。 また作るけどな。」


「そうか、次作ったら見せてくれ。」


珍しく下を向いて言うムジ。 彼も彼女達が心配なんだろう。


「それで、それを聞きに来たのか?」


「いや違うんじゃ。 合金の事でな。」


依然炉で話した合金の話。


色々試すが、中々上手くいかないという。


俺もそんなに知識が無い。 正直協力できる事はあまりない。


「俺もそんなに知らなくてな、俺が言ったのにすまん。」


「そうか、人間界に聞けに行けたらいいのにな。」


「俺がいまさら戻っても殺されるだけだな。」


笑いながら言うと、俺の昔話を聞いてくれるムジ。


二人で長い事人間界での話した。


聖剣の話が一番長かった気がする。 生贄と代替に作られる聖剣。


まぁもう行くことは無いんだ。 おとぎ話のような話。



「これ置いていく、飲んで体調戻せよ。」


後ろに持って居た酒瓶を、置いて出ていくムジ。


誰に聞いたのか彼も俺の事を心配してくれていたのだ。


酒は良いんだよな?




久しぶりの酒、どぶろくの様な酒は旨かった。


一人酒は少し寂しかった。 それが酒を進ませたのかもしれない。


一升瓶全部飲んでしまって、気付いたら寝ていた。



起きて、水浴びをして、着替える。


そして外に出る。 白の時、きちんと昨日は休めたようだ。


道具が増えた、その確認をする。


カレンが作ってくれた新しい道具、それを整理して置きなおす。


人間界から持ってきた鍔や柄が少なく成っている事に少し頭を悩ませる。


もちろん魔界にも作ってるやつが居るんだが、どうも手に合わない。


人間界では鉄ばかり打っていた。


彫刻は出来るが、この鍔や柄を作ってもどうしてもしっくりこない。


"人間界に行って聞ければ" 昨日のムジの言葉が頭に残る。


作業場の整理をずっと続けて居た。


これが終わったら大剣を打とう。 そう思いながら。




「コテツちゃんと休んだ?」


「おぅ、休めたぜ。 この通りだ。」


メランが店にやってきた。


カウンターの在庫まで見ていた俺は立ち上がって力こぶを出してアピールしてやる。


「元気そうで良かったわ。」


「おかげ様です、魔王様。」


「コテツ止めてよ。」


わざとらしく大きく腰を曲げて挨拶すると、メランに肩を叩かれた。

地味に痛い。



「それで、体調身に来てくれたのか?」


「それもあるんだけど、太刀の相談をしに来たの。」


セリカとルルもやったんだ、メランも来ると思って居た。


昨日考えた案を言ってみる。


「模様も良いんだけどよ。 メランのはもう全体に入ってるから、一回溶かして魔鉱石入れてみるのはどうだ?」


少し、考える仕草をするメラン。 あまりそうは考えていなかったのだろう。


ルルが言っていた気がする、刀は成長する。


溶かすとそれが無くなるのかもしれない。


「それが良いわね。 一回作ってるところ見ても良い? 結構暇なのよ。」


「構わないぜ、長くなるかもしれないが良いか?」


「暇だもん、いいわよ。」


魔王様は暇らしい、別にみられるのは苦でも無い。


成長した魔力は良いんだろうか。


「最近、もう太刀が一杯いっぱいて感じがしててね。 コテツの言う魔鉱石?を入れれば変わるのかなって。」


「ルルは魔力が10倍?ぐらい入るって言ってたな。」


「そうなのね、それじゃぁお願いするわ。」


鎧を着ていないドレス姿のメラン。 腰から太刀を出して、カウンターに置く。


鞘を少しずらす。 黒い太刀、刃に白い線、背に赤い模様。


最初見た時より黒が濃い。 吸い込まれそうな黒。


ずっと見ているだけで意識を吸い込まれそうになる。


「すまねぇ、魔力を一回取ることは出来るか、溶かすんだ全部に成るが。」


