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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 51 ~コテツ編 8~

彼女達が去った後も、作業を続ける。


相変わらず彼女達以外には客は来ない。



先に模様入れだ。


ルルがずっと持って居た刀。 それがカウンターに置いてある。


鞘から抜いて眺める。


俺が人間界から持ってきた無銘の刀は、今大きく変わってしまっている。


刃は黒く、赤と青の線が複雑に入っている。


背はルルが魔力を抜いたので、鉄の色だ。


また、錆び一つない綺麗な銀色。 そこに俺の顔が映っている。


しばらく眺めて、また作業場に戻る。


チョークで何となく見えた模様を描いていく。


セリカの大剣よりは面積は狭いが、線が細かい方が良い気がする。


先を削ったチョークで何度も何度も書いていく。


蜘蛛の巣模様が出来上がった。 イメージをそのままに細いミノを使ってその模様を掘っていく。


今度は背だ、強く深く、それでいて細く。


カレンはミノまで魔力を通してくれていた。 セリカの時より早いスピード。


だが作業量はルルの方が多い。


ひたすら続ける。 この集中してしている感覚が一番好きかもしれない。


時間はわからないが、最後の一つまで綺麗に掘れた。


この刀は素直だ。 そう思った。



頭から水を被って、新刀の製作に取り掛かる。


体は確実に疲れているが、好奇心がやはり上回る。


良かったパターンの魔鉱石が多い方に決めた。


ルルが魔力が込めやすいと言っていたのを思い出したからだ。


鉄釈に、鉄と魔鉱石をその割合で入れて炉に突っ込む。


溶け始める二つ。 色をじっと見る。


これも勘だ。 新しい材料だが何となく良い所が解る。


赤が黄色に変わるようなそんな色。 そこで取り出して水に入れて一気に固める。


魔鉱石と鉄の合金が出来る。


それをまた同じように鉄バサミで火を入れて、叩いて、水に入れて。


何度も何度も繰り返す。 そのうち、この合金の手ごたえを体が覚え始める。


ここは強く、ここは弱く。 柔らかい所、固い所。 なんとなくわかって来る。


そうしてくると火入れも変わる。


相変わらずフイゴはきちんと機能をしている。 ずっと青い火のままではあるが、火力が解って来る。


ひたすら集中している。


鉄と炉そして俺。


その三者で共同作業をする。 その形が見えて来た。


最後に水に入れて、その形を全体から見る。


黒い合金はそれだけでは刀に成らない。


研ぎを始める。 削れる感覚。 指の感覚を頼りにひたすら削る。


俺は何か筋が見える。 いつしか見えるようになった。


その筋までひたすら削り続ける、全ての刃が納得いくまで。


時間の感覚なんてない。


でも最後に水研ぎをして出来た。


初めての魔鉱石の合金で出来た刀。


道具が良かったのかこれまでで一番かもしれない。


黒い刀身に、白い波紋、そこにうっすら現れるオーロラの様な模様。


納得が出来た。


人間界から持ってきた、柄と鍔を差し込む。


刀の形に成ったそれ。


きちんと留めてから、店の藁に構える。


まず、軽い。 鉄の刀よりかなり軽い重量。


それが第一印象だった。


そこから、藁を切る。


抵抗も無く切れる藁。 その藁が何回も切れる。


今までにない切れ味。 思わずその刀を顔に近づけて見てしまう。



「コテツ、それが新しい刀ですか? 早いですね!」


店の入り口でルルが見ていた。 また、同じメンバーで来ている。


どれだけ経ったのか分からない。 そう考えると疲れが出てくる。


でもルルに申し訳ない。 頭を切り替える。


「そうだ、今までで一番かもしれないな。」


鞘に入れて、店に入ってきたルルに渡す。


藁を出してやる。 最初の時と同じだ。



"シッ"


ルルがブレた。


藁が粉々に成っていた。


「どうだ? 前のと違うか?」


「少し軽いです。 でも悪い軽さじゃないと思います。

良いですね、流石コテツです。」


「褒めてもらえると、やりがいがあるぜ。」


外で見ていた面子は拍手している。


俺も初めて見た時、そんな感じだったと思う。


「コテツ、顔が老けてるニャ。」


「コテツおじちゃんの剣凄いね、カッコいい!」


「コテツさんの作品には魂を感じますね。」


皆が、感想を述べている。 ムー俺に対して厳しく無いか?