「えぇ、抜くわね。」


メランが太刀の刀身を手の平で触ると、吸われるように消えていく黒。


最後に残った白と赤の模様も吸い取られていった。


銀色に成った太刀、だが少し黒く変色している。


他の二人には見られなかった現象、でもやってみるしかない。


「コテツ、これで良いの?」


「あぁ、一回溶かしてみるな。」



メランを作業場に案内する。


またふざけて魔王様と案内をすると、また肩を叩かれた。

痛いんだ、懲りろよ俺。


鉄の椅子を差し出して、入口の前で座るように促す。


そこに座るセリカ。 そのまま椅子ごと飛んで、金床の前まで寄ってくる。


「火花散るぞ?」


「いいのよ、地面が割れたって、熱くないわ。」


メランだもんな、そんな考えどこから出てくるんだ。


本人が気にしないというならそれで良い。


柄を外して、柄を外す。


刀身だけの太刀。 やはり根本も同じように変色している。


柄と鍔は再利用するので、道具棚に置いておく。


出来るだけ何も無い場所に。 彼女の使っている道具は他も浸食しそうな気がした。


鉄釈を左手に、右手に火バサミで太刀の刀身を挟んで持つ。


「それってカレンの魔力?」


「あぁ、そうだ見ただけでよくわかるな。」


「何となくよ。 ごめん邪魔して。」


「良いぜ、続けるな。」


気を取り直して、フイゴを足で押す。


元々青白い火が、青く変わった。


ルルが入れてくれた火は消えなかった、ずっと燃えているその火。


ほって置いても青白いままの火。


炉はそのままの形を維持し、熱気だけが煙突で抜けていく。



青く成った火に、太刀の刃から入れる。


少しずらして、鉄釈を構える。 溶けたそれを受け取れるように。


火にあぶられた太刀、そこから上は黒い炎に変わった。


これもセリカやルルと違う反応だ。


そしてすぐには溶けない太刀。 赤く赤く変色をしている。


やっと一滴、それを鉄釈で掬う。


ポタポタとしか落ちてこない太刀。 じっと見つめて釈に溜まるのを待つ。


結構経っているだろうに、メランはじっと工程を見つめている。


その姿に俺も身が引き締まる。


フイゴを最大限まで強めるが、その速度は変わらなかった。




やっと鉄釈に溜まった頃には太刀は半分以上溶けていた。


だがまだ剣先の無く成った形を保つ太刀。


鉄釈と共に水に入れる。


一瞬で部屋が水蒸気に包まれる、見る見る無くなる水。


思わず酌を置いて、炊事場の水を追加した。


「ねぇ、コテツ。 私が入れようか?」


「すまねぇ、助かる。」


彼女の水魔法で水を張ってもらうも中々冷めない刀身と溶けた太刀


部屋がサウナのようになって、店内まで水蒸気で満たした時、やっと冷えた。


黒く成った両者。 でもまだ熱いまま。


地面に置いて少し考える。


火を黒くするこの太刀、反応が魔鉱石と似ている。


割合をどうするべきか、溶かすのに必死であんまり考えていなかった。


「何考えてるの? コテツ。」


「割合をな、考えてた。 普通の鉄と反応が違うんだ。」


「そうなんだ、徐々に足して行けば良いんじゃない?」


溶けた状態だと解らない。 少し減らすか、そのまま行くか。


持ち主に好みを聞いてみる。


「メランは、魔力が込められやすい方が良いんだよな?」


「そうね、もう入らなくなる感じがあったからね。」


そのまま行こう。 そう決める。


「ちょっとそこの魔鉱石取ってくれないか?」


メランが横に置いてある山から黒い魔鉱石を渡してくれる。


四角く整えられた魔鉱石。


「少し砕いてもらって良いか。 俺じゃできなくてよ。」


「これぐらい?」


手でつまんだ欠片を見せてくれるメラン。


もう一個の鉄釈を取り出し入れてもらう。


「細かければ、細かいだけ溶けやすいな。」


「わかった!」


両手ですり潰し始めたメランは、魔鉱石の粉を鉄釈に積み上げていく。


「もう良いぜ、ありがとうな。」


笑顔で頷くメランは、黒く成った手を叩いていた。


分量を思い出す。 もう一つの鉄釈にサラサラに成ったその魔鉱石の残りを入れて、道具箱にしまっておく。


太刀の塊の入った鉄釈と、魔鉱石の粉の入った鉄釈を同時に炉に入れた。


溶けるのを少し待つ。


「結構溶かすだけで時間かかるのね。」


「いや、あの太刀が特殊だ。 普通はあんなに掛からねぇ。 今も溶けてないだろ?」


「そうなの。 あの子本体にも何かしたのかもね。」


太刀をあの子と呼んでいる。 またはそこに宿る魔力なのか。


俺には感覚がわからない。


しかし溶けない太刀、 魔鉱石の方がサラサラに成ってしまっている。


混ぜる。 勘がそう言っている。


メランはじっと炉を見つめている。 彼女の集中力は凄い物がある。


魔鉱石を入れた鉄酌を、そのまま太刀の溶けかけている釈に入れる。


少し混ざったようなその二つ。


また水に入れる。


同じような水蒸気。 部屋全てを満たす。 水は減らないメランが入れてくれている。


まだ赤い状態で、先ほど魔鉱石の粉が入っていた釈に移すと、ぼとりと落ちた。


手に感じる重み、それを火バサミで掴んで、金床に置く。 そして叩く。


平べったく成ったその合金、折り曲げてを繰り返す。


冷えにくいこいつ、何回やってもグニャグニャ曲がるが、そのうち冷えてきて曲がりにくくなる。


炉にそのまま入れて様子を見る。 再び赤く成っていく合金。


その過程を本能が良いというまで続けた。




何回叩いても感触が同じに成った所で、再び過熱して形を作っていく。


太刀の形、それを金槌で作っていく。


水に入れ冷やし、温めてを繰り返す。


腕が水蒸気でビシャビシャに成っている。 服も同じだ。


汗が止まらない。 こんなに熱いのは初めてかもしれない。


繰り返される作業、メランはそれをひたすらに見つめていた。





納得いく形に成った。 水で完全に冷やす。


完全に黒いその刀身。 他とは違うメランの太刀が出来た。


「コテツって、そんな顔して打つのね。 全然普段と雰囲気違うじゃない。」


「そうか? 意識は無いんだがな。」


冷やしてる間メランが話しかけてくる。 同じ事誰かに言われたな。


入口に誰か見えた。


ずんぐりむっくりな体に白い髪のドワーフ、ムジ。 店の入り口からずっと合金を見つめていた。


いつから見ていたか知らないが、声を掛けてこないんだ。


とりあえずそのままにしておく。


蒸発し続ける水蒸気、メランが居て良かった。




しばらくして冷えた刀身。 やすりで削りを入れる。


中々削れないその刀身。 丁寧に早く、必死でやった。




やっとの思いで出来た黒い刀身。


どこまでも黒いそれ、黒の奥に黒の波紋、黒い薄い波が見え隠れする。


不思議な雰囲気のそれ。


今までの人生で一番の作品だ。  


「コテツそれで出来たの? 綺麗ねそれ……」


「あぁ、刃は完成だ。 これに柄と鞘を付けて、最後にメランの魔力だな。」


真剣な顔で、刀身を見つめている


「銘を打って良いか? 太刀の名前だ。」


「コテツの国では、太刀に名前を入れるの?」


「あぁ、渾身の一振りに入れる。 有象無象とは違うって奴だ。 言いふらすもんでも無いがな。」


「そうなの、気に入ったわ。 お願い。」


出来た太刀、その手元の部分に細いミノで銘を刻む。


直感だ、"数珠丸虎鉄"。 この刀の銘。


「数珠丸だな。 意味は使って考えてくれ。」


神の様な事を簡単にやってしまうメラン。