カウンターに置いてあった前の刀。 それもルルに渡す。


「抜いて、魔力を補填してやりな。 寂しがってたぞその刀。」


そんな気がしたんだ。


ルルはそれを聞いてか、前から持って居る刀に魔力を込めだす。


毎回の当たり前に成っている行事。


何も染まっていなかった刀が再び黒く染まる。


俺の入れた模様には、紫の線が染まっていく。


光ながら染まる紫の線は、その模様の端まで行くと、ルルの手元に戻るように輝いた。


「相変わらず何度見てもすげぇな。」


「ルルおねえちゃんの刀、綺麗です!」


綺麗確かに綺麗だった。 少し光がかった紫は、嫌みが無く全体を綺麗に見せている。


「魔力量が上がりました。 コテツはいい仕事をしてくれます!」


「喜んでもらって良かったよ。 そっちはどうするんだ?」


新しい刀、それをどうするのか興味があった。


「一度皆で魔力を入れてもらえませんか?」


「ニャ?ムーもニャ?」


少しで良いんです。 少しでもあれば良いので。


「ラーナやってみる。」


子供には重いだろう刀。 でも軽いそれはラーナでも持てる様だ。


「入れれたかな? ラーナあんまり解らないです。」


「大丈夫だよ。 ラーナちゃん。 ありがとう。」


ルルはラーナの頭をポンポンしながら、ムーに柄を向ける。


ムーが真剣な顔をして、柄をその小さな両手で挟んでいる。


「多分入ったニャ。 ムーもあまりわからないニャ。」


「ムーありがとう。 ちゃんと入ったよ。」


「では、お借りします。」


カレンが刀を持つ。 カレンの青い髪が浮いて、剣が青く染まった。


「申し訳ありません、染まってしまいました。 刀は難しいですね。」


「カレン、大丈夫です。 たくさんの魔力ありがとう!」


ルルがその刀を持つ。 じわりじわりと青を侵食していく紫が刃の部分だけを染めていく。


刃の部分に黄色と青白い細い線がまた絡まり合うように伸び始める。


今回は時間が長い。


「やっぱり、大量に入りますね。」


ルルが目を閉じながら話している。


声を掛けようかと思ったが集中しているその姿に邪魔してはいけないと黙って見守る。


皆もそうしている様だ。


剣先までやっと染まった刀、そこから一瞬で背に白の射線が走った。


「ふぅ。 新素材凄いですね。 流石コテツです。」


「感想はどうだ? 参考にさせてくれ。」


「そうですね、前の奴の20倍は入りますね。 伸びは解りませんけど。」


「伸びがあるのか?」


「はい、使っていく内に刀が吸う総量? が変わっていきます。」


彼女達には彼女達の感覚があるようだ。


でも、紫の刃を見ていると言っている事がなんとなく解る気がする。


ただただ美しいその輝きは見ていて飽きない。


「試し切りしてこないか?」


「そんな場所あるんですか!?」


「いや物足りないかもしれないけど、あの魔鉱石っての少なくなってきてな。 北の山に取りに行ってほしいんだよ。」


「私も、試し切りしてもよろしいですか?」


「ラーナもやる!」


「皆で行きましょうか。」


「ニャニャ、ムーも行くのかニャ?」


「コテツ、ありがとう。 お店に持ってきますね。」

ムーを抱き上げたルル。


「では、失礼いたします。」

ラーナを抱き上げたカレン


二人が店から出ると、そのまま飛んで行ってしまった。


疲れがどっと出る。


重い体をなんとか運び、作業場の奥で倒れ込むように寝た。



起きると山積みの魔鉱石が店内に置いてある。


もう一度床に就いた。

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