俺の国の神事に使う数珠から取った名。 本人に神だとか言ってもなんなので、はっきり伝えなかった。


虎鉄は俺の銘だ。


「ありがとう。コテツ。 よろしく、数珠丸。」


刀身に向かって挨拶しているメラン。


こいつが既に答えている気がする。


柄と鍔を戻して、メランに渡す。


相変わらず真剣な眼差しで、刀身を座りながら見ているメラン。



俺は鞘を取りに店の方に向かう。


何故か店から作業場への仕切を跨ごうとしないムジ。


「ムジ、見るんなら近くで見たらどうだ。」


「バレてたか。」

ガハハハと笑うムジ。


メランはその声も聞こえていないのか、ずっと太刀を見ている。


店内も湿気で満たされている、それほどすごかったんだろう水蒸気。


後でメランに水はらいをお願いしよう。


柄を取って、作業場に戻る。


座ったメランより小さいムジは、背筋を伸ばしてその太刀を見つめている。


二人の真剣な眼差しに、黙って席に戻る。


「ねぇちゃん、これは良い刀だな。 吸い込まれそうだ。」


「私も、初めてこんな向き合える太刀に会ったかもしれない。」


「すまんな話してる最中に、鞘だ。」


メランに渡すと立ち上がり、鞘を腰に付ける。


そのまま自然に構えて、あの神事を始めた。


「ムジ、コテツも少し離れててね。」


赤い目を閉じるメラン。


白い髪が跳ね上がった。 高い天井にわざと作られた作業場。


その天井につかんとする勢いで跳ね上がる長い髪。


黒い魔力が彼女の周りに渦巻く。 俺にも見える。


びっくりしているムジ。 彼にも見える様だ。


その渦巻く魔力が全て太刀に入って行く。


ルルの時と同じ、手元からジワジワと。


色が濃い模様が現れる。


白の線は、より白く複雑な細い線を刃に現れる徐々に剣先に伸びるその線。


赤の模様は稲妻が横に走るように現れ消えてを繰り返す。


太刀の中が空の様だ。


元から黒かった刀身が、漆黒に染まっていく。


徐々に何回も走る稲妻が、同じ場所を走った所から赤が残るようになる。


神秘的正にその風景。


メランは足から浮き上がっていた。


その足元では、土が少し舞う。


ずっと続くその光景、言葉が出なかった。




剣先まで漆黒が包んだ太刀は、その黒い部分をやはり暴れるように膨張させている。


濃淡のある赤と綺麗な白い線がそれを抑えている様。


ルルの時には見られなかったその現象。


「おかえり。」


メランが言うと、その膨張は止まった。


急いで藁の束をカウンターから持ってくる。


「これに一回落としてくれないか?」


メランが頷く。 片手で持った太刀をふわりと重力に則って落とす、


ただの自由落下。


刃が藁の束に触れると、そのまま地面まですとんと落ちた太刀。 地面を若干切り裂いて止まった。


メランが腕に力を入れたのだ。


藁はねじってある、それを重力で切ったその太刀。


「ルルちゃんは10倍って言ってたの?」


「あぁ、確か10倍って言ってたな。」


「そんなもんじゃないわよ、この子。」


どうやら、新しく作るのと、潰して合わせるのでは効果が違うようだ。


不思議だった。



「ねぇちゃん、それ俺も持って良いか?」


時間が動き出したムジがせがんでいる。


しゃがんで渡すメラン。


ムジがその太刀を持った。


割れた藁に少しだけ触れるように落とすと、また地面を裂いてしまう。


「何の感覚も無いぞこれ。 凄いな! ねぇちゃん。」


太刀を返して手をバタバタさせているムジ。


「ありがとうコテツ、またこの子鍛えるわ。」


鞘に太刀を差して立つメランは、前より何か神秘的な雰囲気だった。

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